私の婚約者は、今日も楽しい。

❄️冬は つとめて

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今日も悲鳴は響き渡る。

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壁際に飾った王太子の絵姿中に恐怖体験をしたリリースは、次の日直ぐにカーテンをクロスにして隙間から見えないようにしてもらった。

(怖かった、凄く怖かったの。)
失禁は免れたが、口元に泡を吹いていたようだ。朝起こされて、口元に何かが付着していた。

(暗い中で見るのは要注意だわ。)
怖さが倍増して、悲鳴も出ない。

(心臓が止まるかと思った。)
いや、確かに心臓は一瞬止まっていた。生きていたリリースには、それには気づかない。

「夜は会わないようにしないと。」
「まあ、まあ、まあ、おませさん。夜会はまだまだ先の話ですわ。まずは近々ある王太子殿下の誕生日パーティーですよ。」
紳士淑女の正式なお披露目は十五歳であって、それまでは夜に行う模様し物などには出られない。十五歳になって夜会に出れるようになるが、九時以降はまだ成人ではないために帰宅せねばならないのだ。九時からは大人の時間帯だ。
例外である王太子も、挨拶を済まして八時には退場する。 

王太子ダミアンの誕生日パーティーは昼間に行われ、その日は休日となる。

「誕生日パーティー迄一ヶ月を過ぎてるわ。それまで、殿下の前で失神をしないよう努力あるのみですわ。」 
「「「頑張ってください、お嬢様。」」」
「はい、お母様。みなさんも、よろしくお願いします。」
母ナタリアとメイド達に、力強く返事をするリリース。

「「リリー…… 」」
意気込む女性達を扉の隙間から見ていた父と兄は、悲しそうにリリースを見つめていた。

(婚約解消の為に、どんな苦行にも耐えて見せるわ!! 死ぬよりかはマシよ!! )

「めざせ、語り合い!! 」
「そうですわ、リリー頑張って。」
「「「頑張ってください、リリースお嬢様!! 」」」
拳を突き上げるリリースに、応援のエールを送る女性陣。

「リリー…… 」
「父上…… 」
愛する娘 妹を奪われると悲しむ男性陣。

ここで素直に父や兄を頼って婚約解消を相談していたら、涙ぐましい努力の苦行をしなくても済んだとはお馬鹿なリリースには考えが及ばなかった。

そしてリリースの『王太子殿下とお話がしたいの』と頑張る姿は女性陣の心を打ち、リリース自ら婚姻への外堀を埋める事になることにお馬鹿なリリースは気づかなかった。お馬鹿だから。

(待ってなさい、中坊。アラサー、なめんな!! )
考え方がアラサーで無いことにもリリースは気づかない、お馬鹿だから。やはり彼女は頭のよい高校生ではなかったようだ。

「リリー、ベッド横の机の引き出しを開けてみて。」
「はい、お母様。」
リリースは母の言いつけの通り、ベッドをはって机の近くまで行き引き出しを引いた。

「きゃあぁぁあ!! 」
リリースは悲鳴をあげて、トスンとベッドの上で尻もちをついた。引き出しの中には王太子殿下の絵姿小が入っていた。

「急に出逢った時の為に、色んな所に王太子殿下の絵姿小を隠しておいたわ。」
母ナタリア考えて、考えてしまった結果だった。

「これを克服出来れば、晴れて王太子殿下とどんな時にもお話が出来るようになるわ リリー。」
「「「頑張ってください、リリースお嬢様!! 」」」
激励する、メイド達。

「リリー、頑張る!! 」
リリースはみんなの声援に応えるように、両手の拳を握り締め背筋を伸ばした。

「そうですわ、リリー。王太子殿下の誕生日迄に克服するのですわ。殿下にエスコートをしてもらえるように。」
「はい、お母様。」
リリースは母の言葉にも素直に応えた。

「目指せ、6月6日ですわ。」
「はい、6月ろく…にち? 」
リリースは数字を、聞き返した。その数字に覚えがある。

「まあ、まあ、まあ。ダミアン殿下の誕生日ですわ。」
「ろくがつ、ろくにち? 」
リリースの頬に汗が流れた。

「そうダミアン殿下の誕生日、6月6日。ちなみに6時に産まれたそうですわ。」

666
それは悪魔の数字。

「ダーミーアーンー!! 」

きゅう~(失神)

リリースはダミアンの名前を叫んで気を失った。



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