89 / 98
Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)
[Battle of the Bulge Ⅲ(バルジの戦い)]
しおりを挟む
運良く柔らかい木の枝にパラシュートが引っ掛かってくれたことで、地上への激突は免れたのは良いが、少々高すぎるようだ。
木に引っ掛かったパラシュートの遊んでいるロープを手繰ってナイフで切り、それを繋いでロープを作り張っているロープに結び付けてから、全ての装備を外してようやく木から降りることが出来た。
西の空が赤いのは、乗っていたJU 52が墜落したからだろう。
地上に降りてから直ぐに、俺が突き落とした若者を探す。
時速約160km/hで約4秒だから、200m以内の場所には降りているはず。
JU 52が墜落しているおかげで、大凡の飛行ルートが分かったので彼を探し出すのは以外に簡単だったが、それは何の意味もなさない事だった。
大きな木のそばで、雪に覆われた地面に蹲っていた若者は、パラシュートを広げたまま既に事切れていた。
木に引っ掛かった俺が助かったのとは逆に、飛び出した速度を左程減速できないまま地上に落下した彼は、その勢いのまま木の幹に体を打ち付けて絶命した。
もう少しホンの1秒でも早く飛び降りていたなら足の骨折だけで済んだかも知れないし、正規の降下訓練を受けていれば骨折もしなかったかも知れない。
降下経験もないこの若者がこの作戦に志願したのは、おそらく国を救いたい一心からに違いない。
祖国を守りたいと言う思いは大切だが、思いだけでは何にもならないのか……。
いつまでもセンチメンタルな感情に支配されている場合ではない。
俺達が装備しているのは1日分の銃弾と、水と僅かな食料のみ。
だから、彼の携帯している弾帯と水筒と食料を奪って仲間と武器の入ったコンテナを探すために歩いた。
人数を多く見せるためのカモフラージュに300体の人形を乗せる余裕があるのなら、シュパンダウが言ったようにそのぶん食料と弾薬を搭載しておいてくれればいいのに。
つまるところ、成功する見込みのない作戦に余計な物資を使用する事は出来ないと言うことなのか?
ならば、輸送機の燃料はどうするつもりだったんだ?
矛盾だらけの事を考えても仕方ない。
とにかく一緒に降下した仲間とコンテナを探さなければ。
次は更にここから300m離れたところで骨盤を骨折している状態で気絶していた。
骨盤骨折では支えがあっても歩くことはできない。
しかしこんな所に置いて行くこともできないし、俺一人では何もできない。
俺はその先に居るはずのもう1人を探したが、雑に隠されたパラシュートを見つける事は出来たが、もう既にそこには居なかった。
その先に進むと、小さな村の教会の屋根に掛かった十字架にパラシュートを引っ掛けて宙づりになった仲間を発見したので、救助して教会の柵に使われていた板切れとパラシュートを持って骨折している男の所に戻った。
いつ敵に出くわすか分からない状態。
しかも2人しか居ない状況では、普通の担架は危険だ。
パラシュートの布と板切れ、そして手に持つのに丁度いいくらいの木の棒をロープで縛り、引きずって歩ける簡易担架を作って男を乗せた。
時刻はもう9時を過ぎ時間を食ったが、雪道ではこの方が快適に運ぶことが出来る。
途中で武器の入ったコンテナを見つけ、FG42と手りゅう弾そして予備の弾薬を手に入れ、これでやっと兵隊らしい姿になることが出来た。
午後12時30分。
ボネと言う小さな村に近付いた所で、銃声が聞こえた。
様子を見に行くと親衛隊の戦車を含む装甲部隊と、アメリカの輸送部隊か観測部隊との戦闘で、圧倒的な装備の差から直ぐに戦闘は終わり多くのアメリカ兵が捕虜になっていた。
ここに無線機が有ると言うことだったので、小屋に入って本隊と連絡を取る事にしたが司令官のハイテ中佐にも、中隊長のオスマン大尉にも連絡は取れなかった。
おそらく降下の際に無線機が壊れたに違いない。
グリーデンの無線機は大丈夫だろうかと思い、連絡を取ろうとしたとき、小屋の外で2発の銃声が鳴った。
小屋から出て外を見ると、親衛隊の将校が拳銃で捕虜のアメリカ兵を撃っていた。
「Hör auf mit dummen Sachen‼(愚かなことは止めろ!)」
小屋から飛び出した俺を、多くのアメリカ兵捕虜が振り返ったが、親衛隊の将校は振り返りもせずに捕虜の虐殺命令を出した。
「Töte jeden!(皆殺しにしろ!)」
親衛隊将校の号令で捕虜を監視していた機関銃が火を噴き、逃げ惑うアメリカ兵たちがバタバタと倒れてゆく。
捕虜を取り囲んだ親衛隊員たちは機関銃だけではなく小銃なども使い、まるで狩りを楽しんでいるようにも見える。
「Holen Sie sich das Urteil Gottes‼(神の裁きを受けろ!)」
俺はそう叫ぶと、捕虜を撃っている親衛隊員達にFG42を向けようとしたところで後ろから誰かに羽交い絞めにされた。
「放せ‼」
「馬鹿! 止めろ‼」
後ろから俺を止めようとした男を振り解いた拍子に、持っていた銃も手から離してしまい慌てて取りに行こうとしたとき、もう1人の男に太ももにタックルを食らい倒された。
更に振り解こうともがく俺に対して、最初の男が覆いかぶさって来て俺の動きを止めて叫ぶ。
「ルッツ! クリスマスの約束を忘れたのか‼」と。
“クリスマスの約束”それはジュリーと交わした約束。
でも今日はもう12月17日。
クリスマスまでは、あと1週間しかない。
この戦いの最中に、終戦になるなんてことはあり得ないのだ。
「約束の日までに、パリに行くことはもう出来ない……」
急に体の力が抜けた。
生きているのが馬鹿らしくなった。
「でもジュリーさんは、クリスマスとしか言いませんでしたよ!」
「ホルツ!?」
俺をタックルで倒したのは、なんとホルツ2等兵。
「今年のクリスマスが駄目でも、来年がある。来年が駄目ならその次の年。人類が絶滅しない限り、クリスマスはなくならねえからな」
「シュパンダウ!」
木に引っ掛かったパラシュートの遊んでいるロープを手繰ってナイフで切り、それを繋いでロープを作り張っているロープに結び付けてから、全ての装備を外してようやく木から降りることが出来た。
西の空が赤いのは、乗っていたJU 52が墜落したからだろう。
地上に降りてから直ぐに、俺が突き落とした若者を探す。
時速約160km/hで約4秒だから、200m以内の場所には降りているはず。
JU 52が墜落しているおかげで、大凡の飛行ルートが分かったので彼を探し出すのは以外に簡単だったが、それは何の意味もなさない事だった。
大きな木のそばで、雪に覆われた地面に蹲っていた若者は、パラシュートを広げたまま既に事切れていた。
木に引っ掛かった俺が助かったのとは逆に、飛び出した速度を左程減速できないまま地上に落下した彼は、その勢いのまま木の幹に体を打ち付けて絶命した。
もう少しホンの1秒でも早く飛び降りていたなら足の骨折だけで済んだかも知れないし、正規の降下訓練を受けていれば骨折もしなかったかも知れない。
降下経験もないこの若者がこの作戦に志願したのは、おそらく国を救いたい一心からに違いない。
祖国を守りたいと言う思いは大切だが、思いだけでは何にもならないのか……。
いつまでもセンチメンタルな感情に支配されている場合ではない。
俺達が装備しているのは1日分の銃弾と、水と僅かな食料のみ。
だから、彼の携帯している弾帯と水筒と食料を奪って仲間と武器の入ったコンテナを探すために歩いた。
人数を多く見せるためのカモフラージュに300体の人形を乗せる余裕があるのなら、シュパンダウが言ったようにそのぶん食料と弾薬を搭載しておいてくれればいいのに。
つまるところ、成功する見込みのない作戦に余計な物資を使用する事は出来ないと言うことなのか?
ならば、輸送機の燃料はどうするつもりだったんだ?
矛盾だらけの事を考えても仕方ない。
とにかく一緒に降下した仲間とコンテナを探さなければ。
次は更にここから300m離れたところで骨盤を骨折している状態で気絶していた。
骨盤骨折では支えがあっても歩くことはできない。
しかしこんな所に置いて行くこともできないし、俺一人では何もできない。
俺はその先に居るはずのもう1人を探したが、雑に隠されたパラシュートを見つける事は出来たが、もう既にそこには居なかった。
その先に進むと、小さな村の教会の屋根に掛かった十字架にパラシュートを引っ掛けて宙づりになった仲間を発見したので、救助して教会の柵に使われていた板切れとパラシュートを持って骨折している男の所に戻った。
いつ敵に出くわすか分からない状態。
しかも2人しか居ない状況では、普通の担架は危険だ。
パラシュートの布と板切れ、そして手に持つのに丁度いいくらいの木の棒をロープで縛り、引きずって歩ける簡易担架を作って男を乗せた。
時刻はもう9時を過ぎ時間を食ったが、雪道ではこの方が快適に運ぶことが出来る。
途中で武器の入ったコンテナを見つけ、FG42と手りゅう弾そして予備の弾薬を手に入れ、これでやっと兵隊らしい姿になることが出来た。
午後12時30分。
ボネと言う小さな村に近付いた所で、銃声が聞こえた。
様子を見に行くと親衛隊の戦車を含む装甲部隊と、アメリカの輸送部隊か観測部隊との戦闘で、圧倒的な装備の差から直ぐに戦闘は終わり多くのアメリカ兵が捕虜になっていた。
ここに無線機が有ると言うことだったので、小屋に入って本隊と連絡を取る事にしたが司令官のハイテ中佐にも、中隊長のオスマン大尉にも連絡は取れなかった。
おそらく降下の際に無線機が壊れたに違いない。
グリーデンの無線機は大丈夫だろうかと思い、連絡を取ろうとしたとき、小屋の外で2発の銃声が鳴った。
小屋から出て外を見ると、親衛隊の将校が拳銃で捕虜のアメリカ兵を撃っていた。
「Hör auf mit dummen Sachen‼(愚かなことは止めろ!)」
小屋から飛び出した俺を、多くのアメリカ兵捕虜が振り返ったが、親衛隊の将校は振り返りもせずに捕虜の虐殺命令を出した。
「Töte jeden!(皆殺しにしろ!)」
親衛隊将校の号令で捕虜を監視していた機関銃が火を噴き、逃げ惑うアメリカ兵たちがバタバタと倒れてゆく。
捕虜を取り囲んだ親衛隊員たちは機関銃だけではなく小銃なども使い、まるで狩りを楽しんでいるようにも見える。
「Holen Sie sich das Urteil Gottes‼(神の裁きを受けろ!)」
俺はそう叫ぶと、捕虜を撃っている親衛隊員達にFG42を向けようとしたところで後ろから誰かに羽交い絞めにされた。
「放せ‼」
「馬鹿! 止めろ‼」
後ろから俺を止めようとした男を振り解いた拍子に、持っていた銃も手から離してしまい慌てて取りに行こうとしたとき、もう1人の男に太ももにタックルを食らい倒された。
更に振り解こうともがく俺に対して、最初の男が覆いかぶさって来て俺の動きを止めて叫ぶ。
「ルッツ! クリスマスの約束を忘れたのか‼」と。
“クリスマスの約束”それはジュリーと交わした約束。
でも今日はもう12月17日。
クリスマスまでは、あと1週間しかない。
この戦いの最中に、終戦になるなんてことはあり得ないのだ。
「約束の日までに、パリに行くことはもう出来ない……」
急に体の力が抜けた。
生きているのが馬鹿らしくなった。
「でもジュリーさんは、クリスマスとしか言いませんでしたよ!」
「ホルツ!?」
俺をタックルで倒したのは、なんとホルツ2等兵。
「今年のクリスマスが駄目でも、来年がある。来年が駄目ならその次の年。人類が絶滅しない限り、クリスマスはなくならねえからな」
「シュパンダウ!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる