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★vs張学良★
【薫さんとの別れ④】
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公園で決意を打ち明けたときと同じ様に、私は薫さんが落ち着くように愛おしい彼女を胸に抱いたままその小さな頭を撫で続けていた。
時は無情にも過ぎ、やがて陸攻の整備が終わり搭乗の許可が下る。
「ごめん。別れ際を湿っぽくさせちゃって」
「いいんだ、私は、……心配されて嬉しい」
ここでも、薫さんを好きだったと正直に言えずに、誤魔化してしまう。
これから死地へ赴く者の、告白なんて彼女の心を傷つけるだけだと思ったから。
いや。
これは単なる言い訳に過ぎない。
本当は、好きだと言ってしまうと、私は行く勇気が消えてしまうのが怖かった。
「ねえ、約束して」
「なにを?」
「決して生きることを諦めないと」
「約束する」
「本当?」
なおも心配する薫さんを元気づけるために、私は声を張り上げて言った。
「我是日本特使,前来与张学良阁下和平会谈。任何对我的伤害都将被视为对张学良阁下的背叛!(私は日本の特使として、張学良閣下との和平交渉のために来日しました。私に危害を加えることは、張学良閣下への裏切りとみなされます!)」と。
「まあっ! 中国語、いつの間に覚えたの!?」
「まだカタコトだけどね。日中関係に携わっている以上、避けては通れないだろう?」
「さすがね!しかもカタコトなんかじゃないわ」
「そうか? 独学だから、良く分からないが……」
「大丈夫よ。今まで相手と話す機会が無かったからそう思うのでしょう。でも柏原くんの発音は完璧ヨ。きっとそれはアナタが相手の話を真剣に聞いていたからだと思うわ、自信を持ちなさい!」
「谢谢!(ありがとう)」
「祝你好运!(幸運を!)」
私たちは誰も居ない部屋で、お互いに笑みを浮かべてまた再開するときが来ることを楽しみに握手を交わした。
部屋のドアがノックされ、下士官が私を呼びに来た。
先頭の零戦が飛び立ち、周囲を低空で旋回して安全を確認した後、陸攻は滑走路から動き始めた。
寒いなか、空港ビルの屋上から薫さんが元気よく手を振ってくれていたので、私は敬礼を返した。
遠くてその表情までは見えないけれど、きっと薫さんは泣いているのだと思う。
泣いていながらも健気に元気よく手を振ってくれている薫さんの事を思うと、たまらなく愛しい。
伝えられなかった一言を悔やむ。
しかしそれはいま伝えてはならない。
もし伝えるとすれば、無事に使命を全うし、生きて再び会えた時。
そのために私は、生きる努力を惜しまない。
陸攻の中で、薫さんが作ってくれたおにぎりを食べた。
薫さんの白い華奢な手で握られたおにぎりは、いままで食べたどんな料理よりも美味しかった。
松山上空で、羽田から護衛に付いて来てくれた零戦3機が、次々に陸攻の横に来て敬礼をしてくれた。
私も彼らに敬礼をして返す。
一介の大本営中佐がまるで戦闘地域の偵察に赴く将軍クラス並みの護衛を付けられているのだから、事の詳細は知らなくても如何に重要な使命なのかくらいは分かる。
そしてそれが戦争を回避するためのものであることも、彼ら軍人なら分かって当たり前だろう。
彼らもまた大陸に向かった仲間を案じているのだ。
零戦3機が翼を振って松山基地へと向かい降下して行く。
入れ替わりに松山基地から新しい零戦がやって来て、次々に横に並んで敬礼を交わし配置に着いた。
松山空港から合流した零戦には、日の丸に架かる部分に大きく白い帯がペイントされていて、遠くからでもその機体が日本機であることを強調したものとなっていた。
20時30分、予定より30分早く陸攻は上海空港に到着した。
おそらく私を早く届けるため、時間調整をしなかったのだろう。
時間のない私にとって、その気遣いはありがたかった。
時は無情にも過ぎ、やがて陸攻の整備が終わり搭乗の許可が下る。
「ごめん。別れ際を湿っぽくさせちゃって」
「いいんだ、私は、……心配されて嬉しい」
ここでも、薫さんを好きだったと正直に言えずに、誤魔化してしまう。
これから死地へ赴く者の、告白なんて彼女の心を傷つけるだけだと思ったから。
いや。
これは単なる言い訳に過ぎない。
本当は、好きだと言ってしまうと、私は行く勇気が消えてしまうのが怖かった。
「ねえ、約束して」
「なにを?」
「決して生きることを諦めないと」
「約束する」
「本当?」
なおも心配する薫さんを元気づけるために、私は声を張り上げて言った。
「我是日本特使,前来与张学良阁下和平会谈。任何对我的伤害都将被视为对张学良阁下的背叛!(私は日本の特使として、張学良閣下との和平交渉のために来日しました。私に危害を加えることは、張学良閣下への裏切りとみなされます!)」と。
「まあっ! 中国語、いつの間に覚えたの!?」
「まだカタコトだけどね。日中関係に携わっている以上、避けては通れないだろう?」
「さすがね!しかもカタコトなんかじゃないわ」
「そうか? 独学だから、良く分からないが……」
「大丈夫よ。今まで相手と話す機会が無かったからそう思うのでしょう。でも柏原くんの発音は完璧ヨ。きっとそれはアナタが相手の話を真剣に聞いていたからだと思うわ、自信を持ちなさい!」
「谢谢!(ありがとう)」
「祝你好运!(幸運を!)」
私たちは誰も居ない部屋で、お互いに笑みを浮かべてまた再開するときが来ることを楽しみに握手を交わした。
部屋のドアがノックされ、下士官が私を呼びに来た。
先頭の零戦が飛び立ち、周囲を低空で旋回して安全を確認した後、陸攻は滑走路から動き始めた。
寒いなか、空港ビルの屋上から薫さんが元気よく手を振ってくれていたので、私は敬礼を返した。
遠くてその表情までは見えないけれど、きっと薫さんは泣いているのだと思う。
泣いていながらも健気に元気よく手を振ってくれている薫さんの事を思うと、たまらなく愛しい。
伝えられなかった一言を悔やむ。
しかしそれはいま伝えてはならない。
もし伝えるとすれば、無事に使命を全うし、生きて再び会えた時。
そのために私は、生きる努力を惜しまない。
陸攻の中で、薫さんが作ってくれたおにぎりを食べた。
薫さんの白い華奢な手で握られたおにぎりは、いままで食べたどんな料理よりも美味しかった。
松山上空で、羽田から護衛に付いて来てくれた零戦3機が、次々に陸攻の横に来て敬礼をしてくれた。
私も彼らに敬礼をして返す。
一介の大本営中佐がまるで戦闘地域の偵察に赴く将軍クラス並みの護衛を付けられているのだから、事の詳細は知らなくても如何に重要な使命なのかくらいは分かる。
そしてそれが戦争を回避するためのものであることも、彼ら軍人なら分かって当たり前だろう。
彼らもまた大陸に向かった仲間を案じているのだ。
零戦3機が翼を振って松山基地へと向かい降下して行く。
入れ替わりに松山基地から新しい零戦がやって来て、次々に横に並んで敬礼を交わし配置に着いた。
松山空港から合流した零戦には、日の丸に架かる部分に大きく白い帯がペイントされていて、遠くからでもその機体が日本機であることを強調したものとなっていた。
20時30分、予定より30分早く陸攻は上海空港に到着した。
おそらく私を早く届けるため、時間調整をしなかったのだろう。
時間のない私にとって、その気遣いはありがたかった。
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