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★ノモンハン事件★
【第1次ノモンハン事件②】
しおりを挟む<ソビエト軍I-15戦闘機>
次の日、未明に航空機編隊が通過する音を聞き、慌てて布団から飛び出して要塞司令部に向かった。
「今の音は⁉」
「陸軍の航空隊だ」
「情報が集まったんですね」
「いや、集まったのは確かだが、錯綜している。だから航空偵察を兼ねて、出撃を要請した」
辻少佐の報告は無線が壊れたらしく、あれ以来入っていないらしい。
ただ辻少佐の大隊には他にも無線機があり、そこから幾つかの情報を得る事は出来たし、後方の23師団から援護のために出された捜索隊からも情報が入れられていた。
だがこれらの情報にはお互いの位置関係を紐づける情報が乏しく、例えば敵の装甲車10台を確認した情報が複数の部隊で確認されても、それが10台だけなのかそれとも10台×複数部隊の報告なのかは定かではない。
そこでコチラの部隊配置を確認するため、チチハルの航空基地から確認のため偵察機を飛ばしたというわけだった。
私は着替えのために遅れてやって来た薫さんと共に、丘の頂上に向かった。
まだ明け切らない薄暗い空の上を飛ぶ日の丸を付けた20数機の飛行機がグルグルと空を回っているのが見えた。
偵察機らしい機体は2機いて、その周りを護衛するように戦闘機が飛び、軽爆撃機らしい複座機が地上付近に降りてはまた旋回しながら上昇を繰り返していた。
どうやら空から機銃掃射を繰り返し行っているようだ。
“航空機からの地上部隊への機銃掃射……!”
これは石原が陸大試験時に言った有名な逸話で、試験官から機関銃の有効な利用法を聞かれたとき、彼は「航空機に搭載して敵地上部隊へ機銃掃射を行う事だ」と答えたそうだ。
“まさか石原少将は、この日が来ることを予測していたのか?”
当直の見張り員に双眼鏡を借りる。
距離が遠くて双眼鏡でもハッキリとは見えないが、時折装甲車らしき物が航空機からの機銃掃射で炎を上げているのが分かる。
厚い鉄板で防御している装甲車両でも、空からの攻撃など想定していないから上部の防御は薄い。
だが、いくら薄いと言っても、たかが7.7mmの機銃弾でそう易々と貫かれるものだろうか?
機銃弾が尽きたのか、軽爆撃機の機銃掃射による攻撃は終わり、航空部隊は帰路につく。
ちょうどこの要塞を通り過ぎる時、彼らは低空飛行をしてお互いに手を振り合って別れた。
そのとき軽爆撃機に搭載されている機銃も見えた。
機銃は九二式重機関銃や海軍の攻撃機に使われる九二式7.7mm機銃ではない。
あれは威力の強い12.7mm弾を使用するブローニングM2重機関銃だ!
日本軍の航空部隊が基地に戻った後、入れ替わるようにソビエト軍の航空部隊が現れた。
しかも偵察が主任務の日本軍とは違い、大型爆撃機による大編隊だと言う事は遠くから見てもよく分かる。
さっきまでの我が軍の軽爆撃機による機銃掃射とは違い、双眼鏡がなくとも何を行っているのかは耳でも分かるほど激しい爆発の音が響く。
「おい、こっちにも来るぞ‼」
一緒に見ていた見張り員たちが騒めき、すぐに下の司令部に連絡して空襲警報を知らせるサイレンが鳴らされた。
「薫さん、すぐ下に降りて本国にソビエト軍による越境攻撃を打電!あと中国大使館に居る秋山さんにプランAの発動依頼を掛けて下さい」
喋らない薫さんはほんの一瞬だけ子供のように私の袖をつまんだが、私の厳しい眼を見るとすぐにコクリとうなずいて下の司令部に向かって行った。
その仕草はここに就く前の夜に見せた、妖艶な獣だったことを忘れさせるほど素直で幼く儚いもののように思えた。
「少佐! 敵機来ます!伏せて下さい‼」
防空見張り員の下士官に従い、私は身を伏せた。
今大切なのは、自分の好奇心やわがままや威勢を主張している場合ではなく、所々の担当者の邪魔にならない事。
丘の下に設けられた陣地から八八式七センチ野戦高射砲が発砲をはじめ、丘の上では九五式機銃射撃装置により連装25㎜機銃の台座がリモートにより動き始めた。
最初に近付いて来た複葉戦闘機のI-15が機銃を撃ちながら飛び込んで来る。
速度の速い戦闘機に対して、正面に配置されている連装25㎜機銃の銃座が次々に火を吹き飛び込んできた4機のうち1機の撃墜に成功した。
更に1回目の攻撃を終えたI-15が、2回目の攻撃を行うために旋回を始めた所を裏側の連装25㎜機銃たちが追い打ちをかけて更に2機を撃墜することに成功した。
I-15戦闘機は3飛行小隊合わせて12機が突撃してきたが、おおむねその3分の2を撃墜または損害を与えることに成功し、我が方の損害は軽微だった。
次に襲ってきたのは複葉軽爆撃機のR-5だが、この機は元々の最高速度が遅い(228km/h)上に爆装しているので更に速度は遅くなり、要塞に突入してくる前に対空砲火で半数以上を撃墜し残った敵はいいかげんな場所に爆弾を投下して這う這うの体で逃げ帰った。
最後に接近してきた4発大型爆撃機のTB-3は爆弾搭載能力こそ2トンと優れてはいるが、実用上昇限度3,800m最大速度197km/hと既に時代遅れの性能と相まって、全長24.4m全幅39.5mの悠々と空を飛ぶ大きなシルエットは高射砲の格好の的となり、また97式戦闘機(改)による要撃もあり、ほぼ侵入してきた敵全機を撃墜することに成功した。
<日本陸軍97式改>
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