世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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一歩先へ

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 仕事から帰宅途中、最寄駅から家まで帰る途中で梨咲は考えていた。高杉がもう帰ってきているかは分からないが、今日は話をする。最近の高杉について。そして、二人のこれからについて。考え事をしている時は時が経つのが早い。それは歩いていても同じだった。特に風景を見ることもなくスマートフォンを見ながら歩けば目の前に家の扉があった。
 同棲を始めた時に作った合鍵でロックを解除して部屋に入る。まだ高杉は帰ってきていなかった。帰宅して荷物を置いてから手洗いうがい。冬も差し迫ってきて風邪が少しずつながら流行り始めている。予防は怠らないのが吉だ。それも終わって冷蔵庫の中に冷やしてあるデザートを食べている時に高杉が帰ってきた。

「おかえり」
「ただいまー。疲れたー」
「達也お疲れ様」
「梨咲もお疲れ様」
「うん、ありがとう。今週も大変だった」
「本当だよね」

 いつしか私たちは下の名前で呼び合うようになっていた。ずっと苗字で呼んでいた大学生の頃が懐かしいほどだ。気がつけば無意識に名前で呼ぶようになり、はっと自覚した時には違和感を覚えた。しかし、それもまた関係性を含めた進歩の一つだと言えるはずだと梨咲は感じていた。二人でゆっくりと座って休憩すること10分。夕食を作る段階になる。
 今日の夕食はチャーハンだった。二人で具材を切って炒めて作る。二人とも料理の腕はかなり上がってきており、どっちが炒めても中華料理屋のようなチャーハンが出来上がっていた。デートの時に買った中華料理屋にありそうな皿に盛り付ける。そして食卓に持っていって二人で食べる。料理を作っているときは真剣な顔をする高杉も、食べる時になると笑顔に変わる。
 味わいながらチャーハンを二人とも食べ終えて、食器を流し台に出してから一息つく。10分ほど二人ともスマートフォンを操作する時間があってから、梨咲は高杉に聞いてみた。

「最近、疲れてる?」
「え?うん、まぁ」
「そっか」
「どうしたの」
「最近、達也の返事が生返事だったりすることがあるなぁって」
「あー、ごめん。頑張って直すようにはする」
「うん、ありがとう」

 なんとなく気まずい空気が流れる予感がしたが、そんなことはなくいつも通りの日常が流れていく。眠そうな高杉と話をしながら寝る時間までの幸せを享受する。二人の関係性が今後どうなるかなんて誰にも分からない。けれど、幸せになれるのなら、それが一番であることは梨咲も分かっていた。
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