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6.試練の一日
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次の日、学校で授業を受けている間も、頭の中では「ヘタクソ」の文字がずっと反響し続けていた。
父親が言った「現実を見なさい」という言葉も頭から離れない。
授業はまったく耳に入らなかった。
早くボイトレの費用を貯めなくっちゃ!
学校が終わって、帰りのバスの中でバイトの検索をしていると、地元で評判の洋食レストラン「リベカ」がホールスタッフを募集しているという文字が目に入った。
時給は1100円。
コンビニや他のファミレスより少し高い。
ここなら、早くボイトレの費用を稼げるかもしれないっ!
私も家族と行ったことがある店だ。
近くを通ったとき、いつも車がたくさん止まっていたのを覚えている。
ということは、店員もそれだけ忙しいということ。
「きついかもしれないけど……やるしかないっ!」
高ぶった気持ちで応募フォームを送信した。
次の日の学校が終わると、私は「リベカ」にいた。
学校の制服の乱れを治して、髪をきれいにまとめてから店のドアを開けた。
店内は開店前の準備中で、厨房でも客席でも人がたくさん動いていた。
店長は少し釣り上がった目をした中年女性だった。
私は思わず身体を震わせた。
店長の射るような視線が痛かった。
「高校生だけど、責任感が強そうね。気持ちが強い子なら歓迎するわ。さっそく明日から入ってもらえる?」
「え、は、はいっ。よろしくおねがいしますっ!」
声が上ずっていた。
バイト初日。
支給された制服はひらひらのデザインで、自分が早くもアイドルになったような気がした。
胸が高鳴った。
「まずはオーダーを取って、厨房から料理をもらって、客席に運ぶ。
笑顔を忘れずにね!」
私はピンク色の制服を着て客席に立っていた。
「研修中」と書かれた名札をゆっくりとつけると、大きく息を吸った。
店長が開店の時間を告げた。
その瞬間、店の雰囲気が冷ややかになったような気がした。
先輩たちの視線が刺さるようだった。
開店したと思った瞬間、客席は人で溢れていた。
先輩が客をテーブルに案内している。
私は立ったまま胸がドキドキしていた。
やがて呼び鈴が鳴った。
私はビクッと身体を震わせた。
「あそこにある4番テーブルにサラダとパスタ運んで!」
先輩の指示に従ってトレイを抱えた。
ずっしりとした重みがあった。
持ったまま歩くと、すぐに脚が震え始めた。
テーブルにつてころには少し息が乱れていた。
オーダーを取って、厨房から料理を受け取り、テーブルに運ぶ。
ニ往復、三往復。
ふくらはぎがじんじん痛む。
腕も少ししびれてきた。
料理の並べられた重いトレイを持って歩くと、早くも脚がもつれそうだった。
時計をちらっと見ると、まだ30分しかたっていなかった。
「お待たせしました、こちらオムライスセットです!」
トレイを置こうとした瞬間、手が滑った。
皿がテーブルに当たって、ガチャン、と金属音を立てた。
客の視線が冷たくて刺さるようだった。
「ごめんなさい……」
慌てて謝る。
客は小さくため息をついて「気をつけてよ」と言った。
私は顔が青ざめるのを感じた。
次に運んだのはパフェ。
今度は場所を間違えた。
「私頼んでないんですけど……」
中年の女性客が眉をひそめてつぶやくと、店長を呼んだ。
店長は客に丁重に謝ると、私の肩を軽く叩いた。
「みゆちゃん、落ち着いて。最初は誰でもミスするから。でも、次からはちゃんと確認してね」
言葉は優しかったけど、氷のように冷たく感じた。
背中がゾッとした。
バックヤードに戻った店長がつぶやくのが聞こえる。
「新人、ちょっと使えないかも……」
胸がぎゅっと締めつけられた。
それからさらに30分。
脚が痛くて泣き出しそうになっていた。
トレイに入れて氷の入った水を運ぶ途中で、足がもつれた。
グラスに床に落ちて、パリンと割れる音。
店内が静かになった。
客席から「どうしたの?」という声。
厨房から「またかよ!」という苛立ちの声。
私は茫然と立ちつくしたまま、散らばったグラスの破片をただ見つめることしかできなかった。
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