短編集

ぽよ

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スキル

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 私は人より字が上手いらしい。中学校の頃は字が下手くそだった。高校生になった頃くらいから字が汚いということを自覚して、字が綺麗に書けるように練習するようになった。習字を習ったわけでは無かったので、格段に上手くなることはなかった。
 そんな努力も功を奏し、高校生の2年くらいから字が読みやすいという評価をもらうことが増えた。自分の中では全然綺麗に欠けているという自覚はなかったが、良い評価をもらうのは嫌ではなかった。そんな評価をもらってからも、字を綺麗に書けるように練習は怠らなかった。
 大学生になって公文書への署名や記入が増えたとき、字を綺麗に書く練習していてよかったと思うことが増えた。

「お、今日も書いてるね」
「まぁ、はい」

 総務の人が私の働く部屋にやってきた。話しかけてくる感じに嫌らしさはないが、だからこそ面倒だった。
 私がこの部屋に配属されて早二年。宛名書きだけを八時間続けてきた。
 最初は営業部配属だった。抜群に仕事ができたわけではないが、それなりには頑張ってきた。たまたまメモ書きしていたのを見られたのが全てだった。その次の年から宛名書きを任されるようになった。
 今の仕事はそれだけだった。それ以外はしなくても良いが、私はこんな仕事がしたくてこの職場にしたわけじゃなかった。字が綺麗であることは誇りたいが、仕事になるなら捨てたいスキルだった。
 散々考えた挙句定時になって、退社する。しかし、考えはまとまった。やることをやれば、それでいいのだ。
 次の日、総務の人間が部屋に入ると一通のの封筒が置かれていた。今まで見た中で一番綺麗な字だったその題字を見て、全てを悟った。それは、退職届だった。
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