婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

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マティアス①

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 (くそっ……あの魔法は一体……)


 私の名前はマティアス・グリーン。上級貴族グリーン家の次男として生まれた。
 父は王宮魔法士団の団長を務めており、私の憧れである。
 家は兄が継ぐことになっているので、次男の私は憧れの父と同じ、魔法士団の団長になることを目指していた。
 運のいいことに私の魔力は多く、努力すれば団長も夢じゃないと、父からお墨付きをもらっている。

 それに私は勉学も得意だ。家庭教師たちからは常に優秀だと言われてきた。
 別に自慢するほどのことではないが、たしかに周りと比べると自分はとても賢い。

 魔力が豊富で勉学も優秀。

 私以上に魔法士団の団長にふさわしい者はいないだろう。父を超える団長になるために、一層魔法と勉学に励むようになる。
 その結果、私は王太子殿下を除いた同年代で、一番優秀な人間になった。
 このままいけば間違いなく魔法士団の団長になれるし、今度入学する学園でもトップになれる……はずだった。

 その確定された未来は、ある一人の女によって崩れ散ることになったのだ。


 ダリアローズ・ブルー。
 これまで全く表舞台に出てこなかった、ブルー家の謎の令嬢。
 その姿を見た者が誰もいないことから、病弱令嬢や我儘令嬢、不細工令嬢なんて呼ばれていた。

 そんなやつに私が負けた。屈辱だった。
 私が委員長になるはずだったのに、きっと何か不正をしたに決まっている。そうでなければ、副委員長にもなれないなんてあり得ない。
 副委員長になった令嬢も、ブルー家の令嬢と親しくしていた。だから愚かにも一緒になって不正をしたのだろう。
 だから私は何度も教師に訴えたが、なぜだか聞き入れてもらえなかった。

 だから私はあの女を見張ることにした。
 きっといつかボロを出すはずだと。

 けれどあの女は、なかなか尻尾を出さなかった。
 そればかりかそのあとの小テストも不正をする始末。


 (はっ!不正をしてまで一番になりたいなんて哀れだな)



 しかしそんな私を驚愕させる出来事が起きる。

 それは魔法科と騎士科の合同授業の日のこと。
 ただでさえイライラしているのに、騎士科のやつらと同じ授業なんてついてない。それに代表者があの女だなんて……
 ランドルフ・レッドは嫌いだ。だけどこの時だけはあの女を打ち負かせてやれと思っていた。そうすればこの苛つきも少しは落ち着くはずだと。

 だが勝ったのはあの女だった。
 あの女は一歩も動くことなく、ランドルフ・レッドに勝ってみせたのだ。
 攻撃魔法を使わずに勝つなんて、信じられなかった。
 あの魔法は一体なんだったのか。
 魔法士でも剣を扱う者はいる。だけどそれはサブとして剣を使うだけで、メインは攻撃魔法だ。
 あんな魔法、団長の父ですら使っているところを見たことはない。


 (あれは……剣を強化したのか?)


 あの試合が頭から離れない。
 気付けば授業は終わり、放課後になっていた。いつもなら真っ直ぐ家に帰るのだが、今日はそんな気分にはなれない。どこか静かな場所で落ち着きたいと、図書室に向かうことにした。

 予想通り図書室には司書が一人いるだけで、他には誰もいない。本棚から適当に本を選ぶ。


 (本でも読めば落ち着けるはず……)


 そして一番奥の席に座り、本を開こうとしたその時……


「あら、こんにちは」

「なっ……」


 (なんでここに!?)


 今一番会いたくない人物、ダリアローズ・ブルーが目の前に現れたのだった。
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