異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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1章 意味も無く死にそして転生

1.1 神との賭けをする事になった話

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「名前? 俺のか? 佐藤堕天使さとうるしふぁーだよ。俗に言うキラキラネームって奴だ」

「年齢? 16歳の高校2年生だが。・・・は?死んだ時の話をしろって? ・・・まあいいけどな。死因は凍死。絵に描いたようなボロアパートのベランダでだよ」

「なんだよ・・・。もっと詳しく話せってか・・・はぁ、面倒だな。しつこいな分かったよ。そうなった原因なんだが・・・それを説明するついでに生い立ちの不幸を愚痴らせてくれよ」

 俺は生まれてから今まで、幸福という物を感じたことがない。

 父は無職でパチンコ三昧で滅多に家には帰らなかった、母は母で水商売で金を稼ぎつつ男遊びをしている始末。

 俺はそんなくだらない父の子供を欲しがったどうしようもない母が、父に黙って勝手に産んだ子供なんだよ。

 だから、籍も入れていない血縁関係だけの父からは、邪魔な存在として日常的に虐待されていた。

 母はそれで父が家にいてくれるのならと、自分の子供の悲鳴を聞き流すばかりだった。

 家のあった地域は、いわいる底辺家庭が集まるところで、子供の悲鳴が聞こえても触らぬ神に祟りなしと、見て見ぬ振りをされていた。

 小学校に通うようになってからも、生傷が絶えない俺は、季節を問わず長袖と長ズボンしか着れなかった。

 だから学校も虐待に気づいたが、父と母は話し合いの場で俺に嘘をつくことを強要し、学校も児童相談所も悪戦苦闘するだけだった。

 追い討ちをかけるように、学校でのいじめも日に日に酷くなっていった。

 母がお気に入りだったホストの源氏名と一緒の、堕天使ルシファーというキラキラネーム。ただそれだけでいじめの対象になるには充分な理由だったよ。

 母に一度、仕事もしない父のどこがいいのか聞いたことがあるが、今までで1番顔も体の相性も良いと言っただけだった。

 ・・・俺が女という生き物に興味を無くした瞬間だ。

 当然1人でいることが多かったから、暇つぶしにしていた勉強が効果を発揮したのか、成績だけは学年1位をキープし続け、高校へは特待生として、学費免除で県内トップの学校に進学出来た。

 高校ではいじめを受けなかったが、生傷のある体に、ろくに飯も食べれなかった事でガリガリでチビの体は、人間に混じって生活するミイラのようで、誰も近づいては来なかった。

 高校でも俺は孤独しか感じなかったし、徐々に人間への興味を失い続けていたな・・・。

 でも俺はこの状況から脱却する為に、街の工場でバイトをして金を貯め、一応バイト代の一部を家に入れるようになってからは、父からの暴力はなくなり始めた。

 金蔓かねづるだっていうのは分かっていたけど、安心して生活出来るようにはなっていたんだよ。

 でもさ・・・父に胸ぐら掴まれて”金をもっと入れろ!”って言われた時、今までの気持ちが爆発して”俺は高校を卒業したら、この家を出ていくんだ!”と言ってしまったんだよ。・・・売り言葉に買い言葉ってやつだ。

 そしたら父は大激怒して、今までになく殴られた後に、指一本動かせなくなってから床に倒されたんだ。当然だ。そんなことは分かっていた、分かっていたがどうしても許せなかったんだ。それでボコボコにされてたら世話ないんだけどな。

 力を振り絞って、目線を送って母に助けを求めた。心の何処かでまだ縋っていたのかもしれない。だけど母は”自分達の老後の面倒を見る道具何だから、家を出るなんて許さない!”って。

 俺は本当に・・・人間扱いされてなかったんだって実感したよ。笑っちまうよな。

 そんで、そのまま雪が降る中のベランダに放置されて、両親は出かけていった。

 反省したら中に入っても良いって言葉を残して。反省もなにも、起き上がる力もないのに、中に入れる訳ないだろ?

 その時、隣人のおじさんがベランダに出てきて煙草をふかし始めたんだ。

 それが見えて・・・必死に助けを求めて声を出そうと思ったけど、口からは白い煙しか出て来なかった。

 でも目が合った。

 確かに目が合った筈なんだ。確かにっ・・・。

 だけど、おじさんは火を点けたばかりの煙草を消すと、厄介事には関わりたくないという目をして、何も言わずに部屋に入ってしまった。

 人は自分が困ってる時には救いを求めるが、人は助ける事が自分の利益になる時だけ誰かを助ける。

 俺を助けても、あのおじさんは隣人の厄介事に巻き込まれるだけだ。

 人には善人なんていない。

 自分の子供を虐待し、死ぬまで利用する事を考える。

 自分達と違うからと、いじめて自らのストレスの捌け口はけぐちにする。

 自分だけはそうなりたくないと思いながら生きてきたけど、人間社会はそれさえも許してくれない。

 もう人に興味が完全に無くなっていた。

 もう人を信じようなんて、思わなくなっていた。

 こんな事なら俺も自分勝手に、好きなように生きれば良かった。

 でも俺は、後悔するのも遅かったんだ。もう指一本、動かせなかったからな。
 当然家に入る気力もなく、そのまま凍死ってわけだ。

 興味を無くした世界からいなくなれる事を喜んで、次があるなら自分勝手に生きることを夢見てね。



「あんたが詳しく話せって言ったから、全部説明してやったよ。自称神様さん」

「うむ・・」

 死んだと思ったら、俺は魂だけのもやのような状態で、何も無い宇宙空間のようなところにいる。

 そしてこの自称神様を名乗る、髭を蓄えたくわ髪が肩まで伸びた、宗教服を着ているどこぞの宗教絵画に描かれたような、老人の前にいたわけだ。

「そのままでは、話をするのに不便じゃろう」

 自称神が両手を前に出すと、あのミイラみたいな俺の体が現れる。

 何も無い空間だが、自称神様のように見えない地面に立っている感覚がある。

 服は歴史の教科書で見た事がある、大昔の人が着ていたような、あさの服が着せられていた。

「それにしても、堕天使ルシファーだなんて名前付けたら、そんな死に方してもおかしくはないじゃろうに」

「うるせえ!」

「えええええ!?」

 助走をつけて自称神の顔面を殴る。生まれて初めて誰かを殴った。全力で、助走もつけて殴りつけた。しょうがないだろう・・・俺にとって名前は、地雷以外の何物でもないからな。今までのいじめられてた鬱憤も全部込めて殴り飛ばしてやった。

 自称神は顔をさするだけで、全く痛くなさそうだ。そりゃそうだ。こんな体では、子供ですら倒せないだろうからな。

「おぬし! 神を殴るとはどういうつもりじゃ! 神を殴った人間は初めてじゃぞ!」

「お前が神ならば、名前に関係なく俺を助けてくれても良かっただろ!」

「それは出来なかったんじゃ」

「はぁ!? 意味が分からない。俺は何か罪を犯したか? あれは何かの罰なのかよ!」

 弱弱しく自称神の胸倉を掴み、もう一度顔面を殴る。

「手を離したまえ。神の考えを人間が理解できるわけなかろう」

 気の抜けた音がした後、さっきまでの砕けた態度から一転、威厳ある雰囲気になる。

「古来より人間は、争いの絶えない種族であったが、一時の平和な時代が訪れても、君のような不幸な子が生まれるのは悲しいことだ」

 今度は慈愛の雰囲気。あわれまれているのが余計に腹立つ。

「生まれの不幸を呪ったが、今となってはどうでもいいことだ。人は信用できないし、興味も無くなった」

 凄んで見せた自称神も、今度は肩を落として哀れな者を見る目で見てくる。

 こいつまで俺をそんな目で見るのか。

「ところでここはあの世なのか?」

「いいや、神界と呼ばれるところじゃよ」

「じゃあなんで俺はここにいるんだ?」

「頼みたい事があっての。ある世界を救って欲しいのじゃ」

 俺は死んでからも、誰かに利用される存在なのか。

「自分でやればいいじゃないか? 神様なんだろ?」

「そういう訳にはいかんのじゃ。君に任せる理由を説明したいが・・・これも人間の理解を超えた所にある」

 意味が分からない。

「君にとっても、メリットはあると思うがのう」

「あんたの為に働くのに、何のメリットがあるんだよ?」

「世界を救えば君は英雄だ。人に慕われ、愛される。生前に内心では、君が求めていたものが手に入るのだぞ?」

「今更そんなもの欲しくもないね。もう俺は人に興味もないし、人を信じる事も出来なくなっている」

 結局は俺の境遇を利用して懐柔かいじゅうし、都合の良い神の使いにしようとしてるだけじゃないか。

 どうしようもなく腹が立つ。この神あってあの人間ありだな。

「実はの、君が人を信じる事が出来るようになれば、その世界は救われるのじゃ」

「は!? 俺は人を信じない。信用に足る人間なんかいないね」

「それでも君は、人を信じる事が出来るようになる」

「ありえないね。だから世界を救う役は、俺以外に頼むんだな」

「大丈夫じゃ。君は手に入らなかったものが得られる」

「しつこいな・・・」

 こいつが本当に神なのであれば、未来が見える力があってもおかしくはない。

 だから自信を持っていっているのだろうが。それだけは絶対にありえない。俺が人を信じるようになるなんて。

 肉親ですら信用出来なかったのに。

「では賭けをしないか? 君が人を信じるようになり、世界が救われたら君の勝ち。君が人を信じられず、世界が滅んだら君の勝ち。君が勝ったらその時は、君の理想の世界を用意し、そこに送り出そう」

「そんな賭けしてもいいのか? 俺が圧倒的に有利だと思うが」

「そうかの? そうは思わないがの」

 すっとぼけた顔をしやがって。そんなに自信があるのかよ。

「断ったらどうなる?」

「全てが消滅し、君は無の世界に帰るだけだ」

 天国や地獄は存在しないのか。

 このまま無になって消えるくらいなら、神様公認で転生して生きられるのなら、この話を受けるのもありだな。

「受けるよ、その話」

「分かっておったよ」

「ところで俺みたいな弱者がその世界に行ったところで、世界を救うなんて事に、なんの役にも立たないと思うが」

「君には神の力の一端を与える。それと本来正しく成長していたら得ていたはずの体も与え、肉体も強化してやろう」

 自称神が俺に手をかざすと、肉体が再形成され、傷跡や痣が消え失せた体が現れる。

 骸骨と形容された虚弱な体は、今は程よい筋肉に覆われていて、痩せこけていた頬も無くなったようだ。

「これが君の本当の姿じゃ」

 自称神が手をかざすと、目の前に姿鏡が現れて、自分の姿が見えるようになる。

 本当に気の利く自称神様だな。

 鏡の中にいたのは、身長180cmはあるまあまあイケメンの少年だった。

 まあ年をとっても指名が入る母と、ヒモでもいいからつなぎ止めたいと思うイケメンではある父との子だから、本来はそれなりに容姿が整ってたわけか。

「これならそこそこモテてたんだろうな」

「これより向かう世界で、君は良き女性と出会うじゃろう。その者と添い遂げてはどうかのう?」

「添い遂げるっていうのは究極の信頼だろ。そんな事は起こり得ない。力も健康な体も手に入るんだ。あんたの思惑とは違い、俺は自分勝手に生きていくと思うが?」

「だからこその賭けなのじゃろう」

 いいだろう、ここまで出来るお前を神と認めてやる。

 だが、俺は絶対神の思い通りにはならない。

 俺が賭けに勝ち、望む世界を手に入れてやる。

「では行ってくるといい。世界を救うのじゃ」

「この賭けは俺が勝つよ」

「何故かの?」

「俺はあの隣人の目を、決して忘れないからだ」

 それ以上の言葉を交わさず、神が俺に手をかざすと辺りは光に包まれ、体がどこかに落ちていくのを感じた。
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