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やがて彼女も『××』となる
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「そこの君!ちょっとお茶なんてどう?」
「いえ、結構です」
学校からの帰り道、繁華街近くを通りかかったところで若い男性が声をかけてくる。
どうやらナンパをされているみたい。
全く興味が無いので即座に断って横を通り過ぎようとする。その時に横目でキッと一睨みすることを忘れない。大抵の相手はこれで諦めてくれるのだけど。
「そんな事言わずにちょっとで良いから!」
今回の相手は中々しつこい。無視して足早に去ろうとしている私の手をとろうとまでしてくる。
「やめてください! しつこいですよ」
仕方なく足をとめると相手に向き直って文句を言ってやる。この時に初めて相手の顔をみた、中々の美形だ。
だからといって誘いを受けるつもりは全くないけど。
「そんな、お茶くらい良いじゃない」
「嫌だと言ってるじゃないですか」
笑顔を浮かべながら尚もを誘ってくる男性。そんな彼に私は何故か違和感を感じた。
これは既視感?
初めて会う相手なのに何故、そこまで考えたところでピンときた。
「…もしかしてレイ?」
「―――っ。なんのことかな?」
どうやら当たりのようだ。知らばくれようとしたようだけど、確かにあった間を私は見逃さない。
ジト目で私が見つめていると苦笑いになっていた彼はその場で首をガクッと落として動かなくなってしまった。
どうやら意識が朦朧しているみたい。普通なら慌てるところだけどその理由も私は知っている。とりあえず私の予想は当たっていたようだ。固まった彼を無視して歩きだす。
『ふむ、ずいぶんとつまらない反応じゃないかあかりよ』
歩き出した私の名前を呼ぶ声がするした。いつの間にか私の横に現れたのは20代後半ほどの外人男性。ブロンドの髪に甘いマスク、俳優と遜色ないほどの美形だ。だがその服装はまるで中世の頃のような服装である。どう見ても普通の人とは思えない。
『無視かね? さすがに礼儀としてそれは失礼だと思うのだがね?』
無視して歩き続ける私に対して彼は散々な事を言ってくれる。今はまだ我慢。
しばらく歩きビル街の隙間を見つけた私はすぐさまその路地裏へ飛び込んだ。
「一体どういうつもりなの!!」
『おう、ようやく反応してくれたね。うれしいよ』
人目がない場所まで来たところで今までためたイライラをぶつけるように彼を怒鳴りつける。私の文句を聞いても彼はどこ吹く風だ。
なぜ私が人目が付かない場所にくるまで我慢していたかって?
それはすべて目の前にいるこいつに起因する。
『無視するなんてひどいじゃないか?』
「あんな人通りの多い場所で一人で喋っていたらただの変な人じゃない!! 私はそんなの嫌よ!」
改めて目の前いるこいつをみる。すると何故か彼を通してビルの壁が見えるのだ。よくみれば彼の体はどこも薄く透き通って向こう側の景色が見えている。
そう、こいつは幽霊なのだ。
◆ ◆ ◆ ◆
私と幽霊である彼との出会いは今から1ヶ月ほど前まで遡る。
その日の夕方に私は友達2人とある『噂』について話していた。
「ねぇ知ってる? 飯坂橋の噂 」
「知ってる知ってる『出る』って話でしょ」
友達の由香の話に英梨も乗っかる。私は知らなかったのだけどずいぶんと有名な噂のようだ。
なんでも夕暮れ時にその橋で幽霊の目撃例が多々あるとか。襲われるとかではなくほんとうに会うだけのようだ。
あまり興味の持てない私は適当に相槌をうっていたのだけど突然に私へと話が向けられる。
「そういえば明莉って飯坂橋が通学路だったよね? なんかあったりしないの?」
「えっそうだけど…何もないよ。私は霊感とか全くないし」
「えーっ」
この話に興味が持てない理由として私がその橋をいつも利用していることも挙げられる。
実際に通っている私が一度もそんな体験がないのだからガセじゃないかと思うのだ。
私の答えに対する落ち込みようが半端ない。その様子をみてある疑問が浮かんだ。
「なんか凄く気にしてるみたいだけど、怪談とかそんなに好きだったの?」
彼女達とは幼馴染みの関係だけどそんな話は聞いたことがない。
「いやそこまで好きじゃないよ」
返ってきたのは私の予想通りの答え。だったら何故と聞き返してみれば待ってましたとばかりに理由を教えてくれた。
「なんとその幽霊はすっごい美形のおにーさんらしいのです」
「えっそれだけ?」
思わず本音が溢れた、勿体ぶったわりには小もない理由すぎないだろうか。
「明莉ちゃん、反応薄すぎだよ。美男子だよ、しかも滅多にお目にかかれない程らしいよ。女子として無反応ってどうなの?」
私の反応が不満だったらしくゆかが頬を膨らませると苦情を言ってくる。
「そんな事を言われても…」
ほんとうに興味がない。そんな風に思っていたら黙って聞いていた英梨が仲裁に入ってきた。
「はいそこまで、諦めなよ由香。なんたって明莉は学園中から『氷姫』って呼ばれてるほどなのよ? 男なんかに興味が持てないのよ」
「そっか。確かにそうじゃないともう誰かと付き合ってるはずだもんね」
ただその言葉は私にとって認められるようなものではない。だけど由香はそれで納得してしまったようだ。
「氷姫」それは私の学園におけるアダ名だ。その名前の由来は私にとっては全く嬉しくないものなのだ。
自慢するつもりはないけど私は昔から凄くモテる。何度かモデルのスカウトも受けていた。この学園に入ってからも告白を何度も受けているのだけど私はその全てを断ってきた。
男嫌いとか同性愛というわけではなくただ単にこれと思う相手がいなかったからだ。これを誰かに言うと少女マンガの読みすぎとか言われたり僻まれたりするので誰にも言えないけど・・・。
ともかく、告白を全て断ったことと断る際の言い方(勘違いなどされないように簡潔にはっきり言ってきたのせい)である男子から「明かりではなく氷だ」と言われたのを切っ掛けに「氷姫」と呼ばれるようになってしまったのだ。
「ちょっとその呼び方はやめてよ」
「ごめんごめん。私らはちゃんと分かってるよあかりが実は少女マンガ大好きな乙女だってことは」
「うんうん、でも分かっててもお似合いだと思っちゃうの」
私の苦情にも笑って返されてしまう。こうなると分かっていても否定は言わずにいられない。何故なら私は全く納得なんてしてないのだから。
◆ ◆ ◆ ◆
「じゃあまた明日ね。」
「くれぐれも幽霊には気を付けてね」
「まだ言ってるの? 幽霊は別として気を付けてね。また明日学校で会いましょう」
学園からの帰り道この交差点で二人とはお別れだ。引きづられるように連れて行かれる由香に苦笑しながら手を軽く振って帰り道を急ぐ。
もう季節は秋、段々と夕暮れが早くなって来ていた。
普段は部活があるためにもっと遅い。そのために辺りが暗くなってから帰る事が多かったのだけど、今日は滅多にないお休み。夕暮れを見ながら帰るのは久々だ。
そう今、目の前にあるのはさっきの噂話で出てきた橋。そしてまさに夕暮れ時だった。
あの噂話を信じた訳じゃないけど、話を聞いて直ぐに噂の場所を通るとなるとどこか不安な気持ちが出てくる。
「幽霊なんているハズがないじゃない…気にするなんてバカらしい」
強気に口に出してみるけどやはり不安は拭えない。あんな話を今日のタイミングでしてくれた結花には後で文句を言ってやろうか。でも不安になったなんて素直に伝えたならからかわれるのは間違いないないし、さてどんな方法で仕返しをしてやろうか。これは少し悩み所だ。
「ふふ、明日が少し楽しみになるかも」
馬鹿な事を考えていたら少し気分が晴れた。さっさと通りすぎてしまおう。
足早に歩いて噂の橋へと到着する。ふと先を見ると橋の真ん中に人影がーーー。
「幽霊?…ってそんなわけないわよね。」
一瞬ドキッとしてしまったけどまさか本当に幽霊がでるわけもない。その証拠に橋に立つその人はちゃんと2本の足があるようだ。
「男の人みたいだけど…なにあの格好? コスプレかなにかかしら」
よく観察してみると幽霊ではないようだけど、かと言って普通ではない。多分私より歳上の男の人であろうその人はとても変な…いえ訂正、とても個性的な格好をしていた。そうあれは歴史の教科書とかでみたことのある中世頃の騎士の姿に似ている。
騎士などとは言ったけど武器みたいなものは流石にもっていないようだ。何にせよ怪しすぎる。ここは無視して通りすぎた方が良さそうだ。
その男の人は橋の真ん中辺りの端に立ち下を流れる川を眺めているようだ。後ろを通れば気付かれないかもしれない。
極力その男の人を見ないようにしながら橋を渡る。一瞬私の方に視線を向けてきた時には少し焦った。でもそれは一瞬のことでまた川へと視線を戻す。
「はぁ~」
こちらにも聞こえてくる程のため息をついていて何だか元気が無さそうだ。
とは言え見知らぬ人が落ち込んでいるからと言って声をかける程のお節介では私はない。悪いけど無視させて貰おう。
後ろを通りすぎて橋を渡りきる。すれ違う瞬間に絡まれるなんて事もなくほっとする。
だがその場でふと少し振り返ったその瞬間ーーー
「え? ちょっと!」
私は驚きで固まってしまう。なぜなら先ほどの男の人が橋の手すりへと登っていたからだ。今にも川へと飛び込もうとするかのようなその姿に私は混乱する。
「え、待ってまさか自殺?」
橋の下を通る川は昨日大雨が降ったこともあり水嵩が増加している。それにそうでなくともあの川は流れが早く人が溺れる程の深さがある。しかもあんな甲冑を着こんでいればそうなることは必須だろう。それが分からない訳がない。となるとやはり自殺?
「待って! 早まらないで!」
慌てて私は男の人の方へと駆け寄る。なるべく関わらないようにしたかったけどこうなってしまえば話は別だ。無関係の人間とはいえそこまで私は白状ではない。目の前で死のうなんてしている人間が居れば止めに入る。それは人間として当然のことだと思う。
「そんな!間に合わない?」
男性へと手を伸ばすーーが。私がその場所へと到着した時には男性の体は橋の外へと飛び出していた。手が虚しく空を切る。
勢いよく走って来たことで体勢を崩してしまい橋の手すりへと抱きつく形で倒れてしまった。
頭が真っ白になり、血の気が引いていくのがわかる。間に合わなかった、それによる結末を想像して思わず目を瞑る。
しかし、待てど待てど川へと落ちる音は聞こえてこない。恐る恐る目をあけて川を覗きこんだーーーその時。
『君、大丈夫かい。ずいぶんと真っ青な顔をしているけど…どうしたんだい?』
聞こえてきたのは男性の声。間近でかけられたと思うその声は予想外の方向から聞こえてきていた。
「え…嘘でしょ…」
顔を頭上の方へと向ける。橋の外、川の上の上空に先ほどの男性が浮かんでいた。
◆
先ほどとは別の意味で頭の中が真っ白になった。目の前の状況が理解できない。何故、人が空に浮かんでいるのだろう。あり得ないはずの事が今まさに目の前で起きている。まさか先ほどのショックで私はおかしくなってしまったのだろうか?
考えれば考えるほどに混乱が深まっていく。
『…やっぱり聴こえる筈もないか。姿くらいなら見える人もいるのにな』
「な、何なの貴方は?」
『!?』
空中に浮いたままガクッと肩を落として背を見せたその人の呟きについ声をかけてしまった。
『もしかして私に声をかけたのかっ君!!』
ぐるんっという音が聞こえてくるんじゃないかという勢いで振り向いた男性が凄い勢いで私へと迫ってくる。それこそ顔面で正面衝突するんじゃないかというほどだ。
(近いっ顔が近い!! あっでもかなりの美形…ってそういうことじゃなくて!)
「近づき過ぎよ!離れて」
『おっとすまない。ちょっと興奮し過ぎたようだ』
内心で悲鳴をあげながら言葉と共に前へと手をつき出す。かなり近くに居たはずなのに手が当たった感触はない、何でだろう。
それはさておきようやく距離を取れたことで息をつく。今だにドキドキが止まらない…勿論、恋などではないけど。でも意外と好みの美形だと思ったのは胸のうちに秘めておこう。
『すまんな。この場所に来てからかなりの長い時間がたったが、ようやく待っていた『視える』だけでなく『聴こえる』相手に出会えたので我を忘れてしまったようだ』
男性が頭を下げながら謝罪をしてくる。その言葉に引っ掛かりを感じて…私はようやくある可能性に思い至る。
(待って…この場所で、美形のしかも宙に浮いている人間って言ったら…まさか噂の!)
今までは混乱のあまりにろくに頭が回らずに考えられなかったのだけどようやく落ち着いたことで散らばっていた情報の断片が符号を見せる。
それはつまり…今話しているこの相手はーーー
『そういえばまだ名乗って無かったね。私の名前はファントム。見てお分かりかと思うが幽霊だよ』
一瞬、卒倒してしまいそうになる。嬉しくなどないが私の予想が当たってしまったことがこの時確定した。
◆
あの夕暮れの出逢いからはや一月、彼は今も私の近くにいる。
「そもそも何で私に付きまとうのよ。貴方はあの橋の幽霊なんでしょ?」
あの後にもう一度『噂』について調べてみたのだけど、幽霊が出るというのはあの橋限定のことでその後まで付きまとわれたという話は聞かない。
それなのに何故か彼はずっと私の側にいて離れない。嫌な予感にかられて今まで聞けなかった質問を思いきって聞いてみる。
『私としてもよく分からないのだよ。前まではあの橋から長く離れることは出来なかったのだが今は出来る。ーーーと言うよりは前まではあの橋が起点だったのが君とい人間に変わったというのが性格かな』
「ーーー待って! それってつまりは…」
『うむ、有り体に言えば君に取り憑いたということだな』
薄々勘づいてはいた。だからこそ聞くのを躊躇っていたのだけど、世の中はこうも無情なのか。
「な、何で私なのよ」
『君が私の声を聞いて話しかけた。それが切っ掛けであるのは間違いないだろうな』
そうだろうとは思っていた。だからこの質問は悪あがきでしかない。ある意味では自業自得、頭で納得出来ても感情はそんな簡単にはいかない。
『どうしたそんなに落ち込んで?』
分かってるくせに、という悪態が漏れそうになるけどなんとか飲み込む。
今決めた一刻も早く除霊の方法を探そう、心の内で強く誓う。
『そんな簡単にはいかないと思うがな』
「うるさい!勝手に人の心を読まないで!」
にやにや笑いを浮かべ人の心を読んだような発言をするコイツはやはり凄く性格が悪いと思う。
『そう怒るな。役に立ってることもあるだろう? 君のボディーガードとしては悪くないと思わないか?』
「まあ…それに関しては感謝しなくもないけど…」
『そうだろう、なんと言っても私は紳士だからね』
自慢げな言い種が少しイラッと来るけど彼の言うことも間違ってはいない。彼が来てからこの一ヶ月の間は昔であれば自分で何とかしていた言い寄ってくるバカや変態達を私が手を出さずとも先に彼が追い払ってくれていた。
ただし、たまに彼自身が面白半分にナンパの真似をしてくることもあるのだけど。
「ボディーガードを自称するならさっきみたいな悪戯は止めてくれる?」
『少しのお茶目じゃないか』
「貴方がナンパなんてしてきたら結局意味がないでしょ!レイ」
『そうか?』
私の言葉にも全く悪びれる様子がない。やはりプラスマイナスでいうならマイナスじゃないかと思うのだ。
『それはさておき。その私の呼びかたはどうにかならないのかね?』
話題をすり替えるようにさも深刻そうな顔つきでなにやら質問を投げてきた。ただその質問の意図がよく分からない。
私が彼を呼ぶときの呼び名は『幽霊』からとって『レイ』と呼ぶようにしている。安直と言えばそれまでだけど、それに何か問題があるだろうか。
「何か問題がある? ユーレイだからレイ。分かりやすくて良いじゃない」
『問題大有りだ! 私は最初にちゃんと名乗っただろう。私の名前はファントムだと!』
………うん。ようやく彼が、レイが何を言いたいかは理解できた。つまり彼は最初に名乗った名前で呼ばれないことに文句を言っているのだろう。
理解はした…でもなあ、ちょっとその呼び名はどうかとも思う。
『ファントム』つまりは亡霊、なんというか…『中二病』くさいのだ。正直に言ってしまって口に出すのも恥ずかしい。お前はどこの中二病患者かと。
明らかに本名の筈もなく偽名、良い年齢の男性が名乗るにはちょっとどうなのだろう。
まだ似たような意味合いではあるけど『幽霊のレイ』の方がマシだと思う。
「だめ、もう決めたの貴方の呼び名はレイで決定」
『何故に!』
説明するのも気恥ずかしくここはお茶を濁すので十分。私はそう結論付けたのだった。
◆◆◆
「ふあ~おはよう」
「おはよう」
「おはよう明莉」
明くる朝、朝起きて二階の自分の部屋からダイニングまで下りた私は両親へと挨拶をする。二人ともすでに朝の身支度を整えて食卓へと座っている。
今だ寝間着姿なのは私だけ。娘の私が言うのもなんだけど普段の生活からして完璧すぎる私の両親だ。
「朝ごはんの準備は出来てるわ。早く顔を洗ってきて、朝食にしましょう?」
「はーい」
ただ娘の私に対しては厳しすぎるわけでなく優しい両親なので自慢だし尊敬もしている。
ーーーただひとつの事を除いては。
『なんだ寝坊でもしたのか? 髪が酷いことになってるぞ?』
当たり前のようにテーブルの空いてる場所へと位置取り無神経な言葉を吐いてくるのは幽霊のレイ。
両親の目に彼の姿は写っておらず、存在事態に気づいていない。目撃例などもあったはずの彼なのにその姿が分かるのは家族の中じゃ私だけ。
こんな自己主張の強い幽霊に何故気づいていないのか?
それより何故私だけがそうなのか?
家系的に霊感が強いとかいうならば諦めがついただろうに純粋に私だけが例外なんて納得がいかない。
「どうした? 目を険しくして」
「ううん、何でもない」
ただ言っても見えない両親には理解できないと思うので口に出す気にもなれないのだけど。
身支度を終えて食卓へと戻ってくる。両親の向かい側、自分の指定席へと座り『いただきます』手を合わせてから朝食へと手を伸ばす。
うん、おいしい。やっぱり母は料理上手だ。一応たまに花嫁修行と称して色々と教えて貰ってはいるのだけどなかなか母のようにうまくいかない。
『次のニュースですーーー』
美味しい朝ごはんに舌鼓を打っていた私の耳に届いてきたのはテレビのニュースの声。自然と視線はテレビへと向かう。
『ーーー昨日未明に見つかった身元不明の女性の遺体は状況からここ最近に頻発している連続殺人事件と酷似しており、警察は同一犯として行方を追っております。場所はーーー』
それはここ最近騒がれている連続殺人事件についてのニュースだった。どの事件も若い女性や子供を狙ったもので今回のものですでに10人以上の人達が被害にあっている。滅多にない凶悪事件ということで警察も血眼になって探しているようなのだけど、目撃例もなく今だ手懸かりすら見つかって居ないようだ。
「怖いわね…」
「そうだな。場所も今度の事件はそれほど遠くない場所じゃないか。明莉、十分に気を付けるんだぞ。」
「そうね、なんなら送り向かいをしましょうか?」
両親もニュースに聞き入っていたようだ。最初こそ遠く離れた場所で起きた事件だったのだが今回はどうやら隣の県で起きた事件らしい。不安そうな表情になった母が私を気遣って送り向かいをしてくれると言って来てくれたけど両親は共働き、必要以上に迷惑をかけることは憚れる。
「いえ、大丈夫よお母さん。なるべく人通りの多い場所を歩くようにするから安心して。それにまだ犯人がこっちにくると決まった訳じゃないわ」
「…お前がそういうなら良いが、不安になったならいつでも言うんだぞ」
「そうよ、それくらいのことなんてお母さん達には何の苦にもならないわ」
「ありがとう、その時はお願いするから」
未だに心配そうな顔の両親を安心させるように頷いてみせる。大丈夫、まだそんな不安はない。先ほども言った通りにまだ犯人が来ると決まった訳ではない。しかも狙われているのは人気のない場所のようなので人通りの多い道を選べば危険はないだろう。
「あれ、もうこんな時間? そろそろ行かないと!」
ふと時計をみればいつも学校へと向かう時間を大きく過ぎてしまっている。あわてて席を立つ。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい」
「きをつけていくんだぞ」
両親に声をかけて家を飛び出す。早足で行けば何とか間に合うか…ちょっと微妙なところだった。
◆◆◆
小走りで学校へと急ぐ。その傍ら思い出すのは朝の両親とのやり取り。
「心配してくれるのはありがたいけど…逆に心配しすぎなのよね」
『おいおい何を言ってるんだね?』
ふとこぼれた言葉、誰に聞かせるつもりもなかったのだけどそれに反応をみせる奴がいた、レイだ。
『君を心配してくれて言った言葉だろう。そんな事を言っては罰が当たるぞ』
「ありがたいとは思ってるわよ」
当たり前のようについてきた彼は浮遊したまま私の横を並走している。その顔はいかにも呆れたという顔をしている。
『君を守りたいというご両親の気持ちは分かるだろう?いくら心配しても不安なんだよ。事が起きてからでは遅すぎる。心配の『しすぎ』なんてものは無いんだ。喪った後での悲しみの大きさを考えれば比べるまでもない』
急に声音が大きく変わった事に驚く。なんというか重味の籠った言葉のようでーーー。
「ちょっとどうしたのよレイ?」
『んーーーいや何でもない。何を言い出したんだろうな私は』
問い返した私の言葉に答える言葉に先ほどの深刻さは無くなっている。というか自分自身でも戸惑っているような様子だ。
「貴方が言い出した事じゃない、私には解らないわよ。そういえば朝も少しおかしかったわよね。ニュースを見たあと黙り込んだりして」
ふと朝も少し様子が変だった事を思い出す。あの例のニュースをじっと見たあと暫く黙り込んで何か考えるような仕草をみせていたのだ。少し躊躇った後でようやく彼は口を開く。
『黙っていようかと思っていたのだがね。少し胸騒ぎがするんだ、嫌な予感というか…今さらでも遅くない、今日は学校を休んで家にいないか?』
「なに言ってるのよ、もうそろそろ学校じゃない。というか止めてよね。嫌な予感? まさかとは思うけど私が事件に巻き込まれるとでもいうの? へんなフラグを立てないでよ」
まさかという言葉に私は思わず反論してしまう。彼はそれに諦めたように肩をすくませてみせる。
『絶対と言える確信ではないよ。何となくと言った程度のものだから杞憂に終わるかもしれない。いや可能性としてもそちらが高い事だし…君がそういうならもう何も言うまい。…ちなみに君、『フラグ』なんて言い回しをするなんてやはり君もーーー』
「あーーうるさい! そんなことはどうでも良いでしょう!」
思いがけない反撃にあわてて言葉を遮る。たまにチクッとした反撃をしてくる彼は油断ならない。動揺する内心のなかでふと思い浮かんだ事があった。話を反らすためにも丁度良い、これはちょっとしたお願い事だ。
「そうね…もし、万が一の事だけど私が事件に巻き込まれるような事になったなら助けてくれるんでしょ、自称私のボディーガードさん?」
その突然の言葉に面食らったような様子を見せた彼はその後にーーー。
『そうか、そうだったな。任せておけ、何と言っても私は君の│騎士《ボディーガード》なのだから。君を守ってみせようーーー今度のこそ何に変えても…』
ーーー私が初めて見る満面の笑みを浮かべて強く断言してくれたのだった。
ほんの少しほんの少しだけど高鳴ってしまった胸の音にーーー呆れるくらいに戸惑った私は彼の少し変わった言い回しに気づくことは出来ない。
『そうだ、これを君に預けて置こう。誓いの証に…唯一残っている私の遺品だ。私にとってとても大切な品だ無くさないでくれよ』
証にと言われて渡されたのは小さな蒼い石のついたネックレス。
茶化しながらめ渡されたそれに私は全ての気を持ってかれてしまっていたのだ。
◆◆◆
「あっおはよー」
「おはよう」
「おはよう」
何とか時間に間に合った私はクラスメイトと挨拶を交わして自分の席へとつく。
「おはよう明莉ーっ!」
「おはよう。遅かったじゃないどうかしたの?」
「ちょっと家を出るのが遅くなっちゃって。おはよう二人とも」
席についた私に由香と英梨が近づいてきた。いつもハイテンションな由香がなにやらウズウズした様子で私を見てくる。
「何かあったの?」
「よくぞ聞いてくれました! 明莉ももう知ってるかもしれないけど例の連続殺人犯が近くに来てるかも知れないんだって!」
それは奇しくも今朝見た例のニュースの話だった。いや大事件がすぐ近くで起きたのだ逆に当然かもしれない。耳を澄ましてみればあちらこちらでその話題が上がってるのに気づく。
「今朝、ニュースでみたわ。怖いわよね、早く捕まってくれたら良いのに」
「本当にそうよね。私も両親から注意を受けたわ。なるべく一人では歩かないようにって」
「明莉なんて特に美人さんなんだから気をつけないとっ!」
「それは貴方達も一緒でしょ?」
今一番ホットな話題、話をしているうちに不安が大きくなってくる。少し鈍よりした雰囲気が漂う中、その空気を打ち切るようにパンパンと手が打ちならされる。
「みんな席についてーーホームルームを始めるわよ」
いつの間にかやって来ていた担任の陽子先生の声に皆が自分の席へと戻って行く。またね、と一言残して二人も自分の席へと戻って行く。
ホームルームの伝達事項を聞きながら小さくため息をつく。
『どうしたため息なんてついて、やはり君も例の事件が心配になってきたのか?』
「いえ、大丈夫よ。黙ってて」
目敏く気づいたレイに声を掛けられるが即座に否定して黙らせる。こんな場所で彼と会話することは出来ない。
ーーーそれにと今度はバレないように心のうちで溜め息をつく。
自然と朝に彼から貰ってたネックレスへと手が向かう。今は目立たないように隠して身に付けているそれを弄りながら考える。
彼の言うとおりに事件に関して不安が大きくなっているのは確かだ。でも私が溜め息をつきたくなっている真の理由はそれではない。
表に出さないように気を付けながら内心で叫ぶーーー
不覚、不覚不覚不覚不覚不覚っ! あり得ない、あり得ないあり得ない、よりにもよって彼にときめくなんてあり得ない!?
そうそれは、一瞬の心の迷いと言えどレイに胸をときめかせてしまったことに対する混乱だった。
レイよ、あのレイなのよ! ふざけた様子でナンパの真似事なんかして、私をからかうような真似ばっかしてくるお調子者! そんな奴なのに、それを私は知っている筈なのにっ何でーーーっ
彼を否定する文言を呟けど呟けど先程見た彼の笑顔が忘れられない。私を守ると言った言葉も合わせて顔が熱くなる。気を抜けば、『でも今までも守ってくれていた』などと考えてしまうことが嫌だった。
分かってる、でも認めたくない。
感情の堂々巡りそんな混乱が止まることなく心のうちを満たしていた。
◆◆◆
ようやく放課後となった。やはり混乱が収まることはなく、今日の授業内容は全く頭に入ってこなかった。
「明莉…大丈夫? 何か疲れているみたいだけど…」
「大丈夫、大丈夫よ」
英梨が心配そうに声を掛けてくる。隠し通していたつもりだったのだけどどうやら友人たちにはバレバレだったようだ。どうにか笑顔を作って否定する。こんな悩みは親友たる彼女たちにだって相談できるものじゃない。いや彼女たちだからこそ出来ないともいえる。簡単に冷やかされて追及される未来が想像できるのだ。
「もしかして朝に私が話した噂を気にしてるの? 可愛いなぁ明莉は!」
「ちょっと由香!」
由香が突然私に抱き着いてくる。どうやら私の悩みを例の事件の事だと勘違いしたみたいだ。まあ確かにそれも不安の一つでもあることだし勘違いしてくれる分にはありがたい。
「大丈夫!一緒に帰ろうよ! みんなで帰れば怖くないって! たとえ殺人鬼が出てきても退治してあげるよっ英梨が!」
「ちょっと!何勝手な事言ってるのよ!」
「えーだって英梨って強いじゃん! 剣道の大会でインターハイに出場したくらいの腕前じゃん。今日部活はどこも休みになったんでしょ? 一緒に帰ろうっそれで私たちの事守ってよ~」
「いや一緒に帰るのは構わないけど―――」
由香の言葉に英梨が抗議の声をあげる。由香の言うとおり英梨は剣道部に所属していてインターハイ出場の経験もある猛者だ。でもだからといって殺人犯の相手をさせるのは無理があるだろう。もっとも由香も本気で言っているわけではないだろうけど。
「そうね、退治云々は別として一緒に帰るのは私も賛成よ」
「よしっ決定!」
友達の気遣いは嬉しい。学校に例の殺人犯が近くに潜伏しているかもしれないという情報が入ってきてらしく、非常事態ということで急きょ全ての部活が休みになった。断る理由もなくこちらとしてもありがたい。
三人でたわいない話をしながら帰路に着く。途中危険な事態に陥ることもなく彼女たちと別れる交差点までやってきた。
「えっといつもならここでお別れだけど、家まで送っていこうか? 私たちはどうせ二人近所だし…」
「いえ大丈夫よ。ここから飯坂橋を通ればすぐ近くだし」
「―――そう? やっぱり心配だな」
「本当に大丈夫だから」
分かれ道こちらを気遣ってくれる英梨に大丈夫だからと断る。口には出せないけど私にはレイが着いているのだから大丈夫だろう。レイへと視線を向ければ任せておけとばかりに胸をたたいている。
―――全く誰のせいで私が今日一日思い悩んだと思っているのか。ついジト目を送りたくなる。
「そういえば、あの噂ってどうなったのかなあ?」
ふと思い出したように由香が疑問を口にする。
「あの噂って何よ?」
「ほらっ飯坂橋の幽霊さんだよ! いつの間にか話を聞かなくなったじゃん」
「ああ、あったわねそんな噂、聞かなくなったってことは成仏でもしたんじゃない?」
「ええーっ! そんなあ―――美形の幽霊さん私も一度あいたかったのになあ」
二人の会話を冷や汗を流しながら聞く。『いやその幽霊は今すぐそばにいます』そんな言葉がのど元にまでせりあがってくるが…今日の今日まで彼女らがレイに気づくことはなかった。今更いうだけ無駄だろうと思い直す。
「本当にいいのね?」
「うん、大丈夫だから心配しないで」
「それじゃあまた明日~」
「うんまた明日」
「また明日、気を付けてね何かあったら叫ぶのよ、絶対駆けつけるから」
「ありがとう、またね」
念押ししながら最後まで心配してくる英梨に苦笑しながらも分かれる。さあ早く家に帰りましょう。
『いい友達を持ったな』
「ええそれは間違いなくね」
すこし歩いたところでレイが呟くように言葉を漏らす。それに関しては間違いない。二人とも疲れた様子を見せていた私を気遣ってくれていた。理由が理由だけに申し訳なくも思ってしまう。
―――と奇しくもそこは飯坂橋の途中。はじめてレイと出逢った場所が正にそこだった。さきほどの由香たちの言葉を思い出す『飯坂橋の幽霊』『成仏』、それらをキーワードにしてとある疑問が頭に浮かぶ―――それは。
「ねえレイ?」
『ん?何だね?』
「今まで聞いたことはなかったけどふと気になったの。何故貴方は幽霊になってしまったの? 」
私の前を歩いていたレイが動きを止める。
疑問が浮かんだ、それをどうしても今確かめたくなった。少し前に調べた幽霊に関する本に書かれていた一文を思い出す。
―――――強い強い未練を抱いた者こそが幽霊となる。
ということは彼もまた『強い未練』があるのだろう。これもまた感情の堂々巡り、聞きたいような聞きたくないような、そんな思いがこの場所に来たことで『聞きたい』という方に天秤が傾いていた。
「あなたはどんな思いを残して死んでしまったの?」
押し黙った彼はしばらくの間のあとに静かに口を開く。
『もしかしたらその質問をされることを私は恐れていたのかもしれないな。その答え―――私の願い―――すまない。私もそれが何なのか覚えていないんだ』
ただその答えは意外なもので聞き返さずにはいられなかった。
「覚えていない?」
『そうだ。生前の記憶が霞がかって朧げにしか思い出せないんだ。私の核となっている強い思いがあるのは分かる。でもそれが具体的に何なのか思い出すことが出来ないんだ』
彼の告白に言葉を無くす。記憶がない、いやないわけではなく思い出せない。それはどんなにつらいことだろう。自分の存在を確立しているのは過去から今までの記憶によるところも大きいと私は思う。それが不確かなんてどんなに不安を抱えているか。だというのにお調子者を演じる彼の事を思えば胸が苦しくなってくるのだ。
『ただ一つだけ、君とであったことで私の『心』が震えたんだ。君の魂の色が何故か懐かしいように感じてしまうそれは一体何でだろう』
「えっそれはどういう…」
普段とは違う真剣なまなざし、独白にも似たその言葉に、私の胸は高鳴ってしまう。言葉の続きを待つ、何故かはわからないけどそれを聞かなければならないような気がしていた。
世界に二人だけしかいないのではないのだろうかという錯覚。
そんな永遠とも感じるような時間は――――――ただ唐突に打ち切られてしまう。
「きゃあ---------------------っ!」
どこからともなく聞こえてきた悲鳴、それは女の子の声のようだった。
声の聞こえてきた方角へと視線が向かう。橋の下を流れる水の向う先―――そこは町の一角に作られた自然公園。憩いの場ともいえる大きな公園。この飯坂橋じたいが公園の一角でもあるのだ。
『この反応は――――何故嫌な予感ばかりが当たるな…おそらく例の殺人鬼だよ』
忌々しげにレイが呟く。何故レイがそれを分かるかはわからない。ただその確信したような物言いを見る限りまずそうなのだろう。時刻はすでに夕暮れ時に差し掛かっている。
辺りに人の気配は全くなく、この公園は広くもしかすればその声を聞いたのは私たちだけかもしれない。この先に殺人鬼がいるそう思うと怖くて足が震えそうになる、私に戦う力なんてない。言ったところで足手まといにしかならないかもしれない。でも助けを求めていたであろうその悲鳴を無視することは私には出来なかった。
思い出されるのは先ほどの親友の言葉、『何かあったら叫ぶのよ、絶対駆けつけるから』それを思い出した私は走り出す。助けを求めているのだろうその少女の元へと。
『やはりこうなるか…だろうとは思っていたよ。君もまた優しすぎる、誰かを見捨てて自分だけが助かろうなんて思うわけもない。やはり君は『彼女』なんだな―――――私は何を言っていた? ちょっと待て一人で行くな。私はそっちに行くのが――――』
「待ってなんかいられないわ!私は先に行く!」
レイが何を言っているかなんて考えている暇はなかった。言葉を返して全速力で走っていく。
『全く私の話を聞いてはくれないか…やはり制限される――私が行くまでは無事でいてくれよ』
彼のその言葉の意味を理解しないままに。
◆◆◆
到着した公園の中央広場。確か悲鳴はこっちから聞こえてきたはずだ。全力で走ったせいで乱れた呼吸を整えながら周囲を見渡す。人気のない公園は日も落ちていたこともあって薄暗く見通しが効かない。疎らに設置されている外灯の光だけを頼りに何とか目を凝らす。
そしてようやく見つけた。少し先に幼い少女が倒れている。慌てて駆け寄り少女の体を抱き起こす。
「君っ大丈夫?」
「ん~ん」
見た感じでは転んでつけたと思われる擦りキズがあるくらいで大きな怪我は見当たらない。少し唸っているけど気を失っているだけのようだ。
「ひとまずは無事か…、というか他に人は見当たらない…どこかにいったの?」
少女の無事を確認出来てほっとしたのは良いのだけど懸念していた例の殺人犯の姿は近くには見当たらない。レイの確信にしたような物言いで覚悟をしていたのだが彼の勘違いだったのだろうか?
「ちょっとレイ? 誰もいないじゃない」
声に出してみるけど反応はない。まだレイは追いついてきてないみたいだ。
仕方がない、今は少女を助ける方が最優先だろう。悲鳴があったのだから何かしらがあったのは確かだ。それを考えればこの場を早く離れるべき。だれもいなかったのは逆に好都合と考えよう。
「っと、子供って意外重いのね…」
気を失ったままの少女を何とか抱き抱える。あまり鍛えていないせいかそれだけでいっぱいいっぱい。近くに落ちている多分この子のものだろう手提げ鞄は持てそうもない。
「仕方ない、これは後で取りにくるしかないかなーーーっ?」
出口へ向かって踵を返そうかと思ったその時、こちらに近づいてくる足音に気がつく。
少しの緊張が走るーーーそして姿を見せた足音の主は一人の男性だった。息を切らしたら様子のその人が口を開く。
「はあ…はあ、だ、大丈夫ですか? 悲鳴が聴こえたので…、慌てて駆けつけたんですけどーーー」
「あ、ありがとうございます。私も今駆けつけたところで、この子が倒れてたんです。」
どうやら私と同じく悲鳴を聞き付けてやって来た人だったようだ。スーツを着たサラリーマンらしきその人は特に怪しい感じはない。どちらかというと少し頼りない感じでよほど急いだのか、掛けている眼鏡はズレ、耳に着けていたらしいイアホンの片方も外れて空中をぶらんと泳いでいる。
「そ、それは良かった…えと代わりますか?」
「いえこの子は私がこのまま連れていきますから…そうだそこにある鞄を持って貰って良いですか?」
私が女の子を連れて行こうとしていたのに気づいたらしく、おずおずとした様子で申し出てくれたようだけど頼りない感じのその人に女の子を預ける気にはなれない。だから荷物の方をお願いしよう。
「ーーー分かりました」
男性は私の言葉に頷くと荷物を取るために私の横を通り過ぎようとする。ふとそのすれ違う瞬間に男性持つイアホンから漏れていた音に気がつく。
ーーーえ?これってお経?
なぜそれなのか疑問が浮かぶもそれを考える暇もなく。今度は間近から聞こえてきたうなり声へと気がそれる。
腕に伝わってくる震動、うっすらと目を開けた女の子。良かった無事目が覚めたみたい。
「あ…れ、ここ、どこ?」
「あっ目が覚めたんだ」
不思議そうな声に安心させるように声をかける。だが、まっすぐ見つめた少女の顔に浮かぶのは安堵ではなくて、丸く見開かれた瞳に映る誰かの影ーーー
「あっ危ないっ!」
少女の悲鳴にちかい声を聞きながら咄嗟に横へと身を翻す。
視界に掠めるのは銀色の光。私がもといた場所を通りすぎたそれは私の髪の毛を何本か奪って宙を切る。
それはナイフの輝き。無理に動かした事で地面へと倒れ混んだ自分の身を起こして。凶刃を振り抜いたその人物へと視線を向ける。
「ひ、ひひっーーは、外した、外したか」
「な、何をするのよ?」
そこにいたのは荷物を取りに行ったはずの男性。その手にあるのは荷物などではなく凶器たる銀色のナイフ。良く見れば使い込まれた様子が分かるそれを持つ彼の表情は見事に歪んでいる。
「あ、あなたがもしかしてーーーっ」
「き、きひひっ」
先程感じた印象が幻だったかと思えるほどの変化。その顔に浮かべるのは噂通りの殺人鬼を思わせる凶人の笑みだった。
警戒していたつもりで気を抜いたっ!
まず抱いたのは後悔。未だに捕まらない殺人犯、それが常にいかにもな姿をしているわけもない。それなのに見た目だけで判断して油断してしまった。
続いてくるのは恐怖。さきほどのひと振りさえ避けれたのは運が良かっただけ、近付く死の危険に涙が溢れでそうになる。
頼みの綱のレイも未だに来ない、肝心な時にいないなんて先ほどの言葉は何だったのかと泣き言を言いたい。
もう今すぐにでも泣き叫びたい…でも、それでもそれが偽りならざる本音だったとしてもそれは出来ない。視線を落とせば震えて涙を流す女の子の姿。私は彼女を助けるためにここまで来たのではなかったのか。
咄嗟に掴んだ地面の砂を男へと投げつける。
「逃げるわよ!走って!」
砂を目眩ましに逆方向へと走り出す。公園を抜けて人目の多い場所まで行ければ何とかなるーーーそれだけを希望に逃げ出した。
「んーーーいったい」
だけど、走り出した瞬間に片足へと激痛が走る。男からまだ30メートルほどしか離れていない場所で堪えきれず私は転んだ。
最初の回避。あの無理な動きで片足を痛めてしまっていたのだ。これ以上私は走れそうにない。
「お姉ちゃん!」
「私は良いから先に行って!」
「でもっ!」
「大丈夫だから!」
先を走っていた女の子が私に駆け寄ろうとしていたけどそれを止めて先に行くように促す。せめてこの子だけでも助かって欲しかった。だけど彼女は私も連れていこうと懸命に私の腕を引っ張ってくる。
「お願い先に逃げて」
「お姉ちゃんも一緒に行くの!」
後ろから近付く男の気配。私が動けないのに気づいたのかゆっくりとした歩みで近付いてくる。
後数メートル…今度こそ恐怖に押し潰されそうになる。
「お、鬼ごっこはおわり…か?」
「近づかないでっ!」
「が、がきは後回しだっ」
私と男の間に立ち塞がろうとした女の子がぶたれて飛ばされた。それに抗議の声をあげようとしたけどそんな暇はなかった。倒れたままの私に近づいた男に髪を引っ張られて無理やり顔を上げさせられる。
「き、きひひ、なんだきれいなかおだなぁ、さてどうしようか…このまま殺すのは簡単だ…きひひ」
近づけられる男の顔に嫌悪を覚える。下卑た嗜虐の籠ったその表情から男が何を考えているかは容易に想像がついた。思い出されるのは報道されていた悲惨な被害者たちの末路。絶望にもはや涙があふれ出るのを止めれそうにない。
「いいぞ、いいぞそのぜつぼうにみちたかお…おれは何よりその顔がみたいんだっ」
男が手に持つナイフを胸元へとへと近づけてくる。もう直視できないと首を振ったその時、首元に掛けていたネックレスが外へと飛び出してきた。目に映る蒼い石、それと共に思い出される彼の声――――
偶然かどうか石が男へとぶつかり距離が開く、しかしそれに激昂したのかナイフを振り上げる男の姿が見えた。
「助けてよ! 約束したじゃないレイ!」
振り下ろされる凶刃を前にして心の内をそのままに目を瞑り大声で叫んだ。他の誰でもない彼に助けを求める声を―――。
目を閉じたままに来るだろう衝撃を待ち構えていた私だけど――――その衝撃が来ることはなく届いてきたのは待ち焦がれた彼の声だった。
『やれやれ、どうにか間に合ったようで何よりだよ。私のお姫様』
◆
なんとか間に合った。心からの安堵は表に出さず、涙を浮かべたままの彼女へと声をかける。
『何安心してほしい。君に刃を向けたこの男はもう私の許可なく指一本動かすことは出来やしない。所謂憑依の応用って奴だよ』
「れい! もう遅いのよっ私がどれだけ死ぬ思いをしたと思ってるの? 私を守るといったくせに!」
私に気づいた彼女は泣きじゃくりながら文句を言ってくる。珍しいくらいに弱弱しい彼女、それだけ恐怖を感じていたということか。胸がチクリと痛むが平然を装う。
『悪い悪い、少し色々と手間取ってしまってね。間に合ったようだし君の珍しい姿を見れたことだ結果おーらいじゃないかな?』
「なっ! 何を言い出すのよっ、それにさっきのなによ『私のプリンセス』とか私だったら恥ずかしくて口にも出せないわよ」
自分の現状に気づいた彼女は顔を赤くしたかと思えば取り繕うように言葉を並べる。『やっぱり中二病ね』などと言いってくる始末少しは調子を取り戻してくれただろうか。
「それで手間取ってたっていうけど何でこんなに遅かったのよ? あなたの言葉を借りるなら『騎士失格』ってやつじゃないの?」
語尾の『本当に怖かったんだから…』という呟きは聞かなかったことにしとこう、胸が痛いが指摘すれば怒られそうだ。
『それに関しては面目ない…奴の行動が足かせになってしまってね。相対したならばいくらでも対処のしようはあったから油断していた。奴がまさか『あんなもの』を聞いているなんて思わなかったんだよ』
「あっもしかしてお経の事?」
『何だ気づいていたのか?』
本当の理由は告げずに用意していた建前を口にする。あれがあることは気づいていた、それを利用させてもらう。彼女もあれの事は知っていたようで説明も省くことも出来たので何よりだ。
さてそろそろ行動に移るとしよう。
『私がコイツを拘束しているのは簡単だがいつまでもこうしているわけにもいくまい。悪いんだが警察を呼んできてくれるか?』
「分かったわ。そうだっあの子も病院に連れて行かないと!」
近くに倒れていた少女に駆け寄り背負う。この子が先ほどの悲鳴の主らしい。怪我こそしているが命に別状はないと見える。少女の方も何とか助けられて良かった。
「よし! 警察を連れてくるのは良いけど。貴方はどうするの?」
『一応監視は必要だろう。ここで待ってるよ」
「わかったわ。すぐ戻ってくる」
出口へと向かう彼女へ手をひらひらと振り見送る。ふと最後の最後で目を覚ましたらしい少女と目があったように感じたのだが気のせいだろうか。
まあいいか。私のすべきことを片付けるとしよう。
『さて、そろそろ良いだろう。聞こえているかい殺人鬼?』
「お、おれは信じないーーーし、信じない、幻聴だ、こんなものは、幻聴ーーーだ、」
憑依を解き男の前へと姿を見せて声をかける。男の眼は確かに我が身を捉えているというにそれを頑なに認めようとしない。ここまで往生際が悪いと逆に笑えてくる。
『君はまだそんな事を言うのかい? これほどの念があって感じない訳もないだろうに』
「なぜ、なぜ、とまらない…いつもなら…聞こえなくなるの…いつもなら」
『ああ『お経』…我らを鎮める鎮魂歌かい? 最早限度を超えているからね。いみはないことだね』
男が震える手すがり付くレコーダー。それから微かに聴こえてくるのはお経の法典。過去であれば効果もあったかもしれないそれも現状では救いの手などにはなり得ない。
『ーーーもう私としても我慢の限界でね…聴こえるだろう同胞達の声が』
レコーダーを弄り亡者達の声なき声を現出させる。
『君に理由もなく無惨に命を奪われた無念の嘆きがーーー』
我が身が霞み、この一時だけは彼等の姿を写し出す。口から漏れるは彼等の呪詛ーーー
『『ーーーゆるさない…ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさないゆるせない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさないーーー赦せない!裁きを!復讐を!報復を!死を!』』
ーーー幾人もの声が重なり責め立てる。
『分かる、分かってしまうんだよ。だってこの身もまた同じ…君たち以上に伝わってくるんだ。悲しみが、嘆きが、怒りが、憎しみが、怨みが! 』
同じ霊体故に共感してしまう。霊体とは思念の塊。むき出しの心と同じ。ぶつかり合えば必要以上に伝わってくる。
この場に来るのに手間取ったのはそれが理由に違いなく。飲み込まれずに己を保つのもやっとの状況。念仏などを理由にしたのは彼女を誤魔化す言い訳に過ぎない。
少し…少し位なら彼らに力を貸しても良いように思えてくる。この男に怒りを感じているのは私の心も同じなのだから。
『いや本当のーーー本当の痛みは彼等にしか分からないかもしれない。でも、でもそれではあまりにも報われない。君にはまず現世での裁きを受けて貰わなければならない…ただその前に、彼等の痛みの一端は知るべきだと思うんだーーーだから…死んでくれ』
その精神へと送り出すーーー彼等の記憶を彼等の痛みをーーー言うならばそれは追体験。自分が犯したその罪をその痛みを全て経験させるーーー霞む意識、流れ出る血、喪われる肢体、壊される心、あったはずの未来、喪失と絶望。死の瞬間に彼らが抱いた感情全て、未来を突然奪われた悲しみ怒り絶望それら全てを思い知らせる。
我が身を介してこの場にいる怨念達が一人、また一人と男の精神へと入ってゆく。
それはさながら亡者の行進。
ある者は眼球を生きたままに潰され、ある者は長く長くいたぶられ、体だけでなく精神さえも犯される。死してなお汚され尊厳を奪われた。
「やめろ!来るな!来ないでくれ」
逃げ道などはあるわけもない。その幻視は全ての痛みを┃経験《知る》までは決して終わる事はない。
全ては因果応報、お前が奪ったもの全て、己の罪の代償を思い知るがいいーーー。
「ぎゃああーーーーっーーー」
心が壊れるギリギリをーーー全てを知るまでその一線は超えさせないーーー呪うのあれば己の行いを。
そして再び『わが君』に手を出そうとした大罪を嘆くがいい。お前に待つのはこの世の断罪と地獄での懺悔のみ。
人と思えない叫びをあげる姿を見ても憐憫など感じるわけもなく。さりとて復讐をなせた悦びなどあり得ない。
彼らをこの地へ縛っていた枷が取れる。それだけのことなのだろう。留まっていた幾人もの残留思念が解放され天へと還っていた。
私に出来るのはその天へと還る光を見送る事のみ。
暫くたって聴こえてくるサイレンの音。雪崩れ込んでくる警官達のその後ろに彼女の姿を見つける。
ーーー思いがけなかった事に彼女の無事を知ったとき、また私の枷も解放される。
ようやく思い出したのだ…何故私がこの世をさ迷っていたのかを。この身を縛るこの強い願いがなんだったのか。
『そうかーーー今度こそは守れたか』
万感の思いと共に言葉を噛み締める。
ありがとう、遂に『救えた』。私に思い残すことはない。
だから最後に君にお別れをーーー。
◆
私が警察を連れて戻って来たとき、すべては終わっていたんだと思う。白目を剥いて泡を吹きながら倒れている殺人鬼とその近くで静かにたたずむ彼。
警察官の人たちが男を取り押さえていく様子を視界の端に捉えてはいても自然と意識はレイの方へと向いていた。
先ほどからほんの数分しか経っていないというのに彼のその姿に決定的な差異を感じてしまう。その変化事態は先ほどと比べて落ち着いてるというか穏やかというか、決して悪い意味の変化ではない。それだというのに悪い胸騒ぎがとまらない。それはもはや致命的ともいえる変化でもあると思えてならないのだ。
こちらへと顔を向けた彼と視線が絡まる。レイは少し驚いたような顔を浮かべた後に笑みをみせる。それは今までの彼から考えればとても似つかわしくもない、静かでとても穏やかな微笑みだった。
嫌な予感が強くなっていく。彼に掛けたい言葉は色々とあったはずなのにのどに痞えて出てこない。少しの躊躇の内に彼はこちらへと背を向けて歩き出してしまった。それはまるでついて来いと言っているかのようで重くなる足を引きずりながら私は彼の後を追った。
『今日は大変だったな』
「ええそうね…散々な一日だったわ」
追い付いたその場所は彼との出会いの場所でもある鈴の橋の上。
『だから言ったじゃないか嫌な予感がすると』
「結果的にみたらあなたの予感が当たったわけだけど、どうせならもっと良いことを当ててほしかったわね」
『減らず口を――――まあいい。実は思い出したんだよ』
「思い出した?」
「ああ」
何のこともない会話から始まったのは私の疑問に対する返答。
『さっきの君の質問に対する答え。私の未練って奴をね』
どこか遠くを見つめるように彼は語るそれは彼の過去。
『私はね生前に悔やんでも悔やみきれない一つの罪を犯したんだ。絶対に守ると誓っていた女性を…自分の主たる姫様を目の前で失った。手を伸ばせはあと少しで届くかという距離でだ。詳しいことまではまだ思い出せない…でも目の前で愛する人の命が消えていくという絶望、それは我が身を亡霊と変える十分たる未練だろう。なぜ今まで忘れていられたのか不思議なくらいだよ』
重い過去。それを話してるはずなのに彼はどこか晴れやかで、それは私の不安を加速させる。
『ただどうやらその未練もようやく解放の時を迎えたらしい。』
こちらの都合もお構いなし。言いたいことを一方的に言ってくる。
『これは君のおかげだよ。君の魂の輝きはわが君と同じ、奇跡的に再び出会えたことに感謝しかない。『君』を助けることが出来て本当に良かった。』
その内容までは理解できなくても結末は分かってしまう。つまりはこれは――――
『さて、お別れの時間だ。短い時間ではあったが楽しかったよ。明莉、ありがとう――――』
彼から私への別れの言葉だったのだ。
◆◆◆
あの日、彼がまるで空気に溶け込むかのように消えてしまったあの時からおよそ一か月ほどが経っていた。
あの後の私は警察からの事情聴取などに追われてしまい、心の整理をする暇もなく時間だけが経ってしまった。唐突に表れて消える時も唐突で、彼とのあの時間は私が見た夢だったのではないかと思うこともあった。でも今も私の首に掛かっているネックレスがあの日々が確かに現実だったのだという何よりの証拠だ。
落ち着いた今だからこそ、このネックレスを見るたびに色々な思いが込み上げてくる。怒り、困惑、動揺、ほんの短期間だったというのにこの胸に満ちる喪失感は何なのだろう。
「それでまたここに来ちゃうわけか…馬鹿ねわたし」
自然と毎日足を向けてしまうのは彼と出会い別れたあの橋の上。
かれこれ一週間以上そろそろけじめをつけるべきなのだろう。首元からネックレスを外して一度見つめる。
「さようなら」
自分の心にけじめをつけるために静かに川へとネックレスを投げ入れる。消えていく瞬間は見ていられなくて思わず目を瞑ってしまう――――ただ耳だけは澄まして。
聞こえるはずの水の音――――そのはずなのにいくら待っても聞こえてこない。
その代わりに聞こえてきたのは――――
『おいおい、なんてことをしてくれるんだ』
聞きたいと願っても叶うことはないと思っていた彼の声。
『これは私にとってかなり大切なものだと言っただろうが―――全くきみは』
幻聴かと疑ってしまうけど、続けられる言葉は確かに現実で。ゆっくりと開いた私の目に確かに彼の姿が映った。
言いたいことは山のようにあったのだけど今はもうそれどころではなくて。あふれ出そうになる涙を堪えて平然を装う。だってレイの態度はいなくなる前とちっとも変らない、私だけ動揺するなんて悔しいから。
「あらレイまだいたの? ようやく消えたと思ってたのに残念ね」
ホントの気持ちは胸に隠して私たちらしく軽口で返そう。
――――――おかえりなさいレイ。またあえて本当に良かった。
◆◆◆
目に涙をためた彼女の前で私は平静を装う。
全くもっての想定外。未練も消え失せあとは消えるのみであったはずなのにこんなことになるなんて思ってもいなかった。
確かに私を縛る未練は消えた。解放されたあの感覚に間違いはない。
だというのにわが身がまだこの世にあるのは新たな未練が出来てしまったから。
『君の情けない姿を見ていたら消えるに消えれなくてね』
「情けないって誰の事よ!」
『無論君以外に誰がいる?』
君を残して消えるのが辛いなどと思えるほどになるなんてこれもまた想定外の事だ。新たな未練は前より重く君が死ぬまで私を捉えて離さないだろう。
そして―――その後も。
霊を視れる者はまた霊になりやすく、私は君と離れたくない。
だから宣言しよう、いかなる手段を用いてでも……『やがて彼女も亡霊となる』
「いえ、結構です」
学校からの帰り道、繁華街近くを通りかかったところで若い男性が声をかけてくる。
どうやらナンパをされているみたい。
全く興味が無いので即座に断って横を通り過ぎようとする。その時に横目でキッと一睨みすることを忘れない。大抵の相手はこれで諦めてくれるのだけど。
「そんな事言わずにちょっとで良いから!」
今回の相手は中々しつこい。無視して足早に去ろうとしている私の手をとろうとまでしてくる。
「やめてください! しつこいですよ」
仕方なく足をとめると相手に向き直って文句を言ってやる。この時に初めて相手の顔をみた、中々の美形だ。
だからといって誘いを受けるつもりは全くないけど。
「そんな、お茶くらい良いじゃない」
「嫌だと言ってるじゃないですか」
笑顔を浮かべながら尚もを誘ってくる男性。そんな彼に私は何故か違和感を感じた。
これは既視感?
初めて会う相手なのに何故、そこまで考えたところでピンときた。
「…もしかしてレイ?」
「―――っ。なんのことかな?」
どうやら当たりのようだ。知らばくれようとしたようだけど、確かにあった間を私は見逃さない。
ジト目で私が見つめていると苦笑いになっていた彼はその場で首をガクッと落として動かなくなってしまった。
どうやら意識が朦朧しているみたい。普通なら慌てるところだけどその理由も私は知っている。とりあえず私の予想は当たっていたようだ。固まった彼を無視して歩きだす。
『ふむ、ずいぶんとつまらない反応じゃないかあかりよ』
歩き出した私の名前を呼ぶ声がするした。いつの間にか私の横に現れたのは20代後半ほどの外人男性。ブロンドの髪に甘いマスク、俳優と遜色ないほどの美形だ。だがその服装はまるで中世の頃のような服装である。どう見ても普通の人とは思えない。
『無視かね? さすがに礼儀としてそれは失礼だと思うのだがね?』
無視して歩き続ける私に対して彼は散々な事を言ってくれる。今はまだ我慢。
しばらく歩きビル街の隙間を見つけた私はすぐさまその路地裏へ飛び込んだ。
「一体どういうつもりなの!!」
『おう、ようやく反応してくれたね。うれしいよ』
人目がない場所まで来たところで今までためたイライラをぶつけるように彼を怒鳴りつける。私の文句を聞いても彼はどこ吹く風だ。
なぜ私が人目が付かない場所にくるまで我慢していたかって?
それはすべて目の前にいるこいつに起因する。
『無視するなんてひどいじゃないか?』
「あんな人通りの多い場所で一人で喋っていたらただの変な人じゃない!! 私はそんなの嫌よ!」
改めて目の前いるこいつをみる。すると何故か彼を通してビルの壁が見えるのだ。よくみれば彼の体はどこも薄く透き通って向こう側の景色が見えている。
そう、こいつは幽霊なのだ。
◆ ◆ ◆ ◆
私と幽霊である彼との出会いは今から1ヶ月ほど前まで遡る。
その日の夕方に私は友達2人とある『噂』について話していた。
「ねぇ知ってる? 飯坂橋の噂 」
「知ってる知ってる『出る』って話でしょ」
友達の由香の話に英梨も乗っかる。私は知らなかったのだけどずいぶんと有名な噂のようだ。
なんでも夕暮れ時にその橋で幽霊の目撃例が多々あるとか。襲われるとかではなくほんとうに会うだけのようだ。
あまり興味の持てない私は適当に相槌をうっていたのだけど突然に私へと話が向けられる。
「そういえば明莉って飯坂橋が通学路だったよね? なんかあったりしないの?」
「えっそうだけど…何もないよ。私は霊感とか全くないし」
「えーっ」
この話に興味が持てない理由として私がその橋をいつも利用していることも挙げられる。
実際に通っている私が一度もそんな体験がないのだからガセじゃないかと思うのだ。
私の答えに対する落ち込みようが半端ない。その様子をみてある疑問が浮かんだ。
「なんか凄く気にしてるみたいだけど、怪談とかそんなに好きだったの?」
彼女達とは幼馴染みの関係だけどそんな話は聞いたことがない。
「いやそこまで好きじゃないよ」
返ってきたのは私の予想通りの答え。だったら何故と聞き返してみれば待ってましたとばかりに理由を教えてくれた。
「なんとその幽霊はすっごい美形のおにーさんらしいのです」
「えっそれだけ?」
思わず本音が溢れた、勿体ぶったわりには小もない理由すぎないだろうか。
「明莉ちゃん、反応薄すぎだよ。美男子だよ、しかも滅多にお目にかかれない程らしいよ。女子として無反応ってどうなの?」
私の反応が不満だったらしくゆかが頬を膨らませると苦情を言ってくる。
「そんな事を言われても…」
ほんとうに興味がない。そんな風に思っていたら黙って聞いていた英梨が仲裁に入ってきた。
「はいそこまで、諦めなよ由香。なんたって明莉は学園中から『氷姫』って呼ばれてるほどなのよ? 男なんかに興味が持てないのよ」
「そっか。確かにそうじゃないともう誰かと付き合ってるはずだもんね」
ただその言葉は私にとって認められるようなものではない。だけど由香はそれで納得してしまったようだ。
「氷姫」それは私の学園におけるアダ名だ。その名前の由来は私にとっては全く嬉しくないものなのだ。
自慢するつもりはないけど私は昔から凄くモテる。何度かモデルのスカウトも受けていた。この学園に入ってからも告白を何度も受けているのだけど私はその全てを断ってきた。
男嫌いとか同性愛というわけではなくただ単にこれと思う相手がいなかったからだ。これを誰かに言うと少女マンガの読みすぎとか言われたり僻まれたりするので誰にも言えないけど・・・。
ともかく、告白を全て断ったことと断る際の言い方(勘違いなどされないように簡潔にはっきり言ってきたのせい)である男子から「明かりではなく氷だ」と言われたのを切っ掛けに「氷姫」と呼ばれるようになってしまったのだ。
「ちょっとその呼び方はやめてよ」
「ごめんごめん。私らはちゃんと分かってるよあかりが実は少女マンガ大好きな乙女だってことは」
「うんうん、でも分かっててもお似合いだと思っちゃうの」
私の苦情にも笑って返されてしまう。こうなると分かっていても否定は言わずにいられない。何故なら私は全く納得なんてしてないのだから。
◆ ◆ ◆ ◆
「じゃあまた明日ね。」
「くれぐれも幽霊には気を付けてね」
「まだ言ってるの? 幽霊は別として気を付けてね。また明日学校で会いましょう」
学園からの帰り道この交差点で二人とはお別れだ。引きづられるように連れて行かれる由香に苦笑しながら手を軽く振って帰り道を急ぐ。
もう季節は秋、段々と夕暮れが早くなって来ていた。
普段は部活があるためにもっと遅い。そのために辺りが暗くなってから帰る事が多かったのだけど、今日は滅多にないお休み。夕暮れを見ながら帰るのは久々だ。
そう今、目の前にあるのはさっきの噂話で出てきた橋。そしてまさに夕暮れ時だった。
あの噂話を信じた訳じゃないけど、話を聞いて直ぐに噂の場所を通るとなるとどこか不安な気持ちが出てくる。
「幽霊なんているハズがないじゃない…気にするなんてバカらしい」
強気に口に出してみるけどやはり不安は拭えない。あんな話を今日のタイミングでしてくれた結花には後で文句を言ってやろうか。でも不安になったなんて素直に伝えたならからかわれるのは間違いないないし、さてどんな方法で仕返しをしてやろうか。これは少し悩み所だ。
「ふふ、明日が少し楽しみになるかも」
馬鹿な事を考えていたら少し気分が晴れた。さっさと通りすぎてしまおう。
足早に歩いて噂の橋へと到着する。ふと先を見ると橋の真ん中に人影がーーー。
「幽霊?…ってそんなわけないわよね。」
一瞬ドキッとしてしまったけどまさか本当に幽霊がでるわけもない。その証拠に橋に立つその人はちゃんと2本の足があるようだ。
「男の人みたいだけど…なにあの格好? コスプレかなにかかしら」
よく観察してみると幽霊ではないようだけど、かと言って普通ではない。多分私より歳上の男の人であろうその人はとても変な…いえ訂正、とても個性的な格好をしていた。そうあれは歴史の教科書とかでみたことのある中世頃の騎士の姿に似ている。
騎士などとは言ったけど武器みたいなものは流石にもっていないようだ。何にせよ怪しすぎる。ここは無視して通りすぎた方が良さそうだ。
その男の人は橋の真ん中辺りの端に立ち下を流れる川を眺めているようだ。後ろを通れば気付かれないかもしれない。
極力その男の人を見ないようにしながら橋を渡る。一瞬私の方に視線を向けてきた時には少し焦った。でもそれは一瞬のことでまた川へと視線を戻す。
「はぁ~」
こちらにも聞こえてくる程のため息をついていて何だか元気が無さそうだ。
とは言え見知らぬ人が落ち込んでいるからと言って声をかける程のお節介では私はない。悪いけど無視させて貰おう。
後ろを通りすぎて橋を渡りきる。すれ違う瞬間に絡まれるなんて事もなくほっとする。
だがその場でふと少し振り返ったその瞬間ーーー
「え? ちょっと!」
私は驚きで固まってしまう。なぜなら先ほどの男の人が橋の手すりへと登っていたからだ。今にも川へと飛び込もうとするかのようなその姿に私は混乱する。
「え、待ってまさか自殺?」
橋の下を通る川は昨日大雨が降ったこともあり水嵩が増加している。それにそうでなくともあの川は流れが早く人が溺れる程の深さがある。しかもあんな甲冑を着こんでいればそうなることは必須だろう。それが分からない訳がない。となるとやはり自殺?
「待って! 早まらないで!」
慌てて私は男の人の方へと駆け寄る。なるべく関わらないようにしたかったけどこうなってしまえば話は別だ。無関係の人間とはいえそこまで私は白状ではない。目の前で死のうなんてしている人間が居れば止めに入る。それは人間として当然のことだと思う。
「そんな!間に合わない?」
男性へと手を伸ばすーーが。私がその場所へと到着した時には男性の体は橋の外へと飛び出していた。手が虚しく空を切る。
勢いよく走って来たことで体勢を崩してしまい橋の手すりへと抱きつく形で倒れてしまった。
頭が真っ白になり、血の気が引いていくのがわかる。間に合わなかった、それによる結末を想像して思わず目を瞑る。
しかし、待てど待てど川へと落ちる音は聞こえてこない。恐る恐る目をあけて川を覗きこんだーーーその時。
『君、大丈夫かい。ずいぶんと真っ青な顔をしているけど…どうしたんだい?』
聞こえてきたのは男性の声。間近でかけられたと思うその声は予想外の方向から聞こえてきていた。
「え…嘘でしょ…」
顔を頭上の方へと向ける。橋の外、川の上の上空に先ほどの男性が浮かんでいた。
◆
先ほどとは別の意味で頭の中が真っ白になった。目の前の状況が理解できない。何故、人が空に浮かんでいるのだろう。あり得ないはずの事が今まさに目の前で起きている。まさか先ほどのショックで私はおかしくなってしまったのだろうか?
考えれば考えるほどに混乱が深まっていく。
『…やっぱり聴こえる筈もないか。姿くらいなら見える人もいるのにな』
「な、何なの貴方は?」
『!?』
空中に浮いたままガクッと肩を落として背を見せたその人の呟きについ声をかけてしまった。
『もしかして私に声をかけたのかっ君!!』
ぐるんっという音が聞こえてくるんじゃないかという勢いで振り向いた男性が凄い勢いで私へと迫ってくる。それこそ顔面で正面衝突するんじゃないかというほどだ。
(近いっ顔が近い!! あっでもかなりの美形…ってそういうことじゃなくて!)
「近づき過ぎよ!離れて」
『おっとすまない。ちょっと興奮し過ぎたようだ』
内心で悲鳴をあげながら言葉と共に前へと手をつき出す。かなり近くに居たはずなのに手が当たった感触はない、何でだろう。
それはさておきようやく距離を取れたことで息をつく。今だにドキドキが止まらない…勿論、恋などではないけど。でも意外と好みの美形だと思ったのは胸のうちに秘めておこう。
『すまんな。この場所に来てからかなりの長い時間がたったが、ようやく待っていた『視える』だけでなく『聴こえる』相手に出会えたので我を忘れてしまったようだ』
男性が頭を下げながら謝罪をしてくる。その言葉に引っ掛かりを感じて…私はようやくある可能性に思い至る。
(待って…この場所で、美形のしかも宙に浮いている人間って言ったら…まさか噂の!)
今までは混乱のあまりにろくに頭が回らずに考えられなかったのだけどようやく落ち着いたことで散らばっていた情報の断片が符号を見せる。
それはつまり…今話しているこの相手はーーー
『そういえばまだ名乗って無かったね。私の名前はファントム。見てお分かりかと思うが幽霊だよ』
一瞬、卒倒してしまいそうになる。嬉しくなどないが私の予想が当たってしまったことがこの時確定した。
◆
あの夕暮れの出逢いからはや一月、彼は今も私の近くにいる。
「そもそも何で私に付きまとうのよ。貴方はあの橋の幽霊なんでしょ?」
あの後にもう一度『噂』について調べてみたのだけど、幽霊が出るというのはあの橋限定のことでその後まで付きまとわれたという話は聞かない。
それなのに何故か彼はずっと私の側にいて離れない。嫌な予感にかられて今まで聞けなかった質問を思いきって聞いてみる。
『私としてもよく分からないのだよ。前まではあの橋から長く離れることは出来なかったのだが今は出来る。ーーーと言うよりは前まではあの橋が起点だったのが君とい人間に変わったというのが性格かな』
「ーーー待って! それってつまりは…」
『うむ、有り体に言えば君に取り憑いたということだな』
薄々勘づいてはいた。だからこそ聞くのを躊躇っていたのだけど、世の中はこうも無情なのか。
「な、何で私なのよ」
『君が私の声を聞いて話しかけた。それが切っ掛けであるのは間違いないだろうな』
そうだろうとは思っていた。だからこの質問は悪あがきでしかない。ある意味では自業自得、頭で納得出来ても感情はそんな簡単にはいかない。
『どうしたそんなに落ち込んで?』
分かってるくせに、という悪態が漏れそうになるけどなんとか飲み込む。
今決めた一刻も早く除霊の方法を探そう、心の内で強く誓う。
『そんな簡単にはいかないと思うがな』
「うるさい!勝手に人の心を読まないで!」
にやにや笑いを浮かべ人の心を読んだような発言をするコイツはやはり凄く性格が悪いと思う。
『そう怒るな。役に立ってることもあるだろう? 君のボディーガードとしては悪くないと思わないか?』
「まあ…それに関しては感謝しなくもないけど…」
『そうだろう、なんと言っても私は紳士だからね』
自慢げな言い種が少しイラッと来るけど彼の言うことも間違ってはいない。彼が来てからこの一ヶ月の間は昔であれば自分で何とかしていた言い寄ってくるバカや変態達を私が手を出さずとも先に彼が追い払ってくれていた。
ただし、たまに彼自身が面白半分にナンパの真似をしてくることもあるのだけど。
「ボディーガードを自称するならさっきみたいな悪戯は止めてくれる?」
『少しのお茶目じゃないか』
「貴方がナンパなんてしてきたら結局意味がないでしょ!レイ」
『そうか?』
私の言葉にも全く悪びれる様子がない。やはりプラスマイナスでいうならマイナスじゃないかと思うのだ。
『それはさておき。その私の呼びかたはどうにかならないのかね?』
話題をすり替えるようにさも深刻そうな顔つきでなにやら質問を投げてきた。ただその質問の意図がよく分からない。
私が彼を呼ぶときの呼び名は『幽霊』からとって『レイ』と呼ぶようにしている。安直と言えばそれまでだけど、それに何か問題があるだろうか。
「何か問題がある? ユーレイだからレイ。分かりやすくて良いじゃない」
『問題大有りだ! 私は最初にちゃんと名乗っただろう。私の名前はファントムだと!』
………うん。ようやく彼が、レイが何を言いたいかは理解できた。つまり彼は最初に名乗った名前で呼ばれないことに文句を言っているのだろう。
理解はした…でもなあ、ちょっとその呼び名はどうかとも思う。
『ファントム』つまりは亡霊、なんというか…『中二病』くさいのだ。正直に言ってしまって口に出すのも恥ずかしい。お前はどこの中二病患者かと。
明らかに本名の筈もなく偽名、良い年齢の男性が名乗るにはちょっとどうなのだろう。
まだ似たような意味合いではあるけど『幽霊のレイ』の方がマシだと思う。
「だめ、もう決めたの貴方の呼び名はレイで決定」
『何故に!』
説明するのも気恥ずかしくここはお茶を濁すので十分。私はそう結論付けたのだった。
◆◆◆
「ふあ~おはよう」
「おはよう」
「おはよう明莉」
明くる朝、朝起きて二階の自分の部屋からダイニングまで下りた私は両親へと挨拶をする。二人ともすでに朝の身支度を整えて食卓へと座っている。
今だ寝間着姿なのは私だけ。娘の私が言うのもなんだけど普段の生活からして完璧すぎる私の両親だ。
「朝ごはんの準備は出来てるわ。早く顔を洗ってきて、朝食にしましょう?」
「はーい」
ただ娘の私に対しては厳しすぎるわけでなく優しい両親なので自慢だし尊敬もしている。
ーーーただひとつの事を除いては。
『なんだ寝坊でもしたのか? 髪が酷いことになってるぞ?』
当たり前のようにテーブルの空いてる場所へと位置取り無神経な言葉を吐いてくるのは幽霊のレイ。
両親の目に彼の姿は写っておらず、存在事態に気づいていない。目撃例などもあったはずの彼なのにその姿が分かるのは家族の中じゃ私だけ。
こんな自己主張の強い幽霊に何故気づいていないのか?
それより何故私だけがそうなのか?
家系的に霊感が強いとかいうならば諦めがついただろうに純粋に私だけが例外なんて納得がいかない。
「どうした? 目を険しくして」
「ううん、何でもない」
ただ言っても見えない両親には理解できないと思うので口に出す気にもなれないのだけど。
身支度を終えて食卓へと戻ってくる。両親の向かい側、自分の指定席へと座り『いただきます』手を合わせてから朝食へと手を伸ばす。
うん、おいしい。やっぱり母は料理上手だ。一応たまに花嫁修行と称して色々と教えて貰ってはいるのだけどなかなか母のようにうまくいかない。
『次のニュースですーーー』
美味しい朝ごはんに舌鼓を打っていた私の耳に届いてきたのはテレビのニュースの声。自然と視線はテレビへと向かう。
『ーーー昨日未明に見つかった身元不明の女性の遺体は状況からここ最近に頻発している連続殺人事件と酷似しており、警察は同一犯として行方を追っております。場所はーーー』
それはここ最近騒がれている連続殺人事件についてのニュースだった。どの事件も若い女性や子供を狙ったもので今回のものですでに10人以上の人達が被害にあっている。滅多にない凶悪事件ということで警察も血眼になって探しているようなのだけど、目撃例もなく今だ手懸かりすら見つかって居ないようだ。
「怖いわね…」
「そうだな。場所も今度の事件はそれほど遠くない場所じゃないか。明莉、十分に気を付けるんだぞ。」
「そうね、なんなら送り向かいをしましょうか?」
両親もニュースに聞き入っていたようだ。最初こそ遠く離れた場所で起きた事件だったのだが今回はどうやら隣の県で起きた事件らしい。不安そうな表情になった母が私を気遣って送り向かいをしてくれると言って来てくれたけど両親は共働き、必要以上に迷惑をかけることは憚れる。
「いえ、大丈夫よお母さん。なるべく人通りの多い場所を歩くようにするから安心して。それにまだ犯人がこっちにくると決まった訳じゃないわ」
「…お前がそういうなら良いが、不安になったならいつでも言うんだぞ」
「そうよ、それくらいのことなんてお母さん達には何の苦にもならないわ」
「ありがとう、その時はお願いするから」
未だに心配そうな顔の両親を安心させるように頷いてみせる。大丈夫、まだそんな不安はない。先ほども言った通りにまだ犯人が来ると決まった訳ではない。しかも狙われているのは人気のない場所のようなので人通りの多い道を選べば危険はないだろう。
「あれ、もうこんな時間? そろそろ行かないと!」
ふと時計をみればいつも学校へと向かう時間を大きく過ぎてしまっている。あわてて席を立つ。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい」
「きをつけていくんだぞ」
両親に声をかけて家を飛び出す。早足で行けば何とか間に合うか…ちょっと微妙なところだった。
◆◆◆
小走りで学校へと急ぐ。その傍ら思い出すのは朝の両親とのやり取り。
「心配してくれるのはありがたいけど…逆に心配しすぎなのよね」
『おいおい何を言ってるんだね?』
ふとこぼれた言葉、誰に聞かせるつもりもなかったのだけどそれに反応をみせる奴がいた、レイだ。
『君を心配してくれて言った言葉だろう。そんな事を言っては罰が当たるぞ』
「ありがたいとは思ってるわよ」
当たり前のようについてきた彼は浮遊したまま私の横を並走している。その顔はいかにも呆れたという顔をしている。
『君を守りたいというご両親の気持ちは分かるだろう?いくら心配しても不安なんだよ。事が起きてからでは遅すぎる。心配の『しすぎ』なんてものは無いんだ。喪った後での悲しみの大きさを考えれば比べるまでもない』
急に声音が大きく変わった事に驚く。なんというか重味の籠った言葉のようでーーー。
「ちょっとどうしたのよレイ?」
『んーーーいや何でもない。何を言い出したんだろうな私は』
問い返した私の言葉に答える言葉に先ほどの深刻さは無くなっている。というか自分自身でも戸惑っているような様子だ。
「貴方が言い出した事じゃない、私には解らないわよ。そういえば朝も少しおかしかったわよね。ニュースを見たあと黙り込んだりして」
ふと朝も少し様子が変だった事を思い出す。あの例のニュースをじっと見たあと暫く黙り込んで何か考えるような仕草をみせていたのだ。少し躊躇った後でようやく彼は口を開く。
『黙っていようかと思っていたのだがね。少し胸騒ぎがするんだ、嫌な予感というか…今さらでも遅くない、今日は学校を休んで家にいないか?』
「なに言ってるのよ、もうそろそろ学校じゃない。というか止めてよね。嫌な予感? まさかとは思うけど私が事件に巻き込まれるとでもいうの? へんなフラグを立てないでよ」
まさかという言葉に私は思わず反論してしまう。彼はそれに諦めたように肩をすくませてみせる。
『絶対と言える確信ではないよ。何となくと言った程度のものだから杞憂に終わるかもしれない。いや可能性としてもそちらが高い事だし…君がそういうならもう何も言うまい。…ちなみに君、『フラグ』なんて言い回しをするなんてやはり君もーーー』
「あーーうるさい! そんなことはどうでも良いでしょう!」
思いがけない反撃にあわてて言葉を遮る。たまにチクッとした反撃をしてくる彼は油断ならない。動揺する内心のなかでふと思い浮かんだ事があった。話を反らすためにも丁度良い、これはちょっとしたお願い事だ。
「そうね…もし、万が一の事だけど私が事件に巻き込まれるような事になったなら助けてくれるんでしょ、自称私のボディーガードさん?」
その突然の言葉に面食らったような様子を見せた彼はその後にーーー。
『そうか、そうだったな。任せておけ、何と言っても私は君の│騎士《ボディーガード》なのだから。君を守ってみせようーーー今度のこそ何に変えても…』
ーーー私が初めて見る満面の笑みを浮かべて強く断言してくれたのだった。
ほんの少しほんの少しだけど高鳴ってしまった胸の音にーーー呆れるくらいに戸惑った私は彼の少し変わった言い回しに気づくことは出来ない。
『そうだ、これを君に預けて置こう。誓いの証に…唯一残っている私の遺品だ。私にとってとても大切な品だ無くさないでくれよ』
証にと言われて渡されたのは小さな蒼い石のついたネックレス。
茶化しながらめ渡されたそれに私は全ての気を持ってかれてしまっていたのだ。
◆◆◆
「あっおはよー」
「おはよう」
「おはよう」
何とか時間に間に合った私はクラスメイトと挨拶を交わして自分の席へとつく。
「おはよう明莉ーっ!」
「おはよう。遅かったじゃないどうかしたの?」
「ちょっと家を出るのが遅くなっちゃって。おはよう二人とも」
席についた私に由香と英梨が近づいてきた。いつもハイテンションな由香がなにやらウズウズした様子で私を見てくる。
「何かあったの?」
「よくぞ聞いてくれました! 明莉ももう知ってるかもしれないけど例の連続殺人犯が近くに来てるかも知れないんだって!」
それは奇しくも今朝見た例のニュースの話だった。いや大事件がすぐ近くで起きたのだ逆に当然かもしれない。耳を澄ましてみればあちらこちらでその話題が上がってるのに気づく。
「今朝、ニュースでみたわ。怖いわよね、早く捕まってくれたら良いのに」
「本当にそうよね。私も両親から注意を受けたわ。なるべく一人では歩かないようにって」
「明莉なんて特に美人さんなんだから気をつけないとっ!」
「それは貴方達も一緒でしょ?」
今一番ホットな話題、話をしているうちに不安が大きくなってくる。少し鈍よりした雰囲気が漂う中、その空気を打ち切るようにパンパンと手が打ちならされる。
「みんな席についてーーホームルームを始めるわよ」
いつの間にかやって来ていた担任の陽子先生の声に皆が自分の席へと戻って行く。またね、と一言残して二人も自分の席へと戻って行く。
ホームルームの伝達事項を聞きながら小さくため息をつく。
『どうしたため息なんてついて、やはり君も例の事件が心配になってきたのか?』
「いえ、大丈夫よ。黙ってて」
目敏く気づいたレイに声を掛けられるが即座に否定して黙らせる。こんな場所で彼と会話することは出来ない。
ーーーそれにと今度はバレないように心のうちで溜め息をつく。
自然と朝に彼から貰ってたネックレスへと手が向かう。今は目立たないように隠して身に付けているそれを弄りながら考える。
彼の言うとおりに事件に関して不安が大きくなっているのは確かだ。でも私が溜め息をつきたくなっている真の理由はそれではない。
表に出さないように気を付けながら内心で叫ぶーーー
不覚、不覚不覚不覚不覚不覚っ! あり得ない、あり得ないあり得ない、よりにもよって彼にときめくなんてあり得ない!?
そうそれは、一瞬の心の迷いと言えどレイに胸をときめかせてしまったことに対する混乱だった。
レイよ、あのレイなのよ! ふざけた様子でナンパの真似事なんかして、私をからかうような真似ばっかしてくるお調子者! そんな奴なのに、それを私は知っている筈なのにっ何でーーーっ
彼を否定する文言を呟けど呟けど先程見た彼の笑顔が忘れられない。私を守ると言った言葉も合わせて顔が熱くなる。気を抜けば、『でも今までも守ってくれていた』などと考えてしまうことが嫌だった。
分かってる、でも認めたくない。
感情の堂々巡りそんな混乱が止まることなく心のうちを満たしていた。
◆◆◆
ようやく放課後となった。やはり混乱が収まることはなく、今日の授業内容は全く頭に入ってこなかった。
「明莉…大丈夫? 何か疲れているみたいだけど…」
「大丈夫、大丈夫よ」
英梨が心配そうに声を掛けてくる。隠し通していたつもりだったのだけどどうやら友人たちにはバレバレだったようだ。どうにか笑顔を作って否定する。こんな悩みは親友たる彼女たちにだって相談できるものじゃない。いや彼女たちだからこそ出来ないともいえる。簡単に冷やかされて追及される未来が想像できるのだ。
「もしかして朝に私が話した噂を気にしてるの? 可愛いなぁ明莉は!」
「ちょっと由香!」
由香が突然私に抱き着いてくる。どうやら私の悩みを例の事件の事だと勘違いしたみたいだ。まあ確かにそれも不安の一つでもあることだし勘違いしてくれる分にはありがたい。
「大丈夫!一緒に帰ろうよ! みんなで帰れば怖くないって! たとえ殺人鬼が出てきても退治してあげるよっ英梨が!」
「ちょっと!何勝手な事言ってるのよ!」
「えーだって英梨って強いじゃん! 剣道の大会でインターハイに出場したくらいの腕前じゃん。今日部活はどこも休みになったんでしょ? 一緒に帰ろうっそれで私たちの事守ってよ~」
「いや一緒に帰るのは構わないけど―――」
由香の言葉に英梨が抗議の声をあげる。由香の言うとおり英梨は剣道部に所属していてインターハイ出場の経験もある猛者だ。でもだからといって殺人犯の相手をさせるのは無理があるだろう。もっとも由香も本気で言っているわけではないだろうけど。
「そうね、退治云々は別として一緒に帰るのは私も賛成よ」
「よしっ決定!」
友達の気遣いは嬉しい。学校に例の殺人犯が近くに潜伏しているかもしれないという情報が入ってきてらしく、非常事態ということで急きょ全ての部活が休みになった。断る理由もなくこちらとしてもありがたい。
三人でたわいない話をしながら帰路に着く。途中危険な事態に陥ることもなく彼女たちと別れる交差点までやってきた。
「えっといつもならここでお別れだけど、家まで送っていこうか? 私たちはどうせ二人近所だし…」
「いえ大丈夫よ。ここから飯坂橋を通ればすぐ近くだし」
「―――そう? やっぱり心配だな」
「本当に大丈夫だから」
分かれ道こちらを気遣ってくれる英梨に大丈夫だからと断る。口には出せないけど私にはレイが着いているのだから大丈夫だろう。レイへと視線を向ければ任せておけとばかりに胸をたたいている。
―――全く誰のせいで私が今日一日思い悩んだと思っているのか。ついジト目を送りたくなる。
「そういえば、あの噂ってどうなったのかなあ?」
ふと思い出したように由香が疑問を口にする。
「あの噂って何よ?」
「ほらっ飯坂橋の幽霊さんだよ! いつの間にか話を聞かなくなったじゃん」
「ああ、あったわねそんな噂、聞かなくなったってことは成仏でもしたんじゃない?」
「ええーっ! そんなあ―――美形の幽霊さん私も一度あいたかったのになあ」
二人の会話を冷や汗を流しながら聞く。『いやその幽霊は今すぐそばにいます』そんな言葉がのど元にまでせりあがってくるが…今日の今日まで彼女らがレイに気づくことはなかった。今更いうだけ無駄だろうと思い直す。
「本当にいいのね?」
「うん、大丈夫だから心配しないで」
「それじゃあまた明日~」
「うんまた明日」
「また明日、気を付けてね何かあったら叫ぶのよ、絶対駆けつけるから」
「ありがとう、またね」
念押ししながら最後まで心配してくる英梨に苦笑しながらも分かれる。さあ早く家に帰りましょう。
『いい友達を持ったな』
「ええそれは間違いなくね」
すこし歩いたところでレイが呟くように言葉を漏らす。それに関しては間違いない。二人とも疲れた様子を見せていた私を気遣ってくれていた。理由が理由だけに申し訳なくも思ってしまう。
―――と奇しくもそこは飯坂橋の途中。はじめてレイと出逢った場所が正にそこだった。さきほどの由香たちの言葉を思い出す『飯坂橋の幽霊』『成仏』、それらをキーワードにしてとある疑問が頭に浮かぶ―――それは。
「ねえレイ?」
『ん?何だね?』
「今まで聞いたことはなかったけどふと気になったの。何故貴方は幽霊になってしまったの? 」
私の前を歩いていたレイが動きを止める。
疑問が浮かんだ、それをどうしても今確かめたくなった。少し前に調べた幽霊に関する本に書かれていた一文を思い出す。
―――――強い強い未練を抱いた者こそが幽霊となる。
ということは彼もまた『強い未練』があるのだろう。これもまた感情の堂々巡り、聞きたいような聞きたくないような、そんな思いがこの場所に来たことで『聞きたい』という方に天秤が傾いていた。
「あなたはどんな思いを残して死んでしまったの?」
押し黙った彼はしばらくの間のあとに静かに口を開く。
『もしかしたらその質問をされることを私は恐れていたのかもしれないな。その答え―――私の願い―――すまない。私もそれが何なのか覚えていないんだ』
ただその答えは意外なもので聞き返さずにはいられなかった。
「覚えていない?」
『そうだ。生前の記憶が霞がかって朧げにしか思い出せないんだ。私の核となっている強い思いがあるのは分かる。でもそれが具体的に何なのか思い出すことが出来ないんだ』
彼の告白に言葉を無くす。記憶がない、いやないわけではなく思い出せない。それはどんなにつらいことだろう。自分の存在を確立しているのは過去から今までの記憶によるところも大きいと私は思う。それが不確かなんてどんなに不安を抱えているか。だというのにお調子者を演じる彼の事を思えば胸が苦しくなってくるのだ。
『ただ一つだけ、君とであったことで私の『心』が震えたんだ。君の魂の色が何故か懐かしいように感じてしまうそれは一体何でだろう』
「えっそれはどういう…」
普段とは違う真剣なまなざし、独白にも似たその言葉に、私の胸は高鳴ってしまう。言葉の続きを待つ、何故かはわからないけどそれを聞かなければならないような気がしていた。
世界に二人だけしかいないのではないのだろうかという錯覚。
そんな永遠とも感じるような時間は――――――ただ唐突に打ち切られてしまう。
「きゃあ---------------------っ!」
どこからともなく聞こえてきた悲鳴、それは女の子の声のようだった。
声の聞こえてきた方角へと視線が向かう。橋の下を流れる水の向う先―――そこは町の一角に作られた自然公園。憩いの場ともいえる大きな公園。この飯坂橋じたいが公園の一角でもあるのだ。
『この反応は――――何故嫌な予感ばかりが当たるな…おそらく例の殺人鬼だよ』
忌々しげにレイが呟く。何故レイがそれを分かるかはわからない。ただその確信したような物言いを見る限りまずそうなのだろう。時刻はすでに夕暮れ時に差し掛かっている。
辺りに人の気配は全くなく、この公園は広くもしかすればその声を聞いたのは私たちだけかもしれない。この先に殺人鬼がいるそう思うと怖くて足が震えそうになる、私に戦う力なんてない。言ったところで足手まといにしかならないかもしれない。でも助けを求めていたであろうその悲鳴を無視することは私には出来なかった。
思い出されるのは先ほどの親友の言葉、『何かあったら叫ぶのよ、絶対駆けつけるから』それを思い出した私は走り出す。助けを求めているのだろうその少女の元へと。
『やはりこうなるか…だろうとは思っていたよ。君もまた優しすぎる、誰かを見捨てて自分だけが助かろうなんて思うわけもない。やはり君は『彼女』なんだな―――――私は何を言っていた? ちょっと待て一人で行くな。私はそっちに行くのが――――』
「待ってなんかいられないわ!私は先に行く!」
レイが何を言っているかなんて考えている暇はなかった。言葉を返して全速力で走っていく。
『全く私の話を聞いてはくれないか…やはり制限される――私が行くまでは無事でいてくれよ』
彼のその言葉の意味を理解しないままに。
◆◆◆
到着した公園の中央広場。確か悲鳴はこっちから聞こえてきたはずだ。全力で走ったせいで乱れた呼吸を整えながら周囲を見渡す。人気のない公園は日も落ちていたこともあって薄暗く見通しが効かない。疎らに設置されている外灯の光だけを頼りに何とか目を凝らす。
そしてようやく見つけた。少し先に幼い少女が倒れている。慌てて駆け寄り少女の体を抱き起こす。
「君っ大丈夫?」
「ん~ん」
見た感じでは転んでつけたと思われる擦りキズがあるくらいで大きな怪我は見当たらない。少し唸っているけど気を失っているだけのようだ。
「ひとまずは無事か…、というか他に人は見当たらない…どこかにいったの?」
少女の無事を確認出来てほっとしたのは良いのだけど懸念していた例の殺人犯の姿は近くには見当たらない。レイの確信にしたような物言いで覚悟をしていたのだが彼の勘違いだったのだろうか?
「ちょっとレイ? 誰もいないじゃない」
声に出してみるけど反応はない。まだレイは追いついてきてないみたいだ。
仕方がない、今は少女を助ける方が最優先だろう。悲鳴があったのだから何かしらがあったのは確かだ。それを考えればこの場を早く離れるべき。だれもいなかったのは逆に好都合と考えよう。
「っと、子供って意外重いのね…」
気を失ったままの少女を何とか抱き抱える。あまり鍛えていないせいかそれだけでいっぱいいっぱい。近くに落ちている多分この子のものだろう手提げ鞄は持てそうもない。
「仕方ない、これは後で取りにくるしかないかなーーーっ?」
出口へ向かって踵を返そうかと思ったその時、こちらに近づいてくる足音に気がつく。
少しの緊張が走るーーーそして姿を見せた足音の主は一人の男性だった。息を切らしたら様子のその人が口を開く。
「はあ…はあ、だ、大丈夫ですか? 悲鳴が聴こえたので…、慌てて駆けつけたんですけどーーー」
「あ、ありがとうございます。私も今駆けつけたところで、この子が倒れてたんです。」
どうやら私と同じく悲鳴を聞き付けてやって来た人だったようだ。スーツを着たサラリーマンらしきその人は特に怪しい感じはない。どちらかというと少し頼りない感じでよほど急いだのか、掛けている眼鏡はズレ、耳に着けていたらしいイアホンの片方も外れて空中をぶらんと泳いでいる。
「そ、それは良かった…えと代わりますか?」
「いえこの子は私がこのまま連れていきますから…そうだそこにある鞄を持って貰って良いですか?」
私が女の子を連れて行こうとしていたのに気づいたらしく、おずおずとした様子で申し出てくれたようだけど頼りない感じのその人に女の子を預ける気にはなれない。だから荷物の方をお願いしよう。
「ーーー分かりました」
男性は私の言葉に頷くと荷物を取るために私の横を通り過ぎようとする。ふとそのすれ違う瞬間に男性持つイアホンから漏れていた音に気がつく。
ーーーえ?これってお経?
なぜそれなのか疑問が浮かぶもそれを考える暇もなく。今度は間近から聞こえてきたうなり声へと気がそれる。
腕に伝わってくる震動、うっすらと目を開けた女の子。良かった無事目が覚めたみたい。
「あ…れ、ここ、どこ?」
「あっ目が覚めたんだ」
不思議そうな声に安心させるように声をかける。だが、まっすぐ見つめた少女の顔に浮かぶのは安堵ではなくて、丸く見開かれた瞳に映る誰かの影ーーー
「あっ危ないっ!」
少女の悲鳴にちかい声を聞きながら咄嗟に横へと身を翻す。
視界に掠めるのは銀色の光。私がもといた場所を通りすぎたそれは私の髪の毛を何本か奪って宙を切る。
それはナイフの輝き。無理に動かした事で地面へと倒れ混んだ自分の身を起こして。凶刃を振り抜いたその人物へと視線を向ける。
「ひ、ひひっーーは、外した、外したか」
「な、何をするのよ?」
そこにいたのは荷物を取りに行ったはずの男性。その手にあるのは荷物などではなく凶器たる銀色のナイフ。良く見れば使い込まれた様子が分かるそれを持つ彼の表情は見事に歪んでいる。
「あ、あなたがもしかしてーーーっ」
「き、きひひっ」
先程感じた印象が幻だったかと思えるほどの変化。その顔に浮かべるのは噂通りの殺人鬼を思わせる凶人の笑みだった。
警戒していたつもりで気を抜いたっ!
まず抱いたのは後悔。未だに捕まらない殺人犯、それが常にいかにもな姿をしているわけもない。それなのに見た目だけで判断して油断してしまった。
続いてくるのは恐怖。さきほどのひと振りさえ避けれたのは運が良かっただけ、近付く死の危険に涙が溢れでそうになる。
頼みの綱のレイも未だに来ない、肝心な時にいないなんて先ほどの言葉は何だったのかと泣き言を言いたい。
もう今すぐにでも泣き叫びたい…でも、それでもそれが偽りならざる本音だったとしてもそれは出来ない。視線を落とせば震えて涙を流す女の子の姿。私は彼女を助けるためにここまで来たのではなかったのか。
咄嗟に掴んだ地面の砂を男へと投げつける。
「逃げるわよ!走って!」
砂を目眩ましに逆方向へと走り出す。公園を抜けて人目の多い場所まで行ければ何とかなるーーーそれだけを希望に逃げ出した。
「んーーーいったい」
だけど、走り出した瞬間に片足へと激痛が走る。男からまだ30メートルほどしか離れていない場所で堪えきれず私は転んだ。
最初の回避。あの無理な動きで片足を痛めてしまっていたのだ。これ以上私は走れそうにない。
「お姉ちゃん!」
「私は良いから先に行って!」
「でもっ!」
「大丈夫だから!」
先を走っていた女の子が私に駆け寄ろうとしていたけどそれを止めて先に行くように促す。せめてこの子だけでも助かって欲しかった。だけど彼女は私も連れていこうと懸命に私の腕を引っ張ってくる。
「お願い先に逃げて」
「お姉ちゃんも一緒に行くの!」
後ろから近付く男の気配。私が動けないのに気づいたのかゆっくりとした歩みで近付いてくる。
後数メートル…今度こそ恐怖に押し潰されそうになる。
「お、鬼ごっこはおわり…か?」
「近づかないでっ!」
「が、がきは後回しだっ」
私と男の間に立ち塞がろうとした女の子がぶたれて飛ばされた。それに抗議の声をあげようとしたけどそんな暇はなかった。倒れたままの私に近づいた男に髪を引っ張られて無理やり顔を上げさせられる。
「き、きひひ、なんだきれいなかおだなぁ、さてどうしようか…このまま殺すのは簡単だ…きひひ」
近づけられる男の顔に嫌悪を覚える。下卑た嗜虐の籠ったその表情から男が何を考えているかは容易に想像がついた。思い出されるのは報道されていた悲惨な被害者たちの末路。絶望にもはや涙があふれ出るのを止めれそうにない。
「いいぞ、いいぞそのぜつぼうにみちたかお…おれは何よりその顔がみたいんだっ」
男が手に持つナイフを胸元へとへと近づけてくる。もう直視できないと首を振ったその時、首元に掛けていたネックレスが外へと飛び出してきた。目に映る蒼い石、それと共に思い出される彼の声――――
偶然かどうか石が男へとぶつかり距離が開く、しかしそれに激昂したのかナイフを振り上げる男の姿が見えた。
「助けてよ! 約束したじゃないレイ!」
振り下ろされる凶刃を前にして心の内をそのままに目を瞑り大声で叫んだ。他の誰でもない彼に助けを求める声を―――。
目を閉じたままに来るだろう衝撃を待ち構えていた私だけど――――その衝撃が来ることはなく届いてきたのは待ち焦がれた彼の声だった。
『やれやれ、どうにか間に合ったようで何よりだよ。私のお姫様』
◆
なんとか間に合った。心からの安堵は表に出さず、涙を浮かべたままの彼女へと声をかける。
『何安心してほしい。君に刃を向けたこの男はもう私の許可なく指一本動かすことは出来やしない。所謂憑依の応用って奴だよ』
「れい! もう遅いのよっ私がどれだけ死ぬ思いをしたと思ってるの? 私を守るといったくせに!」
私に気づいた彼女は泣きじゃくりながら文句を言ってくる。珍しいくらいに弱弱しい彼女、それだけ恐怖を感じていたということか。胸がチクリと痛むが平然を装う。
『悪い悪い、少し色々と手間取ってしまってね。間に合ったようだし君の珍しい姿を見れたことだ結果おーらいじゃないかな?』
「なっ! 何を言い出すのよっ、それにさっきのなによ『私のプリンセス』とか私だったら恥ずかしくて口にも出せないわよ」
自分の現状に気づいた彼女は顔を赤くしたかと思えば取り繕うように言葉を並べる。『やっぱり中二病ね』などと言いってくる始末少しは調子を取り戻してくれただろうか。
「それで手間取ってたっていうけど何でこんなに遅かったのよ? あなたの言葉を借りるなら『騎士失格』ってやつじゃないの?」
語尾の『本当に怖かったんだから…』という呟きは聞かなかったことにしとこう、胸が痛いが指摘すれば怒られそうだ。
『それに関しては面目ない…奴の行動が足かせになってしまってね。相対したならばいくらでも対処のしようはあったから油断していた。奴がまさか『あんなもの』を聞いているなんて思わなかったんだよ』
「あっもしかしてお経の事?」
『何だ気づいていたのか?』
本当の理由は告げずに用意していた建前を口にする。あれがあることは気づいていた、それを利用させてもらう。彼女もあれの事は知っていたようで説明も省くことも出来たので何よりだ。
さてそろそろ行動に移るとしよう。
『私がコイツを拘束しているのは簡単だがいつまでもこうしているわけにもいくまい。悪いんだが警察を呼んできてくれるか?』
「分かったわ。そうだっあの子も病院に連れて行かないと!」
近くに倒れていた少女に駆け寄り背負う。この子が先ほどの悲鳴の主らしい。怪我こそしているが命に別状はないと見える。少女の方も何とか助けられて良かった。
「よし! 警察を連れてくるのは良いけど。貴方はどうするの?」
『一応監視は必要だろう。ここで待ってるよ」
「わかったわ。すぐ戻ってくる」
出口へと向かう彼女へ手をひらひらと振り見送る。ふと最後の最後で目を覚ましたらしい少女と目があったように感じたのだが気のせいだろうか。
まあいいか。私のすべきことを片付けるとしよう。
『さて、そろそろ良いだろう。聞こえているかい殺人鬼?』
「お、おれは信じないーーーし、信じない、幻聴だ、こんなものは、幻聴ーーーだ、」
憑依を解き男の前へと姿を見せて声をかける。男の眼は確かに我が身を捉えているというにそれを頑なに認めようとしない。ここまで往生際が悪いと逆に笑えてくる。
『君はまだそんな事を言うのかい? これほどの念があって感じない訳もないだろうに』
「なぜ、なぜ、とまらない…いつもなら…聞こえなくなるの…いつもなら」
『ああ『お経』…我らを鎮める鎮魂歌かい? 最早限度を超えているからね。いみはないことだね』
男が震える手すがり付くレコーダー。それから微かに聴こえてくるのはお経の法典。過去であれば効果もあったかもしれないそれも現状では救いの手などにはなり得ない。
『ーーーもう私としても我慢の限界でね…聴こえるだろう同胞達の声が』
レコーダーを弄り亡者達の声なき声を現出させる。
『君に理由もなく無惨に命を奪われた無念の嘆きがーーー』
我が身が霞み、この一時だけは彼等の姿を写し出す。口から漏れるは彼等の呪詛ーーー
『『ーーーゆるさない…ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさないゆるせない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさないーーー赦せない!裁きを!復讐を!報復を!死を!』』
ーーー幾人もの声が重なり責め立てる。
『分かる、分かってしまうんだよ。だってこの身もまた同じ…君たち以上に伝わってくるんだ。悲しみが、嘆きが、怒りが、憎しみが、怨みが! 』
同じ霊体故に共感してしまう。霊体とは思念の塊。むき出しの心と同じ。ぶつかり合えば必要以上に伝わってくる。
この場に来るのに手間取ったのはそれが理由に違いなく。飲み込まれずに己を保つのもやっとの状況。念仏などを理由にしたのは彼女を誤魔化す言い訳に過ぎない。
少し…少し位なら彼らに力を貸しても良いように思えてくる。この男に怒りを感じているのは私の心も同じなのだから。
『いや本当のーーー本当の痛みは彼等にしか分からないかもしれない。でも、でもそれではあまりにも報われない。君にはまず現世での裁きを受けて貰わなければならない…ただその前に、彼等の痛みの一端は知るべきだと思うんだーーーだから…死んでくれ』
その精神へと送り出すーーー彼等の記憶を彼等の痛みをーーー言うならばそれは追体験。自分が犯したその罪をその痛みを全て経験させるーーー霞む意識、流れ出る血、喪われる肢体、壊される心、あったはずの未来、喪失と絶望。死の瞬間に彼らが抱いた感情全て、未来を突然奪われた悲しみ怒り絶望それら全てを思い知らせる。
我が身を介してこの場にいる怨念達が一人、また一人と男の精神へと入ってゆく。
それはさながら亡者の行進。
ある者は眼球を生きたままに潰され、ある者は長く長くいたぶられ、体だけでなく精神さえも犯される。死してなお汚され尊厳を奪われた。
「やめろ!来るな!来ないでくれ」
逃げ道などはあるわけもない。その幻視は全ての痛みを┃経験《知る》までは決して終わる事はない。
全ては因果応報、お前が奪ったもの全て、己の罪の代償を思い知るがいいーーー。
「ぎゃああーーーーっーーー」
心が壊れるギリギリをーーー全てを知るまでその一線は超えさせないーーー呪うのあれば己の行いを。
そして再び『わが君』に手を出そうとした大罪を嘆くがいい。お前に待つのはこの世の断罪と地獄での懺悔のみ。
人と思えない叫びをあげる姿を見ても憐憫など感じるわけもなく。さりとて復讐をなせた悦びなどあり得ない。
彼らをこの地へ縛っていた枷が取れる。それだけのことなのだろう。留まっていた幾人もの残留思念が解放され天へと還っていた。
私に出来るのはその天へと還る光を見送る事のみ。
暫くたって聴こえてくるサイレンの音。雪崩れ込んでくる警官達のその後ろに彼女の姿を見つける。
ーーー思いがけなかった事に彼女の無事を知ったとき、また私の枷も解放される。
ようやく思い出したのだ…何故私がこの世をさ迷っていたのかを。この身を縛るこの強い願いがなんだったのか。
『そうかーーー今度こそは守れたか』
万感の思いと共に言葉を噛み締める。
ありがとう、遂に『救えた』。私に思い残すことはない。
だから最後に君にお別れをーーー。
◆
私が警察を連れて戻って来たとき、すべては終わっていたんだと思う。白目を剥いて泡を吹きながら倒れている殺人鬼とその近くで静かにたたずむ彼。
警察官の人たちが男を取り押さえていく様子を視界の端に捉えてはいても自然と意識はレイの方へと向いていた。
先ほどからほんの数分しか経っていないというのに彼のその姿に決定的な差異を感じてしまう。その変化事態は先ほどと比べて落ち着いてるというか穏やかというか、決して悪い意味の変化ではない。それだというのに悪い胸騒ぎがとまらない。それはもはや致命的ともいえる変化でもあると思えてならないのだ。
こちらへと顔を向けた彼と視線が絡まる。レイは少し驚いたような顔を浮かべた後に笑みをみせる。それは今までの彼から考えればとても似つかわしくもない、静かでとても穏やかな微笑みだった。
嫌な予感が強くなっていく。彼に掛けたい言葉は色々とあったはずなのにのどに痞えて出てこない。少しの躊躇の内に彼はこちらへと背を向けて歩き出してしまった。それはまるでついて来いと言っているかのようで重くなる足を引きずりながら私は彼の後を追った。
『今日は大変だったな』
「ええそうね…散々な一日だったわ」
追い付いたその場所は彼との出会いの場所でもある鈴の橋の上。
『だから言ったじゃないか嫌な予感がすると』
「結果的にみたらあなたの予感が当たったわけだけど、どうせならもっと良いことを当ててほしかったわね」
『減らず口を――――まあいい。実は思い出したんだよ』
「思い出した?」
「ああ」
何のこともない会話から始まったのは私の疑問に対する返答。
『さっきの君の質問に対する答え。私の未練って奴をね』
どこか遠くを見つめるように彼は語るそれは彼の過去。
『私はね生前に悔やんでも悔やみきれない一つの罪を犯したんだ。絶対に守ると誓っていた女性を…自分の主たる姫様を目の前で失った。手を伸ばせはあと少しで届くかという距離でだ。詳しいことまではまだ思い出せない…でも目の前で愛する人の命が消えていくという絶望、それは我が身を亡霊と変える十分たる未練だろう。なぜ今まで忘れていられたのか不思議なくらいだよ』
重い過去。それを話してるはずなのに彼はどこか晴れやかで、それは私の不安を加速させる。
『ただどうやらその未練もようやく解放の時を迎えたらしい。』
こちらの都合もお構いなし。言いたいことを一方的に言ってくる。
『これは君のおかげだよ。君の魂の輝きはわが君と同じ、奇跡的に再び出会えたことに感謝しかない。『君』を助けることが出来て本当に良かった。』
その内容までは理解できなくても結末は分かってしまう。つまりはこれは――――
『さて、お別れの時間だ。短い時間ではあったが楽しかったよ。明莉、ありがとう――――』
彼から私への別れの言葉だったのだ。
◆◆◆
あの日、彼がまるで空気に溶け込むかのように消えてしまったあの時からおよそ一か月ほどが経っていた。
あの後の私は警察からの事情聴取などに追われてしまい、心の整理をする暇もなく時間だけが経ってしまった。唐突に表れて消える時も唐突で、彼とのあの時間は私が見た夢だったのではないかと思うこともあった。でも今も私の首に掛かっているネックレスがあの日々が確かに現実だったのだという何よりの証拠だ。
落ち着いた今だからこそ、このネックレスを見るたびに色々な思いが込み上げてくる。怒り、困惑、動揺、ほんの短期間だったというのにこの胸に満ちる喪失感は何なのだろう。
「それでまたここに来ちゃうわけか…馬鹿ねわたし」
自然と毎日足を向けてしまうのは彼と出会い別れたあの橋の上。
かれこれ一週間以上そろそろけじめをつけるべきなのだろう。首元からネックレスを外して一度見つめる。
「さようなら」
自分の心にけじめをつけるために静かに川へとネックレスを投げ入れる。消えていく瞬間は見ていられなくて思わず目を瞑ってしまう――――ただ耳だけは澄まして。
聞こえるはずの水の音――――そのはずなのにいくら待っても聞こえてこない。
その代わりに聞こえてきたのは――――
『おいおい、なんてことをしてくれるんだ』
聞きたいと願っても叶うことはないと思っていた彼の声。
『これは私にとってかなり大切なものだと言っただろうが―――全くきみは』
幻聴かと疑ってしまうけど、続けられる言葉は確かに現実で。ゆっくりと開いた私の目に確かに彼の姿が映った。
言いたいことは山のようにあったのだけど今はもうそれどころではなくて。あふれ出そうになる涙を堪えて平然を装う。だってレイの態度はいなくなる前とちっとも変らない、私だけ動揺するなんて悔しいから。
「あらレイまだいたの? ようやく消えたと思ってたのに残念ね」
ホントの気持ちは胸に隠して私たちらしく軽口で返そう。
――――――おかえりなさいレイ。またあえて本当に良かった。
◆◆◆
目に涙をためた彼女の前で私は平静を装う。
全くもっての想定外。未練も消え失せあとは消えるのみであったはずなのにこんなことになるなんて思ってもいなかった。
確かに私を縛る未練は消えた。解放されたあの感覚に間違いはない。
だというのにわが身がまだこの世にあるのは新たな未練が出来てしまったから。
『君の情けない姿を見ていたら消えるに消えれなくてね』
「情けないって誰の事よ!」
『無論君以外に誰がいる?』
君を残して消えるのが辛いなどと思えるほどになるなんてこれもまた想定外の事だ。新たな未練は前より重く君が死ぬまで私を捉えて離さないだろう。
そして―――その後も。
霊を視れる者はまた霊になりやすく、私は君と離れたくない。
だから宣言しよう、いかなる手段を用いてでも……『やがて彼女も亡霊となる』
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