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Surrender, retreat, or die(降伏か撤退か、それとも死か)
[Surrender, retreat, or dieⅤ(降伏か撤退か、それとも死か)]
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ジュリーはルッツの胸の中に飛び込んだまま動かない。
ジュリーはドイツ軍の狙撃兵に撃たれたのか……。
その時、ルッツが怒った声で言った。
「貴様、一体何のつもりだ」
ルッツは破裂音を出したジュリーが連れてきた若い男を睨む。
そいつの手には、叩いて敗れた紙袋が握られていた。
「いや、こういう演出があった方が、読者がハラハラして盛り上がると思って……」
ルッツに睨まれて、少しバツの悪そうに言ったのはクルーガー少尉。
「読者?」
「もしこの物語を劇的に終わらせるのであれば、ここでジュリーが隠れていたドイツの狙撃兵に撃たれる。そしてルッツに抱きかかえられたままジュリーはこう言うんだ“もう、戦争をお終いにして”と、そしてルッツがジュリーの名を叫んで幕が閉じる……どう、この最終回は?」
「ジュリー」
ルッツが抱きしめていたジュリーの耳元で囁ささやく。
「なに?」
ジュリーは何事もなかったように俺の胸に埋めていた顔を上げる。
「あのイカレタ男は何者だ?」
「イギリス空軍偵察部隊のパイロット、マーク・クルーガー少尉よ。やっぱりルッツも彼のことイカレテいるって思う?」
「ああ、充分に」
「でも、ここに辿り着けたのは、あのクルーガー少尉のおかげでもあるのよ」
「コイツの?」
「そう。マルカデ駅でアナタを待つつもりでいた私に彼は、アナタやマルシュの事を聞かせて欲しいと言ってきたの」
「話したのか?」
「ええ。だって、待っているだけだったから」
「そうしたら、アナタは屹度、ここだって」
「何故?」
「ルッツもマルシュも直線的な性格だからだって」
「直線的!?」
俺がクルーガー少尉を見ると、彼はニヤリと笑って悪びれる様子もなく、ジュリーの代りに続きを話しはじめた。
彼がジュリーから聞いた話を元に俺とマルシュの2人を分析した結果、俺は真直ぐに突き進むタイプだそうで最初に決めた終着点をおいそれと変える事は無い。
終着点とは降下猟兵中隊本部のあったポルト・ド・クリニャンクールで、地下鉄の出口は決して行き詰らない場所で終着点に最も近いサンプロン。
マルシュの方は、ジュリーに“ぞっこん”なので、ジュリーの愛する人の言うことを聞きながらも、絶対に安全に目的地に届けてくれる。
そして2人ともが、策を弄さず一直線に前を向いて突き進むタイプだから、曲がりくねった12号線で迂回して進むことはない。
「どう、僕の推理? ナカナカのものでしょう」
「ああ、だが戦争は推理ゲームじゃない。お前は戦場で何を見て、何を学んできたんだ?」
「僕は偵察機乗りだから、直接の戦闘には参加しない」
「そうやって、いつも高みの見物と言う訳か」
ここで“人を殺さずクリーンに戦争に参加している”なんて本音を言おうものなら、このルッツと言うドイツ兵に瞬殺されるのは分かっていたので何も言い返さなかった。
と言うよりも、そもそもこの険悪な雰囲気を作ってしまったのは僕のほう。
ジュリーがルッツの胸に飛び込んで行くことは初めから予想していた。
僕は特にそれを何とも思わずに、静観できると思っていた。
でも真実は違った。
ジュリーがルッツを目掛けて一目散に階段を駆け下りる後姿を見た瞬間、僕の中で何かが急に燃え始めたのを感じた。
焚火何て生易しい物じゃなく、心の奥から烈火のごとく沸き上がって来る溶岩の様なドロドロとした炎。
花火の様に瞬間的に鮮やかな光を放ち惜しまれながら消えて行くのとは反対に、焼け爛れた黒い土の表面から時折おどろおどろしい黒紅い光で周囲の様子を窺いながら人々に恐怖心を与える様にワザとユックリと、しかも止めどなく流れ出て決してだれにも止める事が出来ないまるで地中から湧き出る溶岩のような炎。
それが流れ出した途端、僕は何故か無性にジュリーが許せなくて、持っていた紙袋を叩いて割った。
事前に膨らませていたのは、何も意識していなくて風船遊びに使えると思っていたからだけれど、既に僕自身が知らない間に僕はルッツを思うジュリーに嫉妬していたに違いない。
それは、ジュリーを助けたあと、うなさながら眠る彼女が何度も口に出していた名前を聞いた時から始まっていたのかも知れない。
だから、ここまで付いて来た。
だから初めからルッツを脅かすために、紙袋を膨らませていた。
ルッツたちはプロだから、そんな音に引っ掛かる事は無いことは分かっているのに。
僕は戦争が嫌いなはずなのに、僕からジュリーを奪うルッツが許せなかった。
もしかしたら、これが宣戦布告にあたる行為なのかも知れない。
あれほど、戦争を嫌っていた僕が……。
パーンと言う破裂音を聞いた時、一瞬ジュリーが撃たれたのだと思って強烈な寂しさと悔しさ、それに後悔が胸を過った。
そして、それが銃声ではないと分かった瞬間、俺は胸をなでおろすよりも先に気付いた。
誰よりもジュリーの事が好きだと言うことを。
ジュリーに頼まれてルッツに降伏するように説得を試みて、それが叶わない事を知りジュリーの為にルッツをパリから無事に脱出できるように努力をして来た。
だけど、やはり俺は諦める事は出来ない!
ジュリーはドイツ軍の狙撃兵に撃たれたのか……。
その時、ルッツが怒った声で言った。
「貴様、一体何のつもりだ」
ルッツは破裂音を出したジュリーが連れてきた若い男を睨む。
そいつの手には、叩いて敗れた紙袋が握られていた。
「いや、こういう演出があった方が、読者がハラハラして盛り上がると思って……」
ルッツに睨まれて、少しバツの悪そうに言ったのはクルーガー少尉。
「読者?」
「もしこの物語を劇的に終わらせるのであれば、ここでジュリーが隠れていたドイツの狙撃兵に撃たれる。そしてルッツに抱きかかえられたままジュリーはこう言うんだ“もう、戦争をお終いにして”と、そしてルッツがジュリーの名を叫んで幕が閉じる……どう、この最終回は?」
「ジュリー」
ルッツが抱きしめていたジュリーの耳元で囁ささやく。
「なに?」
ジュリーは何事もなかったように俺の胸に埋めていた顔を上げる。
「あのイカレタ男は何者だ?」
「イギリス空軍偵察部隊のパイロット、マーク・クルーガー少尉よ。やっぱりルッツも彼のことイカレテいるって思う?」
「ああ、充分に」
「でも、ここに辿り着けたのは、あのクルーガー少尉のおかげでもあるのよ」
「コイツの?」
「そう。マルカデ駅でアナタを待つつもりでいた私に彼は、アナタやマルシュの事を聞かせて欲しいと言ってきたの」
「話したのか?」
「ええ。だって、待っているだけだったから」
「そうしたら、アナタは屹度、ここだって」
「何故?」
「ルッツもマルシュも直線的な性格だからだって」
「直線的!?」
俺がクルーガー少尉を見ると、彼はニヤリと笑って悪びれる様子もなく、ジュリーの代りに続きを話しはじめた。
彼がジュリーから聞いた話を元に俺とマルシュの2人を分析した結果、俺は真直ぐに突き進むタイプだそうで最初に決めた終着点をおいそれと変える事は無い。
終着点とは降下猟兵中隊本部のあったポルト・ド・クリニャンクールで、地下鉄の出口は決して行き詰らない場所で終着点に最も近いサンプロン。
マルシュの方は、ジュリーに“ぞっこん”なので、ジュリーの愛する人の言うことを聞きながらも、絶対に安全に目的地に届けてくれる。
そして2人ともが、策を弄さず一直線に前を向いて突き進むタイプだから、曲がりくねった12号線で迂回して進むことはない。
「どう、僕の推理? ナカナカのものでしょう」
「ああ、だが戦争は推理ゲームじゃない。お前は戦場で何を見て、何を学んできたんだ?」
「僕は偵察機乗りだから、直接の戦闘には参加しない」
「そうやって、いつも高みの見物と言う訳か」
ここで“人を殺さずクリーンに戦争に参加している”なんて本音を言おうものなら、このルッツと言うドイツ兵に瞬殺されるのは分かっていたので何も言い返さなかった。
と言うよりも、そもそもこの険悪な雰囲気を作ってしまったのは僕のほう。
ジュリーがルッツの胸に飛び込んで行くことは初めから予想していた。
僕は特にそれを何とも思わずに、静観できると思っていた。
でも真実は違った。
ジュリーがルッツを目掛けて一目散に階段を駆け下りる後姿を見た瞬間、僕の中で何かが急に燃え始めたのを感じた。
焚火何て生易しい物じゃなく、心の奥から烈火のごとく沸き上がって来る溶岩の様なドロドロとした炎。
花火の様に瞬間的に鮮やかな光を放ち惜しまれながら消えて行くのとは反対に、焼け爛れた黒い土の表面から時折おどろおどろしい黒紅い光で周囲の様子を窺いながら人々に恐怖心を与える様にワザとユックリと、しかも止めどなく流れ出て決してだれにも止める事が出来ないまるで地中から湧き出る溶岩のような炎。
それが流れ出した途端、僕は何故か無性にジュリーが許せなくて、持っていた紙袋を叩いて割った。
事前に膨らませていたのは、何も意識していなくて風船遊びに使えると思っていたからだけれど、既に僕自身が知らない間に僕はルッツを思うジュリーに嫉妬していたに違いない。
それは、ジュリーを助けたあと、うなさながら眠る彼女が何度も口に出していた名前を聞いた時から始まっていたのかも知れない。
だから、ここまで付いて来た。
だから初めからルッツを脅かすために、紙袋を膨らませていた。
ルッツたちはプロだから、そんな音に引っ掛かる事は無いことは分かっているのに。
僕は戦争が嫌いなはずなのに、僕からジュリーを奪うルッツが許せなかった。
もしかしたら、これが宣戦布告にあたる行為なのかも知れない。
あれほど、戦争を嫌っていた僕が……。
パーンと言う破裂音を聞いた時、一瞬ジュリーが撃たれたのだと思って強烈な寂しさと悔しさ、それに後悔が胸を過った。
そして、それが銃声ではないと分かった瞬間、俺は胸をなでおろすよりも先に気付いた。
誰よりもジュリーの事が好きだと言うことを。
ジュリーに頼まれてルッツに降伏するように説得を試みて、それが叶わない事を知りジュリーの為にルッツをパリから無事に脱出できるように努力をして来た。
だけど、やはり俺は諦める事は出来ない!
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