30 / 176
一章 異世界漂着

29話 ある意味神聖な光景

しおりを挟む
 周囲が夜の闇に覆われた時、ようやく食事が出来上がった。
 野鳥の肉をふんだんに使った焼き鳥と、それと一緒に丸焼きにしたキノコだ。ちなみにレベッカが言うには毒キノコではないらしく、安全に胃袋へ通過させられるそうだ。
 誰もが満足する最高の食事を済ませたあと、疲労困憊もあってか睡魔が襲来したので、一足早く眠る事に決めた。

 「私は鎧を洗ってくるので、ここで大人しくしていてくださいね」
 「ああ、気を付けろよ」
 「心配してくれてありがとうございます、では」

 レベッカは背を向け、滝の方へ歩いて行った。
 今日は色々な苦難を乗り越えたが、嬉しい出来事も多かった。特に食事はそうだ。朝もステーキを気前のいい店主が振る舞ってくれたし、今さっきだって王族が食べるような夕食を味わった。これなら、朝に弱い自分でも快眠できそうだ。
 パチパチと音を立てて燃え上がる焚き火を眺めている内に、瞼が勝手に閉じ始めた。
 ……どれくらいの時間が過ぎたのかも分からない程ぐっすりと眠っていた時、唐突に目が覚めた。

 「……せっかく寝てたのに」

 間抜けな欠伸を吐き出して、体を起こす。
 焚き火は相変わらず活動している。火はずっと起きていられるから、何だか羨ましいな。

 「これは……」

 体に被さっていた白い布を手に取る。この布はレベッカが普段から外套として使っているものだ。夜は寒いのでわざわざ掛けてくれたのだろうか。素直に嬉しいのだが、何かこう、色々な情緒が湧き上がってくる。
 というか、レベッカはどこに居るんだ。少なくとも周辺には見当たらない。

 「どこ行ったんだ……」

 視界がぼやけるまま立ち上がり、探し出す。

 「ああ、鬱陶しいな」

 瞼を擦りながら移動するが、視界は一向に晴れない。まだ体内に睡魔が潜伏している。
 水の流れる音を放出している滝の方向へ歩み寄る。足先に固い物体が当たった。石かと思ったが、感触は鉄だった。

 「何だこれ……」

 瞼を一度ゴシゴシと擦ると、足元の物体を拾い上げた。銀色のそれは、レベッカが常に身に着けている甲冑の一部だ。
 視界のぼやけが少し収まり、辺りの光景の情報が網膜へ通達される。
 驚く事に、自分が立っている真下にはレベッカの鎧や服、さらに下着までもが綺麗に畳まれて置いてあった。

 その直後、曖昧だった視界に映る風景が鮮明になり、顔を上げてみれば滝壺で体を清めている一矢纏わぬ姿のレベッカを捉えた。
 この瞬間、全てを理解した。
 俺が眠っている間に、彼女は汚れた体を洗っていたのだと。

 「せ、セルゲイ君!?」

 こっちの存在に気付いたレベッカは男性に絶対見られてはいけない箇所を慌てて手で隠し、叫び声を響かせた。

 「ご、ごめん! わざとじゃ……あっ」

 必死に弁明しようとしているとその拍子で足を滑らせてしまい、滝壺へ頭から突っ込んだ。
 目覚めた時は、焚き火の真横に居た。

 「うう……」

 しばらくの間意識を失っていたみたいで、頭の中が混濁する。

 「よかった、目覚めましたか」

 隣には俺を助け、意識が回復するまで看病してくれたであろうレベッカが顔を覗き込んできた。

 「さっきは……申し訳ない。それにこんな事になって……」

 肺や気道に水が残っているのか、咳き込む。

 「事故は仕方がありませんよ。声を掛けなかった私も悪いです」

 知り合ったばかりで関係がまだ浅いのに、レベッカはさっきの悪行を笑いながら許してくれた。

 「もうこんな時間か……」

 ふと腕時計を見てみると、日付を越えていた。

 「明日も早いです。もう寝ましょう」
 「その通り――――え」

 レベッカが俺の隣に寝転び、所有している外套を掛け布団代わりにした。
 彼女との距離は僅か数センチ。少し動けば顔やら手やらが当たりそうだ。

 「窮屈ですが、我慢してくださいね」

 魅力的な笑みでそう促され、何も言えなくなった。
 あれから数時間が経過し新たなる出発の用意を行っているが、昨日のあの光景が脳裏に焼き付いているせいでまともに手が動かない。
 森で施した治療と、滝壺での水浴び。
 冥土に逝ってもこの記憶は持ったままだろう。

 「準備も終わりましたし、行きましょう」

 そう誘われるが、向こうの顔を見る気になれない。あの時の出来事を引きずっているせいだ。
 自分の犯した大失態を口では許してくれたが、本心では必ず恨んでいる事だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...