世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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 大学生活を過ごすうちに、どうすればうまく世を渡れるのかを考えるのが癖になった。どんな楽な生き方を考えても結局現実は泥臭く生きることが前提になってしまう。家でレポートを書きながら、早く終わらないかと念じ続ける。目の前の恋人も同じことを考えていたようだ。休みの日に恋人と2人でレポートを書く。なんとも夢のない実情だが、無理に出かけるということもなく、今できることをできているというのが梨咲にとっては嬉しかった。
 基本的には黙々とレポートを書き続けているが、たまに大学の話になれば盛り上がることもある。朝食はお互いの家で食べて、昼食はカップラーメンを食べた。なんだかんだで夕方になっても終わらないレポートの山。2週間後に中間試験を控えているが、今はそんなことすらも考えられないほどののレポートの量だった。

「レポート終わったら試験もあるし大変だ」
「それが終わったらしばらくはゆっくりできるよ」
「それはそうだけど」
「ところで晩御飯どうする?」
「家に帰って食べるかなぁ」
「そっか。了解」
「食材を買い出して2人で作って食べるのもいいけど」
「あ、それいいじゃん。そうしよう」
「お、そうするか。何作る?」
「うーん、スーパー行ってから決める」
「了解」

 時刻は16時。梨沙のいつものスケジュールだと、もうすぐ夕食を作り始める時間。そして、2人ともレポートはもうすぐ書き上がる。レポートが書き終わってからでも遅くはない。目の前のパソコンと格闘しながらキーボードを叩き続ける。心理学のレポートや哲学やその他教養科目のレポートが降り注ぐ中で、後少しで終わるという気持ちだけが2人を動かしていた。少しずつ空も暗くなりつつある。2人の気分は少しずつ明るくなっているが、少し前までは暗闇のような気分だった。

「書き終わった!」
「俺も終わった!」
「おつかれー」
「おつかれさまでした」

 少し小さな机でパソコンを閉じ、そのまま突っ伏す2人。やるべきことが終わり、ひとまず休憩ということになった。しかし思えば、恋人と食材の買い出しなんてしたことがなかった。高杉のアレルギーや嫌いなものはいまいち分からないけれど、これを機にわかるならそれもまた大事なことだ。高杉との距離感が、少しずつ分かってきた。それが、なぜだか嬉しかった。
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