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「私と、婚約解消してくれ。」

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此処に一組の男女がいる。
黒のタキシードの男性と赤いドレスの女性。彼等は親が決めた婚約者同士である。いわゆる、家同士の利益の為の婚約。政略的婚約である。

大安吉日の良き日。
今日は彼等の婚約披露のパーティーであった。とあるホテルの一室を借り受け、と言っても大ホールである。綺羅びやかなホールに沢山の知り合いの貴族を、これから知り合おうとする貴族を招待しての婚約お披露目パーティーであった。

男性の名はガレット・フォン・ショコラ公爵令息。艶のある黒髪に緑の瞳、長身に黒の裾の長いタキシードがよく似合っている。
何より女性にモテそうなイケメンである。モテではなく、彼はとてもモテていた。色気のある顔立ち均衡の取れた肉体、公爵家の三男坊であるがをも引いていた。そして何故か彼は今まで婚約者が居なかった為、の令嬢と浮世を流していた。

婚約披露であるが故、婚約者である令嬢をエスコートはしていたが、親に無理矢理決められた婚約に彼は始終不機嫌な顔を隠すことはなかった。

(ちょっと、いい加減にして欲しいわ。)
婚約者である彼女は、一応のエスコートを受けながら心の中で愚痴た。

(なんなのよ、その不機嫌な顔。本当にいい加減にして。)
眉間に皺を寄せているガレットを彼女は下から覗き見る。彼の顔は愛想笑いを称えているが、瞳は笑っていなかった。

(親に決められた私が嫌なのは分かるけど、私だって親に無理矢理婚約を決められたのよ。)
彼女は、ガレットの腕に添えた手を振りほどきたくなっていた。

(貴方みたいに顔が良いだけのチャラい男、結婚したいなんて思う訳ないじゃない。)
親が勝手に決めてきた婚約者は浮世を流すチャラ男ときた。彼女は心の底から、嫌悪感で軽蔑をしていた。

何度かの顔合わせも、彼女は嫌で嫌で堪らなかった。それなのに、顔を合わせれば不機嫌で会話すらままならない。挨拶だけで、無言。そしてお開き。顔見せの場を数回設けて、今日の婚約披露のパーティーに突入していた。

(そんなに嫌なら親に婚約解消を言ってよ。私、何時だって受けてあげるわ。)
顔に貼り付けている愛想笑いが引き攣るのを彼女は感じていた。

(貴族だから政略結婚は致し方ないのは分かるけど、もう少しマシな男性は居なかったのお父様。こんなチャラ男、嫌よ。不誠実な下半身に、理性の無い男性なんか。)
聞くところによると、数日付き合っただけで女性と別れていると言う。一日デートをしただけで別れを告げられた女性も居ると言う。

(することだけシて、ポイ捨てするなんて最低の男性よ。信じられない。)
現に捨てられた女性はガレットの事を『最低男』と罵っている。最初は優しく微笑みかけて来て、『ヤるだけヤって捨てられた』と言う女性もいる。

(結婚しても絶対浮気をするわ。この顔は絶対浮気をする顔よ!! )
イケメンであり過ぎるガレットを彼女は苦々しく睨みつけた。

(私は恋愛結婚がしたかったのよ!! それが無理なのは分かっていたけど、せめてお互い尊敬し合える夫婦になりたいのよ。)
出会いは政略結婚でも、愛し愛される仲になる夫婦はいる。彼女は其れを期待して、ガレットの名前を聞いて激珍した。それでも顔を引き攣りながらも、歩み寄ろうと努力はしてみたがチャラ男への嫌悪感はぬぐえなかった。

(嫌、浮気男は嫌!! 一途に私を好きになってくれる、一途に好きになれる男性がいい!! )
彼女は心の中で葛藤する。

(結婚したら、浮気はしない? いや、するでしょう。)
彼女はキツくキツく、目を瞑った。

ふっ、とガレットが彼女から離れた。

「こんな場所で言うのはナンだが、エンゼル嬢。」
ガレットの声に彼女は顔を上げた。向かい合うガレットの真剣な緑の瞳に自分が写し出される。

卒前のガレットの言葉に、会場が静まり返った。

「私と、婚約解消をしてくれ。」





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