おれと丁さんとトコヨ荘の貧乏飯

はりせんぼん

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第12話 約束とSNSとすき焼き

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「ん」

 突然どうしたお前。人の部屋の前で。

「本当、突然何なのこの人」
 ゲームチャンプの首根っこ掴んで。

「約束」
 いや、わからんがな。

「すき焼き」
 いや、約束したけどよ。

「約束」
 無い袖は振れんぞ。

「俺関係ないよね」
「約束」

 ん? ああ、そう言う事な。

「どういう事よ?」
 そういや約束したよな、
「だから俺関係ないよね」

 いや、約束したろ。
「すき焼き」

 と言う事で、本日は料亭『なかヰ』からお届けします。
「ちょっと料亭って。なんか凄い本格的な所なんだけど大丈夫?」
「豪華」

 そら料亭だからな。お、女将さん久しぶり。今日はよろしく頼んます。

「なんで普通に顔見知りなんだよ」
 爺さまがよく使ってたんだよ。
「実は実家がお金持ちだったりする?」
 親父はサラリーマンだぞ。爺さまはよく知らん。

「ぼんぼん?」
 まあ、うちは金持ちにたかるのが上手い一族だそうだからな。

「それなら俺じゃなくて、もっと金持ちにたかろうよ」
 お前は金持ちだろ。スポンサー持ちのゲームチャンプ。

「こう言う所、スポンサーに連れて行ってもらった事も無いんだけどなぁ」
 打ち合わせとかどうしてんだよ。
「近所のスタバかファミレスだなぁ」
 わびしいなぁ。

「今はどこも経費削減なんだよね」
 そういう所をケチるといい仕事出来んよな。
「まったくそうだよ。たまには良いこと言うね」
 たまに、は余計だぞ。

「すき焼き」

 ああ、はいはい待ちきれんのな。それじゃ、女将さん始めてもらっていいですかね?

「あ、ちょっと待って。先に写真撮るから」
 何だ記念撮影か?
「SNSに上げるの」
「えすえぬえす?」
 私生活を世界中に晒す遊びだ。
「露出狂?」
 大体そんなモンだな。

「違うって。知名度維持のためにもマメにこういう事やって名前を出していかなきゃダメなんだよね」
 ゲーム名人も大変だな。
「プロですから」
「大変」
 お前は違うだろ。

「剣の」
 ああ、まあそうか。そうだな。

「まあそういう事で、お肉を載せたお皿からぱしゃっと。で、早速アップロード」
 ほー、そういう感じか。

「この、上げた瞬間に食いついてくるフォロアーは普段何をやっているひとたちなんだろう」
 お前も似たようなもんじゃねえか。
「俺はお金稼げてるからいいの」

「あ」
 どした?
「隅」
 ああ、縦ロールが写っとるな。

「え、マジ? これ、ヤバいかな?」
 お、見てる連中が気付いたぞ。
「はっや! 拡散はっや!」
 みるみる数が増えていくな。

「なんの数?」
 知らん。
「うわっ、もうまとめされてる。マジか早すぎ」

 良かったな有名人だぞお前。
「前から有名人なんだよなぁ」
「ゴシップは、日頃の行い」
「うわ、この人に言われるとは思わなかった!」

 言われるくらい普段の行いが悪いんだよ。
「大衆に求められるヒール系絶対王者を淡々とやっているだけなんだけど」
 皆に愛される絶対王者とかやらんのか。
「ぶっちゃけ、手段選んでも勝てるんだけど相手だけ自由にやれるって事実にストレスがたまるからいやだ」
「同感」

 お前ら長生きできんぞ。
「そして炎上開始」

 何か申し開きとかせんのか?
「今更やっても言い訳にしかならないからなー。いっそ、燃料投下しちゃおうかな」

 うし、おれが写真とってやるから二人で肩組め。
「やだ」
 ばっさりだなお前。

「いや、なんかショックだわ。ま、並んで座ってる所でいいかな。炎上に気付いてないフリして」

 うし、ぽちっとな。こんなモンか?
「いいねいいね。で、『オフの友達と晩ごはんwwwwww』と」

 煽るなお前。
「こういう時は煽れるだけ煽っておいた方がいいの。説明なんか後でつくし」
「それで、手遅れになる」
 デマとか拡散しまくって、革命起こった国とかもあるしな。
「すき焼きが食べられないなら、ケーキを食べればいいじゃない?」
 それは普通にムカつくわ。

「美人」
 なんだ突然。
「美人、だって」

「『あのゲーム王者が美人コスプレイヤーと密会!?』かぁ。センスの古いまとめタイトルだな」
 二昔前の週刊誌のセンスだな。
「こす?」

「そりゃ軍服金髪縦ロール美人がいたら、コスプレだと思うよね」
 まあ普通はそう思うわな。

「違う」
 違うのは分かっとるわ。
「訂正する」
「スマホは貸さないからね」
「ちっ」

 こいつが混じった方がグダグダにならんか?
「絶対引かない人でしょ。ネットでそれやるとグダグダで済まなくなるから」
 そんなモンかね。

「おっと、着信。あ、はいはい俺だけど。ああうん見てる知ってる。ちゃんとしてるから大丈夫。俺がそんな事するワケ無いじゃん。知ってるでしょ。心配しないでさ、こんなのすぐに落ち着くから。うん、それじゃ。愛してるよ」

 嫁か?
「いや、妹」
「きもちわるい」
 妹に愛してるとか言うのかお前。

「愛する妹だからね仕方ないね」
 近い内に優等生みたいになるぞ。
「あっちの妹は怖いなぁ。うちの妹はいつまでも可愛くて巨乳でいて欲しい」
「巨乳は、余計」
 お前、それ持ちネタにしようとしてるだろ。

「いいじゃんそれくらい。と、また着信だ」
 今度こそ嫁か。

「いや、だいぶ前に弟子にした後輩。もしもし? うん、知ってる。こういう時は浮足立つ方がまずいんだよ。そうそう、仲間を信じて。俺だけじゃなくてみんなをさ。大丈夫だね。必要な事があったら連絡するから。それじゃ、愛してるよ」

 お前の愛してるは紙より軽いな。

「女の子、喜ぶからね」
「喜ばない」
「喜ぶ娘を選んで言ってるからね」
 中々に外道だなお前。

「誠実さっていうのは、相手の喜ぶ事を選んで出来る事だよ。と、また着信」
 今度こそ嫁か。

「いや、よくつっかかってくる同期の娘。うちの嫁はこういつ時に動じない良妻ロールしてるから。こういう時、浮足立ってかけてこないよ」
 女の知り合い多いなお前。

「すき焼き」
 そうだな、待っていてもキリ無いな。もういい具合だし食うか。
「おいし」
 やっぱ、この店は割り下も肉も最高だな。
「野菜も食べる」」
 お前。おれに野菜食わせてその間に肉食うつもりだろ。
「うん」

 認めるなよ。後、卵使え。
「なんかきもちわるい」
 ひと味違うからやってみろ。

「外国の人は生卵食べないんだっけ?」
 客観的に見ると、生卵だけだとドロドロのヌルヌルだからな。それで電話終わったか。

「相変わらず、愛してるって言うと反応が面白いんだよね。彼女」
 中々の外道だな。

「それよりもすき焼きだよ」
 縦ロールさっさと肉片付けろ。
「酷っ! 今日のスポンサー俺だよ」
 じゃあ、電話なんかしてないでさっさと食えよ。肉固くなるぞ。

「はいはい。肉と卵に絡めてと。そういや、すき焼きはなんで卵絡めるようになったんだろうね」
 最初は知らんが、ひと味つけるのと、食える温度に肉を冷ますためだな。

「熱々の方が美味しくない?」
「熱すぎると味しない」
 出来たて採れたて切りたてがなんでも美味い。っつうのは貧乏人の妄想だぞ。

「ほら、天ぷらなんか揚げたて食えって優等生が言ってたじゃん」
 知らんかもしれんが、天ぷらも和紙に置いてしばらく冷ますんだよ。
「熱すぎると舌、火傷するだけ」
 料理人がいい具合にしてくれるんだから、おまかせが一番美味いんだよ。

「テンプレこそ最強。はっきりわか……おっと」
 また電話か。そろそろ電源切れよ。
「そういうワケにもいかないの。お、スポンサー様だ」

 スポンサー様にも愛してるとか言ってやれ。
「愛してるけどね。お金は。ただ、言うと気持ち悪がられるから言わない」

 まあ、頑張ってスポンサー様を愛してやってくれ。
「じゃ、肉食べる」
 春菊も食えよ。
「にがい」
 イヤなら他の野菜食え。豆腐としらたきもそろそろ味が染み込んで美味くなってるぞ。

「しらたき、美味しい」
 味が染み込めば肉とそんなに変わらんな。
「じゃ、しらたきあげるから肉頂戴」
 ダメだ。
 ちゃんと野菜一回りしてから肉食え。

「こういう風に鍋談義してるとテイさんが出てきて鍋奉行始めそうなもんだけど」
 それなら大丈夫。
 ちゃんと中に入れないように店の人に言ってある。

「酷いなぁ」
「美味い」
 いやぁ。好きなように食えるすき焼きは美味いな。

「肉追加行く? というか、俺は全然肉食ってないから行きたい」
 金はどうなんだよスポンサー様。
「ここまで来たら出すよ」
「肉追加」

 それじゃ、女将さん。そういう事でお願いします。

「シメはやっぱりうどん?」
 うどんだな。

「俺はゆるく煮たのが好きだな」
 カリカリになるまで煮るのも美味いぞ。
「今日はスポンサー様に従ってもらおうか」
「美味しければ、いい」

 ういうい。スポンサー様には逆らえません。
「じゃ、肉来る前に嫁に電話入れておくかな」
 嫁は浮足立たないんじゃないのか?
「そういうロールしてるだけだから。一番浮足立ってるのは嫁なんだよなぁ」

 色々大変だなお前。
 じゅうじゅうと鍋が焼ける音がする。
 外ではゲームチャンプが「愛してる」を連呼している。
 その外では誰かが入ろうと騒いでいる。

 いやぁ、本当に。他人の金で食うすき焼きは美味いな。
「美味い」
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