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月野木天音とプリミティスプライムの伝説
第96話「異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。」
しおりを挟む「サクライ先生ーッ」
「レルク君どうしたんだ?」
「ミレネラが、ミレネラが、産まれそうなんだ」
「本当か⁉︎ 」
「陣痛がはじまってる」
「急ごう。予定日よりだいぶ早い。レルク君準備を手伝ってくれ」
「お、おう」
***
「「「「「「うああああああ」」」」」」
一瞬だ。
何千何万で一斉にかかってこようが俺がこの手を翳せば一瞬だ。
「魔王クライム・ディオール!」
「来たか。プリミティスプライム」
見上げると神々しいオーラに包まれた月野木天音が魔法陣の上に乗り空中を浮遊している。
「貴様はここで倒す! これまで命を奪いすぎた」
「ならば戦おう。お前には言いたいことがあって尽きない」
「おもしろい。普段、ろくに語ろうとしない貴様が何を語るか!」
『イリスメイス』
『トライトエール! 参るぞ!』
「「うおおおおお」」
イリスメイスとプリミティスプライムの大剣がぶつかり合って火花が散る。
やはりディオールと双璧を成す神は伊達じゃない。
鎧の姿になってこれほど力が拮抗したのは初めてだ。
それと同時に高揚してきた。
チートであるがゆえの退屈感とマンネリから抜け出た気分だ。
「おもしろい」
“キンッ キンッ キンッ キンッ”
と音を立てて互いの武器をぶつけ合う。
「喰らえ!」
「!」
フェイントからの回し蹴りをプリミティスプライムは両腕のガードで防いだ。
「こちらからも反撃させてもらうぞ」
プリミティスプライムの手のひらから5つの光の球体が放たれる。
光の球体が前後左右に俺を囲む。
そしてそれぞれ死角からビーム。
やはりドローン型の攻撃か。
『オッド・フィールド・シールド』
「全身を球体状に覆うエネルギーの盾か」
「女だろうが殴らせてもらうぞ」
「侮るな。貴様のパンチなどかわすまでもない。斬り落とすからな」
プリミティスプライムは突き出した俺の腕を本気で狙って大剣を振り下ろす。
「⁉︎」
どんな間合いからでも避けるのは造作でもない。
俺の瞬間移動に驚いたようだ。
「背中がガラ空きだ」
両手で組んだ拳を思いっきり叩きつけた。
プリミティスプライムはマッハの速度でディフェクタリーキャッスルの塔に叩きつけられる。
「ライルバズー⋯⋯⁉︎」
横だと⋯⋯
「お返しだ」
プリミティスプライムの蹴りを寸前で腕で受け止める。
「⁉︎」
ヒビ⋯⋯
アームズ族の宝具であるこの鎧にダメージが⋯⋯
これがプリミティスプライムの力。
これが神と神の戦い⋯⋯相手が月野木天音だからある程度覚悟を持って挑んだが、今はおもしろいとさえ思えてきたぞ。
古から続く戦い。力にのまれそうになる。
互いにどちらが滅びるまで止まらない⋯⋯
だが、俺は宿命に抗う。
俺たちがこの世界に召喚された理由ーー
それが答えだ。
「月野木天音!」
「右条晴人!」
***
「みおちゃん大丈夫?」
「なんとかね。先生も無事」
「見て⋯⋯月野木さんと右条君が戦っている。2人の残像が光の筋になって何度もぶつかり合っている。
悲しいはずなのに。なぜか美しい⋯⋯」
「そなたら生きておったか」
「「女王陛下⁉︎」」
「もう女王ではない。そなたらが引きずり降ろしたではないか」
「ギールさんも無事だったんですね」
「葉賀雲様が寸前で連れ出してくれたおかげで爆発をまぬがれました」
「任務は無事遂行した」
「葉賀雲でかしたぞ」
「決着はつくのかしら⋯⋯」
「みおちゃん! 見て⁉︎ 空が割れてる」
***
「貴様がどれだけ人間の命を奪おうがまた人間は生まれてくる。
妾たちがこうしている今も!」
***
「生まれた!」
「よくがんばったな。ミレネラ。ミザードもパパだ」
「父親はレルクの方が先輩ですね」
「おうよ」
「双子の男の子と女の子です」
「サクライ先生⋯⋯ありがとうございます」
***
「それが何だと言うのだ! 我⋯⋯いや、俺はこの世界を破壊するまで」
「させない!」
「そういうところなんだよ!月野木天音! 強がりで諦めることを知らない。それで周りがどれだけ迷惑したと思っている」
俺は月野木天音の思いと一緒に拳を彼女にぶつけた。
「私に言いたかったことってそれ? そんなディスりを直接言うためにこんな戦争をしたの?」
「お前は知らないだろ! お前が余計な首を突っ込むたびに俺が見えないところでどれだけ心を砕いたと思っている」
「知るわけないじゃない! ハルト君はいっつもそう」
月野木天音も拳を返してくる。
「自分ばかり分かった風で何も話してくれない。この異世界でも私たちに何も言わずに
勝手に行動して、人類を殺す? それが必要だから? そんなんだけじゃ私たちわからないよ。
だから戦うしかなかった!」
「そうやって不必要に他人のテリトリーに踏み込んでくる」
俺たちは互いに言いたいことをぶちまけながら拳をときには武器をぶつけ合った。
「放っておけないよ!教室でポツンとしている子がいたら」
「それが余計なお世話だ」
「そんなにボッチが好きだった!」
「好きなのはお前だけだ。月野木天音!」
「⁉︎」
「強がりなところも、余計なところまで首を突っ込むところも
他人の心に勝手に上がり込んでくる余計なお世話も全部ひっくるめて好きだ!」
「急に何を言い出すの!」
互いの拳が正面からぶつかり合った。
力が拮抗し、激しい衝撃を起こした。
空が割れて時空が歪む。
“成功だ”
「これはいったい⋯⋯」
「世界の再構築だ!」
「再構築⋯⋯やはりまだ話していないことがあったの右条晴人!」
「この異世界の2つの神は交代しながらこの世界を納めてきた。
プリミティスプライムとディオールが直接戦ったのは唯一150年前⋯⋯
そのとき2人の神は気づいたんだ2つの神がぶつかればこの異世界そのものが壊れることを。
だから神たちは表舞台から消え概念と化した。
だけど、俺は気づいたそれこそ俺がなすべき答えだと」
「ハルト君! だからどうしてそういう大事なこと。もっと話してくれなかったの?
分かっていたら、私も手伝った。これだけ大勢の人が死ぬ必要はなかった」
そう言って、あたり散らすように放った月野木天音の力のこもっていないパンチが
俺の仮面を壊した。
「⁉︎」
「ハルト君⋯⋯その顔って⋯⋯」
俺は急に全身の力が抜けて月野木天音にもたれかかった。
「毒に侵され爛れたあとだ。この鎧⋯⋯イリスたちが毒を押さえ込んでくれたんだ。
とにかく破壊が必要だった。吉備津瑠美花の破壊の力を必要としたのもそのためだ。
あの力は対象が破壊されるまで止まらない。だから俺を対象にして対消滅することを考えた。
この身体だ。この時空においては長くは生きられない。世界を一旦破壊し⋯⋯再構築する」
「⁉︎ ⋯⋯それって」
「気づいたのは御子乃木会長と咲田副会長だ。2人は同時に死んだはずなのに
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「⋯⋯」
「わかるか? 日本からやってきた俺たちの時系列がバラバラなのは時空に波があるからだ。
俺はこれを利用したかった。再構築でみんなを転移前の修学旅行のバスの中に戻せる。
俺たちはこの世界で成長しすぎた。だから記憶を残さないためにもこの異世界から消す必要があった。
それにプリミティスプライムの力は殺す覚悟で戦わないと壊せなかった」
「もしかして、あかねも!」
「ああ。日本で待っている⋯⋯」
「あかね⋯⋯東坂君⋯⋯みんな」
「生き残った奴らには悪いがチャンスは一度きりしかない。
このまま再構築をはじめる」
「ハルト君⋯⋯」
「最後にひとつ聞かせてくれ。告白の返事を。めっちゃ勇気出したんだ」
「⋯⋯ごめんなさい」
「⋯⋯」
「他に好きな人がいるの」
つづく
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