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第一章
18.嘘
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潮風で傷んだ彼の金髪がふよふよと風で広がっている。その光景に私はなんだか前世との温度差に風邪をひきそうだった。
「そういえば、名前聞いてなかったな。もう知ってるだろうけど俺はリック。アンタは?」
「......」
そう聞かれて少し考えた末、私は本名とは別の名前を名乗ることにした。
「......ア、アンリーよ」
嘘だ。誰だそれは。
というかとっさに考えたとはいえ、アリリと大して変わらないじゃない。
もうちょっといい名前があったかも、なんてそんなふうに後悔していると私の脳内を表すかのように空に厚い雲がかかる。
その瞬間、リックは「そうか、よろしく」と目を細めて笑った。
それから三時間、私たちを乗せた船は無事山岳地帯の浜辺に停まる。
私とリックが浜辺に降りると船はあっという間に踵をかえした。他の乗客はここに来る前に全員降りたので、どうやらここが終点だったらしい。
「すげえ霧だな......」
「そうね」
見渡す限り、霧に包まれる浜辺。
さっきまで天気も良かったのにまるで曇り空のようにどんよりとした雰囲気だ。
「あっちにロープウェイがあるからあれに乗って行きましょう」
「ロープウェイ?」
「ええ、着いてきて」
記憶を頼りにどんどん霧の中を突き進む私。
はぐれないようにと数歩後ろを同じ歩幅で音もなくついてくる彼はやはり一般人ではないのだと実感する。
(こ、こわい......)
しばらく砂浜を歩くと霧の中に鉄製の四角いボックスのような物が目に入る。あれが頂上のフェープに行くための一つの手段、ロープウェイだ。
周辺を確認しても人は誰もいない。
それもそのはず、これは乗る者が自分たちで操作して動かす仕組みになっている。
「貴方は先にこの中に乗って」
「? お、おう」
そう言って私はリックを中に押し込むとボックスの横にある制御室らしき場所に入った。
中は霧のせいで薄暗く、手元には操作するためのカラフルなボタンが何個もある。
(多分だけどここにレバーが......あ、これだわ)
私は数あるボタンには目もくれず、入口のすぐ近くにあったレバーを下げる。するとごおお、と電源の入る音が辺りに響いた。
そのまま制御室を出ると私は彼のいるボックスの中に駆け込む。
急いで乗り込んだ瞬間、がたんっという振動と共にロープウェイは動き出した。
「うおっ!? なあ、これ落ちないよな?」
「ぷっ。大丈夫、落ちないわよ」
焦る彼をちょっと面白がりながら、内心上昇するロープウェイにテンションが上がる。
肘かけの下にある赤いボタンを押し、ドアを閉めるとやっとリックは落ち着いて座ってくれた。
しばらく窓の外を見ながらぼーっとしているとふとあの時のことが 蘇る。
『アリリ、今なら引き返せるよ』
その問いに首を横に振る。
こんな時まで彼は私に責任を負わせるのが嫌みたいだった。
『私、自分の意思で来たよ。それにミシェルは――
――”あの子”を助けたいんでしょ?』
そういうと青年は空色の瞳に光を宿した。
『うん、行こう』
あの時のことを間違いだとは思いたくない。
だって彼はこうなることを知ってたわけじゃない。
その望みが純粋すぎて、美しすぎて、その先にあるかもしれない未来を見落としていただけ。
そして良くないと分かっていて彼に協力した私もまた、若すぎたのだろう。
でも今度は絶対、貴方を間違いには向かわせない。
(例え貴方にこれからどれだけ嫌われたとしても――)
「おい、アンリー。着いたぞ」
「っ!」
「そういえば、名前聞いてなかったな。もう知ってるだろうけど俺はリック。アンタは?」
「......」
そう聞かれて少し考えた末、私は本名とは別の名前を名乗ることにした。
「......ア、アンリーよ」
嘘だ。誰だそれは。
というかとっさに考えたとはいえ、アリリと大して変わらないじゃない。
もうちょっといい名前があったかも、なんてそんなふうに後悔していると私の脳内を表すかのように空に厚い雲がかかる。
その瞬間、リックは「そうか、よろしく」と目を細めて笑った。
それから三時間、私たちを乗せた船は無事山岳地帯の浜辺に停まる。
私とリックが浜辺に降りると船はあっという間に踵をかえした。他の乗客はここに来る前に全員降りたので、どうやらここが終点だったらしい。
「すげえ霧だな......」
「そうね」
見渡す限り、霧に包まれる浜辺。
さっきまで天気も良かったのにまるで曇り空のようにどんよりとした雰囲気だ。
「あっちにロープウェイがあるからあれに乗って行きましょう」
「ロープウェイ?」
「ええ、着いてきて」
記憶を頼りにどんどん霧の中を突き進む私。
はぐれないようにと数歩後ろを同じ歩幅で音もなくついてくる彼はやはり一般人ではないのだと実感する。
(こ、こわい......)
しばらく砂浜を歩くと霧の中に鉄製の四角いボックスのような物が目に入る。あれが頂上のフェープに行くための一つの手段、ロープウェイだ。
周辺を確認しても人は誰もいない。
それもそのはず、これは乗る者が自分たちで操作して動かす仕組みになっている。
「貴方は先にこの中に乗って」
「? お、おう」
そう言って私はリックを中に押し込むとボックスの横にある制御室らしき場所に入った。
中は霧のせいで薄暗く、手元には操作するためのカラフルなボタンが何個もある。
(多分だけどここにレバーが......あ、これだわ)
私は数あるボタンには目もくれず、入口のすぐ近くにあったレバーを下げる。するとごおお、と電源の入る音が辺りに響いた。
そのまま制御室を出ると私は彼のいるボックスの中に駆け込む。
急いで乗り込んだ瞬間、がたんっという振動と共にロープウェイは動き出した。
「うおっ!? なあ、これ落ちないよな?」
「ぷっ。大丈夫、落ちないわよ」
焦る彼をちょっと面白がりながら、内心上昇するロープウェイにテンションが上がる。
肘かけの下にある赤いボタンを押し、ドアを閉めるとやっとリックは落ち着いて座ってくれた。
しばらく窓の外を見ながらぼーっとしているとふとあの時のことが 蘇る。
『アリリ、今なら引き返せるよ』
その問いに首を横に振る。
こんな時まで彼は私に責任を負わせるのが嫌みたいだった。
『私、自分の意思で来たよ。それにミシェルは――
――”あの子”を助けたいんでしょ?』
そういうと青年は空色の瞳に光を宿した。
『うん、行こう』
あの時のことを間違いだとは思いたくない。
だって彼はこうなることを知ってたわけじゃない。
その望みが純粋すぎて、美しすぎて、その先にあるかもしれない未来を見落としていただけ。
そして良くないと分かっていて彼に協力した私もまた、若すぎたのだろう。
でも今度は絶対、貴方を間違いには向かわせない。
(例え貴方にこれからどれだけ嫌われたとしても――)
「おい、アンリー。着いたぞ」
「っ!」
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