世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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「おはよう」
「うん、おはよう」

 突然高杉にデートに誘われた。日程は、夏休み最終日の8月末日だった。 8月は地獄のような暑さが続いていたけれど、今日は少しだけ風が吹いていて涼しかった。大学の最寄駅で高杉と待ち合わせをしてから出かけることになっている。朝の8時。いつもより早起きをして出かける準備をして家を出た。集合場所に行くと高杉は到着していて、梨咲を見つけると手を振ってきた。今日のデートの行き先は繁華街だった。繁華街とは言いつつも行き先の駅しか分かっていない状態で、本当に大丈夫なのだろうかという気持ちがあったが、そこは高杉がなんとかしてくれるのだろう。最後の思い出作りなのか、急な準備物を用意するためなのか、。なんだか今日はいつもより人が多いような気がした。夏休みの間にしていたことを話してから、また2人で駅へと入る。

「じゃあ、行こっか」
「行きましょうか」

 2人で手を繋いで歩き、改札を抜けて電車に乗る。30分ほど快速電車で揺られていればその繁華街には到着する。その間は高杉と夏休みの自分の過ごし方の話の続きをした。梨咲は相変わらず家でスマートフォンを操作する毎日だったが、高杉は図書館に通ったりイベントに行ったりしていたようだ。
 高杉によると、今日もそのイベントの一環らしい。曲がりなりにも彼女である梨咲が誘われていなかったことが不可解だったが、誘って欲しいという気持ちが芽生えている自分に気付いた。それでも一応、一人で行かないのかと聞いてみると、今日は梨咲と行きたかったという返答だった。夏に恋人と見るものといえば花火くらいしか思い浮かばない梨咲だったが、彼はまた別のものを想像しているのかもしれない。それは今日のどこかで解決する。
 ひとしきり話してから改札を抜けて電車に乗り込む。車内は本当に今日で夏休みが終わるのかと疑問になるほどの騒がしさだった。そんな電車にゆっくり揺られて30分。降りる駅に到着する。

「ずいぶん遠くまできた気がする」
「快速で30分は結構距離あるよね」
「今日は何するの?」
「本を見たりご飯を食べたり、って感じ」
「なるほど。いつも通りだね」
「まぁそうなっちゃうね」
「それも楽しいからいいんじゃないかな」
「うん」

 この夏最後のデートも、なんの変哲もないデートとして過ぎていく。そんなことを考えながら、高杉と二人で歩く。降りたことのない駅で吊り看板を見て出口を目指す。中央改札を抜けてから東口に歩けば目的地があることだけはなんとなく分かった。反対側の西口は目に見えて何もなかったのだ。大きな幹線道路とオフィスビルが見えるだけの出口だった。通勤ラッシュの時間帯なら西口に行く人の方が多いんだろうか、ということを考えながら東口の出口へと歩いていく。
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