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the first kiss
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マカハが次の一手で襲いかかってきた。今度はより顔の、耳の方へとナイフが向かってくる。避け交わし、扉を掴んで盾にする。マカハのナイフが扉の前で弾かれた。
その瞬間に身を翻して部屋の中に戻る。武器を取るためだ。動きからしてマカハは戦いにおいては素人だろう。
だが彼には殺意があった。強い意志で動いている人間に対し、丸腰では戦うことができないし、第一にマカハを止めることもできない。
私が部屋に駆け込むと同時にマカハも部屋に入ってきた。追いつかれる前に部屋の隅に寄せていた唯一の荷物――大剣を振り上げる。
構えて振り向いた先、既にマカハが目の前までやってきていた。大きく振りかぶったナイフの攻撃を、大剣の腹で受け止める。
「ちっ! 図体の割に俊敏だなぁ、おっさん!」
「マカハ! 急にどうしたんだッ!」
「白々しいにもほどがあるよ。騙して俺の懐に入り込んできたのはそっちだろ!」
「っ、騙してなどいない!」
大剣でマカハごと押しのける。マカハは後ろ方向に跳躍して、体勢を整える。私は混乱しながらも、次のマカハの攻撃を止めるべく身構える。
その時、無数の足跡がこの家に向かった駆けてくる足音が聞こえてきた。マカハは背後をチラリと見ると、歯を食いしばり表情を歪めた。
「追手かよ……!」
「待て! 外で何が起きている!」
「つまんねー芝居続けるなよ! あんたがきたこのタイミングで、賊が町に入ってきた! あんたもグルなんだろ!?」
マカハは私と大剣の間に入り込み、一挙に懐を狙ってきた。傷を負った腕では反応できない。私は大剣を捨て、間その手でナイフを握るマカハの手首を締め付けた。
「いってぇ……!?」
マカハの指先がぴくりと震えて、ナイフを落とす。
「っ、離せ……!」
「私はここに一人で来たと言っている」
「こんなへんぴな島に人なんか滅多に来ないんだよ! そんな偶然があってたまるか……――っ!?」
マカハが私に疑いの目を向けていたその時、差し迫っていた足跡の主たちが、この家の扉を打ち破ってきた。玄関を見ると黒い鎧を纏った剣士が大勢、次々に部屋の中へと押し入って来ていた。獣の里の中に紛れ込んだような、鼻をつまみたくなる動物的な匂いが漂う。
鉄仮面を被っていてその顔を拝むことはできないが、全員獣人族に違いなかった。
「いたぞっ! 捕えろ!」
先頭に立つ騎士の一人が、私たちに向かって指を差しながら声を上げる。それを合図に彼らは一斉に私たちに向かって襲いかかってきた。
「ひとまず逃げるぞ」
「なっ! は、離せよ!」
私はマカハの身体を抱えた。暴れようとする腕を何とか押さえながら走る。
私が目掛けていたのはベッドの横の窓だった。少し大きく象られているので、私でも窓枠を潜り抜けられるはずだ。
「ガラスは後で弁償する!」
「は、」
マカハの返事を聞いている余裕はない。私は家主への事前の謝罪もそこそこに窓に向かって突進する。窓の手前でくるりと向きを変え、自分の肩から窓ガラスへと飛び込んだ。ガラスの雨が降り注いでくる。その粒がマカハに降りかからないように、手のひらと腕を使ってマカハの顔を覆った。
窓のすぐ外は生垣だった。その上に転がり込みながら足を伸ばし、地面にうまく着地できた。
「無事か、マカハ!」
「別に、なんとも……」
「ならば良し」
マカハの言葉に安堵したものの、自分の背中にはガラスが突き刺さる痛みがあった。
だが、私はその痛みから目を逸らし歯を食いしばりながら、止まることなくそのまま山の方へと走った。
その瞬間に身を翻して部屋の中に戻る。武器を取るためだ。動きからしてマカハは戦いにおいては素人だろう。
だが彼には殺意があった。強い意志で動いている人間に対し、丸腰では戦うことができないし、第一にマカハを止めることもできない。
私が部屋に駆け込むと同時にマカハも部屋に入ってきた。追いつかれる前に部屋の隅に寄せていた唯一の荷物――大剣を振り上げる。
構えて振り向いた先、既にマカハが目の前までやってきていた。大きく振りかぶったナイフの攻撃を、大剣の腹で受け止める。
「ちっ! 図体の割に俊敏だなぁ、おっさん!」
「マカハ! 急にどうしたんだッ!」
「白々しいにもほどがあるよ。騙して俺の懐に入り込んできたのはそっちだろ!」
「っ、騙してなどいない!」
大剣でマカハごと押しのける。マカハは後ろ方向に跳躍して、体勢を整える。私は混乱しながらも、次のマカハの攻撃を止めるべく身構える。
その時、無数の足跡がこの家に向かった駆けてくる足音が聞こえてきた。マカハは背後をチラリと見ると、歯を食いしばり表情を歪めた。
「追手かよ……!」
「待て! 外で何が起きている!」
「つまんねー芝居続けるなよ! あんたがきたこのタイミングで、賊が町に入ってきた! あんたもグルなんだろ!?」
マカハは私と大剣の間に入り込み、一挙に懐を狙ってきた。傷を負った腕では反応できない。私は大剣を捨て、間その手でナイフを握るマカハの手首を締め付けた。
「いってぇ……!?」
マカハの指先がぴくりと震えて、ナイフを落とす。
「っ、離せ……!」
「私はここに一人で来たと言っている」
「こんなへんぴな島に人なんか滅多に来ないんだよ! そんな偶然があってたまるか……――っ!?」
マカハが私に疑いの目を向けていたその時、差し迫っていた足跡の主たちが、この家の扉を打ち破ってきた。玄関を見ると黒い鎧を纏った剣士が大勢、次々に部屋の中へと押し入って来ていた。獣の里の中に紛れ込んだような、鼻をつまみたくなる動物的な匂いが漂う。
鉄仮面を被っていてその顔を拝むことはできないが、全員獣人族に違いなかった。
「いたぞっ! 捕えろ!」
先頭に立つ騎士の一人が、私たちに向かって指を差しながら声を上げる。それを合図に彼らは一斉に私たちに向かって襲いかかってきた。
「ひとまず逃げるぞ」
「なっ! は、離せよ!」
私はマカハの身体を抱えた。暴れようとする腕を何とか押さえながら走る。
私が目掛けていたのはベッドの横の窓だった。少し大きく象られているので、私でも窓枠を潜り抜けられるはずだ。
「ガラスは後で弁償する!」
「は、」
マカハの返事を聞いている余裕はない。私は家主への事前の謝罪もそこそこに窓に向かって突進する。窓の手前でくるりと向きを変え、自分の肩から窓ガラスへと飛び込んだ。ガラスの雨が降り注いでくる。その粒がマカハに降りかからないように、手のひらと腕を使ってマカハの顔を覆った。
窓のすぐ外は生垣だった。その上に転がり込みながら足を伸ばし、地面にうまく着地できた。
「無事か、マカハ!」
「別に、なんとも……」
「ならば良し」
マカハの言葉に安堵したものの、自分の背中にはガラスが突き刺さる痛みがあった。
だが、私はその痛みから目を逸らし歯を食いしばりながら、止まることなくそのまま山の方へと走った。
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