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第5話「錯覚」
「それはどういう意味ですかダッドルさん?」
「あんたたちはカミラがヒューリックを殺したと思っているだろ。それは違う」
「どうしてそう思うんだ」
ヴィルが語気を強めてダッドルに問いかける。
ダッドルはジョッキの中のぶどう酒を見つめながら静かに語りはじめた。
「冒険者パーティー“ユナイトリング(絆の腕輪)が短期間で急成長できたのはヒューリックの剣の腕やリーダーとしての才覚だと周囲の冒険者がもてはやし、羨望の眼差しを向けた。
少数だがAランク冒険者のダッドルがいたおかげだと熱心に考察する冒険者もいた。ありえない。どれも的外れだ。本当はカミラの特殊能力があったからこそだ」
魔術師カミラの能力は”強化魔法“と”体力回復魔法”
クエスト中はパーティーメンバーの後方で杖をかざして宝玉を光らせている。
はたから見れば地味だが、その彼女の働きがパーティーの活躍に大きく貢献していた。
「冒険者になりたてのヒューリックとカミラは右も左もわからないうちに危険なクエストに挑もうしていたので
見ていられなくなった私は必要最低限のイロハを教えるつもりで2人に声をかけてパーティーに加入させてもらった」
ソロを好み孤高の冒険者として名を馳せたダッドルが新米冒険者パーティーに加入したことで周囲を驚かせたことは記憶に新しい。
ダッドルはおもむろにポケットから糸を編み込んで作られた腕輪を取り出す。
「これはカミラが自分で編み込んで作った腕輪だ。この腕輪をすると彼女の支援魔法が伝わり、体力の回復や能力の強化ができるんだ」
「じゃあその腕輪をしていたのはヒューリックさんとカミラさんだけだったってわけじゃなかったんですか?」
ダッドルは目をつぶり首を静かに横に振る。
「パーティーに加入したメンバーには彼女が必ずつけさせていた」
リシリーの証言と矛盾が生じる。
「腕輪の効果は凄まじかった。ひとたび強化魔法を受けると私の能力が倍以上に引き出されて自分が恐ろしくなった」
ダッドルが斧を振り落とすと、たった一撃で鋼と同じ硬さを持つサラマンダーの鱗を砕き、その勢いで首を地面に落とした。
「まるで豆腐でも切っているようだった。己がSランク冒険者いや、英雄になったような感覚に囚われた。脳が震えるほどの衝撃だった」
倒したサラマンダーを前に冷や汗を滲ませた顔で両手を見つめながら立ち尽くすダッドル。
「彼女の力は恐ろしいと思った。甘美な心地よさがクセになると同時にこの力の魅力に取り憑かれたらあと戻りできないというおぞましさが混在した」
サリサは履歴書の経歴とダッドルから聞いた話を頭の中で照らし合わせる。
ダッドルの記憶に間違いなければ駆け出し冒険者パーティー“ユナイトリング”の快進撃はここからだ。
Fランクのユナイトリングが高難度のクエストを次々とこなして、あれよあれよという間にAランクにまで駆け上がる。
あまりの出世スピードにサリサたち職員も驚かされ、ギルドマスターは冒険者ギルド開設いらい最速記録だとユナイトリングのメンバーを表彰したほどだ。
「メンバーにリシリーが加わってユナイトリングは最大の8人となった。今度は最速記録でSランクだとヒューリックが息巻いてパーティーの士気がもっとも高かった時期だ。
しかし、パーティーの綻びが生じはじめたのもちょうどその頃だ」
ダッドルは閉じていた瞼を開いて遠くを見つめながら過去に思いを馳せるように語りはじめる。
***
「チクショウ!」
ヒューリックは兜を地面に叩きつける。
「撤退だ!」
ユナイトリングは中層のダンジョンボスを前に撤退を余儀なくされた。
ヒューリックたちが走って安全圏の階層まで逃げる中、クエスト中に体調不良を起こしたカミラはダッドルに背負われながら逃げる事態に。
命からがら安全な階層に逃げのびたユナイトリングの一行。
メンバーは疲れ果て息も絶え絶えになっている状況の中、ヒューリックは怒りを滲ませたような表情でカミラに詰め寄る。
「カミラ、さっきのはなんだ? 強化魔法が効かない。むしろ弱体化していた。リシリーに至ってはなんの魔力も付与していなかった!
リシリーは危うく死ぬとこだったんだぞ!」
「よせ! ヒューリック。彼女は体調を悪くしているんだ。今は休ませてあげるべきだ」
「クソッ!」
ヒューリックは焦っていた。
Sランク間近にしてダンジョンクエストを3回連続で失敗。
憧れだったSランクパーティーを目の前にしてあと一歩が届かない。
ダッドルもまたここ数回のクエストでカミラの能力に違和感を覚えていた。
しかし、ヒューリックはカミラのリシリーに対する嫉妬がパーティーの連携を乱していると信じて疑わない。
ヒューリックとリシリーは同じ剣を得意とする冒険者。
それゆえに相性も良く、ヒューリック、リシリーの順に繰り出す連続攻撃がモンスターに致命的な大ダメージを与える。
リシリーは複数の冒険者パーティーを渡り歩いていて語り草になっている噂がある。
パーティーメンバーの男と恋仲となっては、他のメンバーと揉めてチームに亀裂を生じさせるというものだ。
同じメンバーの男同士で彼女を取り合ったり、メンバーの女から彼氏を横取りしてケンカになっただの様々だ。
カミラの様子がおかしくなったのは確かにリシリー加入直後だ。
リシリーはヒューリックとカミラが談笑しているのにも関わらず、2人の間に割って入り話題を変えるなど強引だった。
「ちょっとごめーん。ここいいかしら。ヒューリックなにその防具? 私にも見せて」
彼女の胸を体に押し付けられるヒューリックは悪い気がしない。
ヒューリックの隣がリシリーの指定席になるのはそう時間が掛からなかった。
2人の連携攻撃の相性もあいまってパーティーの中心はヒューリックとリシリーに置き換わった。
カミラの異変はリシリーにつきまとう噂もあってかメンバーのほとんどがリシリーに対する嫉妬だと思っていた。
だが、それだけでは説明がつかないことがある。ダッドルや他のメンバー全員が与えられた強化魔法が半減していること。
(以前のような甘美な心地よさが感じられない⋯⋯)
身体に耐性ができてより強い強化魔法を求めているのではとダッドルは以前から危惧していた中毒症状を疑う。
ダッドルは人気のないところで体調が回復したカミラに意を決して尋ねる。
だが、カミラから返ってきた言葉は予想をはるかに超える壮絶なものだった。
「ダッドルさん、私の冒険者ランクはまだFのままなんです」
おそらくカミラの強化魔法はその強大な効果力の代償として経験値が貯まるのが非常に遅い。
「だから私が強化魔法を付与できる人数は3人のままなんです」
カミラはパーティーに加わってくれたメンバー全員に強化魔法が行き渡るように魔力を等分して分け与えていた。
効力は実感できるが効果が薄い。ダッドルは中毒症状ではなかったことに胸を撫で下ろすも、反面、カミラの身体への負担が気にかかる。
「ランクに見合わないことするもんじゃないですね。最初の頃よくダッドルさんに注意されていたのに。クエスト中に倒れるなんてみっともない」
カミラの身体への負担はすさまじいもののようだ。目にはクマ。顔はやつれ、ローブの下で隠してはいたが腕はもう骨と皮。
カミラの魔力等分は7人が限界だった。だからリシリーに強化魔法が行き渡らずあらぬ誤解を生んだ。
「どうしてもっとはやく言わなかった」
「私はいつも後方でじっとして守ってもらう側だからみんなに私のことで迷惑をかけるわけにいかないから⋯⋯」
どうしてもっとはやく彼女の苦しみに気づいてやれなんだと自分を悔やみ、項垂れるダッドル。
「愚かな⋯⋯」
その言葉はまるでカミラではなくダッドルが己自身に吐いているようであった。
***
ヴィルはカウンターに伏せたまま寝息を立てている。
サリサは構うことなく質問を続ける。
「だからダッドルさんはパーティーを離れる決心をした」
サリサは追放から自らの意思による脱退にニュアンスを変化させる。
コクリと頷くダッドル。
「カミラにこれ以上の負担はかけたくなかった。他の冒険者を誘って仲間にしたのも私だ。
柄にもないことをした反省している。浮かれていたんだきっと。だから私の責任が一番大きい」
「だからダッドルさんを皮切りにメンバー5人も一気に減ったんですね」
「事情を話したら仲間は快くやめる決心をしてくれた。だが迂闊だったのは
私も仲間もヒューリックに“カミラのため”とだけ、脱退理由を伝えて辞めたことだ。
それがヒューリックにさらなる誤解を与えた」
「ヒューリックはカミラさんが“仲間を追放した”と解釈した」
ダッドルは再びコクリと頷く。
「カミラがユナイトリングを追放されたと知ったのはそれから間もなくのことだ」
「ダッドルさん。ヒューリックさんってそれまでカミラさん不在でクエストに挑んだことありましたか」
「いや。ない」
「冒険者ギルドの記録にもありません」
サリサは天を見上げ、ダッドルはジョッキを小さく揺らしながらぶどう酒の波紋を見つめる。
「すべては錯覚だったーー」
ダッドルはポツリと溢す。
***
次の日ーー
サリサとヴィルは陽も落ちて繁華街が賑やかになる時間に落ち合う。
2人はピンク色の看板の宿屋が並び立つ通りを肩を並べて歩く。
「サリサよ」
「なんです?」
「俺は不思議な体験をした。朝、目が覚めると見知らぬ天井、見知らぬベッドの上。
なぜか裸の俺。振り向くと毛むくじゃらのおっさん(ダッドル)がベッドの側でりんごの皮を剥いていた」
「それがどうかしたんですか。親切な人じゃないですかダッドルさん」
「そうじゃない! こういうときは若い女性の部屋で目が覚めるもんじゃないのか」
「そんなことあるわけないじゃないですか。王宮図書館の隅にあるコーナーの書物の読みすぎです」
「読んどらんわ。少なくとも目覚めたら隣におっさんがいるような書物は読んどらんわ」
「姫様はお好⋯⋯まぁとにかく、あなたを私の部屋に寝泊まりさせるファンタジーな展開は期待しないでください」
「こんなに毎日一緒にいるのに冷たくないか?」
「これだから女性と交際経験がない殿方はすぐ飛躍する」
「そんな経験くらいちゃんとある。別れ話を持ちかけたとき彼女に刃物を向けられたことだってあるさ」
「あってはいけない経験ですよ。それって」
「そう言いつつ誘っているんじゃないかサリサ」
「勘違いしないでください。会わなければいけない人物がいるんですよ」
そう言ってサリサは大人の男女が契りを結ぶ宿屋の入り口の前で仁王立ちをする。
すると中からリシリーが若い男の腕に抱きつきながら出てくる。
「お待ちしてました。リシリーさん」
「⁉︎ あんた冒険者ギルドの人じゃん。どうしてこんなところに」
「ご依頼されていたカミラさんの居所がわかりましたのでご報告に」
「あんたたちはカミラがヒューリックを殺したと思っているだろ。それは違う」
「どうしてそう思うんだ」
ヴィルが語気を強めてダッドルに問いかける。
ダッドルはジョッキの中のぶどう酒を見つめながら静かに語りはじめた。
「冒険者パーティー“ユナイトリング(絆の腕輪)が短期間で急成長できたのはヒューリックの剣の腕やリーダーとしての才覚だと周囲の冒険者がもてはやし、羨望の眼差しを向けた。
少数だがAランク冒険者のダッドルがいたおかげだと熱心に考察する冒険者もいた。ありえない。どれも的外れだ。本当はカミラの特殊能力があったからこそだ」
魔術師カミラの能力は”強化魔法“と”体力回復魔法”
クエスト中はパーティーメンバーの後方で杖をかざして宝玉を光らせている。
はたから見れば地味だが、その彼女の働きがパーティーの活躍に大きく貢献していた。
「冒険者になりたてのヒューリックとカミラは右も左もわからないうちに危険なクエストに挑もうしていたので
見ていられなくなった私は必要最低限のイロハを教えるつもりで2人に声をかけてパーティーに加入させてもらった」
ソロを好み孤高の冒険者として名を馳せたダッドルが新米冒険者パーティーに加入したことで周囲を驚かせたことは記憶に新しい。
ダッドルはおもむろにポケットから糸を編み込んで作られた腕輪を取り出す。
「これはカミラが自分で編み込んで作った腕輪だ。この腕輪をすると彼女の支援魔法が伝わり、体力の回復や能力の強化ができるんだ」
「じゃあその腕輪をしていたのはヒューリックさんとカミラさんだけだったってわけじゃなかったんですか?」
ダッドルは目をつぶり首を静かに横に振る。
「パーティーに加入したメンバーには彼女が必ずつけさせていた」
リシリーの証言と矛盾が生じる。
「腕輪の効果は凄まじかった。ひとたび強化魔法を受けると私の能力が倍以上に引き出されて自分が恐ろしくなった」
ダッドルが斧を振り落とすと、たった一撃で鋼と同じ硬さを持つサラマンダーの鱗を砕き、その勢いで首を地面に落とした。
「まるで豆腐でも切っているようだった。己がSランク冒険者いや、英雄になったような感覚に囚われた。脳が震えるほどの衝撃だった」
倒したサラマンダーを前に冷や汗を滲ませた顔で両手を見つめながら立ち尽くすダッドル。
「彼女の力は恐ろしいと思った。甘美な心地よさがクセになると同時にこの力の魅力に取り憑かれたらあと戻りできないというおぞましさが混在した」
サリサは履歴書の経歴とダッドルから聞いた話を頭の中で照らし合わせる。
ダッドルの記憶に間違いなければ駆け出し冒険者パーティー“ユナイトリング”の快進撃はここからだ。
Fランクのユナイトリングが高難度のクエストを次々とこなして、あれよあれよという間にAランクにまで駆け上がる。
あまりの出世スピードにサリサたち職員も驚かされ、ギルドマスターは冒険者ギルド開設いらい最速記録だとユナイトリングのメンバーを表彰したほどだ。
「メンバーにリシリーが加わってユナイトリングは最大の8人となった。今度は最速記録でSランクだとヒューリックが息巻いてパーティーの士気がもっとも高かった時期だ。
しかし、パーティーの綻びが生じはじめたのもちょうどその頃だ」
ダッドルは閉じていた瞼を開いて遠くを見つめながら過去に思いを馳せるように語りはじめる。
***
「チクショウ!」
ヒューリックは兜を地面に叩きつける。
「撤退だ!」
ユナイトリングは中層のダンジョンボスを前に撤退を余儀なくされた。
ヒューリックたちが走って安全圏の階層まで逃げる中、クエスト中に体調不良を起こしたカミラはダッドルに背負われながら逃げる事態に。
命からがら安全な階層に逃げのびたユナイトリングの一行。
メンバーは疲れ果て息も絶え絶えになっている状況の中、ヒューリックは怒りを滲ませたような表情でカミラに詰め寄る。
「カミラ、さっきのはなんだ? 強化魔法が効かない。むしろ弱体化していた。リシリーに至ってはなんの魔力も付与していなかった!
リシリーは危うく死ぬとこだったんだぞ!」
「よせ! ヒューリック。彼女は体調を悪くしているんだ。今は休ませてあげるべきだ」
「クソッ!」
ヒューリックは焦っていた。
Sランク間近にしてダンジョンクエストを3回連続で失敗。
憧れだったSランクパーティーを目の前にしてあと一歩が届かない。
ダッドルもまたここ数回のクエストでカミラの能力に違和感を覚えていた。
しかし、ヒューリックはカミラのリシリーに対する嫉妬がパーティーの連携を乱していると信じて疑わない。
ヒューリックとリシリーは同じ剣を得意とする冒険者。
それゆえに相性も良く、ヒューリック、リシリーの順に繰り出す連続攻撃がモンスターに致命的な大ダメージを与える。
リシリーは複数の冒険者パーティーを渡り歩いていて語り草になっている噂がある。
パーティーメンバーの男と恋仲となっては、他のメンバーと揉めてチームに亀裂を生じさせるというものだ。
同じメンバーの男同士で彼女を取り合ったり、メンバーの女から彼氏を横取りしてケンカになっただの様々だ。
カミラの様子がおかしくなったのは確かにリシリー加入直後だ。
リシリーはヒューリックとカミラが談笑しているのにも関わらず、2人の間に割って入り話題を変えるなど強引だった。
「ちょっとごめーん。ここいいかしら。ヒューリックなにその防具? 私にも見せて」
彼女の胸を体に押し付けられるヒューリックは悪い気がしない。
ヒューリックの隣がリシリーの指定席になるのはそう時間が掛からなかった。
2人の連携攻撃の相性もあいまってパーティーの中心はヒューリックとリシリーに置き換わった。
カミラの異変はリシリーにつきまとう噂もあってかメンバーのほとんどがリシリーに対する嫉妬だと思っていた。
だが、それだけでは説明がつかないことがある。ダッドルや他のメンバー全員が与えられた強化魔法が半減していること。
(以前のような甘美な心地よさが感じられない⋯⋯)
身体に耐性ができてより強い強化魔法を求めているのではとダッドルは以前から危惧していた中毒症状を疑う。
ダッドルは人気のないところで体調が回復したカミラに意を決して尋ねる。
だが、カミラから返ってきた言葉は予想をはるかに超える壮絶なものだった。
「ダッドルさん、私の冒険者ランクはまだFのままなんです」
おそらくカミラの強化魔法はその強大な効果力の代償として経験値が貯まるのが非常に遅い。
「だから私が強化魔法を付与できる人数は3人のままなんです」
カミラはパーティーに加わってくれたメンバー全員に強化魔法が行き渡るように魔力を等分して分け与えていた。
効力は実感できるが効果が薄い。ダッドルは中毒症状ではなかったことに胸を撫で下ろすも、反面、カミラの身体への負担が気にかかる。
「ランクに見合わないことするもんじゃないですね。最初の頃よくダッドルさんに注意されていたのに。クエスト中に倒れるなんてみっともない」
カミラの身体への負担はすさまじいもののようだ。目にはクマ。顔はやつれ、ローブの下で隠してはいたが腕はもう骨と皮。
カミラの魔力等分は7人が限界だった。だからリシリーに強化魔法が行き渡らずあらぬ誤解を生んだ。
「どうしてもっとはやく言わなかった」
「私はいつも後方でじっとして守ってもらう側だからみんなに私のことで迷惑をかけるわけにいかないから⋯⋯」
どうしてもっとはやく彼女の苦しみに気づいてやれなんだと自分を悔やみ、項垂れるダッドル。
「愚かな⋯⋯」
その言葉はまるでカミラではなくダッドルが己自身に吐いているようであった。
***
ヴィルはカウンターに伏せたまま寝息を立てている。
サリサは構うことなく質問を続ける。
「だからダッドルさんはパーティーを離れる決心をした」
サリサは追放から自らの意思による脱退にニュアンスを変化させる。
コクリと頷くダッドル。
「カミラにこれ以上の負担はかけたくなかった。他の冒険者を誘って仲間にしたのも私だ。
柄にもないことをした反省している。浮かれていたんだきっと。だから私の責任が一番大きい」
「だからダッドルさんを皮切りにメンバー5人も一気に減ったんですね」
「事情を話したら仲間は快くやめる決心をしてくれた。だが迂闊だったのは
私も仲間もヒューリックに“カミラのため”とだけ、脱退理由を伝えて辞めたことだ。
それがヒューリックにさらなる誤解を与えた」
「ヒューリックはカミラさんが“仲間を追放した”と解釈した」
ダッドルは再びコクリと頷く。
「カミラがユナイトリングを追放されたと知ったのはそれから間もなくのことだ」
「ダッドルさん。ヒューリックさんってそれまでカミラさん不在でクエストに挑んだことありましたか」
「いや。ない」
「冒険者ギルドの記録にもありません」
サリサは天を見上げ、ダッドルはジョッキを小さく揺らしながらぶどう酒の波紋を見つめる。
「すべては錯覚だったーー」
ダッドルはポツリと溢す。
***
次の日ーー
サリサとヴィルは陽も落ちて繁華街が賑やかになる時間に落ち合う。
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「サリサよ」
「なんです?」
「俺は不思議な体験をした。朝、目が覚めると見知らぬ天井、見知らぬベッドの上。
なぜか裸の俺。振り向くと毛むくじゃらのおっさん(ダッドル)がベッドの側でりんごの皮を剥いていた」
「それがどうかしたんですか。親切な人じゃないですかダッドルさん」
「そうじゃない! こういうときは若い女性の部屋で目が覚めるもんじゃないのか」
「そんなことあるわけないじゃないですか。王宮図書館の隅にあるコーナーの書物の読みすぎです」
「読んどらんわ。少なくとも目覚めたら隣におっさんがいるような書物は読んどらんわ」
「姫様はお好⋯⋯まぁとにかく、あなたを私の部屋に寝泊まりさせるファンタジーな展開は期待しないでください」
「こんなに毎日一緒にいるのに冷たくないか?」
「これだから女性と交際経験がない殿方はすぐ飛躍する」
「そんな経験くらいちゃんとある。別れ話を持ちかけたとき彼女に刃物を向けられたことだってあるさ」
「あってはいけない経験ですよ。それって」
「そう言いつつ誘っているんじゃないかサリサ」
「勘違いしないでください。会わなければいけない人物がいるんですよ」
そう言ってサリサは大人の男女が契りを結ぶ宿屋の入り口の前で仁王立ちをする。
すると中からリシリーが若い男の腕に抱きつきながら出てくる。
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