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しおりを挟む私の母は孤児です。
幼い頃に両親を亡くし、教会の孤児院で生活していました。孤児院での生活は大変だったそうですが、孤児には厳しい世の中では行く宛などどこにもない。成人してからも、教会のシスターとして働いていました。お給料はほとんどないにも関わらず、朝から晩まで働かされ続ける。それにまともな食事は与えられず、さらには寝る時間もほとんどなかったそうです。
そんな辛い日々を送っていた母ですが、ある日足を挫いて座り込んでいるところに手を差し伸べる人が現れました。それが父です。
当時十七歳の母と、当時二十歳だった父。二人は一目で惹かれ合ったと言っていました。
けれど母は孤児上がりのシスターで、父は伯爵位を継いだばかりの貴族。
到底結ばれる身分ではありませんでした。ただでさえ孤児は、市井で生きていくことですら簡単なことではありません。しかしそれでも二人は惹かれ合っていきました。
二人が一緒になるためには、父が平民として生きるか、母が貴族の養子になるかの二択だけ。父は爵位を捨てようかとも考えたそうですが、そうすれば領民たちを巻き込むことになる。だから簡単には、その選択をすることができなかった。
そうするとあとは母が貴族の養子になるしか選択肢がありませんでしたが、その選択をしたからと言ってそううまくはいきません。
それにタイミング悪く、ちょうどその頃母に縁談が持ち上がりました。縁談を持ちかけたのは、母がシスターとして働いていた教会の司祭。縁談相手は、これまでに若い娘を十人以上妻として娶った変態ジジイ。
断りたくても司祭からの縁談を、ただのシスターでしかない母は断ることすらできません。それに相手は変態とはいっても、この町の有力な権力者。初めから断るという選択肢は存在していなかったのです。
たとえお互いどれだけ想い合っていたとしても、どうすることもできない、諦めるしかないと。
でもそんな時でした。母を養子にしてもいいという人物が現れたのです。
それこそがあの男、ヴィード侯爵です。
当然父と母は喜びました。これで結婚することができる。なんと素晴らしい御方なのか。この時の二人には、ヴィード侯爵が神のように思えたそうです。
そして母はヴィード侯爵の養子となり、父と結婚しました。
ようやく幸せになれる。二人でならどんな辛いことでも乗り越えられる。
結婚してすぐ母のお腹の中には新しい命が宿り、二人は幸せの絶頂でした。
ですがこのときはまだ知らなかったのです。
神のような素晴らしい御方だと思っていたヴィード侯爵が、本当は悪魔なような人だということを――
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