5 / 31
小型地中潜砂船
しおりを挟む
「……毎回思うんだけどさ。これ、船っていうより、棺桶じゃない?」
カリンの何気ない一言に、僕は思わず身をこわばらせる。
彼女が言うと、冗談に聞こえないから不思議だ。
僕らが乗り込むのは、小型地中潜砂船《スクイッド》。
ミサイルのような細長いカプセルで、四人が縦に並んで寝そべるのが精一杯の狭さだ。
「私が先頭ね。いい、バルサ? 顔を上げたら……絶対許さないから。」
ミズメが鋭い目をして念を押してくる。
だが、彼女は今回の隊長じゃない。僕は軽く聞き流して、うつ伏せのまま彼女の足元へ滑り込んだ。
そして、スクイッドが微かに振動しながら地中に向けて発進した。
この金属製の筒は、先端から超高周波を放出し、地中の層を流体化させて進行する。
その音は、擦れるような地鳴りのような――言葉にできない音圧として船内に響く。
地中が柔らかく溶け、船体が潜り込む。
《潜水》ならぬ《潜地》。
僕らは再び、地底へ帰る。
「帰ったらさ、肉食べたいなぁ……もう修業食はゴメン。」
ミズメは天真爛漫というより、ただ素直に全部を口に出す。
「酸草が酸素を生成してくれてるけどな、無駄口はよしてくれ。仲良く窒息死したくはない。」
リンデンが静かに釘を刺す。
いい気味だ。ミズメは「へいへーい」と気のない返事を返した。
***
スクイッドは、地中を滑るように進む。
だが、周囲は当然ながら真っ暗で、窓があっても視界はゼロ。
方位すら磁場に干渉されて狂ってしまうこの空間で、頼れるのは僕の「超聴覚」だけだ。
僕は耳に指を当て、神経を集中させる。
スクイッドが発する高周波、その反響。
跳ね返ってくる音から、地中の層の密度、構造、変化を感じ取る。
(……前方、硬い岩盤層。およそ20メートル先。沈んで迂回すべきだな)
僕は指を伸ばし、ミズメのふくらはぎを軽くなぞって合図を送る。
訓練通り、触る位置と回数で指示を伝える。
「きゃっ! バルサっ、変なとこ触るな!」
……なぜか蹴られた。しかも、頭を。
いやいや、会話は酸素の無駄だから、ちゃんと訓練で習った無言の合図を送っただけなのに。
どうして僕が怒られなきゃならない?
イラッとした僕はつい顔を上げて睨み返そうとした――そのとき。
視界に入ったのは、ミズメの生足。
そして、その奥。修道衣の構造上、裾がふわりと開いてしまっていた。
……そこにあったのは、子ども用のおむつ。
沈黙。僕、硬直。
ミズメは何かに気付いたのか、反射的にスカートの裾を押さえた。
そして、下にいる僕と目が合う。
その瞬間、彼女の顔は真っ赤に染まり、怒りと羞恥の入り混じった表情で僕を睨んできた。
「見たな。……これは、その……アレで、な? 修道院にそれしかなくて……仕方なく……」
「なるほど、わかった。……無駄話はよそう。」
潜砂船では排泄ができない。
彼女なりの対策だったのだ。素直に感心した。
「前方、硬い岩盤。20メートル沈んで迂回ルートに。」
「り、了解……着いたら殺す。」
……なんでだよ!!
カリンの何気ない一言に、僕は思わず身をこわばらせる。
彼女が言うと、冗談に聞こえないから不思議だ。
僕らが乗り込むのは、小型地中潜砂船《スクイッド》。
ミサイルのような細長いカプセルで、四人が縦に並んで寝そべるのが精一杯の狭さだ。
「私が先頭ね。いい、バルサ? 顔を上げたら……絶対許さないから。」
ミズメが鋭い目をして念を押してくる。
だが、彼女は今回の隊長じゃない。僕は軽く聞き流して、うつ伏せのまま彼女の足元へ滑り込んだ。
そして、スクイッドが微かに振動しながら地中に向けて発進した。
この金属製の筒は、先端から超高周波を放出し、地中の層を流体化させて進行する。
その音は、擦れるような地鳴りのような――言葉にできない音圧として船内に響く。
地中が柔らかく溶け、船体が潜り込む。
《潜水》ならぬ《潜地》。
僕らは再び、地底へ帰る。
「帰ったらさ、肉食べたいなぁ……もう修業食はゴメン。」
ミズメは天真爛漫というより、ただ素直に全部を口に出す。
「酸草が酸素を生成してくれてるけどな、無駄口はよしてくれ。仲良く窒息死したくはない。」
リンデンが静かに釘を刺す。
いい気味だ。ミズメは「へいへーい」と気のない返事を返した。
***
スクイッドは、地中を滑るように進む。
だが、周囲は当然ながら真っ暗で、窓があっても視界はゼロ。
方位すら磁場に干渉されて狂ってしまうこの空間で、頼れるのは僕の「超聴覚」だけだ。
僕は耳に指を当て、神経を集中させる。
スクイッドが発する高周波、その反響。
跳ね返ってくる音から、地中の層の密度、構造、変化を感じ取る。
(……前方、硬い岩盤層。およそ20メートル先。沈んで迂回すべきだな)
僕は指を伸ばし、ミズメのふくらはぎを軽くなぞって合図を送る。
訓練通り、触る位置と回数で指示を伝える。
「きゃっ! バルサっ、変なとこ触るな!」
……なぜか蹴られた。しかも、頭を。
いやいや、会話は酸素の無駄だから、ちゃんと訓練で習った無言の合図を送っただけなのに。
どうして僕が怒られなきゃならない?
イラッとした僕はつい顔を上げて睨み返そうとした――そのとき。
視界に入ったのは、ミズメの生足。
そして、その奥。修道衣の構造上、裾がふわりと開いてしまっていた。
……そこにあったのは、子ども用のおむつ。
沈黙。僕、硬直。
ミズメは何かに気付いたのか、反射的にスカートの裾を押さえた。
そして、下にいる僕と目が合う。
その瞬間、彼女の顔は真っ赤に染まり、怒りと羞恥の入り混じった表情で僕を睨んできた。
「見たな。……これは、その……アレで、な? 修道院にそれしかなくて……仕方なく……」
「なるほど、わかった。……無駄話はよそう。」
潜砂船では排泄ができない。
彼女なりの対策だったのだ。素直に感心した。
「前方、硬い岩盤。20メートル沈んで迂回ルートに。」
「り、了解……着いたら殺す。」
……なんでだよ!!
0
あなたにおすすめの小説
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる