結婚相手が見つからないので家を出ます~気づけばなぜか麗しき公爵様の婚約者(仮)になっていました~

Na20

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 数日前からキルシュタイン公爵であるヴィンセント様の様子がおかしい。いつものヴィンセント様ならこの時間にはほとんどの執務を終えているはずなのに、ここ数日は執務が終わっていない。それに時々上の空になる時が見受けられた。あの真面目なヴィンセント様が、だ。長年ヴィンセント様の側にいる私ですら驚く事態である。そしてボソボソと何か言っているようなので耳を澄ませてみると…


「…私に興味がない女だと?」


 と言っていたのだ。どうやら女性関係で何かあったと推測される。

 ヴィンセント様は家柄・容姿ともに優れていて、なおかつ勉学・剣術にも秀でている御方だ。家柄は貴族の頂点である公爵家で、容姿はキルシュタイン公爵家直系の証である黒い髪に青の瞳で恐ろしいほどに整った顔立ちだ。勉学も剣術も優秀な成績を修めている。それにヴィンセント様はとても真面目なのだ。公爵だからと傲慢に振る舞うことはなく、領民からも慕われている。
 しかしそんなヴィンセント様にも弱点がある。それが女性だ。
 ヴィンセント様が生まれ持った家柄と容姿にたくさんの女性が寄ってきたのだ。それも幼い頃から。直接的な被害こそなかったものの、中には裸でヴィンセント様の部屋に突撃しようとした女性もいたくらいだ。そのせいもありヴィンセント様は女性に対して不信感を持ってしまった。それは大人になった今も変わることがない。女性で信用しているのは母親である前公爵夫人と長年勤めている侍女長のマチルダだけだ。貴族令嬢からの婚約の申し込みは公爵という立場で全て断り、屋敷には女性の使用人はいるが基本的に接触しないようにしている。

 しかしヴィンセント様もいずれは結婚して後継ぎを設けなければ、キルシュタイン公爵家の血が途絶えてしまう。それに運悪く隣国の王女がヴィンセント様に一目惚れしたらしく、いつ隣国から婚約の申し込みが来てもおかしくない状況だ。さすがに隣国とはいえ王族からの婚約を簡単に断ることはできないだろう。ただ我が国としては隣国と縁を結ぶことにほとんど利益はない。
 どうすればうまく婚約を躱せるか。そこで考えたのが婚約者を雇うということだ。
 隣国の王女は十八歳とすでに結婚適齢期なのだがいまだに婚約者がいないことを考えると、どこか性格に問題があるのかもしれない。しかし王女が結婚もせずそのまま王族として残ることは考えにくい。年齢的におそらく一年以内にはヴィンセント様に婚約を申し込んでくるだろう。そしてその時ヴィンセント様に婚約者がいれば婚約を断る口実になる。王女もその頃には十九歳だ。他の嫁ぎ先を急いで探すことになるだろう。だからこの一年だけ婚約者を務めてくれる女性を雇うことにしたのだ。もちろんヴィンセント様に色目を使わないであろう女性を選ばなければならない。そして見つけた女性がレイラ・ハーストン男爵令嬢だ。
 彼女と面接する前にすでに何人もの女性と面接をしたが、この女性だ!というような人はいなかった。しかし求人の期限が近くなっても思うような女性が見つからない。このまま見つからなければ他の手をと諦めかけていた時に現れたのが彼女だ。
 彼女を見た瞬間私はこの女性だと直感で感じた。けれど私の直感だけでは採用はできない。逸る気持ちを押さえながら面接を始めたが、結果として彼女を採用することに決めたのだ。
 面接の時に色々と聞いてはいたが、彼女は本当になんでも器用にこなしてしまう。下位貴族である男爵家の令嬢であるにもかかわらず、私やマチルダが教える高位貴族向けの座学やマナーなど、あっという間に覚えてしまった。次期男爵として学んできた領地経営の知識もあるし、料理や裁縫などの生活力もある。それに容姿もとても可愛らしい。このような女性が婚約者も恋人もいないことに驚いたくらいだ。いくら家が貧乏だとしても貴族は貴族。貴族と縁を持ちたい家などたくさんあるだろうに不思議なものである。もしかしたら誰かが彼女の縁談を邪魔していたのかもしれない。しかしもしそうであればその誰かさんのおかげで彼女を雇うことができたのは僥倖だ。それに私の思ったとおり、彼女は業務がヴィンセント様の婚約者(仮)と聞いても嬉しそうでもないし、ヴィンセント様に会わせろと言ってくることもない。私の直感は正しかった。
 しかも自由時間はメイドとして働きたいと言ってくるとは思ってもいなかった。このような女性は滅多にいないだろう。あわよくばヴィンセント様と彼女を接触させて、ヴィンセント様の女性嫌いが少しでもよくなればいいのにと思ってしまう自分がいるくらいである。
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