婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

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「やるわね」

「リアもな」


 始まってからすでに十分は経っただろうか。
 お互いに一歩も引かない本気の打ち合いが続いている。

 こうして本気を出すのはいつぶりだろうか。
 最初はジークに対する腹立たしい思いで剣を振っていたが、次第にその思いは薄れ、今はただただ楽しい。
 それに改めて思った。
 この世界で私を受け止めてくれるのはジークしかいないと。

 だけどずっとこのままというわけにはいかない。


「ねぇ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」


 あなたが何を考え、何を思っているのか。


「そうだな」

「ふふっ。それじゃあさっさと勝ってたっぷりと話を聞かせてもらわないと、ね!」


 私は自分の足に身体強化の魔法をかける。
 そして地面から蹴り出す瞬間、さらに魔法で風を起こしその風に乗った。


「はぁっ!」


 同じく身体強化が使えるジークには、どうしたって力では敵わない。
 それならば私はスピードで勝負する。


「ぐっ……」


 これを受け止めるなんてさすがジークだ。
 でもほんの少しだけ生まれた隙。
 それを見逃してあげるほど、私は甘くない。


「さぁこれでおしま――」


 勝ちを確信したその時。


「悪いな。今回だけは勝たせてもらう」

「なっ……」


 さっきまでたしかに目の前にいたはず……
 それなのに気づけばジークに背後を取られ、そして首には剣が突きつけられていた。


「……」


 信じられない。
 私の目には魔法がかかっている。
 だからいくら速く動こうとも、私が見失うわけがない。
 それなのにジークを見失った……いや違う。あれは見失ったんじゃない。
 んだ。まるで瞬間移動でもしたかのように。
 でもそれって……


「まさか……転移魔法?」


 理論上不可能ではないものの、誰一人使うことのできなかった幻の魔法。

 魔法とは想像する力だ。
 映画にドラマ、アニメや漫画そしてラノベ……
 前世で様々なモノに触れてきた私にとって、想像するのは容易なこと。
 でもそれらを知らないこの世界の人にとっては、そう簡単なことじゃないはずなのに……それをジークはやってのけたというの?


「……これ転移魔法のために半年もの間連絡をくれなかったの?」

「本当はもっと早く習得する予定だったんだけど、思ったより時間がかかってな」

「……じゃあ今ここにいるのも?」

「ああ。ただまだ使い慣れてなくて着いた途端、魔力切れになってな。会いに来るのに三日もかかっちまった」

「なっ……」


 私は急いで振り返り、ジークの両腕を掴み身体を確認する。


「身体は大丈夫なの!?」

「もう大丈夫だ。魔力も全部戻ってる」


 ジークは簡単に言うが、場合によっては命に関わってくることだってある。
 それくらい魔力切れはとても危険なのだ。


「っ、どうしてそんな無茶なことをしたのよ!」

「リ、リア」

「ジークにもしものことがあったら私……」


 もしものことがあったら、きっと私は耐えられない。
 始まりはジークの告白だったけど、今は私も心からジークのことを愛している。


「ごめん」

「……ねぇどうして?どうしてそんな無茶をしたの?」

「……堂々とリアの隣に立ちたかったんだ」

「私の隣に……?」


 今でも私たちは同じ場所に立っている。
 それなのに隣に立ちたいなんて、一体どういう意味なのか。


「ああ。リアは魔法に剣に商売に勉学……たくさんの才能がある。でも俺には剣の才能しかない。だから付き合うようになって何度も考えたんだ。俺と付き合うより別れた方がリアのためになるんじゃないかって」

「なっ!そんなことあるわけ」

「でも情けないことに、俺はリアを手放すことができなかった」

「っ」

「それなら俺は努力し続けるしかない。ただ俺がどれだけ努力しても、リアを越えることができないのは分かってる。だから一つだけでもいい。リアに追い付きたい。そうすればリアの隣に立てる資格があるんじゃないかって」


 知らなかった。
 ジークがそんなことを考えていたなんて。


「……だから転移魔法を?」

「ああ。この世界でリアにしか使えない魔法を使えるようになれたら、リアに近づけると思ったんだ」

「ジーク……」

「それに会いたい時はすぐに会いに行けるだろ?」

「!」


 ジークはいつだって私のことを考えてくれていたんだ。全部私のため……


「まぁ今回は色々とギリギリになっちゃったけど……ってリア!?」


 私はギュッとジークに抱きついた。


「……」

「リア?」

「……私だってジークのいない人生なんて考えられないよ」

「っ!」

「だからあんまり無茶なことはしないで」

「……ああ。リアを悲しませるようなことはしないって約束する」

「うん、約束よ?……ねぇジーク」

「どうした?」

「あのね……」


 こんなことを言うのは柄じゃないって分かってる。
 だけど今この時だけは、理性よりも感情を優先してもいいよね?


「……これからもずっと一緒にいてくれる?」


 普段なら絶対に恥ずかしくて言えない言葉。
 でも今なら言えると思ったのだ。
 果たしてジークの答えは……


「当たり前だ」

「……本当?」

「ああ。むしろリアが嫌だと言っても離れるつもりはないからな。覚悟しろよ?」


 未来のことなんて分からない。
 たとえ望んだ未来であっても、幸せになれるかなんて誰にも分からないもの。
 だけど私は確信している。
 彼と共に生きる未来に、必ず幸せがあることを。


「……ええ、望むところよ」

「リア」

「ジーク」


 私たちはそれ以上言葉を発することはなく、ただお互いの存在を確かめ合った。
 
 そうしてどちらからともなく顔が近づいていく。
 月明かりによって映し出された影が重なり合っていたことは、私たち以外誰も知らない。

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