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58話
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冬子さんと駅のホームで電車を待つ。その間にも容赦なく日差しが降り注ぐ。
「本当に暑いですね」
「昔はこんなことなかったと思うんですけどね」
「私の頃もそうでした」
「夏、冬よりはいいよなって毎年思うんですけど、毎年来るたびに1秒でも早く過ぎ去って欲しくなります」
「めちゃくちゃ分かります」
灼熱の駅のホームで電車を待つこと5分。そんな時間ですら汗をかくほど日本の夏は暑くなっていた。
ホームに停車した電車に乗り込み、座れる席がないか探す。休みの朝とだけあって、乗車率はまちまちであった。
自分より先に冬子さんが先に空いている席を見つけて、座席に座った。
座ってしまえばあとは揺られるだけである。
「大体どれくらいなんですか?」
「わざわざ2回乗り換えたら35分。このままいけば45分から50分ってとこですかね」
「それならこのまま座っていきましょう」
冬子さんがそういうのならそれで行く。普段なら乗り換えるところだが、今日は急いでも焦ってもいない。スマートフォンの時計を確認してもまだ8時30分だ。いつもより1時間は早い。焦る理由はどこにもなかった。
冬子さんと話をしながら電車に揺られること45分。いつもの景色が目の前に現れる。
「着きましたね」
「いつもの景色です」
「いつもはここで音ゲーしてるんですか」
「土曜日と日曜日はここでやってますね」
「なんかいいことあるんですか」
「引っ越した時には今やってるゲームを置いてるのが、ここが一番近かったんですよ」
「なるほど」
「最近、一駅のところにはできたんですけど、それしかないので」
「なるほど」
会話をしながらホームに降りる。そのまま改札まで抜けていく。いつもと同じ改札を抜けて、駅の南側に出る。
「向こうに行けば公園です。あっちに行けばご飯屋さんがあったりします。反対に行けば僕が行ってるゲームセンターがあります」
「行きましょうか」
「実はまだ開いてないんですよね」
「そういえば10時開店でしたね」
「ちょっとだけ散歩しましょう」
「実はここ初めてなので楽しみです」
「じっくりゆったりいきましょう」
とりあえず反対側に出る。誰かと本格的な外出なんていつぶりだろうか。緊張が身を固くする。
散歩をしながら、ことごとく閉まっている店を見て回る。
「いつぶりかわからない都会の空気です」
「やっぱり、ずっと仕事だったんですか?」
「そりゃもう、土日祝祭もないです」
「本当に大変だったんですね」
「だからこそ、秋吉さんのところに来られて、本当に良かったと思っています」
「いやまぁ、その……。結果オーライではありましたけど、本当にそれで良かったのかは毎日考えます」
「私にとっては最適解でした。体目的ではなかったというのも相まって」
「でも、あの頃の冬子さんは裸になってもお構いなしでしたよね」
「まぁ、人生がどうでも良かったので」
「今ではちゃんと脱衣所までいきますもんね」
「そりゃまぁ、私も女ですからね」
「そりゃそうですけども」
普通はあり得たとしても逆じゃなかろうか、というツッコミはしない。冬子さんが回復していくことはいいことに違いないから。
のんびり散歩すること15分。いよいよいろんな店が開店間近になってきた。
「そろそろ行きますか」
「分かりました」
「冬子さんにとって面白いかどうかは分からないので、面白くなかったら言ってくださいね」
「初めて見るので、じっくり観察します」
「それはそれで緊張しますね」
「大丈夫ですよ」
誰かと出かけるのすらいつぶりかというくらいなのに、誰かとゲームセンターに一緒に入るなんてもはや学生の時以来である。また新しい扉を、開こうとしていた。
「本当に暑いですね」
「昔はこんなことなかったと思うんですけどね」
「私の頃もそうでした」
「夏、冬よりはいいよなって毎年思うんですけど、毎年来るたびに1秒でも早く過ぎ去って欲しくなります」
「めちゃくちゃ分かります」
灼熱の駅のホームで電車を待つこと5分。そんな時間ですら汗をかくほど日本の夏は暑くなっていた。
ホームに停車した電車に乗り込み、座れる席がないか探す。休みの朝とだけあって、乗車率はまちまちであった。
自分より先に冬子さんが先に空いている席を見つけて、座席に座った。
座ってしまえばあとは揺られるだけである。
「大体どれくらいなんですか?」
「わざわざ2回乗り換えたら35分。このままいけば45分から50分ってとこですかね」
「それならこのまま座っていきましょう」
冬子さんがそういうのならそれで行く。普段なら乗り換えるところだが、今日は急いでも焦ってもいない。スマートフォンの時計を確認してもまだ8時30分だ。いつもより1時間は早い。焦る理由はどこにもなかった。
冬子さんと話をしながら電車に揺られること45分。いつもの景色が目の前に現れる。
「着きましたね」
「いつもの景色です」
「いつもはここで音ゲーしてるんですか」
「土曜日と日曜日はここでやってますね」
「なんかいいことあるんですか」
「引っ越した時には今やってるゲームを置いてるのが、ここが一番近かったんですよ」
「なるほど」
「最近、一駅のところにはできたんですけど、それしかないので」
「なるほど」
会話をしながらホームに降りる。そのまま改札まで抜けていく。いつもと同じ改札を抜けて、駅の南側に出る。
「向こうに行けば公園です。あっちに行けばご飯屋さんがあったりします。反対に行けば僕が行ってるゲームセンターがあります」
「行きましょうか」
「実はまだ開いてないんですよね」
「そういえば10時開店でしたね」
「ちょっとだけ散歩しましょう」
「実はここ初めてなので楽しみです」
「じっくりゆったりいきましょう」
とりあえず反対側に出る。誰かと本格的な外出なんていつぶりだろうか。緊張が身を固くする。
散歩をしながら、ことごとく閉まっている店を見て回る。
「いつぶりかわからない都会の空気です」
「やっぱり、ずっと仕事だったんですか?」
「そりゃもう、土日祝祭もないです」
「本当に大変だったんですね」
「だからこそ、秋吉さんのところに来られて、本当に良かったと思っています」
「いやまぁ、その……。結果オーライではありましたけど、本当にそれで良かったのかは毎日考えます」
「私にとっては最適解でした。体目的ではなかったというのも相まって」
「でも、あの頃の冬子さんは裸になってもお構いなしでしたよね」
「まぁ、人生がどうでも良かったので」
「今ではちゃんと脱衣所までいきますもんね」
「そりゃまぁ、私も女ですからね」
「そりゃそうですけども」
普通はあり得たとしても逆じゃなかろうか、というツッコミはしない。冬子さんが回復していくことはいいことに違いないから。
のんびり散歩すること15分。いよいよいろんな店が開店間近になってきた。
「そろそろ行きますか」
「分かりました」
「冬子さんにとって面白いかどうかは分からないので、面白くなかったら言ってくださいね」
「初めて見るので、じっくり観察します」
「それはそれで緊張しますね」
「大丈夫ですよ」
誰かと出かけるのすらいつぶりかというくらいなのに、誰かとゲームセンターに一緒に入るなんてもはや学生の時以来である。また新しい扉を、開こうとしていた。
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