36 / 41
36
「ああ。それが表向きの情報だということもな」
「は?」
王太子殿下の間抜けな声が、やけに会場に響く。
表向きの情報。ハルはそう言った。
表があれば、必ず裏もある。
「その表向きの情報は、マリアント公爵家にもう一人子が存在することを知られないようにするために流した嘘の情報だ」
「う、嘘だと……?」
「そうだ。本当は公爵家には女児が存在していた。だが生まれてまもない頃に誘拐されてしまってね。公爵家の令嬢が誘拐されたなんて、あまりにも衝撃すぎるだろう?だから公にはしなかった。この真実を知っているのは皇族と公爵家のごく一部だけだ」
そういえば以前、図書室でも同じようなことを言っていた。
けれど私の髪と瞳の色は、『祝福の一族』の特徴とは違う。
「でもそれなら髪と瞳の色はどう説明するのですか!一族の証は、輝く銀の髪と新緑の瞳のはず!だけどその女はくすんだ灰色の髪に暗い緑の瞳だ!」
王太子殿下も私と同じことを思ったのか、そう声を上げた。
たしかにその通りだ。この大きな矛盾。
それを説明できない限り、誰も納得しないだろう。
「まぁこれは実際に見てもらうしかないか」
そう言うと、ハルは私を見た。
「レイ。あの時に渡したペンダントは今も身に付けているよね?」
「え、ええ」
あの日ハルからもらったペンダント。
たしかに身に付けてはいるが、ペンダントは常に服で見えなかったし、今もドレスの下だ。
それなのにハルはどうして私が今でも身に付けていると確信しているのか。
「それじゃあそのペンダントを外してくれないか?」
「……分かったわ」
私はハルに言われたとおり、首に掛けていたペンダントを外す。
もしかしたらこのペンダントに何かあるのかもしれない。
「その、これ……」
だから外したペンダントをハルに渡そうと顔を上げると、急に会場が騒がしくなった。
「えっ!?」
「う、嘘……」
「まさかこんなことが……」
ざわめきが波のように伝わっていき、会場中のすべての視線が私に注がれた。
「えっ、なんで……」
「それはね、みんながレイに目を奪われているからさ」
「それはどういう……っ!」
ふと視界に違和感を感じ、自分の髪に視線を落とす。
するとそこには、いつものくすんだ灰色ではなく、光輝く銀色があった。
「どうして……」
ベラの用意してくれた鏡で見た時は、間違いなく灰色だった。
それなのにこれはどういうことなのか。
「今のレイはね、彼らと同じ色をしているんだ」
「!」
彼らとは誰か。
そんなことわざわざ聞く必要はないだろう。
とても信じられないような話だが、ハルが嘘を言っているようには思えない。
ハルは私からペンダントを受け取ると、それを掲げた。
「このペンダントは皇室に伝わる古代遺物の一つで、髪と瞳の色を変えてくれる。実は私は以前彼女と出会っていてね。それで彼女が誘拐された令嬢だと確信した私は、このペンダントを彼女に渡したのさ。一族の力や血筋を悪用しようとする者が現れないようにね」
「うっ……」
ハルはそう言い、公爵の方を見た。
心なしか公爵の顔色が悪くなったように見える。
それにしてもまさかあのペンダントにそんな力があったとは。
出会った時のハルと今のハルの髪と瞳の色が違かったのは、このペンダントを身に付けていたからなのかと納得した。
しかし今さらだが、帝国皇族に伝わる古代遺物なんてとてつもなく貴重なものを、ずっと身に付けていたのかと思うと恐ろしい。
壊れなくて本当によかった。
「そ、それじゃあ、その女は本当に本物……?」
王太子殿下は確固たる証拠を目の前で突きつけられ、ワナワナと震えている。
「う、嘘だ……」
そして王太子殿下が、私たちから一歩二歩とあとずさり……けれどその時だった。
「おや、これは何事かな」
あなたにおすすめの小説
【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。
朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。
ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。