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16 彼も私の変化に気づいた?
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ちょっとだけ、変わってしまった私。
その変化そのものがなんなのか、自分でもよくわからないけれど……キリアンも感じ取っているのだろうか?
馬車の中でも、エスコートしてくれる時も、何故か彼がチラチラとこちらを見てくるのだ。
初めは装いに不備があったのかと思ったけれど……ナナネラがそんな失敗をするとは思えないし、アクセサリーが合っていなかったのかなとか不安に思うことはあった。
けれど彼が向けてくる視線は決して咎めるようなものではないし、何かを言いたげではあるものの問題があればきっともっと早くに言葉にしているだろうし……。
「アシュリー嬢」
「はい、どうしました? キリアン」
「その」
「……?」
「今日は、一緒に来てくれて……ありがとうございます」
「まあ、そんな。お礼を言わなくてはならないのはこちらなのに。このチケットを取るのは大変だったのでは?」
「……上司の仕事を手伝った褒美で。貴女が行きたいと言っていたから……是非にと」
「ありがとう、キリアン」
そういう小さなことを覚えていてくれて、嬉しい。
素直にそう思う。
以前だったらそれに加えて飛び上がるほど嬉しかったと思うけれど……今は、そこまでではない。
それでも彼が少しはにかみながら『喜んでくれて良かった』と安心したようにそう零すのを見て、私はそんな彼のことを『好きだなあ』と思うのだ。
けれどやっぱり、何かが違う。
その何かが違うというものが、私にはわからなくてちょっぴりそれが心配でもあった。
(私はどこかおかしくなっちゃったのかしら?)
体調はどこもおかしくない。むしろ健康そのものだ。
変わったことといえば、キリアンに対して私の恋心を押しつけていたってことに反省しただけで……彼のことが好きなのは変わらないし、彼以外を伴侶に迎えたいとか、彼にも別の女性を……なんてことは思わない。
子供を生むなら彼の子が良いし、キリアンとの子ならきっと可愛いし賢いだろうなあなんて想像までできるのに。
いったい何が違うのか、皆目見当がつかない。
今もキリアンにエスコートされながら、これが違う世界のもののように遠く感じてしまうのだ。
「アシュリー嬢?」
「あ、いえ……久しぶりに観劇に来たものだから、熱気に驚いてしまって」
「確かに。人気の演目だとこうも違うんだな……」
人の多さに驚くのもそうだけれど、人気の演目と言うだけあって誰もが楽しみにしているその熱気。
貴族としての品位を保つ振る舞いを……とみんながどこか格好つけているのが少しだけ滑稽だけれど、そこには富裕層の平民も混じるのでロビーのそこかしこで挨拶や商談に繋げようとする会話も漏れ聞こえる。
まあ、こんな場所で話す程度の内容なのだから大したことではないのだろう。
「ボックス席が手に入ったんだ」
「まあ、すごいわ!」
「上司の奥方のご実家が今日の劇団のパトロンなんだとか。その伝手だと言っていたよ」
「よくよくお礼をしなくてはね。上司ご夫妻にも、そのご実家にも。お礼の品を今度用意するのに、好みを教えていただいても?」
確かキリアンの上司というのは伯爵夫妻だったと記憶している。
奥様のご実家は侯爵家だったと思うけれど、これまで騎士団のパーティーなどは連れて行ってもらったことがないから面識がないのよね。
とはいえ、素敵なチケットを譲っていただいたなら、お礼状だけではきっと足りないわ。
私の言葉にキリアンも頷いて答えようとしてくれたけど、すぐに口を閉ざした。
どうしたのかと思って彼を見上げると、至極真面目な表情で……いえ、それはいつものことなのだけれど。
いつもよりなんだか気合いを入れて? いるように見えるのは、どうしてかしら?
「アシュリー嬢……その、できれば自分と一緒に……!」
「まああああ! ウィッドウック様じゃございませんの!!」
キリアンの声をかき消す勢いで、彼の背後から女性が飛び出てきて私は思わずびっくりして後ずさってしまったのだった。
その変化そのものがなんなのか、自分でもよくわからないけれど……キリアンも感じ取っているのだろうか?
馬車の中でも、エスコートしてくれる時も、何故か彼がチラチラとこちらを見てくるのだ。
初めは装いに不備があったのかと思ったけれど……ナナネラがそんな失敗をするとは思えないし、アクセサリーが合っていなかったのかなとか不安に思うことはあった。
けれど彼が向けてくる視線は決して咎めるようなものではないし、何かを言いたげではあるものの問題があればきっともっと早くに言葉にしているだろうし……。
「アシュリー嬢」
「はい、どうしました? キリアン」
「その」
「……?」
「今日は、一緒に来てくれて……ありがとうございます」
「まあ、そんな。お礼を言わなくてはならないのはこちらなのに。このチケットを取るのは大変だったのでは?」
「……上司の仕事を手伝った褒美で。貴女が行きたいと言っていたから……是非にと」
「ありがとう、キリアン」
そういう小さなことを覚えていてくれて、嬉しい。
素直にそう思う。
以前だったらそれに加えて飛び上がるほど嬉しかったと思うけれど……今は、そこまでではない。
それでも彼が少しはにかみながら『喜んでくれて良かった』と安心したようにそう零すのを見て、私はそんな彼のことを『好きだなあ』と思うのだ。
けれどやっぱり、何かが違う。
その何かが違うというものが、私にはわからなくてちょっぴりそれが心配でもあった。
(私はどこかおかしくなっちゃったのかしら?)
体調はどこもおかしくない。むしろ健康そのものだ。
変わったことといえば、キリアンに対して私の恋心を押しつけていたってことに反省しただけで……彼のことが好きなのは変わらないし、彼以外を伴侶に迎えたいとか、彼にも別の女性を……なんてことは思わない。
子供を生むなら彼の子が良いし、キリアンとの子ならきっと可愛いし賢いだろうなあなんて想像までできるのに。
いったい何が違うのか、皆目見当がつかない。
今もキリアンにエスコートされながら、これが違う世界のもののように遠く感じてしまうのだ。
「アシュリー嬢?」
「あ、いえ……久しぶりに観劇に来たものだから、熱気に驚いてしまって」
「確かに。人気の演目だとこうも違うんだな……」
人の多さに驚くのもそうだけれど、人気の演目と言うだけあって誰もが楽しみにしているその熱気。
貴族としての品位を保つ振る舞いを……とみんながどこか格好つけているのが少しだけ滑稽だけれど、そこには富裕層の平民も混じるのでロビーのそこかしこで挨拶や商談に繋げようとする会話も漏れ聞こえる。
まあ、こんな場所で話す程度の内容なのだから大したことではないのだろう。
「ボックス席が手に入ったんだ」
「まあ、すごいわ!」
「上司の奥方のご実家が今日の劇団のパトロンなんだとか。その伝手だと言っていたよ」
「よくよくお礼をしなくてはね。上司ご夫妻にも、そのご実家にも。お礼の品を今度用意するのに、好みを教えていただいても?」
確かキリアンの上司というのは伯爵夫妻だったと記憶している。
奥様のご実家は侯爵家だったと思うけれど、これまで騎士団のパーティーなどは連れて行ってもらったことがないから面識がないのよね。
とはいえ、素敵なチケットを譲っていただいたなら、お礼状だけではきっと足りないわ。
私の言葉にキリアンも頷いて答えようとしてくれたけど、すぐに口を閉ざした。
どうしたのかと思って彼を見上げると、至極真面目な表情で……いえ、それはいつものことなのだけれど。
いつもよりなんだか気合いを入れて? いるように見えるのは、どうしてかしら?
「アシュリー嬢……その、できれば自分と一緒に……!」
「まああああ! ウィッドウック様じゃございませんの!!」
キリアンの声をかき消す勢いで、彼の背後から女性が飛び出てきて私は思わずびっくりして後ずさってしまったのだった。
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