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一章

12. し......しんでる!

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 部屋の窓から、綺麗な三日月が見える。私は昼間の褒められた記憶をベッドの中で一人、反芻していた。

「フィオネ、起きてる? さっき料理長がね、水色の鍋が見当たらないって言ってたの。どこに行ったのかしら。あんた知ってる?」

 ぎくっ。

「しっしらない......」

 やばい。ライアン気づいてるんだ。それにもう五日も経ってるしそろそろ回収しに行ったほうが良いか。

 私はヘリンが寝たのを確認したのち、こっそり地下に鍋を取りに行くことにした。

 えーっとこう降りて、こっちだっけ?
 いやでもこんなとこは通ったことないしな......?

 私は相変わらずの方向音痴を発揮し、道に迷っていた。

 しばらくうろうろすると、見覚えのある傷がついた壁を発見した。

 これがあるってことは――こっち?
 すぐ右に曲がると城壁の間から月明かりが漏れていた。
 そのすぐ端に、私が置いた鍋がある。

「あった!!!」

 急いで駆け寄り、中身を確認する。
 匂い......落ち着いたかな。

「え?」

 しかし、鍋の中は空っぽだった。 
 私は意味が分からず、蓋を持ったまま硬直した。

 (なんで?少しも入ってない......。蒸発するわけないしな、こんな量)

 私がぽかんとしていると、急に左側から何かの気配が。
 振り向くとすぐ傍に何か大きい物体が床に落ちていることに気づいた。

「ぎゃあ!?」

 私は驚いてその場にしりもちをつく。
 影になって気づかなかったが、よく見るとそれは”人”だった。

 そうだった。地下には幽霊が居るんだった。
 私は最近平和ボケしてその事をすっかり忘れていた。

 ここに居たら呪い殺されるかもしれない。
 私は腰が抜けて立てなくなった足を必死に引きずってその場を離れようとした。

 ガシッ!

「へ?」

 見ると自分の足が幽霊の手に掴まれている。私はヒュッと息を呑んだ。
 その瞬間、驚く暇もなく思い切り足を引っ張られ、私はその場から二メートルほど後退する。

「ひいぃっ」

 そして自分の影が幽霊の影と重なった。
 怖い......!誰か助けて!

「ぎゃr「しーっ......」

 私の悲鳴は突如幽霊の手によって口を覆われ、そのまま音になる事は無かった。

 次の瞬間、月にかかっていた雲が動き、突如目の前が明るくなる。
 私は怖くてもそのまま視線を逸らすことが出来なかった。

 月光から現れた”それ”は光り輝く銀髪を持った少年だった。
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