世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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 後期が始まって2週間が経過していた。高杉と隣り合わせで座っているこの講義は必修科目。必修科目なのに席順がないかと思えば1回目に座った席順で指定席にすると言われた。高杉は横に座っていたため、講義の間ずっと横に高杉が座っていることになる。それはそれで構わないのだが、高杉がどんなノートの取り方をするのかをよく知らない。以前から少しだけ気になっていた。
 最近の梨咲は何かが少しずつ変わり始めていた。前までは全然気になっていなかった事が少しずつ気になるようになってきた。その分だけ、他人に興味が出てきたということかもしれない。自分の変化を自覚するとなぜか恥ずかしくなるが、そんなことは言っていられない。今は講義中だ。
 この必修科目は、おそらく履修している学生の全員が出席している。梨咲が普段から受けている講義は普段から席が空いていることがあるのだが、この講義は見事なまでに席が埋まっているのである。前半だから講義を受けているのか、全員が真面目で講義が終わる頃まで全員が同じように出席しているのか。その深層心理が、心理学科を卒業する頃には分かるようになっていたりするのだろうか。
 相変わらず専門用語が並ぶ講義。気がつけば90分が経過していた。チャイムが鳴って、それと同時に教授も講義室を出る。その後に学生もまばらに立ち上がり始め、梨咲もそれに倣って立ち上がる。歩いて食堂へと向かうところで、高杉も立ち上がり横を歩く。高杉は恋人になっても相変わらずの距離感で梨咲に接していたが、特に干渉することもなく難しいことを要求するわけでもなく、普通の恋人でいてくれた。梨咲が最初に冷たい態度だったためにまだ警戒しているのかもしれないと思ったが、それならそれで困らないというのが正直なところだ。構内に出て、昼休み特有の喧騒をくぐり抜けいつもの如く食堂へと向かう。
 食堂のガラスの扉を開け中に入ると、もうかなりの人数が座っていた。何とか空いている席に座って弁当を取り出す。その間に高杉はいつも通り食券を持って定食をもらっていた。ゆっくりと昼ごはんを食べ始め、少し食べ進めたところで高杉が帰ってくる。

「食べ始めてたんだね」
「うん」
「3限はなんかあるの?」
「ない」
「3限の後は?」
「ないよ。今日は午前中だけ」
「なるほどね。この後は帰るの?」
「まぁ、図書館ちょっとだけ寄ったら帰ろうかしら」
「俺は3限あるから、受けてくる」
「分かったわ」

 弁当を食べてる時は基本的に素っ気ない返答になってしまう。食事は楽しい時間だけれど、エネルギーを蓄えるための時間でもある。その話は高杉にしてあった。だからと言って、素っ気ない返答になっていい訳ではないのだけれど。しかし高杉も会話がなければそれなりに食べるのが早い方で、梨咲と同じくらいには食べ終わっていた。

「じゃあ、俺は3限に行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 高杉はその言葉を吐き出すと席を立って食器を流しに行った。その少し後で梨咲も弁当を畳み、荷物をまとめると食堂を出た。図書館で一息ついてから家に帰ろう。梨咲は少しずつ止みつつある喧騒の中を抜けて歩き出した。
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