明太子

ぽよ

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交わり

12話

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 莉子が探していた喫茶店は服屋から10分ほど歩いたところにあった。

「あ、ここです」
「ここね」

 その喫茶店は日本でも有名な喫茶店だった。休日の昼だというのに待ち時間がなかった。

「珍しいですね、待ち時間が無いの」
「そうですね、そんな外れた場所じゃ無いのに」

 都会の喫茶店は混む。そんな潜在意識を一瞬で覆すほど空いている喫茶店で、ボックス席に座る。ここの味がよほど美味しく無いのかと思ったが、前に来た時はそんなことなかったはずだ。

「偶然ですかね」
「だと思います」

 無難な会話で終わって続かない。でも、望月のような不快感はなかった。防御する必要もなさそうだった。
 小倉と二人でメニューを決める。昼時とあっていろんなものに目移りする。その中でも美味しそうなアイスココアとパンケーキに決めた。

「小倉さんは決めました?」
「メロンソーダとグラタンにします」
「がっつりですね」
「まぁ、男ですし、昼飯ですし」

 小倉はそう言うと、ベルボタンを押した。少し待つと店員が来て、注文を聞いた。二人ともさっきの会話と同じものを注文すると、店員は厨房へと戻っていった。

「小倉さんは先輩の彼氏だったんですよね」
「まぁ、そうですね」
「どんな人でしたか?」
「どんな人?うーん、どんな人」

 小倉は悩んでいた。別れてもなお先輩のことは嫌いじゃないらしい。悩みに悩んだ挙句、語り始める。

「恭子さんは姉御体質でしたね」
「そんな感じはしますね」
「人のことは甘やかすんですけど、甘えるのは苦手って感じでした」
「なるほど」
「関係としては恋人だったんですけど、難しいことも多かったですね。将来を考えられるかっていう部分も含めて」
「将来」
「結婚できるかとか、結婚した先の未来とか、子供ができたらとか、そういうことですね」
「なるほど」

 莉子には遠い異世界のような話だった。小倉は先輩とかなり進んだ関係だったことは間違いない。別れてしまったとしても、そうなれたことが羨ましかった。

「そういえば」
「はいなんでしょう」
「私、先輩に莉子ちゃんは明太子ねって言われたことあるんですけど、小倉さんは食べ物に例えられたことありますか?」
「うどんって言われたことはある気がします」
「あるんですね」
「まぁ、そうですね」

 苦笑しか出てこないが、想定済みの事態だった。その会話の少し後、急に喫茶店が混み始める。そのタイミングで料理が運ばれてくる。

「あ、来ましたね」
「きましたね」
「いただきます」
「いただきまーす」

 小倉はお腹が空いていたらしい。運ばれてくるとすぐにグラタンを食べ始める。横に並ぶのはメロンソーダ。どう見ても食べ合わせが悪い。人の食の価値観にケチをつける趣味はないが、それを理解できるとは思わなかった。
 莉子もパンケーキを食べる。安定感のある味。挑戦しない代わりに得られる安心感。ここのパンケーキにはそれが詰まっている。

「なんか、すいません今日は」
「え、なんかありましたか?」
「いきなり服屋に来てもらったり、喫茶店に連れてってもらったりして」
「全然気にしてないですよ!」
「それならいいんですけど……」

 なぜかすごく申し訳なさそうな顔をする小倉を見ながら、莉子も半ば強引に喫茶店に来てもらったような気がして申し訳なくなった。
 少しだけ暗い空気が流れたが、そのあとは変わらずの会話が続いた。小倉のことで気になることをいくつか聞いて、莉子も小倉から気になることを聞かれた。不快な思いをすることなく時間が過ぎていった。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうしましょうか」

 莉子の中では話題がなくなった頃、小倉の方から声をかけてくれた。正直助かったと言わざるを得ない。そのままの流れで小倉がオーダークリッパーを持って会計へと進む。

「私も出します」
「いや、ここは俺が出します」
「そんな、服も買ってもらったのに」
「いいんですよ」

 小倉はそう言って代金を支払った。服もこの喫茶店も安くはない。小倉の考えていることが分からなかった。
 喫茶店を出て、駅まで歩く。朝とは違う出入り口から駅へと入る。

「私が知ってるのはこの出入り口ですね」
「なるほど、一番有名ですもんね」

 この駅で駅前インタビューがされるなら間違いなくここだと言うくらい、この出入り口が有名だ。駅構内を抜けて改札を抜ける。休日の昼下がりというのはやはり混んでいる。
 電車に乗るためのホームに降りると、次の電車までは5分だった。

「次の電車、あれですね」
「大人しく待ちましょうか」

 小倉と他愛ない話をしながら待つ。いい距離感で話すことができるいい人だ。やはり先輩と関わりがあったということも影響しているのだろうか。先輩の影響力が全てというわけではないが、やはり長く付き合えばその分だけ人は変わるし、変えられる。莉子自身もそれは実感していた。
 ホームに着いた電車に乗り込む。その後も会話は続いた。

「また、機会があったら誘ってください」
「あ、俺ももし良かったら誘ってください」
「分かりました」

 その瞬間だけ緊張した空気になったが、問題なく誘ってもらえそうだ。気が向けば莉子から誘うこともあるだろう。今はまだ無さそうだが、今後の展開次第では十分にあり得る。
  二人で電車に揺られていると、小倉が降りる駅だった。

「じゃあ、俺はここで降ります」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です!」

 小倉が降りて、立ち止まる。こっちを向いて、扉が閉まると手を振った。莉子も遠慮がちではあったが手を振った。
 まるで青春物語の中に飲み込まれたような感覚だったが、すぐに現実に引き戻される。家に帰ってから何をしようか。先輩にはどう報告しようか。電車に揺られながら、次の一手を模索していた。
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