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★連合艦隊エジプトへ★
【エジプト遠征隊①】
しおりを挟むエジプト選手団は母国が今イタリアの侵略を受けていて危険だから、サウジアラビアかイラクで降ろしてもらえれば後は自力で国に帰る旨を日本政府に伝えたが、招待したお客に対して “いいかげんな仕事をしない” つまり「おもてなし」を最後までやり通すのが日本の文化。
まして、その様に気を使ってくれる客にはなおさらだ。
招待国の帰路の護衛で、中東・インド洋方面隊は往路よりも大規模な特別編成をとることとなった。
その編成はエジプトでの有事を想定するものとなり、本体から各方面隊が分離して搬送を行う事とした。
編成は以下の通り。
<本隊>
第三戦隊、戦艦「比叡」(旗艦)、「霧島」
第二航空戦隊、空母「蒼龍」「飛竜」以下、第二十三駆逐隊「菊月」「卯月」「夕月」
第八戦隊、重巡洋艦「利根」「筑摩」
第十八戦隊、軽巡洋艦「天龍」「龍田」
第四水雷戦隊、軽巡洋艦「那珂」以下、第二駆逐隊「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」
第十八駆逐隊「霰」「霞」「陽炎」「不知火」「薄雲」
<補給隊>
給糧船「間宮」
給油艦「野登呂」「襟裳」「鶴見」
給炭艦「室戸」「野島」「知床」
給水艦「和洋丸」「五隆丸」「日豊丸」
<分離隊>
フィリピン分離隊。
軽巡洋艦「香椎」
第三駆逐隊「汐風」「帆風」
ベトナム・インドネシア・タイ・インド分離隊。
軽巡洋艦「香取」
第12駆逐隊「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」
アフガニスタン・イラン・イラク分離隊。
軽巡洋艦「夕張」
第三十駆逐隊「睦月」「如月」「弥生」「望月」
エチオピア・エジプト分離隊
潜水母艦「剣崎」(各選手団関係者の母艦とする)
第十六駆逐隊「初風」「雪風」「天津風」「時津風」
といった大艦隊で、旗艦には前連合艦隊司令長官、永野修身大将が乗船し指揮を執り、、参謀長として第三艦隊参謀長草鹿任一少将が入り、有事の際に日本政府としての対応を担うため急きょ海軍省次官に抜擢された井上成美中将が海軍省補佐役として旗艦扶桑に乗艦した。
各選手団は潜水母艦「剣崎」に収容されたのち、各分岐点で分離隊旗艦に移動する。
選手輸送を担う潜水母艦「剣崎」は選手団と彼らの世話をする役員など日本政府関係者のスペースを広く確保するために、水上偵察機を搭載せず広い格納庫には特設の部屋とクーラーの設置工事が行われ、余ったスペースは体育館に利用された。
私は海軍の将兵が選手団を粗雑に扱わないよう、大本営から特命を受けて選手団の管理を任され、英語やフランス語などを話すことの出来る薫さんは引き続き大会役員として剣崎に乗船し、10月9日に艦隊は横須賀港から出発した。
出港して数日が過ぎた晴れた日、薫さんと私は展望の良い高い水上機発艦デッキに出て、輸送船団を中央に円型陣を組んで航行する艦隊を眺めていた。
果てしなく広がる青い空の下には、同じく果てしなく広がる紺碧の海。
このような光景を見るのは、サイパンに赴いた昭和19年の夏以来。
あの時は敗戦濃厚な日本の行く末を危惧して焦燥感に苛まれていたが、、この海の向こうでは一体どんな状況が待っているのだろう。
「凄い。まるで戦争に行くみたいね」
薫さんの言葉は、五輪特別編成隊の帰着を羽田まで観に行ったときのような高揚感はなく、穏やかで静かなものだった。
私はただ「ああ」とだけ答え、薫さんの隣で薫さんの見ている方を一緒に眺めていたところ、不意に質問をされた。
「ねえ、柏原くんは、こういう光景を見ていてワクワクしたりしないの?」と。
どうして、そんなことを聞くのか驚いて薫さんの顔を振り向いてみる私に、薫さんは少し “はにかむ” ような顔を見せて話を続けた。
「柏原くんは男の子だから、こういった壮大な艦隊を見ているとワクワクして戦争がしたくなるのかなって……だって軍隊はそういった勇ましい様子を映画館でニュースとして流して子供たちを洗脳していたんでしょう? 軍隊に導くために」
否定はしなかったけれど、肯定もしなかった。
この時代は未来に比べて、娯楽というものは極端に少ない。
家族で手軽に楽しめる映画は最も身近な娯楽で、大きな街には当たり前のように何件もあり小さな町にも必ずあった。
子供にとって楽しみな映画といえばチャンバラ映画と軍のニュースフィルムで、私に限らず殆どの男子は映画を見終わったあとチャンバラごっこや兵隊ごっこをして遊ぶのが常だった。
未来の人たちには分からない事なのかも知れないが、遠くの景勝地に旅行に行かない限り、お祭りやお正月以外、本当にそれくらいしか娯楽はなかったのだ。
私たちが子供だったころ、なりたい一位は軍人だったから何らかの影響はあったと思うが、この時代は本当に戦争が身近にあったのでそれは仕方がなかったのかもしれない。
10月15日、台湾沖フィリピン海上で「剣崎」から大発(連絡および救難用の大型ボート)が降ろされ、大発に乗ったフィリピン選手団が軽巡洋艦「香椎」に乗船してお互いに手を振り合い別れを惜しんだ。
10月17日、艦隊は南シナ海の南沙諸島付近に到達する。
早朝から重巡洋艦「利根」と「筑摩」から慌ただしく水上偵察機が何機も飛び立ち、空母「蒼龍」と「飛竜」から金星エンジンを搭載した新型艦上戦闘機「零戦」が直掩機(ちょくえんき)として飛び立つ。
ここはフランス領ベトナムとイギリス領ブルネイに挟まれた海。
それぞれの中間点を通ったとしても、陸地からの距離は400kmに過ぎない。
一応両国の現地総督には艦隊が通過する旨を伝えてはいるが、何が起こっても不思議ではないのが戦争だから慎重に行動する必要がある。
特に潜水艦には注意が必要だ。
周囲の安全を確認した後の同日、ベトナム・インドネシア・タイ・インド選手団は大発に乗り込み、母艦となる軽巡洋艦「香取」に乗船してまたお互いに手を振り合い、別れを惜しんだ。
「みんなの笑顔が素敵!」と、見送りの手を振る薫さんが言った。
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