31 / 176
一章 異世界漂着

30話 この人は優しいなぁ

しおりを挟む
 昨日のように数十キロ歩かされ、今度は宿泊先であるそこそこの規模を誇る街へと到着した。

 「はあ、疲れた疲れた。ちょっと休憩」

 今日は途中で雨が降ってきたり野生動物に襲われたりしたため、あまり休息の時間を確保せずに歩き続けた。体力もかなり使ったし、何より足が痛い。

 「もう少し頑張ってください、宿はすぐそこです」

 対するレベッカは少量の汗を流しているだけだ。
 すぐ近くにあった宿泊費の安い宿に入り、古いが広く造られている個室へ案内されると、若干埃っぽいベッドへダイブした。多少汚れていたっていい。とにかく柔らかいものに当たりたいのだ。

 「ああ、最高の気分だ」

 寝返りを打つ。

 「早速仮眠ですか」
 「だって疲れてるからな。ちなみに帝都までは?」
 「明日には何とか着きそうです。今日は沢山歩きましたからね。本当に、よく頑張りました」

 レベッカがベッドの上に座り、こちらの顔を微笑んで覗きながらヘルメットを被ったままの頭を撫でてきた。手の感触は伝わってこないが、妙に安心する。
 子供をあやすように扱われているので、ついこんな事を口走ってしまった。

 「レベッカ、姉貴みたいだな――――」
 「あ、姉貴……?」

 勝手に出た言葉に、ポカンとするレベッカ。

 「き、気にしないでくれ。何となく似てたから」
 「姉が居るのですか?」
 「居る……どちらかといえば、『居た』が正解だな」

 戦争が始まって数か月が経った頃、姉が買い出しのために街中のスーパーへ向かった。爆撃や砲撃が加えられている事もあり、行くのを中止するように促したが、姉は結局出て行ってしまった。数分後に苛烈な砲声が街一帯に響き、サイレンがあちらこちらで鳴っていたが、姉は帰って来なかった。そしてその後、警察の関係者から姉が砲撃に巻き込まれて死亡した事を知らされた。葬式へ出向いた際、棺桶で眠る姉の姿を見たが、もはや人間とは呼べぬ体だった。だが、どんな姿に変わろうとも姉は姉だ。今もこうして、心の中で姉は生き続けている。

 「まあ、そんな事が……」

 姉が亡くなった経緯を話し終え、レベッカは悲しそうな顔で俯いていた。

 「あの時は大変だったけど、今はもう受け入れてるよ。何せ戦争だからな。一般人が巻き添えを喰らうのは当たり前だ」
 「あなたは強いですね」
 「戦場に居れば、勝手に強くなるもんさ……あれ?」

 言葉を締め括ろうとした時、レベッカの瞳から一滴の涙が流れていた。

 「か、花粉症か?」

 俺はスギ花粉に途轍もなく弱いので、季節によっては一日中泣いている時がある。

 「……セルゲイ君、辛かったですね。よく頑張りました」
 「ちょっ……あ、おい!」

 号泣する彼女に優しく抱きしめられ、体の自由が利かなくなった。
 母親と姉以外の女性に抱擁された事のない俺は、どうすればいいのか分からなくなり困惑を極める。
 しかし、確かな事実として、とても落ち着く。まるで、胎内に籠る赤子だ。
 この行為が正解なのかは知る由もないが、何となく相手の背中に手を回してみた。
 ……しばらく経って、やっと抱擁から解放された。

 「すみませんでした……あなたの体験談を聞いてつい」
 「まあ苦痛じゃないからいいよ」

 とは言うものの、強い力で長時間抱きしめられていたから、背骨が痛いように思う。

 「それにしても、結構涙もろいんだな」
 「そりゃ、こんな話を聞かされたら誰でも泣きますよ」

 涙の跡を拭きながら答える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...