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第23話 相応の罰

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(……やはり地位を失うことは考えられないわよね)

 愛があってもお金がなければ苦しいこともあるでしょう。
 殿下はこの城で育っただけあって、全てが最高級のものに囲まれて育ったのですから……男爵位で同じような暮らしができるかと問われれば、難しいでしょう。

 それに、これまでも殿下の成績は決して悪い……とまでは申しませんが、良いとも言えないものでした。
 これはテストの度に学園内で成績が貼り出されるため、誰もが知っている事実です。

 得意な科目はほぼ満点をお取りでしたので、きっと苦手な科目に対しては身が入らなかったのでしょう。
 おそらくそこには甘えがあったのだと思います。
 学園での成績が陛下に伝えられ、叱責されることはあっても王太子という地位は盤石だと。

 それもこれも『ワーデンシュタイン公爵令嬢』である私が婚約者であったから、公爵家の後ろ盾があってこそ第二王子たちに王太子という位が移動することがなかったというだけの話しだったのです。

 さすがにアベリアン殿下もそれは理解しているのでしょう。

(あら? でもそれなら、アトキンス嬢が下から数えた方が早いことも知っているわよね……?)

 私が暴漢を放って彼女を害したというのがもしも本当だとしても、その理屈でいえばアトキンス嬢が高位貴族の令嬢になるには難しいでしょうし、王子妃教育なんて以ての外。
 どうして殿下は今のままでいられると思ったのでしょうか。

(……ああ、そうか)

 殿下とアトキンス嬢の視線が同じ方向を見ていることに気がついて、私は理解しました。
 彼らは、イザークに期待していたのです。

 イザークが公爵位を継ぐのであれば、アトキンス嬢の後ろ盾になるなりワーデンシュタイン公爵家に養女にとって王家に嫁がせるなりできるはずだ……と。
 イザーク本人が誤解していたくらいですもの、殿下たちが誤解していてもおかしくは……ないのかしら?

 まあ、いずれにせよ私が何かを言える立場にはございません。
 当事者ではありますが、臣下の一人である以上陛下のお決めになったことに異議を唱えられるだけの立場にないのです。
 意見を求められた際に、きちんと答えられるようにだけ気をつけていましょう。

(……貴族としては・・・・・・十分に償いをさせる裁きだと思うし……それで彼らが反省してくれるなら、あるいは)

 殿下にしろ、イザークにしろ。
 自身を象っていたとも言える身分を失い、それらに対して周囲の視線を気にしながら一からやり直しを求められていることにどれだけ耐えられるのでしょうか。

 アトキンス嬢も王子妃に憧れていたようですが、苦手な勉学を頑張らなければそれに近づくことすらできないでしょうし……殿下たちが身分でこれまで守ってあげていた部分も、これからは期待できないでしょう。

 全てを諦めてもこの醜聞はもう噂が噂を呼び、まともな縁談も望めないはずです。
 どこかの後妻に行くか、瑕疵あると噂される殿方に嫁ぐか……甘えさせる余裕のなくなった殿下とこのまま付き合っていくのか。

(いずれにせよ、アトキンス嬢にとっては望んだ未来でないことは確かでしょうね)
 
 アトキンス男爵家でも今回の騒動の理由が娘にあるのですから、これからは教育に身を入れることでしょうし。
 これで卒業までの間に彼らが結果を残せなかったのであれば、それが彼らの実力なのだと周囲は思うだけのことでしょう。
 私もその一人です。

(決して不幸せになってほしいとは思わない。相応の罰が下るなら、私はそれでいい)

 レオンが受け入れてくれて、お父様がきちんと見守ってくれていた。
 その事実があるからこそ、私は陛下の裁決を素直に受け入れることができるのでした。
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