短編集

ぽよ

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推され

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 八畳一間のワンキッチンのアパートの一室。そこに、僕と彼女は住んでいた。今日は土曜日。2人とも土日休みの仕事のおかげで、休みの日は確実に2人で過ごすことが出来ていた。今日は土曜日。朝の10時。起きてスマートフォンを確認して、身支度自体は終わっているが、出かけるまではまだ時間があった。そんな時、ふと彼女に聞いてみた。

「なんで君はそんなにおしゃれなんだ」
「今まで彼氏がいたことあるからかなぁ」
「僕も君以外の彼女はいたことあるよ」
「え、そうなんだ」
「まぁ、いたことがあるだけで特別なことはなにもしてないけど」
「そうなんだ」
「でもおしゃれにはならなかったんだよね」
「いかに相手を意識するかだよ」
「そうなんだ」

 何も渋ることなく答えを教えてくれた彼女だが、その答えの意味がさっぱりわからない僕は、首を傾げるしかなかった。そんな僕に彼女は解説してくれた。

「私も君も、推しがいる」
「いるね」
「私たちは推しを推すけど、推しは推されるわけ」
「はい」
「そうすると、推される側は当然身なりを気にするわけ」
「なるほど」
「自分がどうあるべきかとか、自分に何が似合うかとかを探すわけよ」
「なるほど」
「それを繰り返していけば、自分に似合って、おしゃれに見えるものを見つけられるようになる」
「深い話だった」
「君のジーンズにTシャツも悪くないけどね」
「あら、嬉しい」
「人には人の似合うがあるから」

 彼女はそう言うと、立ち上がってくると回って見せた。今日もバッチリ似合った服だった。

「どう?かわいい?」
「最高」
「やったー!」

 今まで真剣な話をしていたはずの彼女がニコニコ笑顔になって座り直して飛び込んでくる。何事かと思いながら受け止める。

「君にとって私は推されだからね。君も、私にとって推されだからね」
「なるほど」
「そうだ、今日は服屋に行こう」
「いいけど」
「これまで知らなかった自分見つけて、さらなる高みに登るのさ。推されとしてね」
「頑張る」
「よし、じゃあ行こう!」

 彼女は突然立ち上がり、その勢いで僕を引っ張る。今日も今日とて推しとの日常が始まっていく。
 誰よりも輝くその存在に一歩でも近づいていくために、今日もまた、推されとして進化していく。
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