3大公の姫君

ちゃこ

文字の大きさ
11 / 21
三章

胎動4

しおりを挟む

 ---ルベイン公国、学院の一室。


「どうして私よりあの女が優遇されるの・・・?」

 エリーゼはここのところ自分の言動が全て空回っている事に顔を歪めた。
 ここに来る前は全てが順風満帆だった。

 それがどうしてこんな事に。

 何故。何故。何故。


 エリーゼはローラン国で子爵の娘として生まれた。
 少し裕福な程度でほんの中堅貴族だった。
 幼い頃から自分はお姫様だと思っていた。
 両親だって事のほかエリーゼには甘かったからだ。


 欲しい物は我慢が出来ない。
 自分には贅沢をする権利があると思っていた。
 両親も困った顔をしつつも与えてくれていた。
 だから自惚れてしまったのだろうか?


 学園に行く年になると、今まで自分を取り巻いていた環境が如何に狭かったかという事を強く実感した。
 国中から集まって来る貴族子女たち。
 私より高い階級の人間ばかりだった。
 男爵よりはいいものの、子爵という階級だって決して高くないから回りの子たちから馬鹿にされてしまうのだ。


 それが何よりも許せない。

 私はあんたたちなんかより優れているのよ。
 頭だって他の人よりがんばって勉強したもの。
 認められない筈がない。

 でも現実は厳しかったの。
 私一人が声を上げたところで皆は聞いてもくれなかった。
 どんなに素晴らしい考えを披露したところで、皆こう言うのだ。


「それで?一体何が出来るの」

 もっと現実を見ればと笑われる。
 子爵ごときに偉そうに言われる意味がわからないと。


 私は悔しかった。

 だから、誓ったのだ。
 ならあんたたちが羨んで、口答えできない身分になればいい、と。

 私は愛される立場にいなければ。
 そうでなければおかしいのだ。

 この世の中が間違っている。


 だから、私は王子に近付いた。
 ちょっと低い身分で不遇な事を涙ながらに語れば王子たちは優しくしてくれた。

 最初は同情だったと思うけど、途中からはお互い恋心を持っていた筈。
 私だって王子に好きになってもらえるよう努力したわ。
 マナーやダンス、刺繍、大よそ女の子が学ぶ物は全て完璧にした。
 そうしているうちにジオラルド殿下は皇太子に立太子し、皇太子殿下になった。
 

 もし、もし私がジオラルド様の后になれたら。
 私も王妃になれちゃう!?

 私はこれだ。と思った。

 私が求めていたのはこれだったんだ。

 誰もが求めてやまない、女性最高権力。
 誰もが傅きご機嫌を取ってくる立場だ。

 私に最も相応しい立場は王妃だ。
 そうに違いない。

 ならな者は排除しなくちゃ。


 当時ジオラルド様の婚約者候補として最も有力視されていたのはアリアーネ・ルインデ公爵令嬢だった。
 私が持ってない物を全て手にしていた女。


 許せなかった。


 高い地位も男もお金も。
 全部全部奪ってあげる。


 相応しいのは私よ。


 そんな風に思った私はあの女を排除した。
 地位が高いだけでちやほやされていた女だったから、少し嫌な噂を流せばたちどころに悪いイメージがついた。
 ジオラルド様にもいかにあの女が意地悪で最低な女なのか吹き込んだ。

 そしたらジオラルド様はコロッと騙されるの。
 周りの側近だって最初は疑っていたようだけど、色んな状況を利用してあの女の仕業に見せかけていたら皆あの女を罵倒し始めた。


 堪らなく快感だった。

 これであの女が選ばれる事は無くなったのだ。
 ざまーみろ。

 あの女も震えながら反論して来たが、回りから散々非難され何も言えなくなった。
 これで安心ね。


 その頃になるとジオラルド様は私に夢中だったの。
 私の話なら何だって信じてくれる。

 愛だって囁いてくれるし、欲しい物は何でも贈ってくれたわ。
 まぁ当然よね。



 でもーーーーー。



 そんな時に隣国のルベイン公国への短期留学へ行くことにジオラルド様たちは決まった。


 何なのそれ。
 聞いてないんだけど。

 何で私もメンバーに含まれてないの。
 そんな激情が胸中を駆け巡る。

 私は急いで殿下たちに私も連れて行ってもらえるようお願いした。
 だって、連れて行かれるのは殿下たちとあの女だったから。


 そんなの絶対に許せない。
 殿下たちは今更あの女に情は移さないとは思うけど、万が一という事もある。
 それが私の手の届かない場所でしばらくずっと一緒だなんて納得出来る訳無いじゃない。


 内心凄まじい嫉妬心と怒りでどうにかなりそうだったのだが、ジオラルド様は私の気持ちを察してくれたのか力ずくで私をあの女と挿げ替えてくれた。


 これで安心ね。
 それに殿下はルベインへ行く前日の夜、私に将来結婚して欲しいってお願いしてきたの。
 ついに来たわ。
 私が王妃になる。

 なんて甘美な響きだろう。
 次女たちに傅かれ、夫に愛される日々。
 絶対誰にも邪魔させない。


 そうしてその夜、私と殿下はついにわ。
 身も心も完全に。


 明日が楽しみ。




 そう思っていたのだ。





 なのに。



 訪れたルベインでは私のいた学園とは全てが違っていた。
 下級貴族だからと誰も馬鹿にしたりしない。
 皆が希望を持って将来について語り合っていた。


 こんなに違うなんて思わなかった。

 そして、この国のエルフェ大公家の姉妹の存在には本当に驚嘆した。

 輝くように眩しいのだ。
 姿形ももちろんすごく美人だし目を引くのだけど、根本的に人間としての輝きが違った。
 男なんていなくても自分で輝ける星。
 そんな印象だった。


 何これ。何これ。何これ。

 こんなの知らない、知らない、知らない。

 私の存在を否定するこんな姉妹は


 最初に姉のレスティアとかいう女に蔑みの目で見られた事に腹が立った。
 次に紹介された妹のフォルカに嫉妬した。

 私一人が愛される場所でなければならないのに。



 その日を境に私の立場は急降下して行ったのだーーー。





「ふ、ふふふ。なぁ~んであんな女が私のモノに手を出しているの?」


「私が愛される筈だったのに。私が王妃になるのよ。それをそれを、あの女。ジオラルド様の同情を誘っていやらしい。そもそもおかしいのよ。ジオラルド様は私と結婚して下さるって言ったのになんであの女の側にずっといるのよ。側近たちだってみんな優しくしてくれてたのに急に冷たくなっちゃっておかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい」

 エリーゼの目は既に正気ではなかった。
 暗い影に狂気の色が垣間見える。
 はぁはぁと息を吐いた後にぽつりと零す。

「・・・・みぃ~んな消えて無くなっちゃえ、あはは」


「なら叶えてみます?」


 ふふふ、と暗い笑いを零していたエリーゼに突然背後から話しかけた者がいた。


「だ、誰!?」

 扉の方向の暗闇からすっと出てきた人間にエリーゼは鋭く睨み付ける。

「あ、あんたは・・・!」


「静かにして下さい。貴女も私もここに一緒にいる事がばれたらお互い困るでしょう?」

 そう語る人間にエリーゼは訝しげに警戒した。

「なんであんたがここにいるの」

「あら、いたら何か悪いのですか?」

 エリーゼの目の前にいる者はクスリと笑った。

「あんたは私が嫌いでしょ」

「嫌いなどとは言った事はありませんよ」

「うそ。だってあんたはいつだって冷たい瞳で私を見てたわ」

 エリーゼの言葉にその者は更に笑みを深くした。

「それは演技ですよ。私も思うところがありまして、ずっと機会を伺っていたんです。そして貴女がやってきた」



 真っ直ぐこちらを見てくるそのは私よりも深い闇色の目をしていた・・・。


「・・・どういう意味よ」


「ふふ。私たちだけの力ではどうしようも無かったのです。この国を変えたいと思っていたのですけど中々難しくて」


 エリーゼはその言葉を聞いてニヤリと笑った。

「へぇ?それで?私に何を望んでるの?言っておくけど見返りが無いとなぁんにも手伝ってあげないわ」


 瞬時にこの女と自分の利害が一致しているだろう事に察しがついた。
 なら乗っておくのが得策だ。まぁタダで乗ってなんてやらないけれど。
 内心ほくそ笑むエリーゼにその女はにっこり笑った。


「もちろん貴女には協力して頂けた暁にはご自身の願いを叶えて差し上げますわ」

「どうやって?あんた他国の人間でしょ」

「まぁそれは。私の家がローランの偉い方と繋がっているんですわ。政治にも大きな影響力を持ったお方ですからその方に口添えすれば大抵の事は叶いますわね」

「・・・・わかったわ。私は何をすればいいの」

 ちょっと不信感は残るものの、このままいっても待っているのは破滅だけだ。
 何を怖がる必要があるのか。


「協力して頂けて嬉しいですわ。殿下には私から取り計らうようお願いしてあげますわ」


「あんた・・・・こんな事してばれたら大変なんじゃないの?」


 エリーゼの言葉ににこやかに笑う女。


「失敗すれば・・・そうですわね。でも、それは貴女も一緒では?」


 扇子で口元と隠すと暗い瞳で笑う女にエリーゼは不敵に笑った。



「余裕なのね。その自信はどこから来るの?私にも教えてよ。



 エリーゼの挑発にイーリスは内心で見下していた。
 この女は捨て駒だーーーー。



 精々我々の為に役に立って下さいね。





 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……? 基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

処理中です...