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三章
胎動4
しおりを挟む---ルベイン公国、学院の一室。
「どうして私よりあの女が優遇されるの・・・?」
エリーゼはここのところ自分の言動が全て空回っている事に顔を歪めた。
ここに来る前は全てが順風満帆だった。
それがどうしてこんな事に。
何故。何故。何故。
エリーゼはローラン国で子爵の娘として生まれた。
少し裕福な程度でほんの中堅貴族だった。
幼い頃から自分はお姫様だと思っていた。
両親だって事のほかエリーゼには甘かったからだ。
欲しい物は我慢が出来ない。
自分には贅沢をする権利があると思っていた。
両親も困った顔をしつつも与えてくれていた。
だから自惚れてしまったのだろうか?
学園に行く年になると、今まで自分を取り巻いていた環境が如何に狭かったかという事を強く実感した。
国中から集まって来る貴族子女たち。
私より高い階級の人間ばかりだった。
男爵よりはいいものの、子爵という階級だって決して高くないから回りの子たちから馬鹿にされてしまうのだ。
それが何よりも許せない。
私はあんたたちなんかより優れているのよ。
頭だって他の人よりがんばって勉強したもの。
認められない筈がない。
でも現実は厳しかったの。
私一人が声を上げたところで皆は聞いてもくれなかった。
どんなに素晴らしい考えを披露したところで、皆こう言うのだ。
「それで?一体何が出来るの」
もっと現実を見ればと笑われる。
子爵ごときに偉そうに言われる意味がわからないと。
私は悔しかった。
だから、誓ったのだ。
ならあんたたちが羨んで、口答えできない身分になればいい、と。
私は愛される立場にいなければ。
そうでなければおかしいのだ。
この世の中が間違っている。
だから、私は王子に近付いた。
ちょっと低い身分で不遇な事を涙ながらに語れば王子たちは優しくしてくれた。
最初は同情だったと思うけど、途中からはお互い恋心を持っていた筈。
私だって王子に好きになってもらえるよう努力したわ。
マナーやダンス、刺繍、大よそ女の子が学ぶ物は全て完璧にした。
そうしているうちにジオラルド殿下は皇太子に立太子し、皇太子殿下になった。
もし、もし私がジオラルド様の后になれたら。
私も王妃になれちゃう!?
私はこれだ。と思った。
私が求めていたのはこれだったんだ。
誰もが求めてやまない、女性最高権力。
誰もが傅きご機嫌を取ってくる立場だ。
私に最も相応しい立場は王妃だ。
そうに違いない。
なら邪魔な者は排除しなくちゃ。
当時ジオラルド様の婚約者候補として最も有力視されていたのはアリアーネ・ルインデ公爵令嬢だった。
私が持ってない物を全て手にしていた女。
許せなかった。
高い地位も男もお金も。
全部全部奪ってあげる。
相応しいのは私よ。
そんな風に思った私はあの女を排除した。
地位が高いだけでちやほやされていた女だったから、少し嫌な噂を流せばたちどころに悪いイメージがついた。
ジオラルド様にもいかにあの女が意地悪で最低な女なのか吹き込んだ。
そしたらジオラルド様はコロッと騙されるの。
周りの側近だって最初は疑っていたようだけど、色んな状況を利用してあの女の仕業に見せかけていたら皆あの女を罵倒し始めた。
堪らなく快感だった。
これであの女が選ばれる事は無くなったのだ。
ざまーみろ。
あの女も震えながら反論して来たが、回りから散々非難され何も言えなくなった。
これで安心ね。
その頃になるとジオラルド様は私に夢中だったの。
私の話なら何だって信じてくれる。
愛だって囁いてくれるし、欲しい物は何でも贈ってくれたわ。
まぁ当然よね。
でもーーーーー。
そんな時に隣国のルベイン公国への短期留学へ行くことにジオラルド様たちは決まった。
何なのそれ。
聞いてないんだけど。
何で私もメンバーに含まれてないの。
そんな激情が胸中を駆け巡る。
私は急いで殿下たちに私も連れて行ってもらえるようお願いした。
だって、連れて行かれるのは殿下たちとあの女だったから。
そんなの絶対に許せない。
殿下たちは今更あの女に情は移さないとは思うけど、万が一という事もある。
それが私の手の届かない場所でしばらくずっと一緒だなんて納得出来る訳無いじゃない。
内心凄まじい嫉妬心と怒りでどうにかなりそうだったのだが、ジオラルド様は私の気持ちを察してくれたのか力ずくで私をあの女と挿げ替えてくれた。
これで安心ね。
それに殿下はルベインへ行く前日の夜、私に将来結婚して欲しいってお願いしてきたの。
ついに来たわ。
私が王妃になる。
なんて甘美な響きだろう。
次女たちに傅かれ、夫に愛される日々。
絶対誰にも邪魔させない。
そうしてその夜、私と殿下はついに繋がったわ。
身も心も完全に。
明日が楽しみ。
そう思っていたのだ。
なのに。
訪れたルベインでは私のいた学園とは全てが違っていた。
下級貴族だからと誰も馬鹿にしたりしない。
皆が希望を持って将来について語り合っていた。
こんなに違うなんて思わなかった。
そして、この国のエルフェ大公家の姉妹の存在には本当に驚嘆した。
輝くように眩しいのだ。
姿形ももちろんすごく美人だし目を引くのだけど、根本的に人間としての輝きが違った。
男なんていなくても自分で輝ける星。
そんな印象だった。
何これ。何これ。何これ。
こんなの知らない、知らない、知らない。
私の存在を否定するこんな姉妹はいらない。
最初に姉のレスティアとかいう女に蔑みの目で見られた事に腹が立った。
次に紹介された妹のフォルカに嫉妬した。
私一人が愛される場所でなければならないのに。
その日を境に私の立場は急降下して行ったのだーーー。
「ふ、ふふふ。なぁ~んであんな女が私のモノに手を出しているの?」
「私が愛される筈だったのに。私が王妃になるのよ。それをそれを、あの女。ジオラルド様の同情を誘っていやらしい。そもそもおかしいのよ。ジオラルド様は私と結婚して下さるって言ったのになんであの女の側にずっといるのよ。側近たちだってみんな優しくしてくれてたのに急に冷たくなっちゃっておかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい」
エリーゼの目は既に正気ではなかった。
暗い影に狂気の色が垣間見える。
はぁはぁと息を吐いた後にぽつりと零す。
「・・・・みぃ~んな消えて無くなっちゃえ、あはは」
「なら叶えてみます?」
ふふふ、と暗い笑いを零していたエリーゼに突然背後から話しかけた者がいた。
「だ、誰!?」
扉の方向の暗闇からすっと出てきた人間にエリーゼは鋭く睨み付ける。
「あ、あんたは・・・!」
「静かにして下さい。貴女も私もここに一緒にいる事がばれたらお互い困るでしょう?」
そう語る人間にエリーゼは訝しげに警戒した。
「なんであんたがここにいるの」
「あら、いたら何か悪いのですか?」
エリーゼの目の前にいる者はクスリと笑った。
「あんたは私が嫌いでしょ」
「嫌いなどとは言った事はありませんよ」
「うそ。だってあんたはいつだって冷たい瞳で私を見てたわ」
エリーゼの言葉にその者は更に笑みを深くした。
「それは演技ですよ。私も思うところがありまして、ずっと機会を伺っていたんです。そして貴女がやってきた」
真っ直ぐこちらを見てくるその女は私よりも深い闇色の目をしていた・・・。
「・・・どういう意味よ」
「ふふ。私たちだけの力ではどうしようも無かったのです。この国を変えたいと思っていたのですけど中々難しくて」
エリーゼはその言葉を聞いてニヤリと笑った。
「へぇ?それで?私に何を望んでるの?言っておくけど見返りが無いとなぁんにも手伝ってあげないわ」
瞬時にこの女と自分の利害が一致しているだろう事に察しがついた。
なら乗っておくのが得策だ。まぁタダで乗ってなんてやらないけれど。
内心ほくそ笑むエリーゼにその女はにっこり笑った。
「もちろん貴女には協力して頂けた暁にはご自身の願いを叶えて差し上げますわ」
「どうやって?あんた他国の人間でしょ」
「まぁそれは。私の家がローランの偉い方と繋がっているんですわ。政治にも大きな影響力を持ったお方ですからその方に口添えすれば大抵の事は叶いますわね」
「・・・・わかったわ。私は何をすればいいの」
ちょっと不信感は残るものの、このままいっても待っているのは破滅だけだ。
何を怖がる必要があるのか。
「協力して頂けて嬉しいですわ。殿下には私から取り計らうようお願いしてあげますわ」
「あんた・・・・こんな事してばれたら大変なんじゃないの?」
エリーゼの言葉ににこやかに笑う女。
「失敗すれば・・・そうですわね。でも、それは貴女も一緒では?」
扇子で口元と隠すと暗い瞳で笑う女にエリーゼは不敵に笑った。
「余裕なのね。その自信はどこから来るの?私にも教えてよ。イーリス・オルコット公爵令嬢様?」
エリーゼの挑発にイーリスは内心で見下していた。
この女は捨て駒だーーーー。
精々我々の為に役に立って下さいね。
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