この恋、秘密つき!

汐夜

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第12話 決着

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 「ねぇ、頑張ったんだからご褒美頂戴♡」


 椅子に座る蛇沼へびぬまあらたの肘置きに腰掛ける女性。その頬を撫でながら「そやな」と考える仕草をする。


 「ほなそこ立って目瞑っとって」


 指定したのはおみ達の入ってきた扉の前に立つことだった。

 (何がしたいんだ?)

 不審がる様子もなく彼女は言われた通りの場所に立ち目を瞑る。瞬き一つの間に銃声音は響き、二つ瞬きする間に女性が後方へ倒れる。火薬の燃えた匂いが漂う。


 「な…んで…?」


 撃たれた腹を押さえる。そんな彼女を見て蛇沼新は鼻で笑う。


 「自分なんか勘違いしとらん?」

 「かん…ちがい…?」

 「利用価値が合うたから利用しただけや。して自分もう用済みや」

 「そ…んなぁ…」


 彼の言葉に彼女が涙を流す。先までの騙す涙ではなく、本当の気持ちから溢れた涙だろう。絶望の淵にいる彼女の後の扉が突如開く。


 「待ちくたびれたわぁ」


 どこか嬉しそうな蛇沼新を無視して白狐びゃっこは倒れた女性へと歩み寄る。


 「大丈夫? これで傷口押さえて」


 自身の羽織を脱ぎ傷口にあてる。純白の羽織が少しづつ血色に染まっていく。ゆっくり呼吸するように呼びかけ、呼吸を合わせると女性は落ち着きを取り戻す。


 「凰士朗おうしろう。無事?」


 次にナイフで刺されている彼の元へ行く。傷口を確認するために彼を横に寝かせ、慣れた手つきで手当てを行う。それを終えてやっと「おい」という蛇沼新の呼びかけに応じる。


 「自分噂の白狐やんな?」

 「噂かはしらないけど一応そう呼ばれ…」


 話の途中で再度銃声音が鳴る。衝撃で逸れた顔から仮面が落ち、白い付け髪がゆっくりと床に落ちていく。


 「ひなた!!」


 初めて月城つきしろはるが声を荒げた。白狐は本来『陽』という名前らしい。髪が乱れ、肩まで伸びた栗色の髪が姿を現す。その色には見覚えがある。冷や汗のようなものが頬を伝う。


 「大丈夫だよ。仮面掠っただけだから」


 臣の心臓が跳ねる。

 (聞き間違えるはずがない)

 何百、何千と再生した声。凛としていて透き通るようなその声を。


 「…真白ましろ…さん…?」


 声が震える。違っていてほしい。そんな願いはあっさりと砕かれた。


 「はい。お久しぶりですね臣さん」


 微笑む彼女の瞳は真っ直ぐに臣を捉える。再会を噛み締める暇もなく高笑いが部屋に響く。


 「まさか女の子やなんてな! ちょっとこっち来てくれへん?」


 銃口を臣達に向けながら命令する。来なければ撃つという脅しだろう。歩みを進める真白は指定された場所まで行かず月城春と臣の前で立ち止まり彼と向かい合う。


 「こっち来い言うたんやけど、まあええわ。白狐、手ぇ組まへん? 蛇沼組うちと組めばテッペン狙えんで」

 「組まない」


 提案に即答で拒否をした。


 「一番に興味はない。月城組みんなと一緒にいるのに意味があると思うから」


 優しい声色は見えなくてもどんな表情しているのか想像できる。返答を聞いた彼が「もうええわ」と呟いた後、真白が膝から崩れる。耳に届くのは銃声と苦しむ声。


 「真白さん!」


 縛られている手足に渾身の力を込め、拘束具を破壊すると倒れそうになる彼女を受け止めた。太腿から血が流れ、顔からは汗が出ている。


 「しっかりしてください! 今応急処置を…」


 丸刈りの大男がこちらに銃口を向け身動きが取れない。


 「大丈夫です。すいません。体支えてもらっていいですか?」


 この絶望的とも言える状況の中、笑顔を見せる真白。臣は何もできない己を憎んだ。


 「あんな? 白狐の能力を買って言っとるんやで。相楽さがらから聞いたで。作戦立てたのもここまでの厳重ロックを解除したのも自分やろ?」


 問いかけに頷く。


 「わたりが相楽だと気づいとれば完璧やったけどな。詰めが甘いわ…にしてもこのまま殺すんは惜しい人材やな…」


 蛇沼新は少しだけ考える仕草を見せた後、わざとらしく閃いたと言いたげな行動をとる。


 「そや、自分の恋人になるのはどや? 自分で言うのもなんやけど恋人には甘やかすタイプなんよ。ついでに恋人特権として後ろにおるお仲間は助けたろか?」


 脅しとも取れる取引を提示される。それを聞いた真白は答えるよりも先にふと笑う。「何がおかしいんや」と怒りを滲ませるとセーフティを外す。


 「聞けない頼みだと思って。私はただ一人を想ってる。それは貴方じゃない」


 言い終えると今度は左腕を撃たれる。苦しむ彼女の服が徐々に赤くなっていく。


 「最期に何か言い残しとく?」


 椅子から立ち上がり、真白の頭に銃口を向ける。それでも彼女は動じない。何か打開策でもあるのか。


 「私は…情報量で勝敗が決まると思ってる…」


 突拍子もない事を言い始める。


 「わかるわ~。だから自分負けるんや」


 勝ち誇った顔をする彼を見て口角を上げた。


 「蛇沼新。貴方についても沢山調べた」

 「へぇ。オモロいやん。何が出てきたん?」


 勝ちを確信しているのだろう。銃を構えるのもやめ、最期の会話を楽しむように話を続けさせる。


 「貴方は温和な前組長と違って冷徹非道。…組員の入れ替わりが激しく、顔と名前も覚えてない。信用してるのはそこにいる相楽と村瀬むらせだけ」

 「それがなんや」


 前組長の話に少し顔を歪ませる。真白は呼吸を荒くし、苦しみながらも言葉を続ける。


 「私は…知ってたんだよ。始めから。渡なんて人間はいない。それは蛇沼組の相楽だって。そして今日…オークションがないって事も、本当はここに地下があってそこに攫った女性を幽閉してるのも…。全部知った上で作戦を立てて…わざと捕まったの」


 それは臣達藤堂とうどう組に知らされていない話だった。だがあの作戦会議の時点で渡が内通者だと言われ信じる者などいなかっただろう。そう思う程に渡は藤堂組に馴染んでいたのだ。


 「私は…待ってたの。準備が整うのを…。そして今、全ての準備が整った」


 その言葉放った瞬間、蛇沼新の後ろにいた下っ端は一斉に銃を構え、彼と相楽、村瀬にそれを向ける。更に真白も懐から銃を取り出し目の前の蛇沼新を狙う。焦った相楽が銃を臣達に向けたのとほぼ同時に銃声があがり、手を押さえ苦しむ彼は銃を床に落とす。撃ったのはナイフで刺されたはずの凰士朗だった。


 「自分らどういうつもりや? 裏切るん?」


 自身に銃を向けている部下に向けて問いかけるが返事はない。

 (どういう事だ? 蛇沼組を仲間に入れていたのか?)


 「蛇沼組の皆さんには地下で眠ってもらってる。それは月城組の皆だよ」

 「………は?」


 その返答に彼は拍子抜けした声を出す。地下の存在がバレていたのも部下が入れ替わっていたのも知らなかったのだろう。状況を上手く理解出来ていないみたいだ。


 「陽! 聞いて!! 僕ってば完っっっ璧!!」


 扉が勢い良く開き一人の男が陽気に入ってくる。その声を聞いた真白が「やっと来た」と呟いた。


 「蛇沼組の連中も全部捕らえたし! 地下にいた女子も無事だよー!! ……嘘! 無事じゃないのもいるかも! って! 皆だいじょぶ!?」


 やたら大きな声で全てを伝える。


 「豹李ひょうり! 僕達の拘束具を外してください。それからすずを連れてきてください!」

 「まっかせてよ!!」

 月城春の指示を彼は早々にこなしていく。手足が自由になった彼と影は蛇沼新らの銃を取り上げ、拘束した。これで抵抗はもう出来ない。それを見て彼女はやっと緊張が解けたのか大きく息を吐く。


 「何でや! 作戦は筒抜けやった! 地下の事も知らんかったはずや!!」


 怒りで体を震わせる彼。勝ちを確信したはずが知らないうちに自分達が追い詰められていたなど思いもしないだろう。


 「言った…はずだよ。全て知った上で作戦を立ててるって。私達は貴方を釣るための大きな餌だったって事」


 それを聞いた蛇沼新は床に額を何度も打ち付けながら「クソ! クソ!」と大声を上げる。まるで駄々をこねる子供のように同じ言葉を繰り返す。


 「皆ありがとう。もういいよ」


 勝ちを確信した真白は後ろで銃を構えていた組員に指示を送る。その後は月城春の指示で全員が動き出す。そこまで見た彼女は気が抜けたのか一気に体重を預けられる。呼吸は浅く乱れ、血の気の引いた顔色をしている。


 「真白さん! しっかりしてください!」


 手を握り懸命に呼びかける。一応は応じているが反応も弱々しい。


 「俺が護るって誓ったのに…」

 「臣さん…。大丈夫…ですか…?」


 微笑む彼女の問いに何度も頷く。「良かった」と弱々しい声で言った後、意識を失う。


 「真白さん? 真白さん!」


 呼びかけるが反応がない。手がするりと抜け床に落ちる。


 「ちょっと退けて! ひなちゃん! 今治療するからね!」


 駆けつけた白衣姿の女性が素早く真白に酸素吸入を装着し、そのまま連れて行かれた。



 その後、事後処理は月城組でやるからと一足先に邸宅へと帰された臣達。「陽が安定したら連絡します」と言われたものの、二週間経っても三週間経っても月城春からの連絡が来ることはなかった。
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