軌跡 Rev.1

ぽよ

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5章

賢の気持ち

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「話って何?」
「あぁ」

 仁から話しかけてきた。昼になって、研究室を出たところだった。いよいよこの時が来たか、という感じだ。食堂に向かいながら、話をする。

「同棲をしないか」
「同棲?」
「そう、同棲」

 仁は唐突に出てきた話題だと思ったかもしれないが、賢はずっと考えていた。この先ずっと恋人でいられるのなら、同棲をしたほうがいい。何かと負担が少なくて済む。
 賢が社会人になっても仁が学生なのはもちろん承知の上だ。挨拶も行かなきゃならないだろう。それでも、賢は同棲がしたかった。同棲をしたいほど、仁を好きになっていた。これから先、楽しいことだけではないことはもちろん分かっていた。しかし、いい人を取られないためにも、賢は同棲という選択肢がいいと思っている。

「同棲かぁ、家事とか家具とかどうするの?」
「だいたい俺の部屋にあるものでなんとかなる」
「食費は?」
「なんとかする」
「うーん」

 当然の如くだが、仁も単純には乗ってこない。現実的な問題を乗り越えていかなければ、それが不可能であることは分かっていた。まだまだいろいろと詰めていかなければならない話は存在するだろう。しかし、一歩進んで話だけでもしておけばこれからやることも見えてくる。その一歩を踏み出しておく必要があると思ったのだ。

「まぁでも、考えておくよ。親にも言わなきゃだろうし」
「うん、助かる」

 そこまで話をしたところで、食堂に到着した。後期が始まってるだけあって、夏休みよりははるかに人がいた。いつものメニューを買い、並び、席に着く。人がいるとは言いつつも、少しだけ時間が早かった。
 無事に席を取ることができ、悠々と座る。いつも通り、ご飯を食べる。意識していなかったが、座高で見ても仁の方が少しだけ低い。
 色んなことに気づきながら、色んなことを感じながら、一歩ずつ、前に進みたい。ご飯を食べながら、思う。幸せになれるための一歩、不幸せにならないための一歩。少しずつ、焦らず歩んでいこう。

「どうしたの?冷めるよ?」
「あー、うん」

 考え事のせいで手が止まっていた。今はご飯を食べてるんだ。少しずつ思考を落ち着かせながら、ご飯を食べ進める。仁はほとんど食べ終わっていたようで、食べ終わってからはずっと見られていた。

「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「まぁ、いろいろ問題が出たら、都度解決するための方法は考えていこう」
「うん」
「このあとはどうする?」
「研究室行く」
「はいよー」

 仁と2人で研究室まで歩く。これから先、色んな問題が出たり、同棲が難しくなることもあるだろう。しかし、それでもなんとか頑張って問題の解決をしていかなければならない。
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