軌跡 Rev.1

ぽよ

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3章

賢の考える未来

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 すぐにいい返事がもらえるとは思っていない。しかし、思ってたよりは渋い返答だった。
 バス停で降りてから、仁と別れて、少し歩けば家に着く。家に着いたらごろごろしながら研究資料に目を通す。一通りのんびりやることをやってから、同棲のことを考える。
 おそらくこの部屋ではできないだろうことは分かっていた。何より狭い。たまに仁が来て寝るだけならまだしも、日常の空間としてならもう少しスペースが欲しい。
それに家具家電類も小さいことも弊害になるだろう。その分だけ家事の頻度を上げれば良いのだろうが、いつまでもそんな悠長なことは言っていられない。
 何より、社会人と学生の同棲という提案は、不味かっただろうかと今更ながらに不安になる。しかし、今提案できなければ同棲を考えることすら無理になっていただろうことは予測できる。
 研究資料に目を戻しながら仁のことを考える。二年下の学生。賢のことを好きになった。これから先も恋人でいることは幸せになるための一歩になる。その一歩、踏み出すタイミングを考えるべきだっただろうか。とも思う。何事にも順序はある。まだ交わってもいない。色々なことが頭によぎる。
 恋人。ポツリと呟く。賢には今まで恋人が何人かいた。完全に絶縁になった人もいれば、今でも友達付き合いをしてくれる人もいる。しかし、前のようには戻らない。
 大きな一歩を踏み出すためには、覚悟と順序が必要になる。それを理解していたと思っていたのだが、そんなことはないと頭をハンマーで叩かれたようだった。何事もできぬまま過ぎていく人生になるのは嫌だったのだ。
 しかし、また選択を誤ったかもしれないと思うと、怖い。今は、返事を待つしかない。いつまでやきもきすることになるかはさっぱり分からないが、今はそれしかないのである。落ち着かない気持ちを抱えながらも、賢は、研究資料と睨めっこを続けた。
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