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最終話 この恋、秘密つき
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鵤達が退出するのを見届けた臣は彼女の傍に椅子を置き、腰を下ろす。
「引き留めてすいません…」
頭を下げ消えそうな声で謝罪をする真白は顔面蒼白で調子が悪いのは一目瞭然だった。
「俺も話したかったので気にしないでください。飲み物、飲みますか?」
ゆっくりと頭を上げさせ、ペットボトルを近づける。それを飲むとベッドに背中を預けているが直角に近い状態で休まるはずもない。背もたれを下げ、楽な体勢になってもらう。少し落ち着いたのか彼女の呼吸が安定し顔色も幾分か良い。
沈黙が流れる。何から話すべきか迷ってしまう。それは彼女も同様で何か考えている。
「「あの…」」
声が被ってしまい互いに譲り合う。
「すいませんでした」
突然の謝罪に戸惑う。謝られる理由などない。
「初めて会った時から貴方が藤堂臣だと知ってました。騙していてすいません」
拳を握りしめている手に触れる。触れると少し力を抜いたのに安堵する。
「俺も藤堂臣だと隠してました。だから同罪です」
「同罪なんかじゃありません。臣さんは話してくれました。私は…卑怯者です」
「なら俺は真白さんの幼少期を勝手に探りました。これで同罪のはずです」
どちらが悪いのかを言い合う。互いに譲らぬ攻防戦を続けるうちに目が合い二人して笑い出す。久々に見た子供のような笑顔に心の奥が暖まるのを感じる。
「それじゃあ代わりと言ってはなんですが、一つお願いしてもいいですか?」
堂々巡りの終わりが見えないやり取りに臣は一つ提案する。「私にできることなら」と快諾する真白の顔は意気込んでいる。
「敬語をやめて、月城組の人と話すのと同じように話してくれませんか?」
要求を聞くとそんな事でいいのかと言いたげな表情をしている。彼女にとっては小さい事かもしれないが臣にとっては重要な事だ。
「臣さんがいいなら……」
遠慮がちに小さく感謝を述べられる。自分の頬が緩んでいるのを感じて顔面の筋肉を総動員させ、なんとか崩れそうな表情を保つ。
「真白さん、聞いてもいいですか?」
問いかけに首を傾げ、こちらを見る。臣は真白が昏睡している時から心に決めていたことがあった。目覚めた今、それを実行する時が来たのだ。大きく深呼吸をして覚悟を決める。
「結婚式はチャペルと神社、自宅…どれがいいですか?」
「………ん?」
意味が伝わらなかったのか僅かの沈黙の後に聞き返されてしまう。突拍子のない質問の意図が汲み取れず、動揺しているのが伝わる。もう少し分かりやすく言うべきか。
「好きです。全てを知った今でも真白さんへの気持ちは一ミリも変わっていません」
彼女の顔が赤くなるのを見て、手を握る。だが握り返されることはない。畳み掛けるように言葉を続ける。
「真白さんの気持ちは変わってしまいましたか…?」
「そんな事…!けど…」
明らかに何か躊躇っている。
「傷痕残るから…。見た目も悪いし…」
そう言うと左腕と右足に視線を移す。
「傷痕ごと全部受け止めて愛します。それにもう傷つけさせません、今度こそ俺が全てから護ります」
握ったままの手にキスをする。もう怪我などさせないという自身への誓いも込めて。
「でも私…月城組の皆も大切で…」
静かに流れた涙は頬を伝い、涙声で話す彼女。椅子からベッドへ移動じ涙を指で出来るだけ優しく拭う。
「真白さんは月城組で頑張り、俺は藤堂組で頑張るのはどうですか? でも帰る家は同じにしましょう」
大粒の雫がスーツの袖口に落ち、色を滲ませる。少しずつ彼女が手を握り返してくれるのが堪らなく嬉しい。
「だけど私…もう会わないつもりで…」
「こうして会えています。俺はこれが運命ならいいなと思っています」
「運命なんてない~」
泣きながらもしっかりと否定するのが面白くてつい笑ってしまう。否定しつつも手をしっかりと握ってくれているのに気付きどうやっても顔が緩む。
「会えない間、仕事が手につきませんでした」
これは本当の話だ。仕事が手につかなすぎてミスをしたり部下を大変困らせていた。
「それは良くない。鵤冴久が困っちゃうよ」
それを聞いた真白は少し困ったように眉を下げて控えめに笑う。主に困る人物が誰なのかすら知られ尽くしている。きっと蛇沼組同様に藤堂組も調べられているのだろう。
「だから俺の為と思って一緒にいてくれませんか?」
ずるい言い方をしているのは重々承知している。しかし今回彼女を失いかけ、もう手放したくない、危険な目に合わせたくないと誓った臣の意志は固い。
「私でいいのかな?」
「真白さんしか駄目なんです」
返答に照れ笑いをする彼女の若干赤くなった目元にキスをおとし、そのまま唇に触れる。小さく柔らかな感触に触れ、臣はギリギリの理性を何とか保つ。離れだたいと思いつつも離れると茹でダコのように顔を真っ赤にさせる姿に理性というダムが決壊しそうになる。だが彼女は怪我人。無理をさせたいわけでも先を急がせたいわけでもない。
「真白さん。俺と結婚してくれませんか?」
指輪も花束もムードも何もない。その代わり、ここに婚約指輪をはめるという意味を込めて薬指へキスをする。
「無理です」
「……え」
先まで上手くまとまっていたはずなのに一世一代のプロポーズを断られた事に固まる。むしろ一瞬で風化したまである。
「ど…うして?」
「結婚は他人と一緒になるから生活の擦り合わせが大事だって彩姉が言ってた。だから」
言葉を詰まらせた真白は繋いだままの手を見つめ、それを恋人繋ぎへと変える。
「お付き合いからで…どうですか?」
俯いて顔を見せてくれないがきっと赤くなっているのだろう。そんな予想通りに桜色に染まった顔を撫でる。
「喜んで」
この恋は互いに秘密があって遠回りをした。でもこの恋に後悔はない。何度でも彼女を選ぶだろう。
「子供は沢山欲しいんですけど、真白さんはどうですか?」
「………気が早いと思う……」
「引き留めてすいません…」
頭を下げ消えそうな声で謝罪をする真白は顔面蒼白で調子が悪いのは一目瞭然だった。
「俺も話したかったので気にしないでください。飲み物、飲みますか?」
ゆっくりと頭を上げさせ、ペットボトルを近づける。それを飲むとベッドに背中を預けているが直角に近い状態で休まるはずもない。背もたれを下げ、楽な体勢になってもらう。少し落ち着いたのか彼女の呼吸が安定し顔色も幾分か良い。
沈黙が流れる。何から話すべきか迷ってしまう。それは彼女も同様で何か考えている。
「「あの…」」
声が被ってしまい互いに譲り合う。
「すいませんでした」
突然の謝罪に戸惑う。謝られる理由などない。
「初めて会った時から貴方が藤堂臣だと知ってました。騙していてすいません」
拳を握りしめている手に触れる。触れると少し力を抜いたのに安堵する。
「俺も藤堂臣だと隠してました。だから同罪です」
「同罪なんかじゃありません。臣さんは話してくれました。私は…卑怯者です」
「なら俺は真白さんの幼少期を勝手に探りました。これで同罪のはずです」
どちらが悪いのかを言い合う。互いに譲らぬ攻防戦を続けるうちに目が合い二人して笑い出す。久々に見た子供のような笑顔に心の奥が暖まるのを感じる。
「それじゃあ代わりと言ってはなんですが、一つお願いしてもいいですか?」
堂々巡りの終わりが見えないやり取りに臣は一つ提案する。「私にできることなら」と快諾する真白の顔は意気込んでいる。
「敬語をやめて、月城組の人と話すのと同じように話してくれませんか?」
要求を聞くとそんな事でいいのかと言いたげな表情をしている。彼女にとっては小さい事かもしれないが臣にとっては重要な事だ。
「臣さんがいいなら……」
遠慮がちに小さく感謝を述べられる。自分の頬が緩んでいるのを感じて顔面の筋肉を総動員させ、なんとか崩れそうな表情を保つ。
「真白さん、聞いてもいいですか?」
問いかけに首を傾げ、こちらを見る。臣は真白が昏睡している時から心に決めていたことがあった。目覚めた今、それを実行する時が来たのだ。大きく深呼吸をして覚悟を決める。
「結婚式はチャペルと神社、自宅…どれがいいですか?」
「………ん?」
意味が伝わらなかったのか僅かの沈黙の後に聞き返されてしまう。突拍子のない質問の意図が汲み取れず、動揺しているのが伝わる。もう少し分かりやすく言うべきか。
「好きです。全てを知った今でも真白さんへの気持ちは一ミリも変わっていません」
彼女の顔が赤くなるのを見て、手を握る。だが握り返されることはない。畳み掛けるように言葉を続ける。
「真白さんの気持ちは変わってしまいましたか…?」
「そんな事…!けど…」
明らかに何か躊躇っている。
「傷痕残るから…。見た目も悪いし…」
そう言うと左腕と右足に視線を移す。
「傷痕ごと全部受け止めて愛します。それにもう傷つけさせません、今度こそ俺が全てから護ります」
握ったままの手にキスをする。もう怪我などさせないという自身への誓いも込めて。
「でも私…月城組の皆も大切で…」
静かに流れた涙は頬を伝い、涙声で話す彼女。椅子からベッドへ移動じ涙を指で出来るだけ優しく拭う。
「真白さんは月城組で頑張り、俺は藤堂組で頑張るのはどうですか? でも帰る家は同じにしましょう」
大粒の雫がスーツの袖口に落ち、色を滲ませる。少しずつ彼女が手を握り返してくれるのが堪らなく嬉しい。
「だけど私…もう会わないつもりで…」
「こうして会えています。俺はこれが運命ならいいなと思っています」
「運命なんてない~」
泣きながらもしっかりと否定するのが面白くてつい笑ってしまう。否定しつつも手をしっかりと握ってくれているのに気付きどうやっても顔が緩む。
「会えない間、仕事が手につきませんでした」
これは本当の話だ。仕事が手につかなすぎてミスをしたり部下を大変困らせていた。
「それは良くない。鵤冴久が困っちゃうよ」
それを聞いた真白は少し困ったように眉を下げて控えめに笑う。主に困る人物が誰なのかすら知られ尽くしている。きっと蛇沼組同様に藤堂組も調べられているのだろう。
「だから俺の為と思って一緒にいてくれませんか?」
ずるい言い方をしているのは重々承知している。しかし今回彼女を失いかけ、もう手放したくない、危険な目に合わせたくないと誓った臣の意志は固い。
「私でいいのかな?」
「真白さんしか駄目なんです」
返答に照れ笑いをする彼女の若干赤くなった目元にキスをおとし、そのまま唇に触れる。小さく柔らかな感触に触れ、臣はギリギリの理性を何とか保つ。離れだたいと思いつつも離れると茹でダコのように顔を真っ赤にさせる姿に理性というダムが決壊しそうになる。だが彼女は怪我人。無理をさせたいわけでも先を急がせたいわけでもない。
「真白さん。俺と結婚してくれませんか?」
指輪も花束もムードも何もない。その代わり、ここに婚約指輪をはめるという意味を込めて薬指へキスをする。
「無理です」
「……え」
先まで上手くまとまっていたはずなのに一世一代のプロポーズを断られた事に固まる。むしろ一瞬で風化したまである。
「ど…うして?」
「結婚は他人と一緒になるから生活の擦り合わせが大事だって彩姉が言ってた。だから」
言葉を詰まらせた真白は繋いだままの手を見つめ、それを恋人繋ぎへと変える。
「お付き合いからで…どうですか?」
俯いて顔を見せてくれないがきっと赤くなっているのだろう。そんな予想通りに桜色に染まった顔を撫でる。
「喜んで」
この恋は互いに秘密があって遠回りをした。でもこの恋に後悔はない。何度でも彼女を選ぶだろう。
「子供は沢山欲しいんですけど、真白さんはどうですか?」
「………気が早いと思う……」
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