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しおりを挟む私は皇宮文官を目指すつもりだということ、そしてそのためには保証人が必要だということを叔父に伝えた。
「……なるほど。普通ならこちらから婚約破棄はできないが、皇宮文官になれればリリアナはメルトランス皇室の庇護下に入ることができる。そうなればいくら王家と言えども婚約破棄を突き付けられたら、帝国の庇護下にあるリリアナを手放すしかない。もしも王家が愚かにも帝国の意思に反することをすれば、この国は終わるだろうからな」
「ええ」
「だが、それはリリアナが選ばれたらの話だろう?もちろん保証人になることは構わないさ。でも選ばれなかった時はどうするんだ?間違っても婚約破棄はできないし、王家はリリアナを手放さないだろう」
至極当然の疑問だ。そもそも皇宮文官になれる確率がどれほどあるのかは検討もつかない。だけど何もせず諦めることだけはしたくなかった。ここで諦めてしまえば、自分は価値のない人間だと自分で認めてしまうことになる。それだけは絶対に認められない。だけど皇宮文官に選ばれず、婚約破棄も婚約解消もできず、王太子と結婚する道しか残されていないのであれば私は……
「すべてを捨てて逃げます」
「なっ!」
「そして逃げた先に待っているのが死だったとしても、それが運命だったのだと受け入れます」
きっと皇宮文官になること以外、私から婚約破棄をする方法はないだろう。あのチラシが私の元にやって来たのは運命だと思った。
だから私は賭けることにしたのだ。賭けに勝てば得られるものが大きい分、負ければ失うものも大きい。そして私が唯一賭けられるもの、それは私自身だ。
「王太子殿下と結婚すれば死ぬことはないでしょう。だけど私にとって王太子殿下との結婚は、先の見えない暗闇に何も持たず一人放り出されるようなもの。それは私にとって死と何ら変わりありません」
暗闇の中であっても互いに声を掛け合い、励まし合う仲間がいれば生きられるかもしれない。だが私の周りにそんな仲間はいない。
私を認めない王太子、息子の言うことが絶対の王妃、お金さえ手に入ればいい国王、非常識な男爵令嬢、そして私を売った父。
「だから逃げます」
「リリアナ……」
「まぁあまり悲観はしていませんよ。今の時点では運に任せるしかないですからね。でも私は簡単に死ぬつもりはありません」
チラシには『書類選考後、厳正な審査をもって合否を通知します』としか書いていなかった。試験も面接も無しにどう審査するのかは気になるが、今の私にできるのはただ運に任せることだけだ。
「……リリアナの覚悟はわかった。私はいつだってリリアナの味方だ」
「ありがとうございます」
「よし、じゃあ書類を……」
―――コンコンコン
叔父が書類を書き始めようとすると、部屋の扉がノックされ、使用人が申し訳なさそうな顔をして入ってきた。
「お話し中のところ申し訳ありません」
「なんだ?急ぎでなければ後にしてくれ」
「あ……その、手紙を受け取ったのですが至急とのことで……」
「叔父様。急いでいるみたいですし、私のことは気にしないでください」
「……すまん。手紙をこちらに」
叔父は使用人から手紙を受け取り内容を確認し始めた。私はその間に一息つこうと、長話ですっかり冷えたお茶を口にしようとしたその時、
「今日だって!?」
手紙を読んでいた叔父が突然叫んだのだ。さすがに驚いたが、なんとかお茶はこぼさずに済んだ。
「お、叔父様?」
「どうしていつも急なんだ!今日はリリアナが来ているというのに!」
「どうかされたのですか?」
「あ、いや……。……はっ!待てよ。それならさっきの話も確認できるな……」
何かブツブツ言っているようだがよく聞こえない。叔父は誰から何の手紙を受け取ったのだろうか。
「えっと、叔父様?もし急ぎの用でしたら気にせずに」
「今日兄上が帰ってくる!」
「……え?」
「だから一緒に会おう!」
「…………え?」
それは父の帰還を報せる手紙だった。
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