元剣豪獣人、初恋のキスで若返る

松莉あげみ

文字の大きさ
5 / 37
the first kiss

5

しおりを挟む
 マカハが次の一手で襲いかかってきた。今度はより顔の、耳の方へとナイフが向かってくる。避け交わし、扉を掴んで盾にする。マカハのナイフが扉の前で弾かれた。

 その瞬間に身を翻して部屋の中に戻る。武器を取るためだ。動きからしてマカハは戦いにおいては素人だろう。

 だが彼には殺意があった。強い意志で動いている人間に対し、丸腰では戦うことができないし、第一にマカハを止めることもできない。

 私が部屋に駆け込むと同時にマカハも部屋に入ってきた。追いつかれる前に部屋の隅に寄せていた唯一の荷物――大剣を振り上げる。

 構えて振り向いた先、既にマカハが目の前までやってきていた。大きく振りかぶったナイフの攻撃を、大剣の腹で受け止める。

「ちっ! 図体の割に俊敏だなぁ、おっさん!」

「マカハ! 急にどうしたんだッ!」

「白々しいにもほどがあるよ。騙して俺の懐に入り込んできたのはそっちだろ!」

「っ、騙してなどいない!」

 大剣でマカハごと押しのける。マカハは後ろ方向に跳躍して、体勢を整える。私は混乱しながらも、次のマカハの攻撃を止めるべく身構える。

 その時、無数の足跡がこの家に向かった駆けてくる足音が聞こえてきた。マカハは背後をチラリと見ると、歯を食いしばり表情を歪めた。

「追手かよ……!」

「待て! 外で何が起きている!」

「つまんねー芝居続けるなよ! あんたがきたこのタイミングで、賊が町に入ってきた! あんたもグルなんだろ!?」

 マカハは私と大剣の間に入り込み、一挙に懐を狙ってきた。傷を負った腕では反応できない。私は大剣を捨て、間その手でナイフを握るマカハの手首を締め付けた。

「いってぇ……!?」

 マカハの指先がぴくりと震えて、ナイフを落とす。

「っ、離せ……!」

「私はここに一人で来たと言っている」

「こんなへんぴな島に人なんか滅多に来ないんだよ! そんな偶然があってたまるか……――っ!?」

 マカハが私に疑いの目を向けていたその時、差し迫っていた足跡の主たちが、この家の扉を打ち破ってきた。玄関を見ると黒い鎧を纏った剣士が大勢、次々に部屋の中へと押し入って来ていた。獣の里の中に紛れ込んだような、鼻をつまみたくなる動物的な匂いが漂う。

 鉄仮面を被っていてその顔を拝むことはできないが、全員獣人族に違いなかった。

「いたぞっ! 捕えろ!」

 先頭に立つ騎士の一人が、私たちに向かって指を差しながら声を上げる。それを合図に彼らは一斉に私たちに向かって襲いかかってきた。

「ひとまず逃げるぞ」

「なっ! は、離せよ!」

 私はマカハの身体を抱えた。暴れようとする腕を何とか押さえながら走る。

 私が目掛けていたのはベッドの横の窓だった。少し大きく象られているので、私でも窓枠を潜り抜けられるはずだ。

「ガラスは後で弁償する!」

「は、」

 マカハの返事を聞いている余裕はない。私は家主への事前の謝罪もそこそこに窓に向かって突進する。窓の手前でくるりと向きを変え、自分の肩から窓ガラスへと飛び込んだ。ガラスの雨が降り注いでくる。その粒がマカハに降りかからないように、手のひらと腕を使ってマカハの顔を覆った。

 窓のすぐ外は生垣だった。その上に転がり込みながら足を伸ばし、地面にうまく着地できた。

「無事か、マカハ!」

「別に、なんとも……」

「ならば良し」

 マカハの言葉に安堵したものの、自分の背中にはガラスが突き刺さる痛みがあった。

 だが、私はその痛みから目を逸らし歯を食いしばりながら、止まることなくそのまま山の方へと走った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

処理中です...