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ー辺境の花嫁ー ❉
死神が去った、その後で。
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謁見の間に通された男は、右手を胸にあて深く頭を下げていた。
「グリスト・フォン・シトニス辺境伯。我が国に訪れ、何ようか? 」
ガタイのいいグリストに、皇帝は声をかけた。彼は、イグニス国のアラスタ帝国側の辺境を守る者である。
「御目道理頂き有難い事で、御座います。今日、訪れたのは 」
グリストは顔をあげて、目を見開いた。踏ん反り返る皇帝の座る玉座の背もたれが無いのを見て。ぷるぷる震える皇帝、つまり空気背もたれだ。
(流石だ、イグニスの王とは違う。ああやって、腹筋と背筋を何時も鍛えておられるのか。皇帝すら筋肉を鍛え上げる、侮れんアラスタ帝国!! )
筋肉脳グリストは、感動していた。
フランクがつい先程、壊したとは考えも及ばなかった。
「伯父上さま…… 」
「おっ、ああすまん。」
筋肉脳グリストが感心していて前に進まないことで、後ろにローブを頭から被っていた者が話しかける。
「我が皇帝の御前に、被りを取らずに現れるとは。イグニスは何処まで我が国に、喧嘩を売ろうとしている。」
皇帝の左横にいた元帥が重く低い声で上から見据えた。
「申し訳ございません。」
ローブを被っていた者はグリストの横に立ち、被りを取って頭を下げる。
「これには、深い訳があります。」
ローブから現れた髪はサラリと長く白銀に輝き、顔を上げた瞳は青の中に星の煌めきがあった。
それは間違いなく、
「イグニス国の、正統なる王家の血を引く者ですね。」
皇帝の右横から声がした。皇帝と元帥は目を見開いた。
「い、いたのか…… 」
「はい、いました。」
それはまぎれもなく、この帝国の赤毛の宰相であった。
彼は、まぎれもなく其処にいた。無論、フランクがマリーナ嬢の事を講義に来た時も、
「はい、いました。」
フランクがつい先程カサンドラの事を講義に来たときも、
「はい、いました。」
そして、グリスト辺境伯が謁見の間に現れる前から、
「はい、いました。」
彼は其処にいた。フランクが講義をしに来ていた時は重厚な騎士達に紛れて見えなかったが、赤毛の宰相は確かに其処にいたのだ。
「正統なるイグニス王家の血を引く者ですね。」
宰相は皇帝と元帥を冷たい目で見ながら淡々と話しかける。
「ず、ずっと…… 」
「はい、いました。」
まだ言うかと、宰相は目を細めた。
「すまん、小さくて見えなかった!! 」
「おい!! 」
つい元帥は、皇帝の頭を小突いた。彼は言う程小さくはない、ただ皇帝を守る騎士達が屈強なだけである。
宰相にとって『小さくて見えなかった』はトラウマである。子供の頃『小さくて見えなかった』と、嫌いなピーマンを食べさせられた苦い記憶が残っている。そしてその言葉は、彼の逆鱗でもある。
「それは…… 私に対しての宣戦布告ととって宜しいのですね。」
宰相への宣戦布告とは、皇帝には遊興費を減らすぞ、元帥には軍事面の(量はそのまま)食品の質がワンランク下がる事を示す。
「国家予算、考え直させて貰います。」
「ま、まて!! 俺が悪かった!! 」
「俺は何も言ってないぞ!! 」
頭を下げる宰相に、手をかざして謝る皇帝。元帥はとばっちりだと声をあげた。
皇帝の護衛騎士達は静かに目を逸した。彼らは軍とは別部署の者であるので、自分達に宰相の意識が向かないことを祈って。
「考え直せ、コレは命令だ!! 」
「はい、考え直させて頂きます。国家予算を。」
皇帝の言葉に淡々と応える。
「違う!! 国家予算ではなく、考え直せす事を考え直せ!! 」
「俺を巻き込むな!! 」
「連帯責任です。」
皇帝と元帥の言葉に、冷ややかに宰相は応えた。
「あ、あの…… 」
忘れ去られたイグニスの正統なる血筋の者とグリスト辺境伯は、ただ呆然と謁見の間から皇帝達を見上げていた。
「頼む、考え直せ!! 」
「はい、考え直させて頂きます。皇帝陛下の遊興費と、軍の食品の質を。」
「違う!! 」
「俺を、軍を巻き込むな!! 」
皇帝と元帥の声が、謁見の間に響き渡る。
「グリスト・フォン・シトニス辺境伯。我が国に訪れ、何ようか? 」
ガタイのいいグリストに、皇帝は声をかけた。彼は、イグニス国のアラスタ帝国側の辺境を守る者である。
「御目道理頂き有難い事で、御座います。今日、訪れたのは 」
グリストは顔をあげて、目を見開いた。踏ん反り返る皇帝の座る玉座の背もたれが無いのを見て。ぷるぷる震える皇帝、つまり空気背もたれだ。
(流石だ、イグニスの王とは違う。ああやって、腹筋と背筋を何時も鍛えておられるのか。皇帝すら筋肉を鍛え上げる、侮れんアラスタ帝国!! )
筋肉脳グリストは、感動していた。
フランクがつい先程、壊したとは考えも及ばなかった。
「伯父上さま…… 」
「おっ、ああすまん。」
筋肉脳グリストが感心していて前に進まないことで、後ろにローブを頭から被っていた者が話しかける。
「我が皇帝の御前に、被りを取らずに現れるとは。イグニスは何処まで我が国に、喧嘩を売ろうとしている。」
皇帝の左横にいた元帥が重く低い声で上から見据えた。
「申し訳ございません。」
ローブを被っていた者はグリストの横に立ち、被りを取って頭を下げる。
「これには、深い訳があります。」
ローブから現れた髪はサラリと長く白銀に輝き、顔を上げた瞳は青の中に星の煌めきがあった。
それは間違いなく、
「イグニス国の、正統なる王家の血を引く者ですね。」
皇帝の右横から声がした。皇帝と元帥は目を見開いた。
「い、いたのか…… 」
「はい、いました。」
それはまぎれもなく、この帝国の赤毛の宰相であった。
彼は、まぎれもなく其処にいた。無論、フランクがマリーナ嬢の事を講義に来た時も、
「はい、いました。」
フランクがつい先程カサンドラの事を講義に来たときも、
「はい、いました。」
そして、グリスト辺境伯が謁見の間に現れる前から、
「はい、いました。」
彼は其処にいた。フランクが講義をしに来ていた時は重厚な騎士達に紛れて見えなかったが、赤毛の宰相は確かに其処にいたのだ。
「正統なるイグニス王家の血を引く者ですね。」
宰相は皇帝と元帥を冷たい目で見ながら淡々と話しかける。
「ず、ずっと…… 」
「はい、いました。」
まだ言うかと、宰相は目を細めた。
「すまん、小さくて見えなかった!! 」
「おい!! 」
つい元帥は、皇帝の頭を小突いた。彼は言う程小さくはない、ただ皇帝を守る騎士達が屈強なだけである。
宰相にとって『小さくて見えなかった』はトラウマである。子供の頃『小さくて見えなかった』と、嫌いなピーマンを食べさせられた苦い記憶が残っている。そしてその言葉は、彼の逆鱗でもある。
「それは…… 私に対しての宣戦布告ととって宜しいのですね。」
宰相への宣戦布告とは、皇帝には遊興費を減らすぞ、元帥には軍事面の(量はそのまま)食品の質がワンランク下がる事を示す。
「国家予算、考え直させて貰います。」
「ま、まて!! 俺が悪かった!! 」
「俺は何も言ってないぞ!! 」
頭を下げる宰相に、手をかざして謝る皇帝。元帥はとばっちりだと声をあげた。
皇帝の護衛騎士達は静かに目を逸した。彼らは軍とは別部署の者であるので、自分達に宰相の意識が向かないことを祈って。
「考え直せ、コレは命令だ!! 」
「はい、考え直させて頂きます。国家予算を。」
皇帝の言葉に淡々と応える。
「違う!! 国家予算ではなく、考え直せす事を考え直せ!! 」
「俺を巻き込むな!! 」
「連帯責任です。」
皇帝と元帥の言葉に、冷ややかに宰相は応えた。
「あ、あの…… 」
忘れ去られたイグニスの正統なる血筋の者とグリスト辺境伯は、ただ呆然と謁見の間から皇帝達を見上げていた。
「頼む、考え直せ!! 」
「はい、考え直させて頂きます。皇帝陛下の遊興費と、軍の食品の質を。」
「違う!! 」
「俺を、軍を巻き込むな!! 」
皇帝と元帥の声が、謁見の間に響き渡る。
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