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Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)
[War criminals(戦争犯罪者)]
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俺たち空軍降下猟兵最後の空挺作戦も失敗し、俺の分隊で集合できたのはシュパンダウとグリーデンとホルツの3人だけ。
ロス伍長をはじめザシャとマイヤーの3人とは遂に会えずじまいになってしまい、中隊長のオスマン大尉もこの戦いで行方不明になってしまった。
指揮官のハイテ中佐と150名の隊員だけが目標地点付近に降下出来たものの、作戦計画上では降下した17日中にはドイツ軍部隊が到着する予定だったものの19日になっても到着せず1日の食料と弾薬しか携行していない部隊は食料も弾薬も尽きて、その日のうちに降伏した。
輸送機のパイロットの技能低下は著しく、一部の部隊はドイツ国内のボンに降下し、ベルギーを飛び越えてオランダに降下した部隊も居たらしい。
折角最新鋭の武器や戦車を揃えても、部隊の前進に合わせて補給するための車両もなければ、肝心かなめの燃料もない。
部隊の前進をサポートする予備兵力もないから一部の地域では、捕虜を持ち余して虐殺が起きた。
そして国際法で禁止されている敵兵の軍服を着て、アメリカ兵に成り済ました部隊まで投入した。
結局ラインの守り作戦は失敗し、翌年の1月8日にはヒトラー自身による撤退命令が下った。
この自分勝手で野蛮な作戦を目の当たりにして、ジュリーがくれた微かな希望をもとに生き続けて行こうと思っていた心が折れそうになったが、その都度にシュパンダウたち3人に励まされて勇気を振り絞ってきた。
1945年4月30日。
ついにソビエト軍に攻め立てられたヒトラーは総統地下壕で自殺すると、この日を待っていたかのように新しく大統領に就任した海軍のデーニッツ元帥を中心に停戦交渉が始まり5月8日には降伏文書に調印し、この忌わしい戦争は終わった。
「やっと戦争が終わったな!」
「これで晴れて自由ですか?」
「いや、しばらくは収容所だろう」
「何故です? 戦争はもう終わったのに」
確かに戦争は終わった。
だが、戦争の傷跡は未だ残っている。
中でも戦争と言う状況を悪用して、人為的に作られた傷の原因は調べなければならない。
その為の事情聴取が終わるまで、俺達は自由にはならない。
「でも俺たちはホロコーストには係わっていねえぜ」
「それに戦闘中に犯罪的な行為もしていません」
「そう。俺たちは敵に対する戦闘以外はしていません」
ホロコーストとは大量虐殺を意味する。
ナチスによるホロコーストとしては、ユダヤ人約600万人とソビエト軍捕虜約330万から570万人の虐殺が有名であるが、アインザッツグルッペンによる占領下のポーランドやソビエトでの虐殺数も85万人から130万人と言われる。
3人の言う通り何も疚しいことなどないから、一通り事情聴取が行われてそれが済めば解放されるはずだった。
「ルードウィヒ・ツァインホルン(ルッツの本名) ドイツ空軍所属、降下猟兵少尉。間違いありませんか?」
「間違いありません」
「1944年12月17日、あなたは何所に居ましたか?」
「ラインの守り作戦(バルジの戦い)のため、ベルギー北部にいました」
「もっと詳しい地名を」
「降下部隊はベルギーのリエージュ州ユーベンにある十字路を確保するように命令を受けましたが、私の搭乗した輸送機はコースを誤りベルギー北東部のドイツ国境付近の森で我々を降下させました」
「そこから昼頃には何所に居ましたか?」
「本隊に合流するために北上して、昼にはマルメディーの南にあるボーグネスと言う村に居ました」
「そこであなたは何をしました?」
「親衛隊が小屋に通信機を設置していたので、小屋に入り本隊に連絡を取ろうとしました」
「小屋を出たときに、あなたは何を目撃しましたか?」
「……親衛隊による捕虜の虐殺を見ました」
「ありがとう。今日は以上です」
「ルードウィヒ・ツァインホルン……いや、仲間が呼ぶようにルッツ少尉と呼びましょう。いいですか?」
「かまいません」
「あなたの付けているその柏葉付き騎士十字章は大変珍しいですが、名誉な勲章なのですか? なにか特典があると伺いましたが……」
「ええ、この勲章を着けていると、敬礼を優先的に受けられます」
「例えば親衛隊の中佐にも?」
「相手の持っている勲章が、これ以下なら」
「それだけ権威が有る勲章だと言うことですね」
「まあ、古いプロイセン騎士道の名残でしょう」
「ありがとう。ルッツ少尉、また会いましょう」
「ルッツ、まだ取り調べか? やっぱ将校になると大変だな」
「僕たちは、明日で釈放です。隊長も早く出て来て下さい」
「ホルツ、釈放は止せ」
グリーデンが釈放と言う言葉を使ったホルツを嗜める。
シュパンダウたち3人も、俺に掛けられた嫌疑を知っているのだ。
嫌疑は、1944年12月17日に起きたマルメディー虐殺事件。
あの日、俺は偶然虐殺を実行した部隊の本部に居た。
ただそれだけではない。
虐殺を生き延びた複数のアメリカ兵の証言によると、本部から出て来た将校の号令を合図に、一斉にドイツ軍兵士たちが銃を撃ち始めたことになっている。
その小屋から出てきた将校が、この俺という訳。
俺はあのとき拳銃を撃った親衛隊将校を止めようとして“Hör auf mit dummen Sachen‼(愚かなことは止めろ!)”と叫んだが、その将校は俺の言葉を無視するように直ぐに虐殺の命令を下した。
ドイツ語の分からないアメリカ兵にとって、親衛隊の将校は俺の合図で部下に虐殺の指示を出したように見えるかも知れない。
そして俺は、柏葉付き騎士十字章を胸に付けていることが、更なる災いとなってしまった。
ロス伍長をはじめザシャとマイヤーの3人とは遂に会えずじまいになってしまい、中隊長のオスマン大尉もこの戦いで行方不明になってしまった。
指揮官のハイテ中佐と150名の隊員だけが目標地点付近に降下出来たものの、作戦計画上では降下した17日中にはドイツ軍部隊が到着する予定だったものの19日になっても到着せず1日の食料と弾薬しか携行していない部隊は食料も弾薬も尽きて、その日のうちに降伏した。
輸送機のパイロットの技能低下は著しく、一部の部隊はドイツ国内のボンに降下し、ベルギーを飛び越えてオランダに降下した部隊も居たらしい。
折角最新鋭の武器や戦車を揃えても、部隊の前進に合わせて補給するための車両もなければ、肝心かなめの燃料もない。
部隊の前進をサポートする予備兵力もないから一部の地域では、捕虜を持ち余して虐殺が起きた。
そして国際法で禁止されている敵兵の軍服を着て、アメリカ兵に成り済ました部隊まで投入した。
結局ラインの守り作戦は失敗し、翌年の1月8日にはヒトラー自身による撤退命令が下った。
この自分勝手で野蛮な作戦を目の当たりにして、ジュリーがくれた微かな希望をもとに生き続けて行こうと思っていた心が折れそうになったが、その都度にシュパンダウたち3人に励まされて勇気を振り絞ってきた。
1945年4月30日。
ついにソビエト軍に攻め立てられたヒトラーは総統地下壕で自殺すると、この日を待っていたかのように新しく大統領に就任した海軍のデーニッツ元帥を中心に停戦交渉が始まり5月8日には降伏文書に調印し、この忌わしい戦争は終わった。
「やっと戦争が終わったな!」
「これで晴れて自由ですか?」
「いや、しばらくは収容所だろう」
「何故です? 戦争はもう終わったのに」
確かに戦争は終わった。
だが、戦争の傷跡は未だ残っている。
中でも戦争と言う状況を悪用して、人為的に作られた傷の原因は調べなければならない。
その為の事情聴取が終わるまで、俺達は自由にはならない。
「でも俺たちはホロコーストには係わっていねえぜ」
「それに戦闘中に犯罪的な行為もしていません」
「そう。俺たちは敵に対する戦闘以外はしていません」
ホロコーストとは大量虐殺を意味する。
ナチスによるホロコーストとしては、ユダヤ人約600万人とソビエト軍捕虜約330万から570万人の虐殺が有名であるが、アインザッツグルッペンによる占領下のポーランドやソビエトでの虐殺数も85万人から130万人と言われる。
3人の言う通り何も疚しいことなどないから、一通り事情聴取が行われてそれが済めば解放されるはずだった。
「ルードウィヒ・ツァインホルン(ルッツの本名) ドイツ空軍所属、降下猟兵少尉。間違いありませんか?」
「間違いありません」
「1944年12月17日、あなたは何所に居ましたか?」
「ラインの守り作戦(バルジの戦い)のため、ベルギー北部にいました」
「もっと詳しい地名を」
「降下部隊はベルギーのリエージュ州ユーベンにある十字路を確保するように命令を受けましたが、私の搭乗した輸送機はコースを誤りベルギー北東部のドイツ国境付近の森で我々を降下させました」
「そこから昼頃には何所に居ましたか?」
「本隊に合流するために北上して、昼にはマルメディーの南にあるボーグネスと言う村に居ました」
「そこであなたは何をしました?」
「親衛隊が小屋に通信機を設置していたので、小屋に入り本隊に連絡を取ろうとしました」
「小屋を出たときに、あなたは何を目撃しましたか?」
「……親衛隊による捕虜の虐殺を見ました」
「ありがとう。今日は以上です」
「ルードウィヒ・ツァインホルン……いや、仲間が呼ぶようにルッツ少尉と呼びましょう。いいですか?」
「かまいません」
「あなたの付けているその柏葉付き騎士十字章は大変珍しいですが、名誉な勲章なのですか? なにか特典があると伺いましたが……」
「ええ、この勲章を着けていると、敬礼を優先的に受けられます」
「例えば親衛隊の中佐にも?」
「相手の持っている勲章が、これ以下なら」
「それだけ権威が有る勲章だと言うことですね」
「まあ、古いプロイセン騎士道の名残でしょう」
「ありがとう。ルッツ少尉、また会いましょう」
「ルッツ、まだ取り調べか? やっぱ将校になると大変だな」
「僕たちは、明日で釈放です。隊長も早く出て来て下さい」
「ホルツ、釈放は止せ」
グリーデンが釈放と言う言葉を使ったホルツを嗜める。
シュパンダウたち3人も、俺に掛けられた嫌疑を知っているのだ。
嫌疑は、1944年12月17日に起きたマルメディー虐殺事件。
あの日、俺は偶然虐殺を実行した部隊の本部に居た。
ただそれだけではない。
虐殺を生き延びた複数のアメリカ兵の証言によると、本部から出て来た将校の号令を合図に、一斉にドイツ軍兵士たちが銃を撃ち始めたことになっている。
その小屋から出てきた将校が、この俺という訳。
俺はあのとき拳銃を撃った親衛隊将校を止めようとして“Hör auf mit dummen Sachen‼(愚かなことは止めろ!)”と叫んだが、その将校は俺の言葉を無視するように直ぐに虐殺の命令を下した。
ドイツ語の分からないアメリカ兵にとって、親衛隊の将校は俺の合図で部下に虐殺の指示を出したように見えるかも知れない。
そして俺は、柏葉付き騎士十字章を胸に付けていることが、更なる災いとなってしまった。
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