小さな出会いの物語

宇彩

文字の大きさ
3 / 4

第二話 賑やかな夕飯と目覚めた魔女

しおりを挟む

「っあー、疲れた」

 腕に抱えていたシルマをとりあえずいつも俺が使っているベッドに静かに下ろしてブランケットをかけた後そう呟きながらぐぐっと伸びをする。
 なるべく全身怪我だらけの彼女を揺らさないように、そして隣を歩いていたセイを置いていかないように…途中から疲れたようでシルマのお腹の上に飛び乗り帽子をクッションにすやすやと寝ていたが…ゆっくりと歩いていたため家に着いたときには辺りはすっかり暗くなっていた。
 シルマの近くに落ちていた折れかけのほうきを室内の壁に立て掛け、彼女の傷をきれいにするために使ったタオルは流しで軽く洗って血や土を落としてからまとめて洗濯機に放り込む。一通り終わり夕飯でも作ろうかと考えながら彼女の隣に寝かせておいたセイの頬を人差し指でつつくと、よほど起こされたのが嫌だったのか眠そうな顔をあげてこちらを睨んでくる。

《なにさ、僕はもう少し寝たいんだよ…》
「夕飯作るけどお前もなんか食べるか?」
《食べる食べる!》

 さっきの睨みは一体なんだったのかと突っ込みたくなるほどに目を輝かせながらがばっと起き上がる。

「態度変わりすぎか…で、何がいい?大体のものはあるが」
《魚。焼かなくていいよ》
「簡単でよろしいこった」

 予想通りの返事を聞きながら台所へ向かうとなぜかセイが寝床から飛び降りて付いてきた。

「どうした?別に毒は盛らないから監視してないで寝てていいぞ?」
《シルマも助けてもらったし家に連れてきてまでくれてるんだ、お手伝いくらいするよ。それにもうアルデのことは信じてるから大丈夫》
「っていってもお前猫じゃねーか」
《てーつーだーえーまーすー!》
「はあ…はいはい、じゃあそこの棚の中から香味草の入った小瓶持ってこられるか?」
《お安いご用っ》

 そう言いながら棚へ向かっていくセイを見送りながらこちらも準備を始める。ちなみに香味草っていうのはほんのりと香りと味を付けるために料理に加える草のことでうちの畑で育てたものを乾燥させて細かくして小瓶に入れておいたのだ。今日はずいぶん疲れたのであまり手間のかからない魚と野菜を炒めた簡単なものにしようか…と考えながら地下倉庫を覗いて使う野菜を選んでいると棚の方から《ひゃ~!》という悲鳴が聞こえた。

「おーいどうしたー?」
《小瓶の蓋開けちゃった》
「なんだそれだけか。なら…」
《それで頭から草被った~!》
 「はあ!?」

 セイのいるはずの棚の方へ少し早足で向かうとそこでは黄緑色の粉を頭から被ったセイがふらふらぐるぐると歩き回っている。恐らく香味草を被ったことで前が見えないのだろう。

「こりゃまた思いきり被ったな」
《感心してないで助けてよ~前が見えないし香りで酔いそうなんだよ~》
「はいはい。っておいそのまままっすぐ歩くと…」
《なに?…ふぎゃっ!》
「……壁にぶつかるぞ」
《言うのが遅いよ!》

 壁に思い切り鼻をぶつけたのかぷるぷると震えているセイを片手でひょいと持ち上げて流し台へ連れていき粉を手で払ってやるがなかなか落ちないので、くいっと蛇口を捻ると何かを察したのか掴まれている手から逃れるためにジタバタとしだした。

《水はやだよ!猫は水が苦手だって知ってるでしょ?》
「なら安心しろ、お湯で洗ってやる」
《そういう意味じゃなーい!》
「でも被ったのが香味草だからなぁ…このままだとずっとこの強めの香りを漂わせてることになるぞ?」
《…洗っていいや》
「よし諦めたか」

 そんなことを話しながらセイの体をぬるま湯で撫でるようにしばらく洗ってやるとなんとか香りも消えたので水を止めてタオルの上に乗せてやり、自分でゴロゴロ寝返りうって水分取れよーと声をかけていいかげんにお腹が空いたので自分の夕飯を作り始める。別に香味草なくてもいいやと思いながら自分とセイの分の魚から骨をとるために捌いて鍋に放り込んでいるとセイから話しかけられた。

《ごめんねアルデ》
「ん?別に平気だ、香味草なくても十分旨いからな」
《ならいいけど…》

 しゅんとしているセイの頭をよしよしと撫でてやりながら料理を続けると5分ほどで程よい焼き加減になったので火を止めて皿に盛り付ける。セイの分の魚を乗せた皿と自分の分の皿をテーブルに持っていき下ろすと小さくお腹をならしたセイも付いてきたので目の前に皿を置いてやる。
 椅子に座り自分の分の料理を食べながら先ほどの香味草被り事件(俺命名)を思い出し、この家にいてこんなにも楽しいと思ったのはいつぶりだろうかと考えていた。というのも、俺はこの家に一人で住んでいるし近くに家もなく森を出て町に行かないと話すような人もいないので普段あまり誰かと話すことがないのだ。テーブルの下を覗いて魚をはぐはぐと食べているのをぼーっと眺めていると、セイは突然食べるのをやめて耳をピクピクと動かしながらベッドの方へと歩いていった。

「どうした?」
《んー、感かな。さっきまで静かだったシルマの“気”が動き始めたから起きるかなって》

 そう言いながらシルマの隣に座ったセイを眺めながら「気ってなんじゃ気って」と呟いているとシルマから「ん…」という小さな唸り声が聞こえ彼女は薄く目を開けた。そして隣に座っているセイを見ると安心したようにふわっと笑顔になる。

「よかった…無事だったんだね」
《シルマ!よかったー!》
「ここは…?」
《アルデが僕らのこと助けてくれたんだよ》
「アルデ…誰…?」
《あの人!》

 そう言いながらセイは俺の方を振り返りシルマもそれにつられこちらに顔を向け、シルマの吸い込まれそうな綺麗な青い瞳を見ていると先ほどの笑顔はどこへやら突然怖い顔をしながら起き上がろうとする。だがあんなにひどい傷を負っていたのだ、起き上がれずに痛みに顔をしかめるだけだった。

「ひどい傷だからしばらくは安静にしなきゃダメだ」
「人間…近付かないでやめて…!」
《大丈夫だよシルマ、アルデは傷付けたりしないよ。むしろ僕たちを助けてくれたんだよ》
「やだ…やめて…」
《シルマ…?》
「やだ…やだ…」

 セイの呼び掛けにも反応せずにシルマは布団を頭まで被ってカタカタと震えながら壊れたロボットのように同じことをずっと呟いている。よっぽど魔女狩りがトラウマになってしまっているのだろう、人間に恐怖心を抱いてしまっているようだった。

「セイ、これはやばいな」
《うん…人間が怖くなっちゃったみたい…》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タダで済むと思うな

美凪ましろ
ライト文芸
 フルタイムで働きながらワンオペで子育てをし、夫のケアもしていた井口虹子は、結婚十六年目のある夜、限界を迎える。  ――よし、決めた。  我慢するのは止めだ止め。  家族のために粉骨砕身頑張っていた自分。これからは自分のために生きる!  そう決めた虹子が企てた夫への復讐とは。 ■十八歳以下の男女の性行為があります。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...