世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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邂逅

違和感

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 2限に高杉に会うことはなかった。教授の話を聞いて適当にメモを取るだけの90分間が過ぎ、チャイムが鳴る。荷物を直して席を立ち、講義室から出ると高杉がいた。正確にいうと待ち伏せをされていた。

「ご飯一緒に食べない?」
「えぇ、別に構わないけれど」

 待ち伏せをしていた高杉は梨咲を見て唐突に話しかけ、了承が得られると梨咲と歩き出した。二人で歩きながら食堂へと向かう。関係は友人かもしくは知り合いくらいなのだが、見た目的には恋人に見えてしまうかもしれない。そんなことが分かっているのかいないのか、高杉は梨咲と並んで食堂へと向かって歩いていく。
 ゴールデンウィークが終わったこともあり、少しずつ大学の空気は緩み始めていた。それと同時に講義を欠席する学生が増えてきたのか、食堂の席も確保しやすくなっていた。高杉と二人で座る席の確保も簡単にできた。相変わらず梨咲は弁当を持ってきているが、高杉も相変わらず食堂のご飯を食べているらしい。高杉が昼食をもらいにいく間に梨咲は弁当を食べ始める。1ヶ月ぶりだったが、何の違和感もなく食べていた。
 最近は高杉以外にも友人が増えてきた。それに伴って一人で昼食を取ることも少なくなった。今日は高杉と食べることになったという程度の認識だ。色んな友人と昼食を共にしたが、高杉はなぜか心が安らぐ気がした。何かが梨咲の中で起きているのだろうか。そして高杉が戻ってくる頃にはお弁当の中身を3割ほど食べ終わっていた。前もこんな感じだった気がした。そして定食を持った高杉も席に着くなり食べ始め、梨咲に話しかける。

「小宮さんと昼ごはん食べるの久しぶりだ」
「そうだね」
「変わったことあった?」
「別に特にはない」
「そっか」

 声の聞こえやすくなった食堂。相変わらずの素っ気なさで返答をするが、悪意があるわけではない。梨咲は心の中で言い訳しながら弁当を食べ進める。梨咲は食が太い訳ではない。それなりの弁当の大きさで、それなりの時間で食べ終わる。いつもと同じような弁当を食べて、足早に食堂を出る。高杉のことは気になっていたが、待ってあげるほど仲がいいというつもりもない。残っている昼休みは、自分の趣味に費やしたい。
 ゴールデンウィークの終盤くらいから趣味の読書を再開した。授業がない時間や、昼休みの余った時間は本を読んでいる。高杉の昼食の残りの量から考えても追ってくることはほとんどあり得ないと考えると、ゆっくりと読書ができそうだった。3限は空き時間だからたっぷり読書ができる。ジャンルは様々だが、小説を読むことが多い。
 昼休みでガヤガヤとした構内を抜けて図書館に入る。相変わらず図書館は静かだった。建物の性質上静かであることはいいことなのだが、今日はなぜか不思議な感覚を覚えた。今日は1階でゆっくりと読書をする。頭に少しだけ高杉の姿がチラチラと浮かんでいたが、本の世界になんとか入り込んでいく。ゆっくりと、じっくりと。この時間が梨咲は好きだった。しばらくは高杉のことを忘れて読書に没頭しよう。図書館に入って少しだけ奥にある椅子に座る。3限はまだ始まっていない。

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