世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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距離感

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 その後も、高杉とのショッピングモールデートは何事も無く進む。買い物が終わりモールを出ると空は闇に染まりつつあった。   
 デートも終盤に差しかかり、帰るために駅の方向へと歩くかと思ったら、川の方向に向かって歩き始める。高杉の意図が全く分からないまま一体何があるのかと思って歩き続けると、だんだん和服の人が増え始める。一体何事かと思いながら歩き続ける。段々と人混みの様相を呈してくる。さらに、和服じゃない人も増え始める。突然高杉が立ち止り、そこで梨咲も立ち止まると、一筋の光が空へと向かって上がっていた。その後、大きな音と共に綺麗に咲いた花火が見えた。

「今日、花火大会だったんだね」
「8月末日にはここで花火大会が開かれるんだよ」
「知らなかった」
「俺もつい最近まで知らなかったんだけど、知ってから小宮さんを連れてきたいなと思ってたんだよ」
「なるほど。ありがとう」
「花火は好き?」
「花火は好きだよ。綺麗だよね」
「良かった。花火は綺麗だね」

 ひたすら上がり続ける花火を見る。高い音を立て、まるで決まったような位置で光の華が咲く。昔ながらの風情ある花火ではないが、鮮やかな色が空の一面を覆うというのも悪くない。吸い込まれるように花火を見続け、気がつけば30分が経過していた。そして、3分ほど花火が上がらない時間があった。天気は快晴。そして少しの風。花火の後の煙も流れてくれる最高の天気の中、花火が上がらず周りがざわざわとし始める。そしてさっきと同じような音が鳴り数瞬の後、あたりが急に明るくなる。まるで昼のような空だった。約5秒間それが続いた後、空は夜へと戻っていく。

「今のすごかったね」
「この夏の花火が有名なのは今のがあるからだったんじゃないかな」
「なるほど、納得したかも」
「また一緒に来れるといいね」
「来年とかね」
「そうだね」

 観客の歓声の残響まで完全に消えた後、花火が終了したと言うアナウンスが流れる。その後、まばらに歩き出す人たちに混ざって2人も歩き出す。夏休み最後のデートは、花火という鮮やかな思い出とともに閉じていく。

「こういうデート、楽しいね」
「風情がある」
「買い物に風情はあるの?」
「多分」
「多分かー」

 高杉と笑い合いながら他愛のない雑談。出会った当初はそっけない返答をしていた梨咲も、少しずつ笑顔を見せるようになっていた。少しずつ高杉に心を許しているという変化なのか。昔から梨咲の中にある意識の、恋人であっても他人は他人。その意識が少し薄れた瞬間かもしれない。
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