不老ふしあわせ

第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)

統一国家始動

　同盟が宣言されて二年後、高津に大王の館が作られいよいよ統一国家へと動き出した。クマノクスビが提案したように、それぞれの国が持っていた神器が一所に集められた。「火龍の剣」は信仰の対象である。これがなくなった耶馬一国はどうなるのか。「銀の鏡」は超能力をもたらす丸薬を作るために必要な器である。これがなくなれば、ワニ一族は新たに丸薬を作ることができなくなる。「曲玉」は一つを残し他はすべて割られてしまった。これで竜王山から淡海国への速やかな伝達はできなくなった。
　トッカラムは「先人の残したものはそれぞれの一族が持っていた方が、いざという時助かるのではないのですか」とクマノクスビに尋ねた。
「トッカラムよ。それでは真の統一国家はできない。それぞれの一族がそれぞれの力を残していたら、いずれそれを使って上位に立とうとする。連合国を作るのではない。新国家を作るのだ。そのためには、たとえ優れた神器であってもそれに頼っていてはならない。「三種の神器」は新国家を作った象徴として形だけに留めておくことだ」
　大王の館の近くに三つの館、耶馬一やまいちの宮、ワ二の宮、日高三ひだかさんの宮を作り、それぞれに国王、族長が入った。そして、政は大王の館に三人が集まって行うことになった。
　建興元年（三一三）、倭に初めて統一国家が始動した。
　一月一日、初代大王に就いた文高が詔を読み上げ、国名を大和だいわ国と宣言した。
「一つ、大和国は筑紫つくし・火国ひのくに・豊国とよくに・薩摩さつま・大隅おおすみ・長門ながと・周防すおう・安芸あき・石見いしみ・出雲いずも・吉備きび・伯耆ほうき・美作みまさか・因幡いなば・伊予いよ・讃岐さぬき・土佐とさ・阿波あわ・但馬たじま・播磨はりま・摂津せっつ・丹波たんば・山城やましろ・紀伊きい・大和だいわ・河内かわち・近江おうみ・伊勢いせの二十八国とし、高津に大王の館を置く」
「二つ、旗振り山は廃止し、街道を整備する」
「三つ、筑紫に大宰府を置き、朝鮮半島、中国からの攻撃に備える」
「四つ、大王は三族の族長から選び、『三種の神器』を継承する」
「五つ、……」
　この体制は隆安三年（三九九）まで八十七年間続き、大和国の安定と発展をもたらした。
　クマノクスビは徐福と共に近江国（淡海国より改め）に戻り、政の表舞台から姿を消した。