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森の中に、

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「ステキ、ステキ、ステキだわ~~!! 」
マテック伯爵家の馬車の窓から顔を出し、メロディは青々とした森を見てはしゃいでいた。

父や兄と同じ軍用馬車に乗ることは、はばかられた。そんなことをすれば修行の旅に出ることが母に分かってしまうからだ。いや、寸前までクロウディアは何も考えず、乗ろうとしていた。が、母が旅行用に馬車を用意してくれていた。そのお陰で修行の旅だと気づかれずにいた。

(あの人たち(旦那と息子)同じ方向だけど、まさかそんなことはないわよね。)
伯爵夫人は少し首を傾ける。

(まさか、女の子(メロディ)を連れて修行の旅に出るなんて其処まで脳筋になってないわ……よね。)
頷き母は、娘を信じた。

可愛らしいピンクのサマードレスを着たメロディは、馬車の中で瞑想しているクロウディアを見る。クロウディアは空色の爽やかなサマードレスを着ていた。どう見てもこれから修行の旅に入るとは思えない。

(どう見ても、修行の格好ではないわよね。)
メロディは可愛らしく首を傾げる。

(おばさまの言う通り、女の子と旅がしたがったのね。修行の旅なんて、照れくさくって素直に言えなかったのよ。もう、シャイなんだから。)
クロウディアのドレスは伯爵夫人が用意した物だとはメロディは知らなかった。メロディのドレスも伯爵夫人が用意した物だったのに。

暫く道沿いに続く木々の間を馬車は走る。道の先に白い館が見えてきて、メロディの興奮は頂点に達した。

「なにあそこ、ステキ~!! 」
伯爵家と比べるとかなり小さい屋敷だが、森の中に佇む趣は絵本の中の世界のようでメロディは胸をときめかした。

「森の修行の時に間借りする、シージャック子爵家です。」
クロウディアは目を開けてメロディに応えた。

(ああ、やっぱり。そうよ、そうだわ。修行と言っても彼らは殆ど貴族ですものきっと優雅な訓練。対戦試合とかに過ぎないんだわ。)
目をキラキラさせて屋敷を見ているメロディの前に、先に馬車から降りたクロウディアが手を差し出した。まるで騎士のように。(騎士ではありませんが。)

「メロディ殿。」
「ええ、ありがとうクロミ様。」
メロディはクロウディアの手を取って馬車から降りる。

騎士科の学園から訓練に参加する者は既に自分の家の馬車で先に来ていて、絵本の中の騎士のように格好良い姿であった。騎士に成るのは三男4男が多く、貴族の親が奮発したようだった。

「うふふっ。クロミ様、みんな此方を見てるわ。」
可愛らしいピンクと爽やかな空色のサマードレスを着た二人の女性に、騎士科の学生は釘付けになっていた。さもあらん、騎士科には女生徒は存在しないのだから。メロディは可愛らしく、クロウディアは美しくあった。頭の中身はお花畑に脳筋であるが、外からは中身はわからない。

すると、次々に無骨な馬車が子爵邸の庭に入ってきた。全体を覆い隠すような軍用馬車、その中に詰められている騎士たちがゾロゾロと降りてきる。馬車から出てきた騎士たちは狭い場所に詰められていて、少し疲れた感じを思わせる。格好もなんだか、厚手の衣服を着て体全体を隠している。この夏に暑くないのかとメロディは少し引いた。

「メロディ殿、私たちも中に入って着替えましょう。」
「着替える? 」
「このままでは修行になりません。」
確かにサマードレスでは、訓練をする訳にはいかない。メロディは何時もクロウディアが着ている、簡素な男物の装いをするのだと思っていた。しかし、

「ちょっとコレ、暑いんですけど。」
着せられたのは襟首をまである厚手の衣服だった。靴も革の厚いブーツだ。それこそ、あの軍用馬車から出て来た騎士たちのように。

「これぐらい厚くないと危ないですので。」
クロウディアは真面目に応えた。そして徐ろに、メロディにリックを背負わせた。

「これから一週間、森の中でサバイバル訓練に入る!! 」
おじさまの声がメロディの耳に届いた。クロウディアは頷く。

「いゃあぁぁーーぁぁ!! 」
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