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★TOKYO 1940★
【国民投票】
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11月30日にソビエトがフィンランドに侵攻し、フィンランドも頑強に抵抗したが双方の軍事力の差は如何ともし難く、結局フィンランドはラドガ湖北岸と北極海沿いの工業地帯と海岸線地帯をソビエト連邦に譲渡する形で休戦を成立させた。
12月14日、国際連盟はフィンランドを侵略したソビエトの行為を重く見て、ソビエトを国際連盟から除名したが、戦火が広がる中、もはや国際連盟は何の影響力も持たなかった。
年が明けた1940年4月9日にはドイツがデンマークとノルウェーに侵攻し、デンマークはこの襲撃の当日に降伏したが、ノルウェーはイギリス・フランス・カナダ・ポーランド亡命政府の連合軍の力を借りて洋上戦ではドイツ海軍に大きなダメージを与えたものの地上戦ではドイツ軍に屈し6月9日に降伏した。
ドイツは侵略の手を緩めず、5月10日にルクセンブルク、5月14日にオランダ、5月28日にはベルギーがそれぞれドイツに降伏し、6月22日フランスが休戦協定に調印し、これによりドイツはフランスの北半分と大西洋海岸線地域全体を占領することになった。
6月10日にイタリアが参戦し、南フランスに侵攻した。
6月14日、今度はソビエトがバルト3国に侵攻しエストニア、ラトビア、リトアニアを併合し、ドイツとの秘密協定通りルーマニア東部地域のベッサラビアとブコビナの北半分の譲渡を迫り、戦争を避けたかったルーマニアは已むを得ずソビエトに従いベッサラビアとブコビナの北半分をソビエトに明け渡した。
これまでの経緯を見ると、欧州での戦争はドイツとソビエトによって拡大しているのが良く分かる。
しかし私が経験していない未来では一連の戦争はナチスドイツの崩壊によって終わり、ドイツは敗戦国として多くの将兵が戦争犯罪の責任を負わされたのに対して、ソビエトは何の責任も負わされないばかりか “戦勝国” として裁く立場にまわっただけでなく、その後新たに発足する国際連合では常任理事国となっている。
ドイツとの密約によりポーランド東部などに侵攻し、フィンランドにも侵略の手を広げて国際連盟から除名され、それだけでは飽き足らず東ヨーロッパ諸国を次々に占領していったソビエト。
そのような国をなぜ世界は放置してしまったのだろう?
欧州のこのような状況の中で、今年9月に予定されている東京でのオリンピック開催の是非が国会で激しく議論されたが結論は出ず、岡田内閣は日本発の国民投票によって開催を決定することになった。
またこの投票に先立ち、婦人参政権も導入された。
「ねえ、柏原くんはどっちに投票するの。 開催?それとも、中止?」
日曜日の昼過ぎに、一緒に買い物に出かけたあと室内着に着替えた薫さんが国民投票の事を聞いてきた。
投票は6月中旬。
五輪開催の是非を決める国民投票のポスターは、街に行かなくとも道のあちこちに貼られていて、ポスターの周りを数人の人が囲んでいる光景はよく見る。
特に多いのは、参政権を得た女性たち。
未来では女性の参政権は当たり前なのだが、参政権を得た事で街の女性たちがウキウキと輝いていて、ポスターを囲む彼女たちの声はとても明るかった。
しかし岡田内閣はタヌキだ。
このような時期に国民投票を行っても、準備が整っていないなんて事は普通では考えられない。
参加国も少なくなる上に莫大な費用も掛かり、失敗した時のことを考えればなかなか決断しかねる。
失敗ともなれば、最悪国会議員としての首が飛ぶ。
しかし岡田政権は民意に委ねるとして日本初の国民投票という手を打ったというのはあくまでも建前に過ぎず、おそらく国内外に対する五輪への関心を引くための宣伝と、こんな事も決められないというよりこんな事でも民意を問うという民主主義国家日本国の姿勢を世界に発信する効果を狙ったもの。
更になかなか決まらない婦人参政権の問題を、このどさくさに紛れて押し込み既成事実を作ったのだろう。
さすが!
私はそんなことを考えながら薫さんの問いに答えた。
「う~ん……前回のベルリン大会に比べて参加国はだいぶ少なくなるだろうね」
「参加国を気にすると言う事は、柏原くんは開催派なんだね」
「そうさ、新しい平和的な日本を世界に見せつけなくてはならないからね」
「それは、どういうこと?」
「既に満州国と朝鮮国は出場を決めてくれている。それに共産党と戦争中の蒋介石もアジア初の五輪に前向きだ。しかも今回はサプライズも用意してあるらしいよ」
「サプライズ⁉ それって何なの??」
「教えてあげられないから、サプライズなんだよ」
「ねぇ~教えてぇ~」
「だめ、ちょっと用がある!」
薫さんが甘えて来たので、慌てて逃げ出した。
やばいやばい、薫さんに甘えられるとサプライズを話してしまいそうになる。
玄関まで逃げて下駄を履いて戸を開けようとしたとき、勝手に戸が開いた。
“これが未来で有名な、自動ドア⁉”
毎日使っている戸なのに、何故かそう思った。
柳生さんなら私たちが “じゃれ合っている” 間に、戸の改造なんて簡単にやってのける。
ところが自動で開いた扉の外側には、人が立っていた。
12月14日、国際連盟はフィンランドを侵略したソビエトの行為を重く見て、ソビエトを国際連盟から除名したが、戦火が広がる中、もはや国際連盟は何の影響力も持たなかった。
年が明けた1940年4月9日にはドイツがデンマークとノルウェーに侵攻し、デンマークはこの襲撃の当日に降伏したが、ノルウェーはイギリス・フランス・カナダ・ポーランド亡命政府の連合軍の力を借りて洋上戦ではドイツ海軍に大きなダメージを与えたものの地上戦ではドイツ軍に屈し6月9日に降伏した。
ドイツは侵略の手を緩めず、5月10日にルクセンブルク、5月14日にオランダ、5月28日にはベルギーがそれぞれドイツに降伏し、6月22日フランスが休戦協定に調印し、これによりドイツはフランスの北半分と大西洋海岸線地域全体を占領することになった。
6月10日にイタリアが参戦し、南フランスに侵攻した。
6月14日、今度はソビエトがバルト3国に侵攻しエストニア、ラトビア、リトアニアを併合し、ドイツとの秘密協定通りルーマニア東部地域のベッサラビアとブコビナの北半分の譲渡を迫り、戦争を避けたかったルーマニアは已むを得ずソビエトに従いベッサラビアとブコビナの北半分をソビエトに明け渡した。
これまでの経緯を見ると、欧州での戦争はドイツとソビエトによって拡大しているのが良く分かる。
しかし私が経験していない未来では一連の戦争はナチスドイツの崩壊によって終わり、ドイツは敗戦国として多くの将兵が戦争犯罪の責任を負わされたのに対して、ソビエトは何の責任も負わされないばかりか “戦勝国” として裁く立場にまわっただけでなく、その後新たに発足する国際連合では常任理事国となっている。
ドイツとの密約によりポーランド東部などに侵攻し、フィンランドにも侵略の手を広げて国際連盟から除名され、それだけでは飽き足らず東ヨーロッパ諸国を次々に占領していったソビエト。
そのような国をなぜ世界は放置してしまったのだろう?
欧州のこのような状況の中で、今年9月に予定されている東京でのオリンピック開催の是非が国会で激しく議論されたが結論は出ず、岡田内閣は日本発の国民投票によって開催を決定することになった。
またこの投票に先立ち、婦人参政権も導入された。
「ねえ、柏原くんはどっちに投票するの。 開催?それとも、中止?」
日曜日の昼過ぎに、一緒に買い物に出かけたあと室内着に着替えた薫さんが国民投票の事を聞いてきた。
投票は6月中旬。
五輪開催の是非を決める国民投票のポスターは、街に行かなくとも道のあちこちに貼られていて、ポスターの周りを数人の人が囲んでいる光景はよく見る。
特に多いのは、参政権を得た女性たち。
未来では女性の参政権は当たり前なのだが、参政権を得た事で街の女性たちがウキウキと輝いていて、ポスターを囲む彼女たちの声はとても明るかった。
しかし岡田内閣はタヌキだ。
このような時期に国民投票を行っても、準備が整っていないなんて事は普通では考えられない。
参加国も少なくなる上に莫大な費用も掛かり、失敗した時のことを考えればなかなか決断しかねる。
失敗ともなれば、最悪国会議員としての首が飛ぶ。
しかし岡田政権は民意に委ねるとして日本初の国民投票という手を打ったというのはあくまでも建前に過ぎず、おそらく国内外に対する五輪への関心を引くための宣伝と、こんな事も決められないというよりこんな事でも民意を問うという民主主義国家日本国の姿勢を世界に発信する効果を狙ったもの。
更になかなか決まらない婦人参政権の問題を、このどさくさに紛れて押し込み既成事実を作ったのだろう。
さすが!
私はそんなことを考えながら薫さんの問いに答えた。
「う~ん……前回のベルリン大会に比べて参加国はだいぶ少なくなるだろうね」
「参加国を気にすると言う事は、柏原くんは開催派なんだね」
「そうさ、新しい平和的な日本を世界に見せつけなくてはならないからね」
「それは、どういうこと?」
「既に満州国と朝鮮国は出場を決めてくれている。それに共産党と戦争中の蒋介石もアジア初の五輪に前向きだ。しかも今回はサプライズも用意してあるらしいよ」
「サプライズ⁉ それって何なの??」
「教えてあげられないから、サプライズなんだよ」
「ねぇ~教えてぇ~」
「だめ、ちょっと用がある!」
薫さんが甘えて来たので、慌てて逃げ出した。
やばいやばい、薫さんに甘えられるとサプライズを話してしまいそうになる。
玄関まで逃げて下駄を履いて戸を開けようとしたとき、勝手に戸が開いた。
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毎日使っている戸なのに、何故かそう思った。
柳生さんなら私たちが “じゃれ合っている” 間に、戸の改造なんて簡単にやってのける。
ところが自動で開いた扉の外側には、人が立っていた。
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