この恋、秘密つき!

汐夜

文字の大きさ
14 / 14

最終話 この恋、秘密つき

しおりを挟む
 いかるが達が退出するのを見届けたおみは彼女の傍に椅子を置き、腰を下ろす。


 「引き留めてすいません…」


 頭を下げ消えそうな声で謝罪をする真白ましろは顔面蒼白で調子が悪いのは一目瞭然だった。


 「俺も話したかったので気にしないでください。飲み物、飲みますか?」


 ゆっくりと頭を上げさせ、ペットボトルを近づける。それを飲むとベッドに背中を預けているが直角に近い状態で休まるはずもない。背もたれを下げ、楽な体勢になってもらう。少し落ち着いたのか彼女の呼吸が安定し顔色も幾分か良い。
 沈黙が流れる。何から話すべきか迷ってしまう。それは彼女も同様で何か考えている。


 「「あの…」」


 声が被ってしまい互いに譲り合う。


 「すいませんでした」


 突然の謝罪に戸惑う。謝られる理由などない。


 「初めて会った時から貴方が藤堂とうどう臣だと知ってました。騙していてすいません」


 拳を握りしめている手に触れる。触れると少し力を抜いたのに安堵する。


 「俺も藤堂臣だと隠してました。だから同罪です」

 「同罪なんかじゃありません。臣さんは話してくれました。私は…卑怯者です」

 「なら俺は真白さんの幼少期を勝手に探りました。これで同罪のはずです」


 どちらが悪いのかを言い合う。互いに譲らぬ攻防戦を続けるうちに目が合い二人して笑い出す。久々に見た子供のような笑顔に心の奥が暖まるのを感じる。


 「それじゃあ代わりと言ってはなんですが、一つお願いしてもいいですか?」


 堂々巡りの終わりが見えないやり取りに臣は一つ提案する。「私にできることなら」と快諾する真白の顔は意気込んでいる。


 「敬語をやめて、月城組の人と話すのと同じように話してくれませんか?」


 要求を聞くとそんな事でいいのかと言いたげな表情をしている。彼女にとっては小さい事かもしれないが臣にとっては重要な事だ。


 「臣さんがいいなら……」


 遠慮がちに小さく感謝を述べられる。自分の頬が緩んでいるのを感じて顔面の筋肉を総動員させ、なんとか崩れそうな表情を保つ。


 「真白さん、聞いてもいいですか?」


 問いかけに首を傾げ、こちらを見る。臣は真白が昏睡している時から心に決めていたことがあった。目覚めた今、それを実行する時が来たのだ。大きく深呼吸をして覚悟を決める。


 「結婚式はチャペルと神社、自宅…どれがいいですか?」

 「………ん?」


 意味が伝わらなかったのか僅かの沈黙の後に聞き返されてしまう。突拍子のない質問の意図が汲み取れず、動揺しているのが伝わる。もう少し分かりやすく言うべきか。


 「好きです。全てを知った今でも真白さんへの気持ちは一ミリも変わっていません」


 彼女の顔が赤くなるのを見て、手を握る。だが握り返されることはない。畳み掛けるように言葉を続ける。


 「真白さんの気持ちは変わってしまいましたか…?」

 「そんな事…!けど…」


 明らかに何か躊躇っている。


 「傷痕残るから…。見た目も悪いし…」


 そう言うと左腕と右足に視線を移す。


 「傷痕ごと全部受け止めて愛します。それにもう傷つけさせません、今度こそ俺が全てから護ります」


 握ったままの手にキスをする。もう怪我などさせないという自身への誓いも込めて。


 「でも私…月城組の皆も大切で…」


 静かに流れた涙は頬を伝い、涙声で話す彼女。椅子からベッドへ移動じ涙を指で出来るだけ優しく拭う。


 「真白さんは月城組で頑張り、俺は藤堂組で頑張るのはどうですか? でも帰る家は同じにしましょう」


 大粒の雫がスーツの袖口に落ち、色を滲ませる。少しずつ彼女が手を握り返してくれるのが堪らなく嬉しい。


 「だけど私…もう会わないつもりで…」

 「こうして会えています。俺はこれが運命ならいいなと思っています」

 「運命なんてない~」


 泣きながらもしっかりと否定するのが面白くてつい笑ってしまう。否定しつつも手をしっかりと握ってくれているのに気付きどうやっても顔が緩む。


 「会えない間、仕事が手につきませんでした」


 これは本当の話だ。仕事が手につかなすぎてミスをしたり部下を大変困らせていた。


 「それは良くない。鵤冴久さくが困っちゃうよ」


 それを聞いた真白は少し困ったように眉を下げて控えめに笑う。主に困る人物が誰なのかすら知られ尽くしている。きっと蛇沼へびぬま組同様に藤堂組も調べられているのだろう。


 「だから俺の為と思って一緒にいてくれませんか?」


 ずるい言い方をしているのは重々承知している。しかし今回彼女を失いかけ、もう手放したくない、危険な目に合わせたくないと誓った臣の意志は固い。


 「私でいいのかな?」

 「真白さんしか駄目なんです」


 返答に照れ笑いをする彼女の若干赤くなった目元にキスをおとし、そのまま唇に触れる。小さく柔らかな感触に触れ、臣はギリギリの理性を何とか保つ。離れだたいと思いつつも離れると茹でダコのように顔を真っ赤にさせる姿に理性というダムが決壊しそうになる。だが彼女は怪我人。無理をさせたいわけでも先を急がせたいわけでもない。


 「真白さん。俺と結婚してくれませんか?」


 指輪も花束もムードも何もない。その代わり、ここに婚約指輪をはめるという意味を込めて薬指へキスをする。


 「無理です」

 「……え」


 先まで上手くまとまっていたはずなのに一世一代のプロポーズを断られた事に固まる。むしろ一瞬で風化したまである。


 「ど…うして?」

 「結婚は他人と一緒になるから生活の擦り合わせが大事だって彩姉あやねえが言ってた。だから」


 言葉を詰まらせた真白は繋いだままの手を見つめ、それを恋人繋ぎへと変える。


 「お付き合いからで…どうですか?」


 俯いて顔を見せてくれないがきっと赤くなっているのだろう。そんな予想通りに桜色に染まった顔を撫でる。


 「喜んで」



 この恋は互いに秘密があって遠回りをした。でもこの恋に後悔はない。何度でも彼女を選ぶだろう。


 「子供は沢山欲しいんですけど、真白さんはどうですか?」

 「………気が早いと思う……」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...