世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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いつもの

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「ショッピングモールね」
「まぁ、無難に」
「今日は何見るの?」
「靴とか」
「私特に困ってないわよ」
「一緒に見てほしいのがあるの」
「そう?ならついていこうかしら」

 東口を出てから5分ほど歩いたところに、大きめのショッピングモールがあった。高杉とは前にも別のショッピングモールに来たことがある。つまり、何度目かのショッピングモールデートである。デートでいつも行くのは服屋だったけれど、今回は何か別の行先があるのだろうか。高杉の真意が汲み取れないままショッピングモールの中を歩いていく。
 高杉は梨咲の手をとって堂々たる歩調で靴屋へと入っていく。途中気になる靴があるわけでもなく、風景のように流れていく。いよいよ履いてみて欲しい靴が見つかったらしく、それを手に取って梨咲に手渡してくる。

「この靴、どう?」
「どう?うーん、まぁ悪くないけど」
「なるほど」

 何を納得したのか分からないが、高杉にはやはり思うところはあるようだ。梨咲としても悪くはない靴だった。しかし、履き心地を見てみないとなんとも言えない。試しに靴を履いてみると、梨咲が持っている靴とは少しだけ違う印象を受けた。底が厚いわけではない。それなのに足への負担が少ないような気がする。そして、靴本体も軽過ぎず重過ぎずという重量感だった。足踏みをして、それから少しだけ歩いてみても違和感なく歩くことができた。しかし、現状を考えると、この靴を買う理由が見つからない。梨咲は靴を色んな種類で履きこなす趣味は持っていなかった。靴を脱ぎ、元にあった場所に戻すとそれを狙ったかのように高杉が取ってレジへと向かった。反応に遅れた梨咲は後を追いかけるが、追いついた頃には高杉はすでにレジで会計を終えていた。

「ちょっと、なんで買ったのよ」
「これは小宮さんへの誕生日プレゼント」
「誕生日プレゼント?」
「そうだよ。小宮さんは昨日が誕生日でしょ」
「そういえばそうだわ」
「だから、受け取って」
「うん。ありがとう」

 昨日が誕生日であることを梨咲本人も忘れていた。そして、半ば強引にプレゼントを渡された。嬉しい気持ちが半分。戸惑いの気持ちが半分。そのままの勢いで靴屋を出ると、二人で備え付けのベンチに座った。特に会話が起きることはなく、二人でただ座っているだけになったが、何故か気まずいということもなく座っていられた。そんな状況になったからこそ、高杉が何を考えてどうしたいのか少し分からなくなった。
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