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第二章 夏一族( 建安九年・西暦ニ〇四年 )
枚聞岳の龍
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出港して三日目の朝、山頂からわずかに噴煙が上がる枚聞岳が見えてきた。
甲板に出ていた徐熊に、「きれいなお山ですね」と麗媛が声をかけてきた。まるでお椀を伏せたような、きれいな形をした火山である。
麗媛がそーっと体を寄せてくる。徐熊は、誰かが見ているのではないかと気になった。船首に一人、船方がいるだけで、他の者は皆、まだ船室にいるようだ。その船方も、前方に注視しているため、徐熊たちに気がつかない。
徐熊は麗媛の手を取った。この季節でも朝方は涼しい。麗媛の手はひんやりと柔らかい。このまま、港に着かず、ずっとこうしていたいと思ってしまう徐熊だった。
「取舵一杯」
船方の一声で、徐熊は現実に引き戻されてしまった。麗媛も徐熊から離れると、慌てて船室に戻って行った。船は枚聞岳を左手に見ながら、大きく左に旋回した。
先にはもう、弓矢国の港が見えている。蘇奈国の港よりは小作りだが、漁舟の他に交易船も何艘か停泊している。交易の盛んな、元気な国のようだ。
港には数名の兵士が出迎えており、イコクタは下船すると、すぐに兵士に何やら指図をしている。そして、瑞麗のところに戻ってくると、
「今から、枚聞岳にご案内いたします」
そう言って、先頭に立って歩きだした。
しばらく歩くと、前回の溶岩が流れ出して固まった境目にやってきた。近くには、もう住民の姿は全く見えない。すべて安全な所に避難したようだ。兵士が二人だけ立っていた。イコクタは、その二人に近づくと、これまでの経過を聞いた。地面は僅かに振動しているが、溶岩が流れ出す気配はまだない。
「瑞麗様、今、村の長老を呼びに行かせています。これまでに二回、噴火を経験した者で、先祖からの言い伝えも聞き及んでおります」
「それはありがたいことです。噴火の様子は火山によって様々です。事情が分かれば対処の仕方も見えてきます」
今回ももうすでに、瑞麗は船中で火鼠の衣に着替え、火龍の剣も携えて、準備万端である。
四刻が過ぎた頃、兵士に連れられて長老がやってきた。白髪頭で、顔には深いしわが何本も刻まれた、七十はとっくに越えていると思われる老人である。腰を曲げているせいか、背丈は瑞麗の肩までしかない。
「儂の見ました二回の噴火では、地響きが急に大きくなり、あっという間に、山頂から溶岩が溢れ出してきました。その溶岩に乗って、大きな卵が押し出され、山の中腹あたりで止まると、三日後、卵から龍が孵りました。龍は、すぐに飛び上がると、辺りの家や田畑を焼き払い、作物を食い散らかし、腹いっぱいになると、火口に卵を産みつけ、天に上っていきました」
枚聞岳は小高い山のため、阿蘇のお山のように火口を塞ぐことはできない。溶岩も急に噴出してくるようだ。さすがに、火鼠の衣を着ていても、溶岩を被ってしまったら命はない。
「今は待つしかありません」そう言って、瑞麗は近くの岩に腰を下ろした。
噴火が起こるまで、ここで待つつもりなのかと、心配した徐熊はイコクタに「ここで野営ができるように、準備をお願いできますか」と頼んだ。
イコクタはわかりましたと、すぐに兵士に野営の準備に入らせた。
二刻もすると、食事と寝泊りができる野営が出来上がった。
長老は瑞麗の行動が気になるようで、先ほどからじっと瑞麗を見ている。そして、野営が出来上がると、自分もここで噴火を見届けたいとイコクタに願い出た。イコクタは許可した。
到着して五日目の朝、地面の揺れが変化した。すぐに長老が叫んだ。
「この揺れだ。間違いありません。すぐに噴火が始まります」
瑞麗は火龍の剣を手に取ると「麗媛、ついて来なさい」と言って、溶岩の境目に急いだ。
「ここで食い止めることにしましょう」と言うと、すぐに呪文を唱え始めた。麗媛も瑞麗に合わせて呪文を唱える。麗媛の呪文も、以前と違い落ち着いたものになっていた。
枚聞岳の山頂から立ち上る噴煙が、どんどん薄くなっていく。
そして、見えなくなったときゴボッという音と共に、溶岩が噴出してきた。鬼岳のような、大きな爆発音は聞こえない。ドドッドドッと溢れ出た溶岩は、山全体を覆うように広がり、歩く速さで山の斜面を下り始めた。
徐熊は気が気ではなかった。瑞麗と麗媛は境目のところで、呪文を唱えている。火鼠の衣を纏っているとはいえ、溶岩を被れば一たまりもない。麗媛は、その火鼠の衣すら着ていない。
しばらくすると、瑞麗は麗媛に後ろに下がるように命じた。麗媛は徐熊たちのいるところまで戻ってきたが、瑞麗はそのまま、境目のところで呪文を続けている。
溶岩の先頭が、境目手前、三十丈ほどの所に来た時、ようやく瑞麗は呪文を終えた。
「えいっ」と掛け声をかけ、剣を溶岩の境目に突き刺した。地面には何の変化も起こらない。徐熊はますます心配になってきた。麗媛も気が気ではない様子だ。
ついに、溶岩の先頭が剣に触れた、その瞬間、そこから溶岩が固まり始め、次々とそれが伝わっていく。一刻も経たないうちに、中腹の溶岩までが固まってしまった。
その時、長老が叫んだ。
「卵が」
火口から大きな卵が顔を出した。そして、溶岩に乗って滑り落ちようとしたが、すでに溶岩は山頂近くまで固まっていた。卵は少し滑って、すぐに停止した。
瑞麗は、溶岩の流れが止まったのを見届けると、剣は刺したまま野営に戻ってきた。
「卵が孵るまで待ちましょう」
長老の話では、三日後卵から孵るということだった。
三日後、イコクタは兵士を百名ほど引き連れて、野営にやって来た。固まったとはいえ、まだ溶岩の表面は熱い。水をかけると、ジューと音を立て蒸気に変わる。瑞麗といえども、溶岩の上を歩いて卵に近づくことはできない。
長老の話通り、卵の殻が破れ「グァッ」と大きな鳴声と共に、龍が卵から孵った。そして、すぐに飛び上がると、枚聞岳の周りを旋回し始めた。瑞麗は剣を引き抜き、剣先を龍に向けた。
旋回していた龍は、裾野で剣をかざした人間が見えた。卵の殻は山頂にある。生まれたばかりとはいえ、本能で異変に気づいた龍は、危険だと感じたようだ。火を吐くことも、周辺の作物を食い荒らすこともせず、一気に天に駆け上がっていった。
瑞麗は、何もせず立ち去る龍を見るのは、これが初めてだった。悪さをしない龍に対して、火龍の剣は無力だということを瑞麗は分かっている。剣を鞘に収めると、すでに豆粒ほどになった龍が完全に見えなくなるまで見送った。
徐熊は、遠目だが、瑞麗が微笑んでいるように見えた。
龍退治はできなかったが、溶岩は以前の境目で食い止めることができ、家や田畑は守られた。
「龍は、卵を産みつけずに天に上りました。次に噴火があっても、中から龍が飛び出して悪さをすることはありません」
瑞麗の言葉を聞いて、イコクタは大いに喜んだ。そして深々と頭を下げた。そして、徐熊の方に向き直すと、約束通り援軍を派遣すると、徐熊の両手を握りしめた。
「弓矢国はその名の通り、弓の名手がたくさんおります。戦いが終わるまで、五百名の弓部隊をお貸ししますので、訓練に参加させてください。私は国の仕事があるため、兵の指揮は将軍のコタンラムに任せます」
徐熊にとって、弓部隊が加わることは非常にありがたかった。ヒダカ一族の中でも、腕は随一と噂される弓矢国の弓部隊である。これで戦い方が大きく変わる。徐熊の頭の中では、次々と作戦が浮かんできた。
甲板に出ていた徐熊に、「きれいなお山ですね」と麗媛が声をかけてきた。まるでお椀を伏せたような、きれいな形をした火山である。
麗媛がそーっと体を寄せてくる。徐熊は、誰かが見ているのではないかと気になった。船首に一人、船方がいるだけで、他の者は皆、まだ船室にいるようだ。その船方も、前方に注視しているため、徐熊たちに気がつかない。
徐熊は麗媛の手を取った。この季節でも朝方は涼しい。麗媛の手はひんやりと柔らかい。このまま、港に着かず、ずっとこうしていたいと思ってしまう徐熊だった。
「取舵一杯」
船方の一声で、徐熊は現実に引き戻されてしまった。麗媛も徐熊から離れると、慌てて船室に戻って行った。船は枚聞岳を左手に見ながら、大きく左に旋回した。
先にはもう、弓矢国の港が見えている。蘇奈国の港よりは小作りだが、漁舟の他に交易船も何艘か停泊している。交易の盛んな、元気な国のようだ。
港には数名の兵士が出迎えており、イコクタは下船すると、すぐに兵士に何やら指図をしている。そして、瑞麗のところに戻ってくると、
「今から、枚聞岳にご案内いたします」
そう言って、先頭に立って歩きだした。
しばらく歩くと、前回の溶岩が流れ出して固まった境目にやってきた。近くには、もう住民の姿は全く見えない。すべて安全な所に避難したようだ。兵士が二人だけ立っていた。イコクタは、その二人に近づくと、これまでの経過を聞いた。地面は僅かに振動しているが、溶岩が流れ出す気配はまだない。
「瑞麗様、今、村の長老を呼びに行かせています。これまでに二回、噴火を経験した者で、先祖からの言い伝えも聞き及んでおります」
「それはありがたいことです。噴火の様子は火山によって様々です。事情が分かれば対処の仕方も見えてきます」
今回ももうすでに、瑞麗は船中で火鼠の衣に着替え、火龍の剣も携えて、準備万端である。
四刻が過ぎた頃、兵士に連れられて長老がやってきた。白髪頭で、顔には深いしわが何本も刻まれた、七十はとっくに越えていると思われる老人である。腰を曲げているせいか、背丈は瑞麗の肩までしかない。
「儂の見ました二回の噴火では、地響きが急に大きくなり、あっという間に、山頂から溶岩が溢れ出してきました。その溶岩に乗って、大きな卵が押し出され、山の中腹あたりで止まると、三日後、卵から龍が孵りました。龍は、すぐに飛び上がると、辺りの家や田畑を焼き払い、作物を食い散らかし、腹いっぱいになると、火口に卵を産みつけ、天に上っていきました」
枚聞岳は小高い山のため、阿蘇のお山のように火口を塞ぐことはできない。溶岩も急に噴出してくるようだ。さすがに、火鼠の衣を着ていても、溶岩を被ってしまったら命はない。
「今は待つしかありません」そう言って、瑞麗は近くの岩に腰を下ろした。
噴火が起こるまで、ここで待つつもりなのかと、心配した徐熊はイコクタに「ここで野営ができるように、準備をお願いできますか」と頼んだ。
イコクタはわかりましたと、すぐに兵士に野営の準備に入らせた。
二刻もすると、食事と寝泊りができる野営が出来上がった。
長老は瑞麗の行動が気になるようで、先ほどからじっと瑞麗を見ている。そして、野営が出来上がると、自分もここで噴火を見届けたいとイコクタに願い出た。イコクタは許可した。
到着して五日目の朝、地面の揺れが変化した。すぐに長老が叫んだ。
「この揺れだ。間違いありません。すぐに噴火が始まります」
瑞麗は火龍の剣を手に取ると「麗媛、ついて来なさい」と言って、溶岩の境目に急いだ。
「ここで食い止めることにしましょう」と言うと、すぐに呪文を唱え始めた。麗媛も瑞麗に合わせて呪文を唱える。麗媛の呪文も、以前と違い落ち着いたものになっていた。
枚聞岳の山頂から立ち上る噴煙が、どんどん薄くなっていく。
そして、見えなくなったときゴボッという音と共に、溶岩が噴出してきた。鬼岳のような、大きな爆発音は聞こえない。ドドッドドッと溢れ出た溶岩は、山全体を覆うように広がり、歩く速さで山の斜面を下り始めた。
徐熊は気が気ではなかった。瑞麗と麗媛は境目のところで、呪文を唱えている。火鼠の衣を纏っているとはいえ、溶岩を被れば一たまりもない。麗媛は、その火鼠の衣すら着ていない。
しばらくすると、瑞麗は麗媛に後ろに下がるように命じた。麗媛は徐熊たちのいるところまで戻ってきたが、瑞麗はそのまま、境目のところで呪文を続けている。
溶岩の先頭が、境目手前、三十丈ほどの所に来た時、ようやく瑞麗は呪文を終えた。
「えいっ」と掛け声をかけ、剣を溶岩の境目に突き刺した。地面には何の変化も起こらない。徐熊はますます心配になってきた。麗媛も気が気ではない様子だ。
ついに、溶岩の先頭が剣に触れた、その瞬間、そこから溶岩が固まり始め、次々とそれが伝わっていく。一刻も経たないうちに、中腹の溶岩までが固まってしまった。
その時、長老が叫んだ。
「卵が」
火口から大きな卵が顔を出した。そして、溶岩に乗って滑り落ちようとしたが、すでに溶岩は山頂近くまで固まっていた。卵は少し滑って、すぐに停止した。
瑞麗は、溶岩の流れが止まったのを見届けると、剣は刺したまま野営に戻ってきた。
「卵が孵るまで待ちましょう」
長老の話では、三日後卵から孵るということだった。
三日後、イコクタは兵士を百名ほど引き連れて、野営にやって来た。固まったとはいえ、まだ溶岩の表面は熱い。水をかけると、ジューと音を立て蒸気に変わる。瑞麗といえども、溶岩の上を歩いて卵に近づくことはできない。
長老の話通り、卵の殻が破れ「グァッ」と大きな鳴声と共に、龍が卵から孵った。そして、すぐに飛び上がると、枚聞岳の周りを旋回し始めた。瑞麗は剣を引き抜き、剣先を龍に向けた。
旋回していた龍は、裾野で剣をかざした人間が見えた。卵の殻は山頂にある。生まれたばかりとはいえ、本能で異変に気づいた龍は、危険だと感じたようだ。火を吐くことも、周辺の作物を食い荒らすこともせず、一気に天に駆け上がっていった。
瑞麗は、何もせず立ち去る龍を見るのは、これが初めてだった。悪さをしない龍に対して、火龍の剣は無力だということを瑞麗は分かっている。剣を鞘に収めると、すでに豆粒ほどになった龍が完全に見えなくなるまで見送った。
徐熊は、遠目だが、瑞麗が微笑んでいるように見えた。
龍退治はできなかったが、溶岩は以前の境目で食い止めることができ、家や田畑は守られた。
「龍は、卵を産みつけずに天に上りました。次に噴火があっても、中から龍が飛び出して悪さをすることはありません」
瑞麗の言葉を聞いて、イコクタは大いに喜んだ。そして深々と頭を下げた。そして、徐熊の方に向き直すと、約束通り援軍を派遣すると、徐熊の両手を握りしめた。
「弓矢国はその名の通り、弓の名手がたくさんおります。戦いが終わるまで、五百名の弓部隊をお貸ししますので、訓練に参加させてください。私は国の仕事があるため、兵の指揮は将軍のコタンラムに任せます」
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